事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ひろゆきが論破:有馬哲夫名誉教授「ルフールマン原則もしらない無知」:難民法上のノン・ルフールマン原則とその例外

法規範を何だと思っているのか

ひろゆきが論破:有馬哲夫名誉教授「ルフールマン原則もしらない無知」

https://archive.md/SQFAu

早稲田大学名誉教授の有馬哲夫氏がひろゆきに対して「ルフールマン原則もしらない無知、バカ、アホ」などと投稿。以下の発信に対してですが…

ひろゆきにすら論破される始末。

難民条約のノン・ルフールマン原則とその例外:追放(expel)と送還(return)

https://archive.md/YUtxJ https://archive.md/vYUPz

ノン・ルフールマン(Non-refoulement)原則とは、生命や自由が脅かされかねない人々(特に難民)が、他国への入国を拒まれ或いは追放・送還されることを禁止する国際法上の原則を指します。

"Refoulement"が強制送還の意味なので、強制送還に反対する立場の者である有馬氏が「ルフールマン原則」と呼んでいるのは奇妙この上ありません。

難民条約33条1項において、この原則が明文化されています。

しかし、同2項では、その原則の例外が定められています。

難民の地位に関する1951年の条約

第33条【追放及び送還の禁止】
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。
2 締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない。

有馬氏が「難民の退去が拷問や残虐・非人道的・品位を傷つける取扱いや刑罰を受ける相当な危険につながるような状況などでは適用されてはなりません」と書いているのは条約ではなく、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)による難民条約の当該規定の説明文にあるに過ぎません

現時点で、明文にないそのような解釈が採られているという国際慣習法はあるんでしょうか?

また、有馬氏は『英語で読むと「退去expelまたは送還return」となっていて、例外規定に該当したら強制送還とはなっていません。』などと書いていますが、条約上は【追放=expelと送還=return】が公式訳であり、言ってる事が意味不明で破綻しています。

出入国管理及び難民認定法53条の退去強制(送還)先の例外の例外では1年を超える実刑判決を受けた者が対象

出入国管理及び難民認定法

(送還先)
第五十三条 退去強制を受ける者は、その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるものとする。
~省略~
3 前二項の国には、次に掲げる国を含まないものとする。
一 難民条約第三十三条第一項に規定する領域の属する国その他その者が迫害を受けるおそれのある領域の属する国(法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。

入管法の53条3項に、難民条約33条2項のノン・ルフールマン原則の例外に相当するものが書かれています。53条1項の例外としての3項の中での更に例外の扱いです。

「法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合」の具体的な中身は、以下で書かれているように、『法務大臣が日本国の安全にとって危険であると認める者及び1年を超える実刑に処せられた犯罪者等で社会にとって危険であると認める者』とされています。

市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第4回報告(仮訳)

第13条 退去強制

(b)退去強制において例外的に自らが迫害を受ける可能性がある国に送還される場合
 入管法第53条第3項においては、被退去強制者の送還先国について、いわゆるノン・ルフールマンの原則(迫害を受ける国又は地域への外国人の送還は原則として行わない)が明文化されている。
 ただし、法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合、具体的には、法務大臣が日本国の安全にとって危険であると認める者及び1年を超える実刑に処せられた犯罪者等で社会にとって危険であると認める者については、ノン・ルフールマンの原則の例外が適用される。

さらに、これに当たるかどうかの判断にあたっては、比例原則の観点から審査するということは無い、と明言されています。

第211回国会 参議院 法務委員会 第19号 令和5年6月1日

○政府参考人(西山卓爾君) 退去強制される者の送還先について定める入管法第五十三条第三項第一号の括弧書きの規定は、難民条約第三十三条二の規定を我が国として担保したものでございます。難民条約第三十三条の文言上、比例性の観点から適用の有無を審査する、あるいは当該個人が将来にわたり国又は社会に対して及ぼす危険が当該個人の直面する危険を上回るかどうかという観点からの判断をするというようなことなどは明文では規定はされていないというところでございます。
 その上で、この五十三条三項第一号の括弧書きに言う、法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合に該当する者とは、我が国でテロ行為等を行うおそれがある者、我が国の政治的基本組織を暴力で破壊しようとする者及び当該犯罪を犯した者を社会にとって危険な存在と言い得るような犯罪、すなわち無期又は一年を超える懲役又は禁錮の実刑に処せられた者などを指し、このような者は我が国の社会の安全を脅かす者であることは明らかでございます。
 したがいまして、入管法第五十三条三項の適用について、重ねて比例性についての解釈をすべき理由はないというふうに考えております。

埼玉県川口市のクルド人は懲役1年、執行猶予3年だったが、再犯容疑が有罪になると…?

<独自>女子中生に性暴行のクルド人男、執行猶予中に別少女にも性暴行 埼玉県警発表せず 「移民」と日本人 - 産経ニュース

ハスギュル被告は今年1月、川口市内の別のコンビニ駐車場に止めた乗用車内で、東京都内の10代の女子中学生に性的暴行をしたとして3月、不同意性交の容疑で逮捕、県青少年健全育成条例違反罪で起訴された。

さいたま地裁で5月27日、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が確定、釈放されていた。

さて、ひろゆき氏がシェアしていた産経新聞が報じていた事件の内容をみると、どうやらこの難民認定申請中のクルド人の被告人は【懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が確定】していた中での犯行だったようです。*1

執行猶予が付いているため「法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合」に当たらなかったなどの事情があるため退去強制されることがなかったと思われますが、執行猶予期間中の再犯ということは、有罪が確定すれば実刑となるのは不可避です。

そうなると退去強制対象者であり、在留特別許可が為されなければ、その場合はノン・ルフールマン原則の例外が適用される形になる、と言えます。

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*1:ノン・ルフールマン原則が適用されるには、現に難民認定を受けている必要はない

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