事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

中国大使「日本の民衆が火の中に」朝日新聞「『火の中』発言が独り歩き・『台湾有事は日本有事』は根拠を欠いた言説」

こっそり中国共産党の主張の拡散をしている

中国大使「日本の民衆が火の中に」朝日新聞「発言が独り歩き」

中国大使の呉江浩が「日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば日本の民衆が火の中に」と発言したことについて朝日新聞が論説委員の村上太輝夫の署名記事で「発言が独り歩き」などと評していました。

内容には①中国側の立場を暗黙裡に前提としたもので、②中国共産党の主張をなぞるものが含まれており、読者の認識を歪めようとしているとしか思えないものでした。*1

朝日新聞「原文の中国語では『火坑』だから『苦境』の意味」と断定

 大使館のサイトに掲載されている中国語版で該当部分を探すと「火坑」と書いてある。もとは仏教用語で焦熱地獄を指すそうだ。日常用語としては、中日大辞典(大修館書店)によれば「境遇の非常に困窮していること」。要するに「苦境」だ。「火の中」は完全な誤訳とまでは言えないにせよ、稚拙な直訳である。

  実は、呉大使は座談会では流暢(りゅうちょう)な日本語で発言していた昨年4月の日本記者クラブでの記者会見でも日本語で「火の中」と言っていて、やはり大使館のサイトには「火坑」とある。原文が中国語で、それを大使館スタッフが日本語に訳したとみるのが自然だろう

 「火の中」発言は独り歩きをしている。

朝日新聞は、「原文の中国語では『火坑』だから『苦境』の意味」と断定しています。

単にダブルミーニングになるように敢えて稚拙な訳()にした可能性を検討してない駄文です。大使館レベルで「苦境」の意味を「火の中」と表現するのが能力の問題であると何の留保も無しに前提を置いているのはおかしいでしょう。

日本国に対して日本語で発言したのだから、中国側の意味内容が第一義的なものであるという前提で論じるというのは、中国側の立場を暗黙裡に前提としたものです。要するに朝日新聞は日本語ではなく中国語の言葉を優先しろ、と言っているということ。*2

朝日新聞は文末で「訳がどうであれ、日本国民を巻き込んで大変なことになるぞ、という警告であることに変わりはない」「日本社会の反発を招くやり方は賢明ではない」とアリバイ的に書いていますが、この態度は従前までの中国側の態度を踏まえていない。

これでは「じゃあ昨年4月は何だったの?」ということになりますが、そこについては触れていません。

実は、昨年の同じ発言にも日本政府が抗議をしていました。

なので、それでも同じ言葉を使ったということが問題であり、訳語が能力不足によって為されてしまったミスであるという捉え方は間違いでしょう。

昨年も中国大使の「火坑」=「火の中」発言で日本政府が抗議していた

実は、この動画内でも「よく使う表現で」と紹介されていたように、「〇〇の民衆が火の中に」という発言は過去にもありました。

松原仁議員がこの件の対応を問い質した質疑があるので引用します。

第211回国会 衆議院外務委員会 第10号 令和5年5月10日

○松原委員 ~省略~

 次に、四月二十八日に日本記者クラブで、三月に着任した中国の大使が記者会見で言ったわけでありますね。台湾問題、武力行使の放棄を約束することはしない、武力による現状変更はあり得ると明確にした。その上で、台湾有事は日本有事という言い方は荒唐無稽であり、中国の純国政問題であり、日本の安全保障と結びつけることは非論理的である、極めて有害であると新しい中国の大使が言明したわけであります。このことは、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになると
 すさまじい表現ですね。着任早々、記者クラブで話したことでこういうことを中国の大使は言った。まさに、日本の民間人にも危害を加えることを示唆した発言であり、断じて許すことはできないと思っています。
 外交問題に関するウィーン条約にペルソナ・ノン・グラータというのがある。今回の件は、まさに、外交使節団の長である大使に対してもこれを適用し、追放するべきではないか、こう思っております。

~省略~

○林国務大臣 御指摘の在京中国大使の発言は、在京大使の発言として極めて不適切であると考えておりまして、外交ルートを通じて厳重な抗議を行ったところでございます。
 その上で、台湾海峡の平和と安定は、我が国の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとっても重要であります。
 我が国の従来からの一貫した立場は、台湾をめぐる問題が対話により平和的に解決されることを期待するというものでございます。
 ~省略~

中国側は、このレベルの挑発的な発言を他国に対しても行っており、「苦境」などというやさしい意味のみが正当なのだ、と解することはできません。

むしろ、意図的にこうした発言を継続的に行っているということ。

本来はこうした事を踏まえた論説が必須のはずです。

そして、朝日新聞の論説記事にはもう一つ、重大な問題があります。

論説委員の村上太輝夫「『台湾有事は日本有事』は根拠を欠いた言説」

「日本の民衆が火の中に」 中国大使のけんか腰発言は適訳だったか

 「台湾有事は日本有事」という、根拠を欠いた言説が取りざたされるが、これに妙な現実味を与えることにもなりかねない。

論説委員の村上太輝夫「『台湾有事は日本有事』は根拠を欠いた言説」などと言っています。

前項の国会議事録中でも指摘されている、昨年の中国大使の発言と比較しましょう。

全く同じ認識ですよね?

こっそり中国共産党の主張の拡散をしている

この朝日新聞記事に仕組まれている認識誘導装置はここにあります。

朝日新聞に事実を与えても認識がとことん歪んでいるか、或いは日本国民の認識や海外メディアの認識を歪めようとしているので、外交関係に支障をきたすことになる。

この朝日新聞記事が海外メディアに翻訳されて伝わったら、どうなるでしょうか?

そこまで考えて書いているでしょう。

それは草津町に関する朝日新聞記事と、それを引用する海外メディアの関係を見ていれば、当然に懸念すべきものです。

中国大使の発言のフォローはするが日本の外務大臣の発言の捏造は放置する朝日新聞

上川陽子大臣が「この人を(知事に)生まずして何が女性か」と支持者向け講演会で発言したことについて共同通信が"childbirth"などと報じた件について、朝日新聞は何もチェックする記事等は書いていませんでした。

そんなところが中国大使の発言についてはフォローするような記事をわざわざ出すというのは不思議で仕方がありません。

共同通信の記事の中には明確に捏造としか言いようがないものもありました。

産経新聞が共同通信に意図を問う質問をして記事化していましたが、日本のメディアによる相互批判がなければ、海外メディアや外国人は主流メディアの論調・受け止めをベースに理解してしまいます。

産経新聞の英語メディアであるJAPAN FORWARDでも以下の記事が出されており、実に国益に適った行動だと言えます。こうした記事こそが読まれ、広められるべきです。

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*1:当該記事は有料記事であり、無料部分の最後が「これは誤訳ではないか――。中国出身で東京在住の研究者が違和感を覚え、私に連絡してくれた。」とあるため、朝日新聞がこれを語訳と解している、と理解する者が出ていますが、正確にはそういうことでは無いという点は要注意

*2:※本件の評価とは無関係な話として、実は、同じ文章でも国内向けと外国向けに差があるのはよくあること。例えば日本の場合でも過去の総理大臣のアメリカ議会演説の内容が、日本語のものは穏当だが英語がベースの邦訳文章では強めの表現、強めの主張をしていた、ということがある