事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「厚労省・感染研がラムダ株を隠蔽」政府の新型コロナウイルス発表基準は?:米デイリービーストが追及

厚労省・政府がラムダ株を隠蔽?

「政府厚労省・感染研がラムダ株を隠蔽?」と騒がれてるのはなぜなのか整理。

米デイリービースト「厚労省・感染研がラムダ株を隠蔽」

米デイリービースト紙が「自分たちがスクープしたのだ」と言わんばかりです。

確かに「厚労省・感染研がラムダ株を隠蔽」について報じている内容の「濃さ」は、ここが一番だと思います。

  •  7月20日、国立感染症研究所(NIID)は、感染性の高いラムダ変異体が日本の空港試験で初めて検出されたが、検出されなかったと国際機関に報告した
  • レポートは、国際的なCOVID-19およびGISAIDとして知られる他のインフルエンザウイルスデータベースに提出された
  • 日本政府は詳細を公表しなかったが、NIIDの研究者はデイリービーストに、変異株は空港検疫で発見されたものであり、市中では発見されなかったと語った

記事の中身は大体このようです。

一点、「7月20日にラムダ株を検出した」と書いてますが、実際には感染者が発見されたのが7月20日であり、分離解析してラムダ株だと判定した時点は不明です。

「20日にペルーから羽田空港に到着した30代女性」の感染報告は7月21日に出ています

新型コロナウイルス感染症の患者等の発生について(空港検疫)7月21日

遅くとも7月26日までには断定したと中本氏は主張しています。

他の彼のTwitter上の発信などを見ると、GISAIDのデータベースに日本においてラムダ株が検出された旨が書かれた時期から、そのように判断していると思われます。

日本政府がラムダ株検出を認めたのは8月6日

国内初 ペルーで確認「ラムダ株」羽田空港検疫 感染確認の女性 2021年8月6日 18時40分

厚労省や感染研のHPで公表したのではなく、NHKの取材を受けて政府が認めた、とする報道が最初です。

しかし、それ以降も厚労省のHPや感染研のHPでラムダ株が空港検疫で発見されたことについて報告する情報はUPされていません。

懸念される変異株(VOC)かどうかが報告・公表の基準?

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https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10501-covid19-48.html

感染研HPではWHOによる分類を採用しており

  1. 懸念される変異株(VOC)
  2. 注目すべき変異株(VOI)
  3. さらなる監視のための警告(Alerts for Further Monitoring

という分類があるのが分かります。

現時点ではアルファ・ベータ・ガンマ・デルタ株がVOCに分類されており、最上級の警戒の対象となっています。

デルタ株と同じL452R変異を持つイプシロン株(VOI)について

新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応(令和3年5月25日時点)

URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000787862.pdf

デルタ株と同じL452R変異部位を有するイプシロン株(B.1.427/B.1.429系統の変異株でVOIとされていた)については、令和3年5月25日時点で国内例が2件あるということが報告されています。

しかし、これが大々的に報道されることはありませんでした。
イプシロン株の発見について報じてる所ってありますかね?

もっとも、イプシロン株については「国内でも、B.1.427/B.1.429系統(イプシロン型)の検出は1例にとどまっていることから、VOIからは除外(「さらなる監視のための警告」に警戒を引き下げ)することとした」とあります。
※なぜ2例が1例になったのかは不明。

感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第11報)国立感染症研究所 2021年7⽉17⽇ 12:00 時点

今年初め頃までは「インド株」と呼ばれていたデルタ株(B.1.617系統)は、4月20日に、国内例としては初めて検出されたことが4月26日に感染研で報告されていました。

SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統の検出について 2021年4月26日 国立感染症研究所

国立感染症研究所としては、本株は感染性やワクチンへの効果、重症度についてまだ分からないことも多く、引き続き知見を収集していく必要があることから、注目すべき変異株(VOI)と位置付け、引き続きウイルスゲノムサーベイランスを通じて実態を把握していく。

しかし、デルタ株はこの時点では注目すべき変異株(VOI)の位置づけでした。

よって、「VOCじゃないから公表しない」という基準ではなさそうです。 

国内例として発見されたか+感染力や毒性が公表するかの考慮要素?

とすると、公表の基準・考慮要素はどういうものがあるのか?

懸念される変異株(VOC)は空港検疫での発見でも報じられる。

注目すべき変異株(VOI)は「国内例として発見されたかどうか」+「海外の状況から推察される変異株の感染力や毒性」などが、公表されるかの一定の要素になっていると思われます。

もっとも、自民党の佐藤正久議員は厚労省検疫担当が「問い合わせがあれば答えた」としていることを問題視し、早期に(国内向けに)公表すべき情報だったと考えているようです。

ラムダ株の公表に関する経緯の是非については「公表しなくても問題ない」というような擁護論が出ていないため、注視されていることは有りなんじゃないかと思います。

※追記:加藤官房長官「VOCではないから」:厚労省手続に従った

変異株検出、公表方法改善へ 政府:時事ドットコム

8月18日、加藤官房長官は定例記者会見で「国立感染研究所がVOCやVOIと位置付けていないから」「厚労省の定めた手続きに従った」と発言しました。
再追記:「VOCやVOIではないから」と最初に発言しましたが「VOCではないから」と訂正しました。

VOCやVOIという基準は2021年2月25日に設けられた概念で、3月3日時点で「暫定定義」が書かれています。

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/covid19-36-20210308.pdf

こうしてみると、デルタ株の公表の時点では公表の在り方が定まっていなかった、或いは公表の在り方は事態に対して流動的である、ということなのかもしれません。

これと矛盾するような間接事実があれば話は別ですが…

また、ラムダ株は6月14日にWHOがVOIと定めていますので、日本の感染研がラムダ株をVOIと分類しない理由がいったい何なのか…

再追記:18日の官房長官記者会見でメディアから「WHOではVOIに位置づけているのになぜか。日本は国内で検出されてないからVOIではないとするなら国内発見時点ではVOIではないので発表しないということになり公表基準がおかしいのでは」という的確なツッコミがありました。加藤官房長官は長い沈黙の後に、「VOCではないから」と訂正しました。

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