事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

NHKがネット受信料の徴収に向けてパブリックコメント:ガイドラインの問題点

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NHKがネット受信料の徴収に向けてパブリックコメントを募集しています。

ガイドラインの規定に問題点が見つかったので紹介します。

NHKがネット受信料の徴収に向けてパブリックコメント

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改正放送法の施行に向けたNHK関係の省令等の整備についての意見募集(https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=145209349&Mode=0

改正の概要は4つに大別されていますが、その中で「インターネット活用業務の対象の拡大」が今回騒がれている「ネット端末だけで受信料発生?」という問題に関係します。

放送法64条では「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置」した者に受信契約義務が発生すると書いてあり、ワンセグ携帯電話であってもカーナビであっても受信料の支払い義務があるという裁判結果が出ているため、そのようなNHKがネット配信も行った場合、ネット端末所持だけで受信料が発生するのでは?という懸念が生じています。

「インターネット活用業務」には「2号業務」と呼ばれる(放送法20条2項2号)「常時同時配信」(テレビ放送とネット放送の同時配信)と「3号業務」と呼ばれる放送事業者向けの業務があります。

私たち一般国民の受信料に関係するのは「2号業務」の方なので、そちらに関する規定を見る必要があります。

省令=放送法施行規則なのですが、そこは抽象的な規定しかないので、コメントを前提とするならガイドラインを読み込んだ方が良いです。

私が読んだ限りでは、ガイドラインに書かれていることは上記の懸念を一定程度払拭する内容があります。

2号業務についての放送法施行規則

放送法施行規則 (実施計画の記載事項等)
第十二条の四 法第二十条第十三項の実施計画には、同条第九項の認可を【新設】受けた実施基準の項目ごとに、当該事業年度に実施するインターネット活用業務に関する次に掲げる事項をできる限り具体的に記載するものとする。

省略

法第二十条第二項第二号の業務(以下「二号業務」という。)に関
する料金その他の提供条件に関する事項

料金その他の提供条件に関する事項については、ガイドラインに詳しく審査基準が書かれています。 

日本放送協会のインターネット活用業務の実施基準の認可に関するガイドライン

2号業務に関する規定はいくつもあるのですが、「ネット端末だけで受信料発生?」という疑惑に関する重要な部分は以下の記述です。

日本放送協会のインターネット活用業務の実施基準の認可に関するガイドライン 第4 認可要件の項目ごとの具体的な審査基準

3 業務の種類、内容及び実施方法並びに2号業務に関する料金その他の提供条件に関する事項が、協会の放送を受信できる業務の種類、内容及び実施方法が、協会の放送を受信できる受信設備を設置した者について、法第64条第1項の規定る受信設備を設置した者について、法第64条第1項の規定により協会とその放送の受信についての契約をしなければならないこととされている趣旨に照らして、不適切なものでないこと(法第20条第10項第3号関係)

省略

そのため、2号受信料財源業務については、例えば、常時同時配信について、受信契約者に対しては追加負担なく利用できるようにする一方で、非受信契約者に対しては受信契約者と同等の放送番組を同等の条件で視聴できないようにするなど、受信料制度の趣旨に照らし、受信契約者にとって不公平にならないための具体的な提供条件に関する事項が、適正かつ明確に定められることが必要である。
併せて、例えば、利用に際してID・パスワード等により受信契約者であることを適切に認証することや、非受信契約者による不正利用の防止など、このような提供条件を適切に適用するための措置をとることが、業務の実施方法として、適正かつ明確に定められていることが必要である。

「非受信契約者」が予定されている通り、端末所持だけで受信料支払い義務が発生しないように、利用者だけが徴収されるような業務実施方法が検討されていることが分かります。

これは従来から議論されていたものです。

常時同時配信の受信料の徴収方法についてのNHK検討委員会の議論

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平成29年2月27日付諮問第1号「常時同時配信の負担のあり方について」答申 平成25年7月25日 NHK受信料制度検討委員会

何らかのアクション・手続を取って視聴環境を設定した者=視聴環境設定者に対して受信料を徴収する方針であるということが書かれています。

視聴環境設定の方法が具体的にどのようになるかは分かりませんが、「アプリのDL」や「IDの取得」などが検討されていました。

常時同時配信についての受信料徴収方法についてのNHKでの議論については詳しくは以下でまとめてあります。

【NHK受信料】ネット端末所持で受信料発生はウソ?常時同時配信とは?オンデマンドとの区別は

さて、ガイドラインにこのような文言があるということから、ひとまずは安心できると言ってよいと思いますが、それでもパブリックコメントで念押しする意義はあります。

私が他のガイドラインの規定を読んだところ、「万が一の状況を作るようなものがあったので、その点に触れていきます。

業務の実施に過大な費用を要する場合とアプリ・ID取得等の関係

日本放送協会のインターネット活用業務の実施基準の認可に関するガイドライン 第4 認可要件の項目ごとの具体的な審査基準

4 業務の実施に過大な費用を要するものでないこと(法第20条第10項第4号関係)【同左】本号は、本来は協会の放送等の必須業務を実施するために使用すべき受信料財源が過度にインターネット活用業務に支出されることにより、必須業務の実施に支障を来すことのないよう、当該業務が過大な費用を要するものでないことを認可の要件とするものである。

先に示したガイドラインの第4の3における受信料徴収方法の具体的な方法(アプリDL,ID取得等)の実施が、上記の第4の4に定める「過大な費用を要する」として実施されず、ネット端末所持者には全て受信契約義務があるとされたらどうでしょうか?

端的に言えば「ガイドラインの第4の3と第4の4の関係」が問題になります。

これは「第3 実施基準の認可要件その他の関連条文の解説」の3・4でも同様の規定があるため、セットで考えることができます。

ガイドライン第3・4のいずれにおいても3項では「法第64条第1項の規定により協会とその放送の受信についての契約をしなければならないこととされている趣旨に照らして、不適切なものでないこと」と書かれているので、そこから考えていきます。

放送法の目的・趣旨

NHK受信料裁判最高裁判決 平成29年12月6日

放送法64条1項は,同法に定められた原告の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたもの

放送法に定められたNHKの目的とは何でしょうか?放送法1条を見てみましょう。

放送法 第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

目的)
第十五条 協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。

「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすこと」「日本全国において受信できるように」

これは非常に厄介な文言ですね。

この目的が最優先されてしまう結果、アプリやID取得の仕組みを構築したら過大な費用がかかってしまった場合(そのように偽装することも可能)、そういう仕組みは無くしてネット端末所持者も受信料徴収しましょう、ということになりかねません。
※審査基準には「受信料制度の趣旨に照らし、受信契約者にとって不公平にならないための具体的な提供条件に関する事項が、適正かつ明確に定められることが必要である」とあり、ID・パスワード等の設定は「例えば」という書きぶりに過ぎません。不公平にならないための提供条件は、他には「ネット端末所持者全員からの徴収」という方法が考えられるので、その可能性が文言上、完全に排除されているわけではない。

現に、カーナビやワンセグなどテレビ電波の世界ではそのようになっていますから。

これを回避するロジックを考えます。

放送が国民に最大限に普及されることとインターネット

「放送が国民に最大限に普及されること」と放送法が謳っているのは、ラジオやテレビ放送がNHKの基地局の建設・運用などによって国民が視聴できる環境を整えることができるからでしょう。

端的に言えばラジオ・テレビの放送インフラはNHKが作ってきた実績があります。

対して、インターネットのインフラはNHKが作ってきたのではありません

ざっくり言えばIIJ(インターネットイニシアチブジャパン)などの別の民間企業が回線を敷設し、サーバーを置いたりしてプロバイダが個人に回線を提供していることで成り立っているのがインターネットのインフラです。

NHKがこれに貢献しているということは寡聞にして知りません。

また、常時同時配信は今般の改正でも「任意業務」とされています。

そのため、インターネット放送においてはNHKは「放送が国民に最大限に普及される」ことを目的として実施するものではないので、端末所持だけで視聴環境設定者ではない者にまで「受信契約の締結を強制するため」の実質的な前提を欠いていると言えます。

ここから、「ガイドラインの第4(第3)の3項と第4(第3)の4項の関係」は、3項が4項に優先するべきであって、4項(過大な費用)を理由として3項の手段(視聴環境設定方法の運用)の実施が蔑ろにされてはならない。4項の場合において「放送が国民に最大限に普及される」「日本全国において受信できるように」という目的を持ち出し、「公平公正な負担」を名目にしてネット端末所持者全員に対する徴収を正当化するような事はあってはならない。

このように論理構成してみました。

まとめ

  1. ガイドラインの改正文は一応、ネット端末所持者全員からの徴収とはならないように規定されている
  2. 従来の議論で視聴環境設定者でないと受信契約義務が無いとする方針
  3. しかし、「費用が過大」と考えられた場合にどうなるかは未知数
  4. 視聴環境設定者のみから徴収する方法の実施に費用が過大にかかる、という理由により、その方法が撤廃されることはあってはならない

少々疑心暗鬼になり過ぎな嫌いがありますが、このくらい念を押して意見を言わないと悪用される規定ブリになっていると思います。

あと、NHK視聴アプリをスマホ端末にプリセット販売するような状況も悪巧みしようとすればあり得るので、そこも釘を刺しておこうと思います。

この点を考慮してパブコメを出そうと思います。

以上