IR政策とその中に位置づけられるカジノについて過去記事で整理しました。
また、巷でよく言われるデマについても解説しました。
この記事ではカジノが設置されることでパチンコ・スロット運営業界にどのような影響があるのかということと、オンラインカジノ(オンライン賭博)への影響についても触れてみます。
念頭に置くべきなのは、IR事業者とカジノ事業者の一体性・単一性です。これが分からないとIRカジノについてのいろんな物事が理解できず、誤解してしまいますので以下の記事を見ることをお勧めします。
- IRカジノが直接パチスロ店経営に影響しないが
- 1:北朝鮮への利益供給問題とギャンブル収益の使途
- 2:ギャンブル依存症への影響
- 3:パチスロからカジノへ産業構造への影響
- 小括:北朝鮮への利益供給の可能性が増えることは無い
- IRカジノとマネーロンダリングについて
- パチンコ課税と北朝鮮
- まとめ:金融庁が北朝鮮への送金を調査してどうなるか
IRカジノが直接パチスロ店経営に影響しないが
IR整備法ではIR区域とカジノについての定めが置かれているだけであり、パチスロについて何か規定しているわけではありません。
しかし、IRカジノにおいてなされる規制が将来的にはパチスロにも適用される流れになるというのは容易に予測できることでしょう。現にIRカジノの各種規制についての国会質疑において、各議員がパチスロにも適用すべきとの提案を国会において行っています。
直接的に影響があるのはギャンブル等依存症対策基本法であり、ギャンブル等依存症対策推進会議(今後は推進本部が設置される)が今後の議論でパチンコにおける規制を検討していきます。
近時行われた「出玉規制」(パチンコにおいて大当たり出玉の上限が2400個から1500個に引き下げられ、4時間打った際の儲けも以前の十数万円から5万円以内が目安になったこと等を指す)も、ギャンブル等依存症対策推進会議の議論によって、「より射幸性の低い遊技に」という目的があったからです。
もともとパチスロ業界の規模は「顧客が賭けた額=貸玉料」で計算される会計基準であらわされますが、約30兆円だった時代から現在は約20兆円となってます。店舗数も平成7年に約1万8000店だったものが現在は約1万2000店と減少傾向にあります。
これに加えて各種規制が今後も行われる流れにあるのですから、パチンコ・スロット業界の規模は今後も縮小していくことは避けられないでしょう。カジノが出来ることでのパチスロ業界への影響は、その前提に立って考えていく必要があると思います。
「カジノの前に今あるギャンブル依存症を考えるべきだ」
これは話が違っていて、IRカジノを考える中でギャンブル依存症対策が練られ、その影響を受けてパチンコ規制が強まっていくという因果関係があります。その逆もしかりであり、両者の議論は相互関連せざるを得ません。
1:北朝鮮への利益供給問題とギャンブル収益の使途
パチスロに関する代表的な問題として、北朝鮮への利益供給問題があります。
上記エントリでパチンコ業界と北朝鮮との関係についてエビデンスを付けて整理していますが、一定の利益供与がパチンコ業界の少なくとも一部から北朝鮮になされていたことは間違いの無い事実なわけです。
パチンコ業界の経営者の少なくとも60%が朝鮮半島系であるということから、その全てではないにしろ一定数からはパチンコの利益の一部が北朝鮮へ送金されているという予測はそれほどおかしな話ではありません。
したがって、カジノが出来ることで各種規制がパチスロ業界にも適用されるとパチスロ業界は縮小すると思われ、北朝鮮への利益供給の可能性も縮小すると言えます。
これが特定の界隈が一番恐れている事態です。
IRカジノからの利益流出の可能性
では、IRカジノから利益が外部に流出する危険はあるのではないか?
この懸念を防ぐためにもIR(Integrated Resort)区域を整備する法体系の下にカジノがあるという制度設計になっていること、IR事業者とカジノ事業者の一体性、単一性の規制がかけられています。
概要は上記エントリで説明していますが、カジノ収益は他のIR施設に対して還元される仕組みになっています。ここまでなら海外のIRと同じです。
日本の場合はさらにIR事業者とカジノ事業者が同じでなければならないと法的に規定されています。さらに、海外のカジノでは、カジノの運営を統括する企業と具体的なカジノ行為を行う企業が別々の場合があり、カジノ行為の再委託が行われているケースもありますが、日本のカジノでは金の流れが追跡できるようにそうしたことができないようになっています。マネーロンダリングの項でも触れますが、いわゆる「ジャンケット」と呼ばれる、カジノ内での各種業務を外部に委託する行為は日本のカジノでは一切認められないということです。
「外資に売られる・乗っ取られる」という妄言
「外資系のカジノ企業に日本人の富が奪われるうぅー!」「老人がため込んでいるタンス預金が外資に狙われているうぅー!」などという妄言がありますが、カジノ収益はIR施設に還元される上に入場料とカジノ行為粗利益の30%は納付金として国に納めることになっていますので、そのような言説にはまったく理解に苦しみます。
そもそもIR・カジノ事業を行うにあたっては、地域住民や国民が初期投資をすることはありません(全く無いと観念的に言えるかは不明だが)。民間事業者がリスクを負って先行投資をすることになります。したがって、「国民の富を搾取する」などという構図にはそもそもなり得ません。
利用客は日本国民全員ではなく、ギャンブルに興味のある一定の収入のある日本人、外国人です。入場料が6000円も取られるのですから。要するに「お金がある人」(いわゆる富裕層だけではない)がお金を使うのであって、そうではない個人の富が奪われるというのは妄想の類です。
さらに、IRカジノが出来れば地元には雇用が創出されます。そこで日本人従業員が得た給料は当然日本人の利益になります。
「外資がー!」が如何に頭のおかしい人が唱える呪文か分かるでしょう。
「外資がー!」と言うのであれば、朝鮮半島系の経営者が少なくとも60%であるパチンコ業界は無視でしょうか?北朝鮮への利益供与が現実に行われていたことを無視していますよね?(現在もその可能性が極めて高いと予測される)
※道路建設などは住民負担になるではないかという意見について
IR事業はIR区域に指定された地域の道路交通網も含めて再開発することが必要となる場合もあると思われます。そのため、カジノ事業の開始自体には地域住民の税金が使われないと言えますが、IR事業のための道路建設等に対して地方自治体の予算が使われる場合、それは地域住民の税金からの出損、ということになります。
この点をあげつらって「私たちの税金が使われている!」と文句を言うのもいいでしょう。おそらくこの論点が最終的に反対派が仕掛けるロジックです。しかし、それは「地域が儲かる施設群」が出来ないと見込まれる場合に妥当する話です。IRが「地域が儲かる施設群」であるかどうかがより重要な論点であり、カジノという個別の施設の事業のために税金が使われる云々の話ではありません。
私も(というか世の健全な方々は)IR事業は地域が儲からなければ意味がないどころか有害だと思っています。IR事業を実施・維持する行政コストがメリットを上回るというのなら、無い方がマシです。そのような事にならないよう住民・自治体・国がチェックを入れる機会が設けられています。
しかし、最初から「カジノは儲からない・IRは儲からない」と決めてかかっているのは一体何を根拠にしているのでしょうか?海外の事例を出していても、それは比較可能なものなのでしょうか?この辺りは専門家の著書を見ることで評価の視点が得られるでしょう。
他のギャンブルの収益はどのように使われるのか
パチンコが北朝鮮に対する利益供与の足掛かりになっているのに対して、他のギャンブルはどうでしょうか?
広義の公営ギャンブルですが、たとえば宝くじの収益の使い道は参考になります。魚拓:収益金の使い道と社会貢献広報 | 宝くじ公式サイト
たとえば仙台市の消防ヘリコプターの購入や宮城県美術館の運営にも充てられています。
「ギャンブルは人を破滅させる!」「ギャンブルを収入源とするのはけしからん!」
と言う人は全国の自治体にケンカを売っているということで、それ以外の収入源を提案したいのであればどうぞご自由に。
IRカジノの入場料、納付金の使途は?
IR整備法には入場料と納付金の徴収について規定があります。
第百七十六条 国は、入場者(本邦内に住居を有しない外国人を除く。以下この節において同じ。)に対し、当該入場者がカジノ行為区画に入場しようとする時に、三千円の入場料を賦課するものとする。
第百七十七条 認定都道府県等は、入場者に対し、当該入場者がカジノ行為区画に入場しようとする時に、三千円の認定都道府県等入場料を賦課するものとする。
入場料は国と都道府県が3000円ずつの計6000円が徴収されます。
納付金は「カジノ行為粗利益」(店側が利益を得た分)に対して国と都道府県に15%ずつの計30%が入ります。納付金はIR地区に指定された基礎自治体に対して都道府県から分配することが法律上可能です。
国の収入分となった分は「一般財源」として利用可能です。つまりIR事業とは無関係な福祉事業にも使えるお金として機能するということです。
2:ギャンブル依存症への影響
IRカジノにおいてなされるギャンブル依存症対策がパチスロにも適用されるべきだとする見解が各所からなされています。
ギャンブル依存症患者が多い原因のトップがパチンコ・スロットであるということは2018年3月9日の杉田水脈議員の衆議院内閣委員会(未だ公開されていない)での質疑で政府答弁においても示されています。厚生労働省の調査でも、病的ギャンブラーがプレーしているパチンコ・スロットの割合は9割を超えているということも分かっています。
また、国立病院機構久里浜医療センターの調査ではギャンブル等依存症が疑われる者は成人の0.8%であり、その内パチンコ・スロットに最もお金を使った者は9割を超えています。
パチンコを多くプレーしている人はギャンブルが好きなのではなく、パチンコが好きであると言えます。これはパチンコが1万店舗以上あり、駅前などアクセスしやすい場所にあることで利用しやすいこと、パチンコ店を認知しやすいので利用しようとするギャンブルの選択肢にパチンコが優先的に想起されるという面があります。
既に、カジノ規制がパチスロに適用されることでパチスロ業界は縮小し、店舗数が減少するということは示しました。したがって、「パチスロ業界の衰退=ギャンブル依存症対策」となる現状があります。
IRカジノがギャンブル依存症を生み出す可能性は
よく「IRカジノがギャンブル依存症を増やすからけしからん!」という主張を目にしますが
- パチンコが原因でギャンブル依存症になっている者が大多数であること
- IRカジノとパチンコではその環境と主な対象とする顧客層が異なっていること
- IRカジノではギャンブル依存症対策が法定され、具体策構築義務が事業者に課されていること
そうした論はこれらの事実を無視して行われています。
大雑把にIRカジノにおけるギャンブル依存症対策となる法定の施策としては以下のようなものがあります。
- 入場料の徴収(6000円)
- 入場回数制限(月10回、週3回まで)
- コンプ禁止
- クレジットカードによるチップ購入制限
- チップの譲渡・持ち出し禁止
- 入退場時のマイナンバーによる本人確認
- 広告規制
- ATM規制
入場回数制限は、週に3回、月に10回までという制限です。
クレジットカードによるチップ購入は日本人や日本在住の外国人は利用不可能です。
なお、貸付けは基本的に日本国内に住んでいない外国人にしか認められていませんので、たとえそういう外国人がギャンブル依存症になってもむしろ収益が増えて利益です。
これだけでギャンブル依存症対策が十分かというと、決してそうは言えないでしょう。多くはIRカジノ事業者が自主的に定める対策に依存しています。それはIRカジノ事業の認定の際にチェックを受けます。
ATM規制について
ATM規制については消費者金融からの借り入れができる(貸付機能がある)「キャッシング機能」がついているか、それとも単なる「引出し」機能がついているかどうかによっても異なります。参議院 内閣委員会 28号 平成30年07月17日では和田政宗議員がパチンコにおけるATMについて、熊野正士議員がIRカジノにおけるATMについて質疑をし、有益な答弁を引き出しています。
○和田政宗君
これは、内閣委員会の同僚の委員の方からも繰り返し質問などがございましたけれども、パチンコ店内のATMですね、これは、いわゆる、何というか、キャッシング機能、クレジットカードによるキャッシング機能、新たに借金を増やすということではなく、自分の預貯金の範囲内ということではあるわけですけれども、これは負けて、ATMあったら、次、更に一万円賭けたら、若しくは千円賭けたら当たるかもしれない、そう思ったら、やっぱり行って引き出しちゃいますよ。
これ、頭をやはり冷やすというものが非常に重要であって、パチンコ店から一旦外に出て、でも、隣にあったらもう余り頭冷えないのかもしれないですけれども、そういう、パチンコ店から何メートル以内は置いちゃ駄目だとか、これ、ギャンブル依存症対策を本気でやるんだったら、私はそういったことも必要だというふうに思うんですけれども、これパチンコ店内へのATMの設置というのは禁ずべきではないかと思いますけれども、その点、いかがでしょうか。
○政府参考人(山下史雄君) 営業所内において銀行ATMを客に利用させるサービスを提供することにつきましては、風営適正化法上、規制があるものではございません。
先ほど委員御指摘のとおり、現状におきましては、その当該ATMにつきましてはローンやクレジットカード等の利用はできないと承知をしております。また、利用額の上限を一日三万円、一か月八万円としているとも承知をしております。
いずれにいたしましても、客の利用実態、また社会的な認識等につきまして、警察としても周知をしてまいりたいと考えております。
この議論はIRカジノでも妥当するということが分かると思います。
同日の公明党の熊野正士議員からは、IR整備法上どのようにATM規制が解釈できるのかについて質疑をしています。
○熊野正士君 公明党の熊野正士です。ATMの設置規制についてお伺いしたいと思います。このIR整備法の中では第九十四条の一のヘ、一のトで法定されているというふうに説明を受けたわけですけれども、この条項の中にはATMという文言は一切出てきておりません。これ、法文上どのように解釈するのかについてお教え願えますでしょうか。
○政府参考人(中川真君) お答え申し上げます。
ATMの設置と今御提案申し上げているIR整備法案の関係、特に九十四条の解釈についてということでございますけれども、この整備法案の第九十四条では、そもそもカジノ事業者は一定の基準を満たす契約以外の契約を締結してはならないというふうにされております。
また、その基準の一つとして、今、熊野委員御指摘の第九十四条第一号ヘにおきましては、カジノ事業者以外の者にカジノ施設において入場者に対する物品の給付又は役務の提供をさせる場合には、当該物品の給付又は役務の提供が入場者の利便性の向上を図るもの等としてカジノ管理委員会規則で定めるものであることという基準が示されております。
カジノ施設内にATMを設置することはこの基準に該当しないというふうに考えておりまして、より具体的には、この九十四条一号ヘにあります入場者の利便性の向上を図るものとしてカジノ管理委員会規則で定めるものにATMの設置を含めないことによって、カジノ施設内のATMの設置を排除することを想定してございます。
また、カジノ施設の周辺部分にキャッシング、クレジット機能の付いているATMを設置するのかしないのかという問題もございますけれども、これにつきましては、整備法案の第九十五条第一項第四号によって、カジノ事業者が行う施設の賃貸に係る契約はカジノ管理委員会の認可を必要とするということになっておりますけれども、カジノ施設を含むIR区域内でのATMの設置は当該認可の対象となるというふうに考えておりまして、その際には、法案の第九十四条第一号トに規定しますカジノ事業の健全な運営を図る見地から適当と認められることというカジノ管理委員会の認可基準に基づいて個別に判断をすることになります。例えばカジノ施設の周辺において貸付機能が付いたATMを設置することはこの基準には該当をしないというふうになるのではないかと、そういうふうに整理をしているところでございます。
その後の質疑でも詳しく言及されていますが、大まかな整理としては以下です。
- カジノ施設内のATM⇒排除
- カジノ施設周辺のATM⇒貸付機能のあるATMは排除
⇒通常の引き出し機能がついているのみの機種については、IR区域には設けるが、カジノに近い場所には設置しないようにすることになる
上記2番目の議論がパチンコでも適用されるべきなのではないか?というのが和田政宗議員の問題提起です。
ところで、和田政宗議員が主張しているのは駅前パチンコの周辺には当然金融機関の設置したATMが大量にありますから、それらを撤去せよという話でしょうか?
逆でしょう。
駅前にはATMが大量に設置されているから、パチンコ店は営業できないようにしようということです。
事後的な規制によって移転・廃業を求めるのは困難であるとしても、少なくとも和田議員の提案の通りになれば、駅前に「新たに」パチンコ店が出現するというようなことは無くなるわけです。
カジノの規制がパチンコにも波及するというのは、こういう事です。
ATMとパチンコ店:東和銀行とトラストネットワーク
紙幅の関係で詳しく書きませんが、公的資金を受けた東和銀行とIT大手の子会社のトラストネットワークという企業がATM設置を進めていることが過去に問題視されました。
平成27年当時の議論しか見つかりませんでしたが、情況は以下でした。
- 1000店舗程度の中にATMが設置されている
- のめり込み防止という題目で一日に三万円、月に十五万円の引出し上限を設定したと言っているが、効果は疑問
- ATM設置や上限額は風営法等の法制で規制されるものはなし
また、パチンコ店内にATMを設置するということは一つのビジネスになっており、ギャンブル依存症対策の観点からは懸念が示されています。
参議院 地方・消費者問題に関する特別委員会 4号 平成27年04月22日
○大門実紀史君 省略 このトラスト社はもっとすごいことを考えておりまして、もう景品を交換所に持っていって現金にしてもらうというのをやめて、景品交換所で金券を発行してもらうと。その金券をまたパチンコホールに戻ってさっきのATMに今度入れると、それが銀行の残高にカウントされるというシステムの特許を取ったわけですね。
つまり、何がしたいかというと、まず、景品交換所に現金があるとよくこの間狙われていますから、現金を置かなくて済みますよと。これは景品交換所、まあホールといいますか、一体ですから事実上、にとってはメリットがあると。今度は、現金をもらえないで金券しかもらえないと、またホールに行ってそれをATMで入れて自分の口座を増やすと。それを今度は、パチンコどうしてもやりたいですから現金で引き下ろすと、手数料また払わなきゃならないというようなことを考えているわけですね。
この仕組みが実装されているのかはわかりませんが、パチンコ店内や周辺にATMを設置するということは、こういことになるということです。
3:パチスロからカジノへ産業構造への影響
パチスロ業界にパチスロ機器を設計製造して供給するものづくり企業があります。
単にパチスロ業界を衰退させると、そうした企業の仕事がなくなり製造業にダメージが発生します(パチスロ機器のみを製造している企業は極めて少数ですが)。しかし、カジノ需要ができることで製造業にとってはソフトランディングとなります。
また、パチスロ機器のような風俗営業適正化法の「遊技」として認められているものはカジノに設置しないという方針が示されているので、パチスロ業界に利益がある企業がそのままカジノ業界に食い込むという可能性もある程度は防いでいることになります。
そうするとカジノ向けの機器の設計製造需要が新規に発生しますが、製造業としてもパチスロ業界の仕事を取らなくても生きていける収益構造にできる可能性が増すということです。
パチンコ店は1万店舗以上、カジノは当面は3地域なので、パチンコ・スロット業界よりは必要な機器の数は極めて限定的です。ただし、影響力が小さいかというと必ずしもそうではなさそうだと言えます。
木曽崇カジノ合法化に関する100の質問:ジャンケットオペレータとルートオペレータ②魚拓:http://archive.is/Clglf
ここ10年ほどの間でマシンゲームの筐体価格はものすごい勢いで高騰している。単にリールが廻ってコインを吐き出せば良かった以前のマシンゲームと異なり、現在のマシンゲームは液晶タッチパネルの採用、TITOの導入、派手なギミックを使ったボーナス演出など、多様な機能が求められるようになった。それに伴いマシンゲームを構成するパーツ点数も格段に多くなり、マシンゲームメーカーにとっての製造原価が上昇する。そういった製造原価の上昇が、現在の筐体価格の高騰の原因である。
どうやら日本のパチスロのような変化がカジノのマシンゲームにも起きているようです。この記事は2010年に執筆されているのですが、現在はどうなっているでしょうか?
パチスロ機器などの「遊技」機器は設置しなくとも、同様の機能があるマシンゲームが導入されることは少なくとも公的なソースを漁った限りでは現時点で否定されていません。そのため、パチスロ機器設計製造業界(アプリケーション開発含む)がIRカジノのマシンゲーム開発に乗り出そうとすることは想像に難くなく、その動きは注視されるべきでしょう。
小括:北朝鮮への利益供給の可能性が増えることは無い
- パチンコ収益の外部流出の歯止め
- ギャンブル依存症患者の減少
- パチンコが無くなる際の産業構造へのインパクトの緩和
カジノが出来ることで、パチンコ業界には上記のような影響を与えることになります。当然、パチンコ業界(パチンコホール(店)営業)としてはそれは困るのでいろいろな手段を用いてカジノ設置阻止のために画策しているところです。
もちろん自治体によっては収益の可能性に疑問を感じている人も居るかもしれませんが、パチンコ業界の反発という影響があるという前提で各種情報を精査しないと、一定方向に誘導する情報ばかりインプットしてしまいますので気を付けなければなりません。
IRカジノとマネーロンダリングについて
世界を見ると、カジノはマネーロンダリング(マネロン)の温床になっています。そのため、マネロン対策を講じる必要性は議論されてきました。IR整備法を巡っても、マネロンについての危険が訴えられてきました。マネロンの危険は当然にしてあり得るため、どのような行為が想定されているのか、対策はどうするのかの議論は今後も必要です。
上図は特定複合観光施設区域整備推進会議の資料です。ここでは犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)による規制と、それがカバーしていない部分についてカジノ管理委員会規則で講じるべき対策について検討されています。
例えば事業者による高額取引の報告義務は犯収法では課されていませんが、カジノでは規制するようにするべきではないかという議論がなされています。
ジャンケット規制
ジャンケットとは、カジノの事業主体(カジノオペレータ)から委託を受けた事業者、または委託を受けた事業者が行う事業を指すのが公約数的な理解です。
具体的には上図のような事業の種類がありますが、この言葉自体が揺れ動いてきたものなので、論者によって言及している内容が異なる場合があります。②のカジノ行為の実施(フロアを借りてジャンケット事業者が客にギャンブルをさせる等)のみを指すかのような説明をしている者も居ます。それはそれで間違いないですが、議論を噛み合わせるためには具体的な事業内容を指して論じるといいのでしょう。
日本のIRカジノでは、ジャンケットは一切行わないとしています。
○政府参考人(中川真君) お答え申し上げます。
いわゆるジャンケット等と呼ばれる業者の業態は必ずしも一様ではございませんけれども、例えば、カジノ事業者からカジノフロアの一部を借り受け顧客にカジノ行為を行わせるような業態を我が国で認めることとなりますと、このIR事業を遂行するためIR事業者にのみカジノ事業を特別に容認するというカジノ事業免許制度の趣旨を没却させることになるというふうに整理をしております。
したがいまして、このIR整備法案の中では、諸外国のようにカジノ事業者とは別にいわゆるジャンケット等という業の類型を設けることはせずに、ジャンケット等と言われる人たちがやっているような行為についてはカジノ事業に対する個別の規制によって対応するという整理をしております。例えば、カジノ行為業務の委託を禁止するとか、あるいはカジノ施設内でのカジノ事業者以外の者による貸付けは認めないと、そういう形で、個別の行為をカジノ事業者以外には認めないという形での規制をしいてございます。
IR整備法では93条でカジノ業務の委託を原則禁止しており、例外類型を定めています。当然、ギャンブルを客に行うカジノ行為の委託はIRカジノの趣旨から禁止されるということです。
ルートオペレータ(レベニューパーティシペーション)の仕組み
ルートオペレータという用語は木曽崇氏の説明を元にしているのですが、カジノ機器をカジノ事業者に貸与し、提供したカジノ機器から出た収益の一定割合を受け取ることで利益を得ている者を指します。要するにカジノのマシン機器を設計製造している企業がマシンの筐体を売って利益を得るのではなく、マシンにカジノ客がつぎ込んだ金の中から割合で利益を得ています。
主体の属性を指す言葉ですが、カジノ機器設計製造企業の収益構造(或いはカジノ事業者のコスト構造)を指している言葉であるとも言えます。カジノ機器のサプライヤーの報酬体系としてレベニュー・パーティシぺ―ションとも言われます。
ルートオペレータの仕組みがあることで、カジノとしては設備投資のコスト低減になり、カジノ機器の設計製造企業としては高騰しがちな筐体価格(そして新しい商品の性質)によって売りつける先が出てこない危険を避けることができます。顧客の反応を見ながらマシンの設定を変更できることも大きいと思います。
特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめではルートオペレータという単語は出てきませんが、同様の仕組みを導入する事について以下のように書かれています。
スロットマシーンのリース料について、カジノの粗収益(GGR:Gross
Gaming Revenue)に連動した報酬を支払うというレベニュー・パーティ
シペーションを認めることになれば、カジノ収益をIR 事業者の外に出すこ
とになってしまうので、このようなリース料の設定は、認めるべきではな
い。
小括:日本IRカジノのマネロン規制は既存カジノのイメージとは異なる
マネロン対策はカジノ業界の歴史でもあります。次々に新しいマネロン手法が出てきては、それを防止・発見する仕組みを構築するカジノ事業者の努力がありました。日本のIRカジノはそうした世界のカジノ事業者が直面した問題に向き合ってより規制を強めようとしていると言えます。
もちろん、まだまだ詰めの段階ではないですし、素人の私から見ても「これは防げるの?」というマネロン手法があります。
たとえばIRカジノでは「顧客同士のギャンブル」をカジノ事業者の管理の下で行うことができますが、顧客同士が共謀して一方がわざと負け、他方が利益を得ることで資金洗浄が可能になります。このようなマネロン手法を防ぐ手立ては今のところ公的なソースを見る限り議論すらされていませんが、カジノ管理委員会規則や事業者の対策に盛り込まれるのかどうかは気になります。
ただ、これまで見てきたように、既存のカジノのイメージで日本のIRカジノでマネロンが行われる危険を一般大衆に喧伝しているとすれば、それは明らかに間違いです。
パチンコ課税と北朝鮮
IRカジノで納付金が徴収されることから、今までは法人税や所得税などのみ徴収していたパチンコについても【パチンコ税】を設けて税収を増やそうという意見が見られます。
現状のパチンコ業界は法人税については脱税が多い業界のトップ10に入り続けているということは上記エントリで示していますから、一見すると税収増のため理に適っています。その分北朝鮮に渡る利益が少なくなりますからね。
ただし、単に「パチンコ課税」というだけでは正しく問題を把握できません。パチンコ店がギャンブル性認定を逃れているいわゆる「三店方式」についての理解が不可欠です。
パチンコ税の課税は利権につながる?財源化すれば廃止が困難?
パチンコ税を設けることによる弊害が指摘されることがあります。
特別な税をかける=職業としての権利が生まれる。 廃止できなくなりますよ。 パチンコは今はゲームセンターでしかない。 RT @SuperAngelsJPN: パチンコは脱税の温床だから
— 渡邉哲也 (@daitojimari) April 2, 2018
カジノを含めギャンブル税、レジャー税の制定を希望したい!
日本の財政のために! https://t.co/LQEgramQgO
「パチンコ税をかけると税収源としての利権が生まれるので課税すべきではない」
このような意見が散見されますが、果たしてそうでしょうか?
この主張は、パチンコの換金が政府答弁書によって実質的に合法化される以前に「課税すると換金が合法であると追認される。そのためパチンコを違法とできない。パチンコという存在が公的に認められてしまう」というような主張として構成されていたのではないかと思います。
この主張の前提としてあるのは、パチンコ店(パチンコホール)と換金所が一体であるという認識です。しかし、平成28年11月18日、緒方林太郎の質問主意書に対する答弁書、同月29日の再質問主意書に対する答弁書では三店方式についての質問に対して【パチンコ店の営業者以外の第三者が換金することは直ちに違法ではなく、実質的に一体である場合には風営法上違法であり、刑法上も違法となる可能性がある】とされました。
したがって、議論の前提条件が変わってしまったために、「パチンコ課税は利権を生む」論は論拠が崩壊するようになったのだろうと思います。
もしも上記以外のロジックでパチンコ課税が利権になるという主張をしているのであれば是非聞いてみたいですが、それらしい主張はいくら検索しても出てきません。
少し歩み寄りをすると、現時点ですら警察利権が食い込んでいるパチンコ業界ではありますが、課税すると利権が強化されるという側面はあると思います。そうすると、例えばATM規制をしようとしても現時点よりも強行な反発がなされると思われます。そうした反発を避けるために、「利権化」が起こってしまう課税をするのは最後の仕上げの段階で行うべきであるという論は、一部の理があると思います。それまでは近年行われた出玉規制や、今後検討されるATM規制などで徐々に真綿を締めるように規制をかけていくのだろうと思います。
どの部分に課税するのか?
「パチンコに課税」と一言で言っても、どこに課税するのでしょうか?
かつて「パチンコ課税」の創設が騒がれた時期がありました。
「パチンコ税」創設浮上、1%で財源2000億円試算 政府・自民、法人税率下げ減収の穴埋め
政府・自民党内で、安倍晋三首相の主導で政府が決めた法人税の実効税率の引き下げに伴う税収減の穴を埋める財源の一つとして、パチンコやパチスロの換金時に徴税する「パチンコ税」の創設が浮上していることが21日、分かった。1%で2千億円の財源が生まれるとの試算もある。ギャンブルとして合法化する必要があるため異論もあるが、財源議論が活発化する中、注目が集まりそうだ。
結局これは実現していません。
しかし、これはおかしな話です。パチンコ店は客が「貸玉」用にお金を支払った後は、単に景品を客に渡すに過ぎません。合法的な三店方式であればパチンコ店と換金所は別主体ですから、パチンコ店側はまったく課税されません。
当時の議論では、顧客が換金するに際して課税分が引かれるという負担が課されるような仕組みだったのです。要するにタバコと同じで消費者が負担する税です。パチンコ店は痛くもかゆくもありません(射幸性が微量ながら弱まるため理論上は集客力が微減すると言えそうですが無視できるレベルでしょう)。これについては木曽崇氏が2014年の当時に解説しています。
このように、いわゆる三店方式を理解していないと、「パチンコ課税」という単語だけでは実態を正しく把握できません。
貸玉料への課税によってはじめて北朝鮮への利益供与を阻止できる
その上で、現在主に議論されているのはパチンコ店の貸玉料(顧客が金を払って元手となる玉を借りた(表向き「購入」ではない)際に店側が得る利益)に対する課税です。
IRカジノではカジノ粗収益に対して30%の納付金が課されました。パチンコは法律上はギャンブルではないのでカジノと同じ税率にできるかはともかく、同様の課税がパチンコ店の貸玉料による利益に為されればどうでしょうか?
パチンコ依存対策。IR法ができる前に基本法が成立。これはプログラム法のIR推進法のおかげ。立民、共産は基本法に反対した(立民はパクリ法案を提出したが)。パチンコにはカジノ並みの課税も検討すべき
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) July 22, 2018
パチンコ。ギャンブルでないという従来の位置づけゆえ普通の法人税のみ。世界のカジノ課税は法人税より高い。ギャンブルでないから立地規制も条例まかせで緩い。これまでパチンコは大きな既得権で手出しできなかったが、IR推進法とIR法でやっとゆらいできた。IR法反対者は結果といてパチンコ既得権擁護
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) July 22, 2018
パチンコがギャンブルではないという位置づけであっても、特殊な課税をしようと思えばできる(相当ハードルは高いですが)ので実現を考える方はそれなりに居るようです。
まとめ:金融庁が北朝鮮への送金を調査してどうなるか
昨年から金融庁に北朝鮮への不正送金の流れを断つように断固たる行動を要請してきましたが、金融庁も本腰を入れてきました。
— 和田 政宗 (@wadamasamune) June 22, 2018
『日朝合弁10社に不正送金の疑い、金融庁が全銀行に報告命令=関係筋』(朝日新聞)https://t.co/8VXfJSzbct
記事の魚拓:http://archive.is/29vXq
金融庁が北朝鮮との間で不正送金やマネーロンダリング(資金洗浄)行った疑いのある企業10社との取引について、国内すべての銀行、信用金庫、信用組合に対し、取引の確認と報告を求める命令を出したことが22日、分かった。命令は18日付。10社の口座情報や平成28年3月以降の取引記録の提出を命じた。
北朝鮮への収益の送金については、金融庁が日本と北朝鮮の合弁企業について裏で送金をしていたのではないかという疑惑について報告を求めたとのことで、今後調査して回答することになっています。
パチンコ店からダイレクトに北朝鮮に送金するというよりは、金融機関を通しての送金が現実的です。過去には足利銀行から北朝鮮に送金がされていたこともあり国会でも問題視されました。
IRカジノの設置とそれに並行して行われるギャンブル依存症対策の議論が、パチンコの廃絶、ひいては北朝鮮への利益供与を絶つことに結びついています。とはいえ、地域に利益を生まないIRを作ってはいけません。必要な議論が正しく一般に認識されるよう、情報が整理されていってほしいと思います。
以上