事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【能登半島地震の教訓】SNS上の助けてください系投稿はほとんど偽物コピペ:救助要請時の注意点まとめ

今後の災害時の教訓。

能登半島地震で大量に溢れた「助けてください」系投稿

令和6年1月1日に発生した能登半島地震。

当日の16時台から大量に溢れた「助けてください」系の投稿。

コピペ投稿が大半だったのですが、それをリポストしたり引用した人が多く見られました。「建物の下敷き」「足が挟まって動けない」などを訴える者もいました。

結論から言えば、そのほとんどは「ノイズ」に過ぎませんでした。

私も「救助済み」という情報が出てるケースを15件精査しましたが、SNS上の情報だけで実在すると認定できるものは2件のみで、明確な虚偽の投稿が2件ありました。

上掲記事にてある程度書いていますが、震災発生から72時間が経過し、偽情報の拡散も収まってきた今、今後の教訓とするべくより詳細に注意点と分析を書いています。

本物の救助要請や虚偽の救助要請とそのコピペなどが横行

  1. 本当の救助要請であるケース
    ※自分のものではなく他者のものの場合もある。
    ※他者の場合でも直ちに嘘ではないことに注意。
  2. 本当の救助要請をコピペして自身のアカウントのインプレッションのために利用しているケース
  3. 最初から虚偽の救助要請であるケース
  4. 虚偽の救助要請のコピペをしているケース

分類するとこうした投稿で溢れましたが、有害ではないのは①のみ

第三者が反応する場合でも、①の元発信者が分かるようにしてリポストしたり引用することのみがノイズではないことに。それ以外は、以下のマイナス効果しか生みません。

  • 救助妨害
  • 住所地への嫌がらせ
  • 犯罪組織等の資金源に

住所地に実在する人物への嫌がらせになっている例が報道もされました。

後述するインプレッションによる広告収益だけでなく、フォロワー数のあるアカウントの売買による利益を狙ったものも考えられます。

こうして得られた利益がどういうものに使われるか考えたことはあるでしょうか?別の他者の命を危険にさらすことに使われかねません。

安定した環境と時間がある「ネット民」がするべきこと

目をそむけたくなる現実に直面している者が居る中で、「画面の向こう側」に居る我々ネット民には、安定した環境と時間がふんだんにあります。

この状況下の者が「現実を直視」せずに、いったいどうやって被災地の方の助けになるというんでしょうか。

方法論以前の心構えとして書いておきます。

X(旧Twitter)インプレッションで収益化、認証マークの秘匿化

なぜ今回このような現象が発生したのか?従前の災害時には見られなかった動きです。

可能性の一つには、X(旧Twitter)の仕様変更があると言えます。

昨年からXではインプレッション(閲覧)数等に応じて広告収入が得られるようになりました。収益化するにはX Premium(旧Twitter BLUE)に登録する必要がありますが、この際に付与される認証マークについては非表示化も可能になっています。
Twitter時代には認証マークのために本人(法人等)確認のため書類手続が必要だったがそれも不要に

「これはデマだ」と指摘すること自体がインプレッション稼ぎに利用される側面が無いではないですが、コミュニティーノートが付けられた投稿は収益化の対象外とするのがイーロンマスクの方針なので、ノートが付くことを期待して行うのは現状のXでは有効かもしれません。

ノートが付いている場合にはその中身を確認した上で評価を付けることが大切。その上で引用リポストなどで注意喚起すると良いでしょう。

効果を発揮したコミュニティーノートとして、コピペ投稿に対して既に救助済みと本人が投稿しているURLを示しているものがありました。

救助要請時の注意点と対策:X(旧Twitter)の推奨行動

https://archive.is/GzSJL

X(旧Twitter)の推奨行動として「#(ハッシュタグ)救助」という投稿がありますが、今回、コピペ投稿でもこれが乱用され、ノイズになっていました。過去に報道機関がハッシュタグ付きの文面でこの件を報道したことでも混乱が発生。正直、有効性には疑問が残ります。

他方で、【救助された後は救助要請の投稿を削除すること】としています。

これは有効ではあると思います。ただ、私からよりベターな方法として、救助要請の投稿のWEB魚拓を採った上でURL引用しつつ「助かったので以下は削除します。」と投稿後に削除すること。この際に削除対象の投稿のスクリーンショットがあると良いかもしれません。

これが無いために遡って検証するのに時間がかかったケースがあります。また、初稿の救助要請が削除されたことで事後的に偽物判定・疑惑をかけられてしまうケースも散見されました。

以下のように救助された本人の投稿にもコミュニティーノートが付いたケースがありますが、これによって他の未救助者の情報が埋もれなくなることになります。

「ほとんどデマ」がスタートライン:本物であるかどうかの見分け方

このような投稿については、「ほとんどがデマ」がスタートライン。

そこから「確からしい」と思う程度の事情を積み上げていって初めて反応するべきで、イーブンがスタートではありません。天秤の傾きを意識するべきです。

『虚偽の見分け方』ではなく、基本が虚偽であることを前提にその中から数少ない【本物の見分け方】を実行する必要があるということです。

おおざっぱにまとめると以下

  1. その住所や名前での救助要請の初出か否か
  2. 記載されているのは実在の住所か
  3. 当該アカウントは実在性があるか
  4. 訴えている被害状況に真実性があるか

これらの観点から、精査した結果、以下のような注意点を持って真偽を見極める必要があると思いました。これくらいやる気があるなら拡散すれば良いと思います。

なお、1月3日から石川県が安否不明者一覧表を公開しています。現在SNS上で「救助されていない」 と投稿されている方の名前が見つかる例もあります。

目的別・令和6年(2024年)能登半島地震に関する情報 | 石川県

※随時更新されるものであり、本人等から記載の削除の申し出あったら応じる場合もあるとのことなので、スクリーンショットを撮ってSNS上でシェアする、ということは非推奨。

1:その住所や名前での救助要請の初出か否か

最初に、「その住所や名前での救助要請の初出か否か」を確かめることを勧めます。

本物の住所であったとしても別アカウントによるコピペ投稿の可能性があるからです。

住所 until:2024-01-○○_○○:○○:○○_JST

(○の中を日時にして)これをXの検索窓に入れれば、日本時間の秒単位での当該日時までの投稿を見ることができるので、検索当時に見れる最古の投稿が確認できます。

ただ、既に救助後などで初出の投稿が削除されているケースもあり得ます。救助後の削除はX(旧Twitter)の推奨行動なので、本人の投稿でもあり得ます。

このような場合、たとえば検索の時間的範囲を広げると、削除された元投稿を引用している投稿や、スクリーンショット画像を添付している投稿が見つかる場合がありますから、試してみるといいかもしれません。

  • 救助後も新たにコピペした内容を投稿する第三者のケース
  • 同一人物が住所を複数出しているケース
  • 集合住宅等で同一住所の者が居る可能性を
  • 住所のみで名前が一切出てこない場合
  • 時間的に他人が最初に投稿したが実在してるものであり本人がのちに投稿した可能性

こうした点を考慮すると良いと思います。

何か一つ該当したら/非該当なら偽/真、という判断はできない場合が多いです。

大もとの投稿、初出の投稿をまずは確定させることで、無駄な判断をすることが無くなります。

2:記載されているのは実在の住所か

上掲は実在しない自治体名である「石川県川永市」という住所を記載していた例。
他の投稿では「試しました」などと書き、韓国に居るかどうかも含めて虚偽の可能性があります。

これ以外にも実在しない住所名とありえない住所番号の記載をし、寄付に誘導している例もありました。

住所の実在性については一応、以下のような民間のページが参考になります。

石川県珠洲市大谷町の地図・住所一覧 - MapFan

石川県珠洲市大谷町の地図 住所一覧検索|地図マピオン

※この区画が最新或いは正確なものかの保証はしません。あくまで参考として。

なお、1月2日からは「町全体が孤立・避難所も壊れて車中泊しかできない・支援物資を」という広域に対する救助を求める投稿も増えました。

こうなるともはや第三者が判断できるものではなく、自治体や救助部隊の把握に任せるしかないでしょう。

3:当該アカウントは(被災地における)実在性があるか

当該アカウントは被災地における実在性があるかどうかも重要です。

  • 過去の投稿、いいねの数などから、今回の災害が起きてから稼働したアカウントではないのか?
  • botのように同様の内容・不自然な内容を繰り返し投稿していないか
  • 被災地域に居住或いは移動等をしている投稿があるかどうか
  • 充電も残り僅かと言いつつ何度も何度も名前と住所をポストしてるなど

実際の例として、「石川県の祖母の家に居てがれきに足を挟まれた」と書いた者が「静岡にいるからセーフ」などと投稿している例がありました。
※この者は1日に静岡県産の七草が並ぶスーパーと思われる場所の画像も投稿しており、その後も被災している者としてあり得ない投稿を繰り返していた。

大方はこれだけでは切り分けができず、判断留保のまま次の話と併せて判断することになると思います。

4:訴えている被害状況に真実性があるか

最後に、訴えている被害状況に真実性があるかを検討すべきです。

「被害者」の記載や被害状況に変動は無いか?一貫性があるか?など。

ただし、困難に直面したりケガをしているなどでパニックに陥っていることで投稿が乱れている可能性も考慮する必要があり、不審な点があるから直ちに「デマだ」として非難することは避けるべきです。

冤罪の創出・加担にならないようにしましょう。

5:その後のアカウントの動きが不自然ではないかなど、その他

これは拡散するかどうかの判別にはなりませんが、その後のアカウントの動きが不自然ではないかなどを振り返ってください。

のちに検証・振り返りをすることで自身のリポストを取り消したり修正する投稿をすることに繋がるので推奨します。

そのほか、仮に「訴えられている被害状況」が真実だったとして、救助に値するかどうか?という疑問が生じる投稿も存在しました。

例えば住所地とそこのGoogle航空写真を添付して「子供が居ます」とだけ投稿する者。何ら命の危険が生じている気配がなく、救助の必要性を感じません。

基本は自助・共助です。それが無理な場合に公助が出てくるのであり、震災被害発生の初期段階では、より重大な被害の除去のために優先順位を付ける必要もあります。

所在が分かって救助隊が把握していても重機が無ければ動かせないため、地震による道路の損壊状況も相まって順番待ち、というケースも。
参考: “48時間ぶり救出”…倒壊家屋から79歳男性 娘が涙「よく頑張ったね」 能登半島地震

本物の確信が持てないがその可能性も否定できない場合

こうした観点から精査すると、「本物である確信が持てないがその可能性も否定できないというケースが圧倒的に多いことに気づきます。

初出の投稿、本人の投稿が特定でき、被害の実在・真実性も否定できない、誰も有効な情報提供をしていない、というケースがあるかもしれません。

その場合、単純リポストや引用リポストではなく、リプライ欄に必要な情報を提供すると良いかもしれません。

例えば、携帯電話のSOS発信の方法、119番に根気よく電話をかけ続けること、現地消防や行政窓口の電話番号、などを状況に応じて伝えるという具合です。

なお、調査した結果、残念ながら本物の救助要請に対しても「デマだ」とコメントを付けているアカウントが居ました。そうならないように、やはり基本はノータッチが無難ということになります。断定するには相当の根拠が無ければなりませんが、自分で判断できるでしょうか?

SNS投稿がきっかけで救助が始まったかどうかは不明

結局のところ、SNS投稿がきっかけで救助が始まるかどうかは不明です。

「嘘の可能性があるとしても本物の可能性もある、助かる可能性が高くなるなら即座に拡散しておこう」という一方的な期待は、残念ながら役に立つことはありません。

これは過去の災害時における投稿の調査でも同様で、SNS投稿が救助に繋がった例は極めて例外的

今回の能登半島地震でも、そこが明確になっている例は見られません。

やはり、本人が投稿した例でも後に119等の電話が推奨されています。
参考:大災害時の「助けて」ツイートは救助につながったか | 特集記事 | NHK政治マガジン

ましてや、まったく無関係の第三者が再拡散するというのは、ノイズを産む可能性の方が高い。そうならないように慎重な行動をここで示しました。

まとめ:ネット上でできることはほとんどなく、「邪魔をしない」が東日本大震災の教訓

SNS時代の最初の大震災として東日本大震災が挙げられ、そのときにXの前身であるTwitterのみが機能して情報伝達ツールとしての地位を確固たるものとしました。

しかし、東日本大震災時のネット上の教訓としては、ネット上でできることはほとんどなく、現地に負荷をかけることはしない、「邪魔をしないこと」が最優先に来るべき、というものでした。

当時は、千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所の火災について「有害物質が雨などと降るので注意」という根拠のない出所不明のチェーンメールが出回りました。

今回も、自身の正義感を満たそうとするあまり、目にした救助要請投稿を即座にリポストする人らで溢れたことになります。それは単に「騙された」のではなく、救助妨害・住所地への嫌がらせ・犯罪資金源となる可能性を生む行為でした。

正義感は金になる」と、どこぞの「公金チューチュー」活動家が書いていましたが、そうしたものに絡めとられないようにするのが現代社会の新たな防衛策と言えます。

以上