事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「7万フォロワーは少ない」Colabo仁藤夢乃と日本維新の会の前川清成衆議院議員の事前運動を分けたのは…公職選挙法違反

何が違ったのか

「7万フォロワーは少ない」Colabo仁藤夢乃の公選法違反疑惑への判断

暇空茜氏が一般社団法人Colabo代表の仁藤夢乃氏について、2021年衆議院総選挙において公示日が10月19日であるのに10月15日から選挙活動となるツイートをしたことが公職選挙法に違反する、という内容で警察に通報していたようですが、「検挙にあたらず」と回答されたとツイートしました。

根拠として出されているのは以下のツイート。

https://archive.is/dPr65

なお、YouTubeではそれ以外にも実際に仁藤氏が公示日前(の近い日時で)池内氏の当選を希望する旨が述べられている動画等が指摘されていました。

ただ、ここで取り上げている公示日前の事前運動疑惑がかけられている行為は、支援者向けの施設内での講演での池内氏との対談形式の席上での発言であり、ネット上にUPしたのは池内さおり氏であるから、この行為でもって仁藤氏の違反を問うのは不可能でしょう。

他に、添付画像では苦情に対する回答文書もありましたが、これはおそらく警視庁の警察官から「検挙にあたらず」と回答されたことを受けて、都の公安委員会に対して苦情の申出をした結果をUPしたのでしょう。

警察法 ※旧法78条の2

第七十九条 都道府県警察の職員(第六十一条の三第四項に規定する都道府県警察の警察官を除く。)の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。

参考:警 察 庁 丙 人 発 第 8 9 号 各 都 道 府 県 警 察 の 長 平 成 3 1 年 3 月 2 9 日(参考送付先) 警 察 庁 長 官 官 房 長魚拓

不起訴ではなく可罰的違法性が無いと警察に判断されたか

暇空氏に対しては検察による不起訴処分告知書が送付されている素振りはなく、もっぱら警察段階で刎ねられているようなので、「不起訴処分」ではないと思われます。

その上で、本件は「可罰的違法性が無い」、つまり、形式的には構成要件に該当するが、行為の悪性や結果が軽微なものであるために処罰するまでの違法性が無いとする判断が為された可能性があります。「刑罰法規の謙抑性」という刑事法制度の背景思想が念頭にあります。

有名な一厘事件(栽培し乾燥していた葉煙草のうち価格一厘に相当する1匁(3.75グラム)の7分(2グラム)を手もみにして喫煙した行為に対し検事は農民を煙草を大蔵省専売局に納入することを怠った葉煙草専売法の不納付違反で起訴、大審院(現在でいう最高裁)は「人類非行ハ零細ナルモノハ悪性ノ特ニ認ムベキモノナキ限リハ其人生ニ及ボス害悪極メテ僅少ナルヲ常態トスル所ナリ」と無罪の判決をした(大判明治43年10月11日刑録16輯1620頁)

2021年のフォロワー数ではなく2022年末の数で判断した警視庁

@colabo_yumeno 2021年11月1日 13:16:15 UTC

2021年10月25日当時の仁藤氏のフォロワーは、6万3000程度でした。

2022年末のフォロワー数で判断したというのは、意味不明どころか、色々とおかしい。

事前運動において主張が届いた人数を考慮する、という立場を採用する場合(それ自体が適切なのかは取り敢えず措いておく)、拡散された数、つまりはリツイート数で見るべきですし、現在であれば「ユーザーに表示された数」も表示されますから、それも含めて考えなければいけないでしょう。

さて、同時期に気になる同種の話題があるので触れていきます。

日本維新の会の前川清成衆議院議員の事前運動を分けたのは

暇空氏のツイートと同じころ、日本維新の会の前川清成衆議院議員がまさに事前運動であるとして公職選挙法違反であり罰金30万円を支払えという地裁判決が報道されていました。

そのため、どのように違うのか?という点が気になりました。

色んな媒体で報じられていますが、最も詳細に書かれているのがNHKの記事。

公職選挙法違反の罪 維新 前川清成衆議院議員に18日判決 01月18日 08時32分 NHK

【何が争われたのか】
裁判で争われたのは、前川議員が、選挙の公示前に複数の人にあてて「選挙はがき」やその宛名書きを依頼する文書を郵送した行為についてでした。
前川議員側の説明によりますと、おととしの衆院選の公示前、出身大学の卒業生名簿に掲載されていた選挙区内の有権者、2441人に対し、▼宛先が書かれていない「選挙はがき」と、▼そのはがきに知り合いの氏名や住所を記入するいわゆる「宛名書き」の依頼文を送ったということです。
はがきや依頼文には、「選挙区は『前川きよしげ』、比例区は『維新』とお書き下さい」などと書かれていました。
「選挙はがき」とは、候補者の写真や政策を記載した文書で、公示後の選挙期間中に、候補者が自らへの投票を呼びかけるため有権者に郵送することが認められています。
公職選挙法では、公示前に投票を呼びかける行為は「事前運動」として禁止していますが、選挙運動の準備をすることは禁止されていません。
「選挙はがき」に知り合いの名前や住所を記入する「宛名書き」は公示後に準備していては間に合わないおそれがあるため、公示前から行うのが選挙の実務として一般的で多くの陣営で行われています。
ただ、「宛名書き」を依頼する相手が選挙を手伝う支援者ではなく有権者だった場合は「事前運動」とみなされる可能性があります。
両者の線引きは難しく、総務省は「支援者への依頼など陣営の内部的な行為であれば事前運動にならないと考えられるものの、具体的には事例ごとに判断されるため一概に規定することはできない」としています。
この裁判では、「選挙はがき」の「宛名書き」を依頼した相手が、「不特定多数の有権者」にあたるか、それとも問題がないとされる「支援者」だったかが争われたのです。
【検察の主張】
検察は、文書を送られた複数の人が「面識がなく、支持も支援もしていない」とか、「投票してほしいという意味と理解した」と証言したことなどから、実質的に不特定多数の有権者に投票を呼びかけるものであり、『事前運動』だったと指摘しています。

判決後の報道は以下。

前川清成衆院議員 罰金の有罪判決 公選法違反の罪で 奈良地裁 2023年1月18日 18時44分 NHK

前川衆院議員は、控訴する意向を示しています。

「不特定多数の有権者」にあたるか、それとも問題がないとされる「支援者」だったか?

仁藤氏のツイートは、明らかに「不特定多数の有権者」「支援者ではない者」にも向けられていたものです。拡散数は、2441に留まりません。

違いを並べてみると

  1. 候補者本人の陣営が行ったか ⇔ 有権者の応援だった
  2. 1によりルールを熟知しているはずの者の行為 ⇔ 一般人
  3. 物理の物体を直接送付していた ⇔ ネット上のテキストに過ぎなかった
  4. 3により投票呼びかけの強度が強かった ⇔ 訴求力が弱かった

こうした事情が思いつきます。

もっとも、前川議員に対する今回の判決も、選挙実務の実態を無視したものだという批判もあり、控訴審でどうなるかはよくわかりません。

日本維新の会の吉村共同代表は「身を引くべきだ」としていますが…

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