事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

福島第一原発事故の作業員の甲状腺がん労災認定について

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福島第一原発事故の収束作業員が甲状腺がんを発症したことで、厚生労働省が業務との因果関係を認定しました。

しかし、この話はフェイクに利用されてしまうおそれが極めて高いものです。

福島の風評被害を広げないためにも、正しく理解しましょう。

結論から言うと、科学的見地から放射線量と甲状腺がんの因果関係が認められたわけではありません。

白血病労災認定基準と放射線量

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厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/kouhyousiryou_6.pdf

厚生労働省が公表している【放射線被ばくと白血病の労災認定の考え方】を見ます。

放射線被ばくによる白血病の労災認定については、労災保険制度の趣旨に鑑み、労働者への補償の観点から、労災の認定基準※を定め、これに合致すれば、医学検討会の協議を経たうえで、業務以外の要因が明らかでない限り、労災として認定することとしている。

白血病の労災認定基準は、年間5mSv 以上の放射線被ばくをすれば発症するという境界を表すものではなく、労災認定されたことをもって、科学的に被ばくと健康影響の因果関係が証明されたものではない

白血病という限定がついていますが、労災認定の文脈においては科学的見地からの検討とは別次元の話であり、救済を優先するという方針であるということです。

さて、2018年12月時点でニュースになったのは「甲状腺がん」の症状が出た作業員についての話です。

白血病とは異なる「固形がん」についても一応の考慮要素が示されていますが、その判断においても労災保険制度の話なのですから、その趣旨から救済方向の認定をする方針です。

※「固形がん」などの用語の解説ページもらに丁寧に作成されています。

甲状腺がん、その他のがんについての労災認定基準

厚生労働省の【電離放射線障害の業務上外に関する検討会】を見ます。

「報道発表資料」に肝がんや甲状腺がんについての労災認定基準が示されています。

1 当面の労災補償の考え方
放射線業務従事者に発症した膵がんの労災補償に当たっては、当面、検討会報告書に基づき、以下の3項目を総合的に判断する。
(1) 被ばく線量
被ばく線量が 100mSv 以上から放射線被ばくとがん発症との関連がうかがわれ、被ばく線量の増加とともに、がん発症との関連が強まること。
(2) 潜伏期間
放射線被ばくからがん発症までの期間が5年以上であること。
(3) 放射線被ばく以外のリスク要因
放射線被ばく以外の要因についても考慮する必要があること。

2 その他具体的検討
個別事案の具体的な検討に当たっては、厚生労働省における「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」において引き続き検討する。

今回の50歳代の男性技術者は収束作業中に100ミリシーベルトを超えていたと認定されています。

その上で、諸般の事情を総合的に考慮して労災認定したということです。

繰り返しますが、このことは「科学的見地から男性作業員の福島原発由来の放射線被ばくと甲状腺がん発症の因果関係が認められた」ということは意味しません。

放射線被ばくと甲状腺がんについての研究

「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」報告書
甲状腺がんと放射線被ばくに関する医学的知見について

被ばく線量について
UNSCEAR2006 年報告書では、成人の放射線被ばくと甲状腺がん発生の関連性を示す知見はない。
個別文献では、成人の放射線被ばくと甲状腺がん発生の関連性を示唆する
ものがみられたものの、最小被ばく線量を示す知見は得られなかった。
甲状腺がんを含む全固形がんを対象とした UNSCEAR 等の知見では、被ばく線量が 100 から 200mSv 以上において統計的に有意なリスクの上昇は認められるものの、がんリスクの推定に用いる疫学的研究方法はおよそ 100mSv までの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないとされている。

100mSV(ミリシーベルト)という基準も、一応の基準に過ぎないということです。

100mSVを超えた被爆が認定されたからといって、放射線量と甲状腺がんの発症の「科学的因果関係」が認められることにはなりません。

まとめ:原発作業員について福島第一原発事故の放射線と甲状腺がんの科学的因果関係が認められたわけではない

労災認定の文脈での「因果関係」と「科学的因果関係」は同じではありません。

科学的因果関係が認められなくとも労災認定上の因果関係が肯定される事が在り得ます。

そのような関係にあるという理解が広まらなければ、誤解によって福島の風評被害が再度拡散されることになってしまいます。

報道機関は労災認定の報じ方について、誤解を生じさせないような説明を付すべきではないでしょうか?

今のところ、産経新聞のみが「科学的因果関係」について正確に報じています

以上