
SOGI理解増進法に反しているだろう
- アイオワ州公民権法でジェンダーアイデンティティが保護対象外
- 「トランスジェンダーの公民権適用外」というデマ拡散
- SOGI理解増進法の理念に反した「トランスジェンダーが対象外」報道
- ジェンダーアイデンティティに基づく不合理な差別が許されないのは変わらないはず
アイオワ州公民権法でジェンダーアイデンティティが保護対象外

アイオワ州公民権法(Iowa Civil Rights Act of 1965=CHAPTER 216)において雇用、住宅、教育、公共施設などの利用における差別からアイオワ州民を保護する属性の対象からジェンダーアイデンティティを外すなどする改正法【Senate File 418】が州議会で可決され、州知事が署名したために有効となります。
ところが、本邦では致命的な誤解を生むメディア報道が為されており、それによりSNS上でデマが拡散されている状態と言えます。
「トランスジェンダーの公民権適用外」というデマ拡散
トランスジェンダーは公民権適用外 米アイオワ州が可決https://t.co/Uj6qFeotG9
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) 2025年3月1日
代表的なのが日経新聞のX投稿ですが、TBSや時事通信(AFP通信の転載)もこの話を報じており、複数の問題があります。
まず、日経新聞アカウントによる「公民権適用外」という語は致命的です。
「公民権」とは、本邦では一般的には参政権、つまりは公務就任権・投票権・選挙権・被選挙権などが中心的な意味です。
他方、アメリカにおける「公民権法」というのは、一定の属性の者に対する種々の差別を禁止し、保護するものとして規定されています。
例えば連邦法である”Civil Rights Act 1964”では、有権者登録に関して差別を禁止する規定が含まれていますが、公民権と言及すると、こうした内容があることが前提と理解するでしょう。
しかし、アイオワ州公民権法と呼ばれるCHAPTER 216は、投票権や選挙権についての規定はありません。
雇用、住宅、教育、公共施設などにおいて、年齢・人種・信条・性別・肌の色・性的指向・ジェンダーアイデンティティ(性自認)・国籍・宗教・身体的障害を理由とした差別はしてはならず、それらの属性の者が保護されるということが書かれた法律です。提訴時にそれらを理由とした不利益を被ったという主張が法的な裏書きを得ることになります。
つまり、「公民権適用外」と言ってしまうと、一般的な意味における公民権が当該属性者には存在しないものとして扱われてしまう、という誤認を生むことになります。
SOGI理解増進法の理念に反した「トランスジェンダーが対象外」報道
日経新聞の記事本文やTBSや時事通信(AFP通信)は「公民権法の適用外」としていますが、一般読者がその意味に気づけるかというとだいぶ怪しいでしょう。
さらに、「トランスジェンダー」という語は一切改正法令に出てきませんが、にもかかわらず「トランスジェンダーを州の公民権法の適用外」などとする報じ方を各社がしており、これは誤った理解を拡散するものです。
本邦で2023年に成立したSOGI理解増進法にも反したものでしょう。理解増進法は、個別の具体的なトランスジェンダーの保護ではなく、SOGI=性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する知識を涵養するための法律です。
ジェンダーアイデンティティには、男と自認する生物学的男性も、女と自認する生物学的女性も含まれます。
他方で、アイオワ州公民権法には性的指向=sexual orientationがあるように、こちらは改正後も残っていますから、この点からの差別を保護する規定は残ることになっています。
本邦においては、ジェンダーアイデンティティは「性同一性」或いは「性自認」と訳されますが、公的な定義は無かったところに、いわゆるSOGI理解増進法が「自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識」と定義しました。
※アイオワ州では法改正後でもSection 279.78におけるジェンダーアイデンティティの定義として「男でも女でもない」という認識が含まれる。ただし、「男」と「女」がベースになっていると読め、「X」という別カテゴリの性別を認めるものではない。*1
つまり、「男と女」というベースがあって、自己の認識としてはそこからどれくらい重なりがあるのか?というのが性自認=性同一性=ジェンダーアイデンティティだということを本邦では法律上で明確に定義したということ。
「男でも女でもない」などと勝手に自称することを公証したものではありません。
自己の認識として、自分は男と女とどれくらい重なり合いがあるのか、という考えを持つ者が居るというのは社会的な事実であり、単にそういう人が居るというだけ。
本法は、そういう人に何か特別配慮しろと求めるものではなく、そういう人が居るという知識を広めましょうと言ってるに過ぎない。
アイオワ州の新法でも、トランスジェンダーは年齢・人種・信条・性別・肌の色・性的指向・国籍・宗教・身体的障害といった種々の差別から守られるということです。
ジェンダーアイデンティティに基づく不合理な差別が許されないのは変わらないはず
もっとも、法律上に明記されていないからといって、ジェンダーアイデンティティに基づく不合理な差別が許されないのは変わらないはずです。
例えば男性棟と女性棟を分けているとかでない、女性入居者に特に提供されているサービスなども無いような住居において、ジェンダーアイデンティティを理由とした入居拒否をするのは不合理な差別として許されないというのは、今後も変わらないはずです。
その事を明示して社会的な変容のインパクトを減らすことが必要だとは思いますが、アイオワ州議会での議論をすべて追っていないのでそうしたことが行われているのかどうかは把握していません。
報道では「女性や子供を守るため」「従来法では生物学的男女の差異が曖昧だった」という趣旨が説明されているのが分かりますから、例えば更衣室の使用に関して、生物学的男性が性自認女性を主張して女性用の更衣室を使用することを施設側や他の女性利用者に強要することを防ぐ趣旨でしょう。
現場レベルでそのような趣旨が共有されるべき、ということは主張してもいいと思われます。
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*1:Sec. 27. Section 279.78, subsection 1, paragraph a, Code
2025, is amended to read as follows:a. Gender Identity - means the 3amc a3 dcfincd in section
216.2 an individual's subjective identification as male, female, or neither male nor female. Gender identity shall not be considered a synonym or substitute for sex or gender.