既に認められている名誉侵害情報削除の免責の延長線上
- 自民党が選挙期間中の一定のSNS・動画の収益化停止法案を検討
- 情報流通プラットフォーム対処法上の「名誉侵害情報」による収益停止
- 表現の自由の侵害ではなくプラットフォーム事業者の営業の自由の拡張
- 与野党で更なる法的議論、総務省では偽・誤情報対策も別途継続議論されている
自民党が選挙期間中の一定のSNS・動画の収益化停止法案を検討
<独自>違法選挙動画で金もうけダメ 収益支払い停止、自民がSNS対策で法改正検討https://t.co/mSiPbUaJUF
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2024年12月28日
収益化を目的に真偽不明の情報が拡散され、選挙に影響を及ぼしかねない事態となっていることから対策強化を図る。複数の関係者が明らかにした。
産経新聞から、自民党内で選挙期間中の一定のSNS投稿に関する収益化停止のための法改正が検討されているということが報道されていました。
この記事を受けて「真正面からの表現の自由の侵害」といった危うい理解がSNSでは識者と言われている方からも出ていたので、記事にある事実から正確な理解を整理します。
情報流通プラットフォーム対処法上の「名誉侵害情報」による収益停止
<独自>違法選挙動画で金もうけダメ 収益支払い停止、自民がSNS対策で法改正検討 - 産経ニュース
現行の「情報流通プラットフォーム対処法」は大規模プラットフォーム事業者に対し、違法投稿への対応の迅速化などを義務付けている。同法は選挙の候補者の名誉を毀損する内容の投稿を削除しても賠償責任を負わない特例も設けている。
自民が検討を進める法改正では、こうした特例に収益の支払い停止も追加する方向だ。SNSに関する規定がない公職選挙法の改正なども検討し、来夏の東京都議選や参院選を前に一定の結論を得ることを目指す。
まず、令和6年5月17日に公布された、いわゆるプロバイダ責任制限法=【特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律】 を改正する法律*1では、名称が【特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律】=いわゆる情報流通プラットフォーム対処法に変わりました。
公布の日から一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されますが、同じ法律の名称が変わったという扱いです。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案:参議院
令和三年法律第二十七号にて四条の規定が変わっており、「公職の候補者等に係る特例」として、公職の候補者等が自身の名誉侵害情報をプラットフォーム(PF)事業者*2に申し出た場合に必要な限度で送信防止措置(削除が想定されている)を講じた場合には、賠償責任を免除していました。
産経報道にある自民党の法律案は、この「名誉侵害情報」の場合について、収益の支払停止に関しても追加的に規定する、というものです。
これが現行の4条のような賠償責任の免除という形式になるのかは記事からは分かりませんが、そうであればその限りにおいては理屈としては当たり前の改正です。
名誉侵害だとされてPF事業者の運営上は削除等の対象となった情報で収益を得られるというのは、チグハグですから。
表現の自由の侵害ではなくプラットフォーム事業者の営業の自由の拡張
プラットフォーム事業者の賠償責任の免除ということなので、自民党の法律案は表現の自由の侵害ではなく、敢えて言えばPF事業者の営業の自由の拡張であると言えます。
PF上での言論空間は、一般ユーザーから見たらPF事業者の庭ですから*3、一般ユーザーが完全に自由に言論活動ができるというのは、あくまでもPF事業者の掌の上で、という留保が付いています。
X(旧Twitter)やFacebook、最近ですとmixi2を利用していたり利用規約を見ると分かりますが、法令違反の遥か手前で投稿の削除を要求されることはいくらでもあります。
ただし、公職の候補者から名誉侵害情報だとされて安易にバンバン削除されるような運用だと実質的にはユーザーの表現の自由が担保されなくなってしまう、という意味においては、表現の自由の話になります。
与野党で更なる法的議論、総務省では偽・誤情報対策も別途継続議論されている
<独自>違法選挙動画で金もうけダメ 収益支払い停止、自民がSNS対策で法改正検討 - 産経ニュース
自民選挙制度調査会などは今年12月、選挙期間中のSNS対策について本格的な議論を始めた。同月に初会合を開いた自民、立憲民主党など与野党7党が選挙運動の法的な課題を話し合う協議会でも、SNSによる偽情報の拡散や中傷への対策を検討する見通しだ。
産経記事では与野党で選挙運動に関する法的な課題としてSNSによる偽情報の拡散への対策が検討されているとありますが、これは名誉侵害情報とはまた別の話。
さらに、SNS上の行為ではなく、相手候補の選挙運動への妨害行為、特に対立候補者からの妨害などについて議論されています。
他方で、選挙中の妨害行為とは関係なしに、総務省では令和5年から偽・誤情報対策も別途継続議論されています。
【デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会】とそのワーキンググループ、令和6年には【デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会】も立ち上げられていますが、そこではPF事業者の『自主規範』としての対策が望まれている部分があります。
これは「法規制」ではありません。
今後出てくる何らかの方針は、これと自民党らの法律案と同じなのか異なるのか?
報道等ではこれらの認識が混ざり合ったものが出てくる可能性があり、また、それを見た者の認識もズレていく可能性があるため、評価・論評にあたっては注意が必要になってくると言えます。
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*1:「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和六年法律第二十五号)」
*2:法律では「特定電気通信役務提供者」とあるが、もはや一般的な呼称としてプラットフォーム(PF)事業者と書きます
*3:完全にPFの自由空間ということでもない