事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【フェイク】「岸田総理の改憲方針は憲法99条の憲法尊重擁護義務違反」という共産党デマ

虚偽の憲法論は終わりにしよう

岸田総理の改憲方針演説

令和6年1月30日、岸田文雄総理大臣が衆議院本会議及び参議院本会議での施政方針演説で「憲法改正議論を前進、条文案の具体化を進める」という目標を示しました。

「条文案の具体化を進める」というのは自民党の憲法改正実現本部の会合で岸田総裁が話をしていましたが、昨年の憲法審査会でも国民民主党の玉木雄一郎議員が「緊急事態条項、とりわけ議員任期延長の条文案作成に取りかかるべき」と発言していました。

さて、本件についてまたしても共産党界隈から難癖がつけられました。

「憲法99条の憲法尊重擁護義務違反」という共産党デマ

今回は日本共産党の宮本徹議員が岸田総理の国会発言を捉えて「憲法99条の憲法尊重擁護義務違反」と投稿しているのが目立ちますが、他の共産党系アカウントからも相変わらず喧伝されています。従前からの「共産党デマ」です。

もはや「解釈論は正解がない」という話ですらなく、ただのフェイクニュースです。

7年前に既に論破済みなのですが、岸田総理の言及に関して改めて整理します。

憲法96条の改憲条項の存在・三権分立は権限行使の問題

憲法99条の憲法尊重擁護義務を負うのは国会議員も含まれるが、96条で各議院の議員の賛成による憲法改正発議が認められており、「99条があるから」という理屈では国会議員すら改憲発議ができないこととなるため、矛盾する。

よって、「99条があるから総理は改憲を求める発言をすることは許されない」という主張は、憲法と矛盾した論理破綻の言説ということになります。

で、「最後の逃げどころ」として「三権分立違反」を言い出す者が出てきます。

これは7年前もそうでした。

しかし、三権分立とは公権力の「権限行使」についての牽制概念です。

岸田総理は内閣として権限行使をしたのではありません。

改憲に向けて国会の議論を期待し、党総裁としては詳細を詰めていくと言っているだけであり、国会で行われるものと憲法に定められている憲法改正発議をしたわけではありません。

現行法では、国会法で憲法改正原案の提出が「議員」にのみ認められているので、内閣からの改憲案の提出は形式的に起こり得ません。

そもそも議院内閣制を採用している日本では三権分立を一応は目指してはいるが、それを徹底することは憲法レベルで行われていません。あらゆる事柄に対して必殺技のように繰り出して通用する汎用性のあるものではありません。

憲法学者「国会の憲法改正発議権を侵していないなら憲法問題は無い」

第193回国会 衆議院 憲法審査会 第7号 平成29年6月1日

○宍戸参考人 簡潔にお答えを申し上げたいというふうに思います。
 政党の党首である方が同時に内閣総理大臣を務めるということが想定されている議院内閣制のもとで、総理大臣であるところの与党党首であられる方が憲法改正をしかるべき場でしかるべきやり方でおっしゃるということは、これは一般的に私は憲法尊重擁護義務に反しないものと考えております。
 以上の一般論で、私のお答えは以上とさせていただきたいと思います。

○小山参考人 宍戸参考人がおっしゃったことにほぼ尽きます。
 あと、憲法改正の発議をするのは国会なわけですから、要するに、国会の憲法改正発議権を侵していないのであれば、侵していないわけですけれども、特に憲法上の問題はないのではないかというふうに私は思っております。

憲法学者の宍戸常寿、小山剛の両氏が、日本共産党の赤嶺政賢議員が、現職の首相が改憲を主張するのは憲法尊重擁護義務に反していないか?と質問したことに対して真正面から「憲法尊重擁護義務に反していない」「国会の憲法改正発議権を侵していないので憲法上の問題はない」と回答しています。

内閣が憲法改正原案の発議しても議院内閣制では憲法上の問題は無い

現行法では憲法改正原案の発議が「議員」にのみ認められていたり、総理が「自民党総裁として」と前置きをしているのは、三権分立に関する【配慮】をしているとは言えると思います。しかし、それはそうしなければ違憲であるということを意味しません。
※最高裁判事がメディアの質問で憲法改正について問われて「三権分立の観点からお答えを差し控える」と言っているのも「配慮」に過ぎない

では、内閣が憲法改正原案の発議ができる制度の場合はどうでしょうか?

結局は、その場合でも憲法改正発議は国会が行うわけですから、憲法上の国会の権限への干渉はありません。国会の実務運用上、内閣に属する国会議員からの議員としての改正法案の提出は控えられていますが、憲法上は妨げられていません。それと同じで、内閣総理大臣たる国会議員から憲法改正原案の発議をすることに法的障害はありません。

これは憲法が議院内閣制を敷いており、内閣に属する議員について、国会議員としての権能を制限することが無いからです。同時に、大臣個人としての表現の自由を制限することも憲法上はありませんから、発言自体は法的には自由に行えます。
※「憲法は国家を縛るものだ!だから大臣には表現の自由なんてないんだ!」というのは、ただの妄想

政治的な障害は無い?憲政の常道からの大臣の憲法改正に向けた発言

法的な問題は無いが政治的な問題は無いのか?という視点が必要な場合があります。

たとえば、【参議院議員が内閣総理大臣になっても良いのか?】という話。

これまでその例はありませんが、法的に制限はありません。

しかし、内閣総理大臣は衆議院の解散権を持つにもかかわらず、自身は参議院議員であるために身分が維持される安全圏に居るというのは、独裁を生む危険性があります。

そのような行為(状況)は素朴な価値観からも歪な感覚を覚えるでしょうし、こうした運用は【憲政の常道】に反する、という用語で言及されてきました。

さて、内閣からの憲法改正原案の発議は、その後に国会審議や国民投票による「チェック」機能が働きますから、何か憂慮すべき事態があるとは言えません。

ましてや、総理が改憲への意欲を述べるといった事実上の行為にとどまる場合は、更に問題がない。

むしろ現行制度に関して改善すべき点があるなら積極的に論じて批評に晒し、洗練させるというのが表現の自由を認めた憲法の下にある政治の、あるべき姿です。

まとめ:「岸田総理の改憲方針は憲法99条の憲法尊重擁護義務違反」はフェイクニュース

「岸田総理の改憲方針は憲法99条の憲法尊重擁護義務違反!」という言説はフェイクニュースであるとまとめてしまってよいでしょう。

こうした虚偽の憲法論によって、現実で様々なリソースの毀損が発生してきました。

何らかの法改正は、その直接的な法的効果以外にも事実上の影響が出るものが多岐に渡り、そうした影響も見据えて行われるものです。ただ、法案提出者の公式見解=国会答弁としてはそうした内容は言及できないかしづらいものと言えます。

しかし、本来はその「間隙」を他の国会議員や理解している国民が埋めるのが言論の自由行使の在り方です。これからの憲法改正に関する議論は、その点も求められると感じています。

以上