事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

トランプ大統領の元顧問弁護士マイケルコーエンに有罪判決:司法取引報道のフェイク

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ニューヨークの連邦地方裁判所が、トランプ大統領の元顧問弁護士であるマイケル・コーエンに禁錮3年の実刑判決を下しました。

その報道の中で「コーエン氏がトランプが関与した選挙資金法違反を認めた」という点が強調されていますが、ここに悪質な印象操作があります。

日本とアメリカの司法制度の違いを知らないと、この判決の理解を誤ります。

マイケルコーエン弁護士の罪状

コーエン被告人は複数の犯罪事実があるとして起訴されていました。

今回の判決で有罪となったのは以下の罪です。

  1. 金融機関に対する詐欺罪
  2. 議会における偽証罪
  3. コーエン自身の脱税5件
  4. 不法な企業献金
  5. 選挙資金法(キャンペーン法)違反

このうち、1~4はトランプとは全く関係がありません。

コーエン自身の犯罪に過ぎません。

トランプと関係があるのは5番の選挙資金法(キャンペーン法)違反です。

ここで、上記の罪については判決前に既にコーエンが有罪の自認をしていました。

そのため、裁判所はそれを前提としてあとは量刑判断だったということが重要です。

これは日本の司法制度とは異なるので違和感を持つ人も居るでしょうが、説明します。

アレインメント制度が導入されているアメリカ司法

アレインメント制度とは、ざっくり言えば被告人が自白したら裁判所はあとは事実審理をするまでもなく量刑判断に移行できる、という制度です。

司法取引とは別個の制度です。

日本ではこの制度を導入していません。

そのような運用は刑事訴訟法319条で禁止されているからです。

第三百十九条 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
2 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
3 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。

日本の場合、被告人が有罪を自認していても、必ずそれ以外の証拠と併せて犯罪事実の立証をしなければ、裁判所は有罪判決を出せません。

死刑囚が他の事件について自分がやったと自白した事件がありましたが、無罪判決が出されたと言う事件があります。ちょうど今の時期ですね。

対してアメリカは、被告人が有罪の答弁 (Plea of guilty)をすれば事実審理と有罪無罪の判断をすっ飛ばして、有罪であることを前提にした量刑判断のフェーズに移行します。

ただし、有罪の答弁は、裁判官が被告人の任意性を慎重に審査するべきこととなっており、有罪の答弁を受理する前に、その基礎となる事実の存否について判断するべきとされています。

今回の場合『2016年の選挙前に女性2人に対して金銭を支払った事実』が認定されました。

しかし、ニューヨーク連邦地方裁判所はそれが違法な事であるのか否かという法的な検討を加えていないと思われます(ここはコーエン裁判のTranscriptとされる文章を見ても判然としない)

「コーエンが有罪だからトランプも有罪だ」とはならない

このような構造なので、「コーエンがトランプの指示によってやったと言っていることが有罪になったのだから、トランプも有罪だ」とはなりません。

コーエンの裁判の結果は、トランプの犯罪事実の認定には関係しません。

CNN系その他の在米メディアや日本のマスメディアは、この点を誤魔化しています。

なお、大統領に対しては刑事訴追をしないというアメリカ司法省の内規があります。

「だから刑事訴追されないのか」という誘導がなされることもあります。

しかし仮にトランプが大統領を退任しても有罪にはなり得ません。

このような法的観点からの指摘をしている英語記事は複数存在します。

選挙資金法(キャンペーン法)違反について

トランプと関係があるのは選挙資金法(キャンペーン法)違反の件です。

その内容は「2016年の選挙前にアダルト女優のストーミー・ダニエルズとプレイボーイ・モデルのカレン・マクドゥガルの2人の女性に対して不倫関係を公表しないように選挙前に金銭を支払った事」です。

 

ところで、「金銭支払いの事実の存否」はともかく、仮にそのような事実があったとして、それは違法なのでしょうか?

実は、これだけで選挙資金法(キャンペーン法)違反だと考えるのは法解釈上も在り得ないと指摘されています。

選挙資金法(キャンペーン法)違反は法解釈上困難

アメリカの連邦選挙運動法 (Federal Election Campaign Act)を見てみましょう。

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https://www.fec.gov/resources/cms-content/documents/feca.pdf

コーエンの裁判で問題になっている"expenditure"=支出とは何か?という定義が法律に規定されています。

 "for the purpose of influencing any election for Federal office" =「選挙に影響を与える目的」とは何でしょうか?

ブラッドリー・A・スミス (Bradley A. Smith)元連邦選挙管理委員会委員長は、「選挙に影響を与える支出」の意味内容について論じています。

彼が書いた記事によると、『連邦選挙管理委員会は、キャンペーン法案の施行規則を作成する際に、『候補者の選挙に主に関係しているものであればその費用はキャンペーン支出とみなすこととするべきだ』という要求を排除した』とあります。

「選挙に主に関係している」だけだと、私的場面での出損も含まれる余地があります。

しかし、そのような意味として扱うのは不当でしょう。

私的場面で個人的にお金を支払ったことで結果的に自身の選挙に有利になることなんていくらでもあり得るからです。

そのため『選挙資金法における"expenditure"=支出とみなすためには「個人的な支出」とは分けて考えられている』というのです。

Michael Cohen Pled Guilty to Something That Is Not a Crime
By BRADLEY A. SMITH December 12, 2018 5:00 PM
魚拓はこちら

In short, Michael Cohen is pleading guilty to something that isn’t a crime. 

要するに、マイケル・コーエンは犯罪ではないものに対して有罪の自認をしている。

同様の指摘は、元連邦選挙管理委員会の委員だったHans A. von SpakovskyがFoxNewsで論じています。(魚拓はこちら

これらの記事はコーエンの判決が出た後に書かれたものです。

にもかかわらずトランプと無関係であるという主張があるのは、まさにアレインメント制度があるからです。

考えてみれば、たとえば「選挙に勝つため」だからといって、見た目の印象を良くするために髪型を整えるために美容師に支払った金銭が、ある日突然「選挙に影響を与える支出だ!」と言われて非難されるのはおかしいでしょう。

バカバカしい話ですが、トランプに対して「違法な支出だ!」と言われているのは、そのような類のレベルの話なのです。

日本のモリカケと同レベルでしょう。(日本は更に違法とは遠いが)

仮に、トランプが口止め料を支払ったという、交際関係について倫理上は不都合な事実があったとしても、それは違法ではないわけです。

まとめ

  1. コーエンが有罪になった罪はほとんどが彼自身のものでトランプは無関係
  2. トランプが関係するのは選挙資金法違反疑惑のみ
  3. 選挙資金法違反疑惑とは、選挙前に女性に不倫関係の口止め料を支払った事実が違法だということ
  4. 仮にそれが事実だとしても、個人的な支出であると解釈するのが筋なので選挙資金法違反とは言えない
  5. コーエンはアレインメント制度によって有罪の自認をした結果、裁判所は事実審理等をすっ飛ばして量刑判断に至っている
  6. よって、「コーエンの裁判で違法と認められたからトランプも違法だ」とはならない
  7. CNN系のメディアや日本のマスメディアはこれらについて正確に報じていない

アメリカのトランプバッシングがどれだけ的外れなのか、これだけでも分かるでしょう。

日本のマスメディアもまた、嘘にならないよう巧妙に印象操作をしているのです。

以上