事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

伊是名夏子BBC出演「車椅子に一緒に子供が乗ってると怪訝そうな顔で見てくる」

伊是名夏子BBCに出演

伊是名夏子氏がBBCに出演していました。

伊是名夏子BBCに出演

https://web.archive.org/web/20210908003853/https://www.bbc.com/japanese/video-58431006

【2度目の東京パラ、障害者の環境は変わったのか?】というタイトルで2021年9月7日にBBC日本語版でUPされた記事。

東京は、世界で初めて夏季パラリンピックを2回開催した都市だ。1回目は1964年に行われ、2回目は今月5日まで開催された。

だが、日本に住む障害者の暮らしはどのようなものか、そして60年の時を経て、障害者に対する世の中の態度はどれほど変わったのだろうか?

20世紀の日本には、多くの国々と同様、障害者を法律や社会制度で迫害し差別した、暗い歴史があった。

現在ではその状況は改善されている。日本は世界でも数少ない、企業に一定比率の障害者雇用を法律で義務付けている国の一つだ。

しかし、BBCのルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ東京特派員は、今なお障害者への偏見が日本の社会からなくなっていない様子を紹介する。

本文はこれだけですが、動画において発音されたものの書き起こしではなく、動画は独立した内容になっています。

「車椅子に一緒に子供が乗ってると怪訝そうな顔で見てくる」

伊是名夏子氏の日本社会における障害者への見方として以下の発言が収録されてます。

  • 障害者が子供を持つのは良くないと本音では大勢が思っている
  • 本当の障壁は日本人の大半が実際に障害者に会ったことが無いから
  • 車椅子を使っていると不思議そうな顔をして別方向に行こうとする
  • 車椅子に一緒に子供が乗ってると怪訝そうな顔で見てくる

「障害者が子供を持つのは良くないと本音では大勢が思っている」のテロップの際に伊是名氏が発しているのは"disable people"なので、直訳です。

ここは、本来は「遺伝性の障害・疾患については」ではないでしょうか

こういう言い方ではないのは、彼女の知識の問題なのか英語力の問題なのか知りませんが、単なる障害者で子供を持つのは良くないと大勢が思っているという話は、私の個人的な経験上の実感とはかけ離れた説明です。

「車椅子を使っていると不思議そうな顔をして別方向に行こうとする」という話と、「車椅子に一緒に子供が乗ってると怪訝そうな顔で見てくる」という話は、障害者だからというよりも、【伊是名氏の躾】に対する反応である可能性があります。

「日本人の大半が実際に障害者に会ったことが無い」ことが障害者への偏見を生んでいるという見方は、一つの見方だろうと思います。

ただ、偏見解消のためには偏見の対象となっている者を直に見る、会話するという経験をすることが必須だ、というような考え方では、説明できないことがあります。

戦後の旧優生保護法下では強制断種が行われていましたが、法案提出のきっかけとして浮浪兒の多くが精神薄弱者であったことなどが理由に挙げられていました。当時はそうした者を路上で多く見かける状況でした。伊是名氏の理論では、この場合に偏見の解消ができるらしいですが、果たしてそうでしょうか?

「障害者と会う」前提として、適切な教育とサポートが必要でしょう。

私は高校生時代に重度の精神障害を持つ方が入居する施設に1日見学に行ったことがありますが、職員の方々の振る舞いや言動に光を見たと同時に、自身に去来した想念を未だに留保し続けています。単に接して終わりではない。

なお、動画では「立つことが出来ない」= she can't stand とありますが、厳密には伊是名氏は一定程度は立つことができます。ただ、安定した日常生活を送るレベルで立つ行為が可能かというとどうやらそれはできないようなので、このような表現になっていても自然だと思います。

警察庁の安全利用マニュアルでは禁止行為の2人乗り

BBCに伊是名夏子が出演

電動車いすの安全利用に関するマニュアルについて|警察庁Webサイト

安全通行基本編では、トップに二人乗りの禁止を求めています。

「車椅子に一緒に子供が乗ってると怪訝そうな顔で見てくる」は、当たり前です。

警察庁のマニュアルに載っていなくたって、普通「車椅子に乗っかる」という行為は、車椅子利用者と子供と両方にとって危険ではないか?と思われるものでしょう。

伊是名氏の場合は98kgの電動車椅子なので、小さな子供が乗っかっただけでは車椅子自体が転倒することはないのだろうが、知らない人からすれば危険に映る。

また、それを知っていたとしても、「子どもが転落する」「子どもの身体や衣服が車輪に巻き込まれる」ことを心配する人も大勢いるでしょう。

それを「怪訝そうな顔をしてくる」としてるのは、まるで「障害者への偏見」であるかのように話を飛躍させているとしか思えません。

ルーパート・ウィングズフィールド・ヘイズ特派員

今回の記事は、パラリンピックを契機として日本における障害者の生活・扱いに関して論じるものですが、伊是名氏の発言と強制断種手術を受けた鈴木由美氏の訴訟に関する話に限定されており、日本の各種施設におけるバリアフリー化などは一切報じられていません。

ルーパート・ウィングズフィールド・ヘイズ東京特派員の記事としては以下のようなものがあります。

こういった記事を見て「彼は反日的だ!」のように言われるかもしれませんが、東京に居る海外特派員がこうなるのは日本のメディア業界がアレなせいでもあると思っているので、どこまで本人に資質の問題なのか、疑問なんですよね。

海外メディアの日本特派員についてはニューヨークタイムズのモトコ・リッチが典型。

旧優生保護法と母体保護法と社会党と強制断種についての説明

BBCの動画では旧優生保護法による強制断種について触れていました。

旧優生保護法は、戦後、日本社会党から法案提出され審議未了の後に、日本進歩党の議員を中心に超党派(谷口 弥三郎他三名)で法案提出・可決されたものです。

強制断種との関係で論じられることが多いですが、刑法の堕胎罪によって一般的に堕胎は刑罰の対象であったが、当時の社会事情は強姦など(満州引き上げ民の女性被害者も多数居た)によって妊娠する女性を広く救済する必要があり(違法性阻却で処理するのではなく)母体保護の観点からも超党派で立法された経緯などは改めて認識されるべきでしょう。その部分を引き継いだのが現在の母体保護法です。
母体保護法 [旧名称:優生保護法]は(昭和23年7月13日法律第156号)を引き継いでいる。

だから、社会党が伊是名氏など障害者を「抱える」ことには、特別な意味があるということ。もちろん他党も無関係ではない。

旧優生保護法4条(現在は削除)では強制断種について以下ありました。

第四条 医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患に罹つていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、前条の同意を得なくとも、都道府県優生保護委員会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる。

「別表に掲げる疾患」はリンク先を見ていただきたいが

  • 遺伝性精神病
  • 遺伝性精神薄弱
  • 強度且つ悪質な遺伝性精神変質症
  • 強度且つ悪質な遺伝性病的性格
  • 強度且つ悪質な遺伝性身体疾患
  • 強度な遺伝性奇型
  • その他厚生大臣の指定するもの

これらが対象となっています。

要するに遺伝的な形質についてのものです。

BBCの動画ではルーパート・ウィングズフィールド・ヘイズ氏の口からも"disable people"=障害者が強制断種の対象になっていた、などと説明されていましたが、余りにも言葉遣いが乱暴ではないでしょうか?

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