イベルメクチンが有効だとするメタアナリシス論文について
前提となる議論状況は以下で整理。
北里大学研究者ら「同じ臨床データを解析しながら、全く異なる結論」
イベルメクチン無効論文(Roman)と同じデータで有効と論じた論文(Bryant)
ここでは「同じ臨床データを解析しながら、全く異なる結論を述べているRomanらとBryantらの2件のメタ分析」と記述しています。
そして、その後にNeilらによる論文でRomanらとBryantらの2件のメタ分析をベイズ統計学的メタ分析を行った、としています。
RomanらとBryantらのイベルメクチンRCT論文メタアナリシス
イベルメクチンにCOCID-19への有効性が認められるとするBryantらのRCT論文メタアナリシスは、"Ivermectin for Prevention and Treatment of COVID-19 Infection: A Systematic Review, Meta-analysis, and Trial Sequential Analysis to Inform Clinical Guidelines"であり、2021年6月21日にAmerican Journal of Therapeuticsに掲載されました。
他方、イベルメクチンにCOCID-19への有効性は認められなかったとするRomanらによるRCT論文メタアナリシスは、"Ivermectin for the treatment of COVID-19: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials"であり、2021年5月21日にmedRxiv(プレプリントサーバー)に掲載された後に同年6月28日にClinical Infectious Diseasesに掲載されました。
両者の違いは細かいことを挙げればきりが無いのですが、大きな点を言うと…
- 分析対象の論文が、Bryantらの場合はRomanらを包摂する関係にある
⇒Romanらは10個のRCT論文を対象にし、BryantらはRomanらが分析した10個のRCT論文を含む24個のRCT論文を対象にしていた - 分析対象を抽出する際に参照するデータベースが異なる
⇒Romanらは"PubMed-MEDLINE, EMBASE-OVID, Scopus, Web of Science, the Cochrane Library"の5つのデータベースから抽出したのに対し、Bryantらは"Medline, Embase, CENTRAL, Cochrane COVID-19 Study Register, and Chinese databases"の5つを参照。
※CENTRALとはAppendixを見ると"Central Ivermectin for prevention and treatment of covid-19"のことらしく、Bryantらの論文のタイトルに酷似しているが、どういうデータベースなのかまったく不明。コクランのデータベースであるCENTRALならばそう書けばいいのに。
Romanらの参照したデータベースは全て超有名どころですが、Bryantらの場合、ScopusとWeb of Scienceを落とし、なぜか中国のデータベースを追加しています。
しかも、Bryantらの論文は、捏造疑惑で撤回されたElgazzarらの論文を含めて分析していました。
したがって、北里大学の研究者グループが上掲HPで「同じ臨床データを解析しながら、全く異なる結論を述べている」と認識しているのは、まったくの事実誤認です。
この記述はNeilらの論文内にも見ることがありません。
NeilらによるRomanらとBryantらの論文のベイズ統計学的メタ分析
Neilらによるベイズ統計学的メタ分析を行った論文は"Bayesian Meta Analysis of Ivermectin Effectiveness in Treating Covid-19 Disease"であり、改訂版であるBayesian hypothesis testing and hierarchical modelling of ivermectin effectiveness in
treating Covid-19が2021年8月18日付でResearchGateにUPされました。
なお、ResearchGateとは研究者らのSNSで、査読付き雑誌ではありません。
NeilらのWEBページにおいて、プレプリントサーバのmedRxivに掲載を拒否されたことがわかります。
medRxiv側からは一般論として「審査の結果、プレプリントではなく、査読を経て配布することが適切と判断された論文も少なからずあります。」と書かれている。
質の低い論文をプレプリントだからといって公開すると、スパム的に投稿する連中が増えるからでしょう。
結果、荒唐無稽な論文の内容がSNSを通じて大拡散された挙句に撤回されたプレプリントが出現しました。
Neilらの論文を紹介している北里大学の前掲HPでは「最初の公表から既に1カ月以上が経過していても、Romanらからの反論が無く、本論文の結論は受け入れられたと見なされます」と書かれているが…
査読すらされずプレプリントとしてすら掲載が許されなかった論文について反論もクソもないでしょう。
捏造疑惑で撤回されたElgazzarらの論文を除いているが…
Neilらの論文はBryantらの論文から捏造疑惑で撤回されたElgazzarらの論文を除いて評価してもイベルメクチンに有効性があるという結果が出ている、と主張していますが、この点は元々のBryantらの論文において対象にした論文が適切だったのかも含めて要精査でしょう。
なお、北里大学の感染制御研究センター長である花木秀明氏は以下書いてますが…
Romanらが報告したChaccour(青)の解析がRCT結果と異なっています。
— 花木秀明 (@hanakihideaki) 2021年8月18日
ピンクはRomanらが「Niaeeらの有効との治験結果」を誤ってpreprintに記載しClin Infec Dis記載時に訂正しています。しかしpreprintで記載したイベルメクチンの効果はプラセボと同じで治療効果は全くないとの結論は変えていません。 pic.twitter.com/SFlZtKznd7
Romanらの論文。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2021年8月26日
左側の図の上はプレプリント時のもの、下は訂正後のもの。で、これは「図2」の結果のみで「すべての死亡原因」に対する効果。
論文では入院・有害事象・重篤な有害事象・ウイルスクリアランスについての解析もしていて、菱形は右側にある。 https://t.co/MqT91Lf6di
なにやら花木氏のツイートを見て「Romanらのメタアナリシス論文が捏造だ!」と理解する者が出ていますが、そういうことを意味しません。
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