イラネッチケーを取り付けてNHKだけ映らないテレビにNHKとの契約義務が存在しないとする初めての判断が出た東京地裁の判決全文が掲載されたのでその中身を紹介し、その検討を行います。
- イラネッチケー裁判の東京地裁判決全文
- NHKの放送受信契約締結義務
- 本件のテレビへのイラネッチケー取り付けの加工方法
- 検証実験の内容
- NHKだけ映らないテレビの設置は放送受信契約締結義務が存在しない
- テレビが高額ならどうなっていたか
イラネッチケー裁判の東京地裁判決全文
東京地裁令和2年6月26日判決 平成30年(ワ)第35011号
これは原告の女性が、イラネッチケーを【特殊な方法】で取り付けた民放のみ映るTVを使用していても、NHKの放送受信契約を締結する義務が存在しないことを確認する訴訟を提起した事案です。
NHKの側から「金払え」と言ってきた事案ではありません。
なので「原告」=女性、「被告」=NHKを指します。
【特殊な方法】とは、取り外しが困難な程度の加工を施したものなのですが、本件での詳細は次項に記述します。
なお、NHKから国民を守る党の立花孝志氏が壁の中の部品にイラネッチケーを取り付けた裁判では敗訴していますが、これは取り外しが簡単にできたためでした。
また、立花氏がTVにイラネッチケーを特殊な方法で取り付けた際の訴訟ではNHKの側が争点を訴訟要件に絞っていたため、「受信機の廃止をすること等」にあたるかどうかは判断していませんでしたので、この点についての司法判断は未だ出ていませんでした。
これまでのイラネッチケー関連訴訟については以下。
NHKの放送受信契約締結義務
放送法64条1項にある、NHKの放送受信契約締結義務については、最高裁判例が出ています。放送法64条は合憲であること、契約していない者がNHKから訴訟を起こされた場合に契約が成立する時点と消滅時効の起算点と支払い義務の範囲について判示していました。
詳細は以下でまとめています。
本件のテレビへのイラネッチケー取り付けの加工方法
本件のテレビへのイラネッチケー取り付けの加工方法は以下です。
1:本件テレビのチューナーから同軸ケーブルのコネクタを取り外す。
2:チューナーを浮かせ,それによってできたスペースに本件フィルターを埋め,本件フィルターからの出力をスピーカーコードによってチューナーの入力部に繋ぐ。
3:アクリル板とアルミ箔を重ね合わせた板でチューナーとフィルターの周りを囲い,その中にエポキシ樹脂を何度か重ねて流し込み,上部までエポキシ樹脂で埋める。
4:周辺に流れ出たエポキシ樹脂の層の上にアルミ箔を重ね,更にその上にエポキシ樹脂を流して固める。
検証実験の内容
裁判の過程で検証実験が行われ、NHKの放送が受信できる場合もありました。その方法も簡略化して載せます。
本件テレビと同じ型番のテレビジョン受信機を元に,本件フィルターと同じ型番のフィルターを用いて,本件テレビと同様の手順で加工したものを用いて,原告の自宅と同様のアンテナレベルの環境において実施しています。
⑴ 加工したTVケーブルを接触させる方法(「本件方法①」)
・TVケーブルに,その先端の芯線の周囲の金属を取り除く加工を施した上でその加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビの端子取り出し口のF型ジャック出口を塞ぐアルミ板に接触させた。また、加工済みケーブルの位置を変えて,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビのチューナーの上部に接触させた。すると,いずれの方法でも被告の放送を受信することができた。
⑵ブースターを使用した上で,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビの端子取り出し口のF型ジャック出口を塞ぐアルミ板に接触させた。また、加工済みケーブルの位置を変えて,加工済みケーブル先端の芯線を,本件テレビのチューナーの上部に接触させた。すると,いずれの方法でも被告の放送を受信することができた。
⑶ ニッパを用いて切除を行う方法(「本件方法②」)
実験用テレビの3箇所のアルミ箔で包んだアクリル板を糸のこぎりとニッパを用いて切除した。この切除は,単独の人間の力のみで,約6分で行うことができた。その結果,実験用フィルター②とチューナーとを接続するスピーカーコードが露出した。なお,スピーカーコードの露出を妨げている1枚のアクリル板のみの切除に要した時間は,約2分40秒であった。また、加工済みケーブル先端の芯線をスピーカーコードの芯線に接触させたところ,被告の放送を受信することができた。
NHKだけ映らないテレビの設置は放送受信契約締結義務が存在しない
裁判所の判断の結論を要約すると以下になります。
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⑴ 放送法64条1項の「被告の放送を受信することができる受信設備」とは,通常の空中線により被告の放送を視聴し得る程度に被告の放送の信号を受信できる構造を有する受信設備のことをいい,「設置した」とは,これを使用できる状態に置くことをいう。
ア 原告のテレビは、内部に本件フィルターが取り付ける本件加工がされているため,被告の放送の信号を極めて微弱にしか受信できず,その結果,被告の放送を視聴することができないから、「被告の放送を受信することができる受信設備」あるとは直ちに言えない
イ ブースターを設置して被告の放送を受信することが現に可能になった場合、その時点で初めて放送受信契約締結義務が発生するものと解されるが、ブースター及びそれに附帯する設備の購入費用は加工元テレビを購入した価格を超えており,そのような出費をしなければ被告の放送を受信できないようなテレビジョン受信機は,社会通念上,被告の放送を受信できる設備とはいえない。原告がブースターを所有しているとか,使用しているという立証は全くないから,放送受信契約締結義務が発生するとは認められない。
⑵ 被告は,本件テレビを被告の放送を受信することのできる状態に復元するのは容易に可能であることを主張するが、自ら本件加工を行ったわけではなく,専門的な知識も有しない原告にとっては,このような方法を思い付くことすら容易ではなく,実行することはなおさら困難であるといわざるを得ないから、本件テレビを被告の放送を受信することのできる状態に復元することは少なくとも困難であるといえるのであるから,被告の主張は採用できない。
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その他、NHKの屁理屈の主張が退けられていますが、ここで載せるまでもありません。
テレビが高額ならどうなっていたか
原告のテレビはインターネットオークションにおいて3000円で購入されており、ブースターは,税込3824円で市販されていることが認定されています。
このような関係ではなく、元のテレビが数十万円のものであったような場合に判断が変わり得るのかは気になる所です。
もっとも、その場合でも原告がブースターを所有或いは使用しているという立証を経る必要があります。
NHKの側から訴訟を提起するような場合にはこの点を探知することは困難でしょうから、仮にブースターを使用してNHKの放送を視聴していたとしても、訴訟を起こされた後に廃棄すれば(取り付けた跡が残っているとかの事情が無い限り)バレないんじゃないかなと思います。
以上