事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ストロメクトール=イベルメクチンのジェネリック通販どこで売ってる?副作用は?と考えている人向けの新型コロナへの効能エビデンス

 

イベルメクチンに関するあれこれ

ストロメクトール=イベルメクチン

ストロメクトール、イベルメクチンのジェネリック

イベルメクチンと呼ばれているのは有効成分の名称で、販売名としては「ストロメクトール」となっています。

イベルメクチンは疥癬用の薬

ストロメクトール錠3mg

医療用医薬品 : ストロメクトール

イベルメクチンの効能欄を見ると「腸管糞線虫症」「疥癬」を対象にしています。

つまり、COVID-19に対しては「適応外使用」となります。

COVID-19に対する適用外使用に有効性安全性があるのかが話題になった薬品としてはアビガンなどがあります。

大村智博士がアメリカのメルク・アンド・カンパニーで開発

戦後日本のイノベーション100選 安定成長期 イベルメクチン

イベルメクチンは日本の大村智博士が北里大学薬学部教授時代にアメリカのメルク・アンド・カンパニー(「MSD」という通称)で開発したものです。

イベルメクチンのジェネリック医薬品?

「イベルメクチンのジェネリック医薬品」という表記がなされることがあります。

以下のページからこの意味について指摘します。

薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(令和3年8月12日適用)|厚生労働省

日本国内でジェネリック医薬品=後発医薬品は承認無し

https://www.mhlw.go.jp/topics/2021/04/dl/tp20210812-01_05.pdf

https://www.mhlw.go.jp/topics/2021/04/dl/tp20210812-01_01.pdf

日本でイベルメクチンのジェネリック医薬品は承認されてる物が無いのが分かります。

※厚生労働省の上掲HP「5.その他(各先発医薬品の後発医薬品の有無に関する情報)」で「各先発医薬品における後発医薬品の有無及び後発医薬品について、1:後発医薬品がない先発医薬品」と書かれているように、エクセル表上で「1」とあるものは、承認されたジェネリック医薬品が存在していないことを意味する

海外のジェネリック医薬品と思われる製品名

しかし、ネット上の輸入代行業者が運営しているサイトでは「コビメクチン、イベルジョン、イベルスマート、イベルヒール」などの名称がついているのが見受けられます。

これらは日本ではなく海外においてジェネリック医薬品として承認・製造販売されているものと思われます。

※本当にジェネリック承認されているのかの真偽のほどは確かめていません。

通販ではどこで売ってる?違法ではない?

さて、ネット上ではイベルメクチンの「輸入」をする業者が運営しているサイトがたくさん見つかりますが、そこで購入する際の注意点について。

輸入代行業者と薬事法上の違法の可能性

医薬品等の個人輸入に関するQ&A|厚生労働省

個人輸入代行業の指導・取締り等について|厚生労働省

医薬品の個人輸入は、海外で使用していたものと同じ製薬を使用する必要に迫られているなど限定的な場合にのみ認められていますが、そうではない場合に個人輸入しようとすると薬事法上、違法となる恐れもあります。

実際には個人輸入代行業者がHPを適法に運営していてそこから注文すれば適法なスキームで消費者に届けるようにしているのでしょうが、それでもさらに問題があります。

中身は本当にイベルメクチン?家畜用ではない?

届いた薬の中身が本物かどうか、どうやって確認するのでしょうか?

食品ですらHPで偽装されていた例があります。しかも楽天という大手のサイトで

食品は食べたら匂いや味や触感で真贋が分かるかもしれません。

しかし、薬品は…?

中身が小麦粉を固めたものなど、ほぼ無害のものなら良いですが…

イベルメクチンの有効性安全性の科学的エビデンス

さて、そもそもイベルメクチンが新型コロナに効き、人体にとって安全である(有効性・安全性)という科学的エビデンスはあるのでしょうか?

1:開発元のメルクの声明「COVID-19への有効性は科学的根拠無し」

Merck Statement on Ivermectin use During the COVID-19 Pandemic - Merck.com

KENILWORTH, N.J., Feb. 4, 2021 – Merck (NYSE: MRK), known as MSD outside the United States and Canada, today affirmed its position regarding use of ivermectin during the COVID-19 pandemic. Company scientists continue to carefully examine the findings of all available and emerging studies of ivermectin for the treatment of COVID-19 for evidence of efficacy and safety. It is important to note that, to-date, our analysis has identified:

No scientific basis for a potential therapeutic effect against COVID-19 from pre-clinical studies;
No meaningful evidence for clinical activity or clinical efficacy in patients with COVID-19 disease, and;
A concerning lack of safety data in the majority of studies.
We do not believe that the data available support the safety and efficacy of ivermectin beyond the doses and populations indicated in the regulatory agency-approved prescribing information.

イベルメクチンを大村博士と共同開発した、アメリカのメルク・アンド・カンパニーが、「COVID-19への有効性は科学的根拠無し」 という声明を出しています。

日本法人もこれを受けて声明を出しています。

  • 前臨床試験では新型コロナウイルス感染症に対する治療効果を示す科学的な根拠は示されていない
  • 新型コロナウイルス感染症患者さんに対する臨床上の活性または臨床上の有効性について意義のあるエビデンスは存在しない
  • 大半の臨床試験において安全性に関するデータが不足している

2:イベルメクチンの有効性の根拠だった論文は捏造疑惑で撤回

ストロメクトール、イベルメクチンの新型コロナへの効果を証明した論文が捏造で撤回

峰宗太郎医師作成

イベルメクチンの有効性の根拠論文として、かつては以下のものがありました。

Ivermectin in COVID-19 Related Critical Illness⇒アメリカのユタ大学のアミット・パテル氏らの研究論文。(魚拓

Efficacy and Safety of Ivermectin for Treatment and prophylaxis of COVID-19 Pandemic | Research Square⇒エジプトのベンハ大学=Benha Universityのアフメッド・エルガザールらの研究論文。

しかし、論文に捏造疑惑が発覚して撤回されています。

この論文を含めた複数論文を分析した(メタアナリシス)論文も撤回されています。
エルガザールらの論文を含めてメタアナリシスをした論文:Expression of Concern: “Meta-analysis of Randomized Trials of Ivermectin to Treat SARS-CoV-2 Infection”リバプール大学のアンドリュー・ヒルら(複数大学・複数機関の複数研究者による)の論文。

撤回の理由は「アメリカのサージスフィア社が提供した患者データに捏造があったため」としています。他にも同社が関わった研究論文の撤回が相次いでいます

特に、アメリカのユタ大学の研究論文は、日本でイベルメクチンの治験を進めている北里大学がその効果の根拠として引用していましたから、この影響は甚大です。

コンパクトにまとまってるのが以下

3:効果があるとする論文と効果が認められないとする論文

撤回された論文以外にも効果があるとする論文はありました。

オーストラリアのメルボルンにある研究機関、病院に属するレオン・カリーらが書いた,The FDA-approved drug ivermectin inhibits the replication of SARS-CoV-2 in vitro - ScienceDirectという2020年6月に医学専門誌「Antiviral Research」に掲載された論文。

これがイベルメクチンの有効性についての最重要の論文とされ、この論文がきっかけとなってイベルメクチンの投与を開始した国もありました。

しかし、この論文は「試験管内」の環境での実験であり、人体に対する効果(有効性)はこれでは分からないということと、この実験において使用されたイベルメクチンの濃度では人体には危険である(安全性)という点が大問題でした。

同様の指摘をする論文も出ていますIvermectin: a systematic review from antiviral effects to COVID-19 complementary regimen | The Journal of Antibiotics

対して、効果が認められないとする論文も昨年から出ていますが、その中でも重要視されているのが以下。

Effect of Ivermectin on Time to Resolution of Symptoms Among Adults With Mild COVID-19 A Randomized Clinical Trial

476人の患者を対象とした二重盲検ランダム化比較の臨床試験では、イベルメクチンの有効性は示されませんでした。

4:アメリカFDAの声明と各州の使用禁止声明

Why You Should Not Use Ivermectin to Treat or Prevent COVID-19 | FDA

FAQ: COVID-19 and Ivermectin Intended for Animals | FDA

米国のFDA(食品医薬品局という公的機関)は、個人使用時の過剰摂取によって副作用が多く報告されたことから「医療提供者から処方され、正当な供給元から入手した場合を除き、COVID-19を治療・予防するためにイベルメクチンを服用しないでください。」と警告。

さらにミシシッピ州の保健当局はイベルメクチンを消費している個人の中毒が急増していることを医療専門家に警告しました。

Mississippi officials warn against using ivermectin for COVID-19 amid spike in poisonings | TheHill

ちなみに、アメリカの医師の団体である"FLCCC"がイベルメクチンは新型コロナに有効性があると主張していますが、任意加入団体であり、規模が大きいものでも主流派でもありません。

5:興和とイベルメクチンの治験をする北里大学

北里大学 大村智記念研究所 感染制御研究センター

https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031200120

興和と北里大学がイベルメクチンの臨床試験を進めています。

イベルメクチンを含む製薬の治験の進行状況については以下で確認できます。

ACTIV-6: COVID-19 Study of Repurposed Medications - Full Text View - ClinicalTrials.gov

6:有効性があるとする最近の研究論文の評価

既述の通り、従来の有効性があるとする論文は、人体に投与すると大量になり安全性が確保できないという指摘がなされていました。

その点を回避しようとする研究が行われており、たとえばパスツール研究所の論文と言われているもの"Attenuation of clinical and immunological outcomes during SARS-CoV-2 infection by ivermectin"がEMBOに掲載されました。

内容はハムスターを使って、人間用イベルメクチンの通常の用途(つまりは虫下しなど)において使用される分量((150〜400 µg / kg)=体重1Kgあたり150~400μg)を投与したもの。

考察として、イベルメクチンはSARS-COV-2のウイルス自体には効果がなく、免疫に働きかける効果があると書いており、これは大村博士の主張と同じ。

ただ、じゃあ人体に投与してCOVID-19(の症状に)有効な量はどうなのか?ということは、この研究からは不明。

f:id:Nathannate:20210817192158j:plain

動物実験ですからこの図で言えば最低ランクのエビデンスレベルです。

また、「インドの研究論文でも効果があったとされた」と言われてますが、これは8月5日にCuresというインパクトファクター無しの雑誌に掲載された論文。

Cureus | Prophylactic Role of Ivermectin in Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Infection Among Healthcare Workers

東京都医師会の尾崎会長が根拠にしているのがこれ。

しかし、実験手法に大きな問題あり。

7:大規模な臨床試験(人体)を行った最新の結果

McMaster University と PUC Minus の報告である"Early Treatment of COVID-19 with Repurposed Therapies:The TOGETHER Adaptive Platform Trial"では、イベルメクチンの軽症COVID-19における効果を調べた臨床研究によれば、約1300名が参加したRCTで外来患者における入院と死亡率に対する有意な効果は見られなかったとしています。

同様の結果が別の機関からも出ています。

外国政府がイベルメクチンを推奨しているとする情報

「インド政府がイベルメクチンを推奨している」とする言説があります。

確かに、推奨項目に掲載されていました。

しかし2021年6月には推奨項目から削除。医師の診断がある場合にのみ服用するようにと記述されるようになりました。

参考:Govt drops Ivermectin, HCQ and favipiravir from Covid-19 treatment list | Latest News India - Hindustan Times

「インドの感染者数が減っているのはイベルメクチンの効果だ」という言説がありますが、インド国民が超大規模に感染して人口の70%が抗体を獲得したために集団免疫が構築された結果ではないかとされています。

それに、本当にイベルメクチンの服用によって感染拡大が収まったのなら、推奨項目から除外するハズが無いんですが…

インドではドラッグストアでホイホイとイベルメクチンが手に入るようですが、そこまで流通しているものが本当に新型コロナに効果があるなら数十万人も死亡者は出ていないでしょう。

8月22日にはIvermectin Included in National Government Protocol for Treating COVID-19 TrialSite Staff August 21, 2021という記事で「カンボジア政府がCOVID-19を治療するためのプロトコルにイベルメクチンを含めている」と書かれ、SNSで拡散されましたが、この記事は既に削除済み。

当該政府プロトコルはMinistry of Health releases “Guidelines for the Management and Treatment of COVID-19 in the Kingdom of Cambodia” document - Khmer Timesに掲載されていますが、おそらくクメール語で書かれており、どういう意味においてイベルメクチンが言及されているのかは検証できていません。

イベルメクチンの状況に関するメディアのまとめ

イベルメクチンの状況に関して。

メディアに掲載されているまとめとしては以下があります。参考まで。

効くのか?効かないのか? イベルメクチン コロナ治療に効果は… | 新型コロナウイルス | NHKニュース

「イベルメクチンこそ新型コロナの特効薬」を信じてはいけない5つの理由 有効性はまだ確認されていない | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

「医者が言ってるから効果がある」

「医者がイベルメクチンに効果があると言ってるから効果がある」

こう言われることがあります。

日本では特に長尾和宏医師がTVで発言などをしていることから広まった話ですが、重症患者を診ることがそもそも無いクリニックの軽症患者が使用しているから自然快復と混同しているのではないか?という疑問が向けられています。

この図で言えば黒い領域のエビデンスレベル。

だからこそ研究論文(査読されて真正であると認められたものに限る)が必要なんですね。それも、1つの論文だけで科学的事実が明らかになることはほとんどないです。

ある論文で効果が出たとしても、後の論文では効果が無かったとか、同じ実験方法で別の結果が出た、とかは普通に在り得る話。

「医者が言ってる」だけで言えば、以下も医者が言っていることです。

まとめ:新型コロナに対するイベルメクチンの有効性安全性についての科学的エビデンス

まとめると、新型コロナに対するイベルメクチンの有効性安全性についての科学的エビデンスは、ほとんど蓄積していないどころか、否定方向のエビデンスが積まれている状況です。

風邪を引いて熱を出したときにポカリスウェット・水を飲んで、風邪が治ったら「それはポカリの効果だ」「水の効果だ」とは言わないでしょう。

「イベルメクチンを使用したら治った」と言われているものは、『別にそれがなくても快復していた』可能性があります。

“使った、治った、だから効いた”という『3た論法』は、医薬品の科学的効果を認定するために即座に信用してよいものではありません。

さらに言えば、抗体カクテル療法だとか、軽症患者に対する他の療法も確立しているのにイベルメクチンだけに頼るというのは、ヨクワカラナイ発想だなぁという感じです。

新型コロナ: 抗体カクテル療法を外来使用へ 官房長官、25日中に通知: 日本経済新聞

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