事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

札幌アイヌ協会の多原良子が札幌法務局に救済申し立て、杉田水脈議員ブログをアイヌ民族への人権侵犯と認定

何のための制度なんだろう?

札幌法務局が杉田水脈議員ブログをアイヌ民族差別・人権侵犯と認定

杉田水脈議員のアイヌ民族差別投稿 人権侵害と認定 札幌法務局 2023年9月20日 12時28分 NHK

7年前、自民党の杉田水脈衆議院議員がみずからのブログなどでアイヌ民族を差別する投稿を行ったことについて、札幌法務局は人権侵害にあたると認定し、議員側にアイヌ文化を学び、発言に注意するよう啓発を行ったことが分かりました。

杉田衆議院議員は平成28年、みずからのブログやSNSに国連の会議に参加したときのことについて、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」などと投稿しました。

この投稿について、会議に参加したアイヌの女性が「侮辱であり、人格を否定しておとしめる差別的な内容だ」として、ことし3月、札幌法務局に人権救済を求める申し立てを行いました。

札幌法務局が杉田水脈議員ブログをアイヌ民族差別・人権侵犯と認定し、「啓発」をしたという報道が為されました。

これについては元の投稿を具体的に示した上で奇妙な点を指摘します。

札幌アイヌ協会の多原良子が法務局に人権侵犯の救済を申し立て

杉田水脈議員に“人権侵犯”認定 SNSでアイヌ民族を“侮辱”|FNNプライムオンライン

各所の報道を見ると、札幌アイヌ協会の多原良子氏のみが法務局に人権侵犯の救済を申し立てをしたとあります。

認定対象は、ブログやツイッター(現X)の投稿など計3件とされています。

杉田水脈ブログ原文「【日本国の恥晒し】流石に怖かった今回の国連」

杉田水脈ブログの原文、タイトルは「【日本国の恥晒し】流石に怖かった今回の国連」です。既に削除済みなのでリンクは貼りませんが検証のため全文引用します。

【日本国の恥晒し】流石に怖かった今回の国連 2016-02-17 17:26:01

【日本国の恥晒し】
委員会から一夜明け、これから帰国します。
いつも仕事は自分との戦いだと思ってやってきましたが、今回は違いました。
目の前に敵がいる!
大量の左翼軍団です。
大型連休でもない、また観光シーズンでもないこの時期にスイス・ジュネーブに100人を超す日本人が訪れるのはやはり異様です。
彼らは街でも、レストランでも、ホテルでも、国連の中でも一目でわかります。
ハッキリ言って“小汚い”なんでこんなにきたない人ばっかりで集団を作れるのか不思議です。
曲がりなりにも国際会議です。近所のスーパーに買い物に行くのとはわけが違います。(私は近所のスーパーに行く時でもあんな格好はしませんが)「場をわきまえる」という日本人なら誰でもできることができていないのです。
我々はみんな各自でフライトやホテルを予約して、現地集合です。(あっちはツアーで来ているのか、胸にバッチを付けています。そういうツアーを専門的に請け合うところがあると優美子さんに聞きました。そこからして規模が違う。)今回も一人でお気に入りのホテルに泊まっていたのですが、朝食のレストランに行くと、それらしい集団が居て、ジロッと一斉に睨まれる。私は左翼活動家の名前も顔も一切知りませんが、向こうは知っているかもしれません。さすがにゾッとしました。
レストランでも我々が食事をしていると近くのテーブルにそれらしい団体が座ります。その途端、話を中断しなければいけません。

国連の会議室では小汚い格好に加えチマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります。そんな中、唯一見たことがある方を発見しました。糸数慶子参議院議員です。確か今は国会会期中のはず。不思議に思って名刺交換をして少しお話しを伺いました。そのことは今度詳しく書くとして、国会議員が在特会なんかと写真に写ると大問題になるのに(在特会のことは全く支持しませんが)、左翼活動家と写真に写っても何の問題にもならないなんて、おかしな世の中です。左翼活動家の方が暴力的で危険ですし、共産党員は公安の監視対象です。

委員会終了後、彼らが記者会見をするというので聞きに行こうとしました。日本政府の発言を受け、どんな反応かを知りたかったのです。
でも、近寄ろうとすると大勢の人間に囲まれました。辺野古の時と同じです。
「あなた、杉田さんですよね。(やっぱり知っている!)こっちに来ないでください。」
「どうしてですか?皆さん、多くの人に知って欲しくて記者会見するんですよね?私は一般市民です。聞かせてください。広く広報したいのに一般市民に聞かせないなんて矛盾していませんか?」とお願いしてみました。
「駄目です!あなた、杉田水脈でしょ!来ないでください。」と、人間の壁を作られてしまいました。
とにかく、同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなるくらい気持ち悪く、国連を出る頃には身体に変調をきたすほどでした。
とにかく、左翼の気持ち悪さ、恐ろしさを再確認した今回のジュネーブでした。
ハッキリ言います。彼らは、存在だけで日本国の恥晒しです。

「3件」の内訳は不明ですが、このブログには現地の画像が添付されており、そのうちの何枚かがTwitter(X)にて投稿されたものと、このブログ投稿の合計3件が認定対象となったと思われます。

杉田水脈議員ブログの文章と写真の同定可能性について

法務省の人権侵犯救済制度はこちら⇒人権侵害を受けた方へ-法務省

司法による救済ではなく、行政による被害者救済や対象者への是正勧告措置です。

杉田議員の当該ブログ投稿ですが、7年前の当時は落選中だったものの、2022年12月までは魚拓が確認できるので、時効の観点からはそこから起算されることになります。多原氏が救済申し立てをしたのはその後の記事削除後ですが、そこはあまり関係ないでしょう。

ただ、7年前の話を今さら持ってきて救済を申し立てるというのは、杉田議員が政務官になったから攻撃材料として使ったという側面があり、何だかなと思います。

もちろん救済を求める権利はありますが、札幌法務局も「議員側にアイヌ文化を学び…」と勧告しているのは意味が分からない。そういう話じゃないだろう。単に不用意な文章だっただけで、アイヌ文化の理解などは関係ない。

ブログの文章を全文引用しましたが、杉田議員の主観としては、その属性も知らない単なる日本人と認識していただけで、多原良子氏を名指しで批判したわけでもない。ただ、アイヌ民族衣装と思われる服装をした人物の後ろ姿の画像が添付されており、唯一それによって多原氏だと認識し得るに留まります。

「小汚い格好」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなるくらい気持ち悪く」という言葉も、「左翼活動家」と認識している集団についてのもので自身が受けた対応コミでの感想。

直接アイヌ民族の衣装に関して言及しているのは「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります。」の部分のみ。

杉田氏の投稿文には不用意な点があり積極擁護は憚られる内容ですが、これが「差別」とされることには強い違和感を覚えます。彼女はオフィシャルな場での服装として相応しくないという意味で書いている。

それが一般論としてはどうかはともかく、この場合は「そういう目的」で国連を訪問しているので杉田氏の文章は不当な評価とは言えますが。ただ、民族衣装がオフィシャルの場では相応しくないのか?という点は一つの論点とも言い得るもので、必ずしも認められるべきとは思われない。

それが多原氏の名誉感情を害するかどうか、という話でしかない。

それでも本件、一般読者基準で受忍限度を超えると言えるでしょうか?

過去の認定事例と比べても異例の認定と言えます。

それに、このようなケースを人権侵犯と認定するなら、もっと他に重要なケースはあるでしょう。

際限なく広がる「人権侵犯事案」:他方で「汚染水・汚染魚」などは野放しか?

本件のように侮辱による名誉感情侵害の場合に本人基準での同定可能性の判定をするべきと解するとなると*1、「人権侵犯」として扱うべき事案は際限なく広がりを見せることになる。

それ自体が言論の自由に関する危機であると同時に、司法救済とは別の行政救済という国家リソースのコストが無限に広がることになりかねない。

他方で、「汚染水」や「汚染魚」などという言葉で特定地域全体を貶める発言は全く対象外とされています。それは特定個人の人権侵害ではないから対象外、という理屈なんでしょうが、「〇和問題に関する人権侵犯」についてはどうもそうでなくとも特別扱いをしており、比例原則からして歪んだ形になっていると思われます。

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*1:福岡地判令和元年9月26日がこれを肯定、他方、東京地判平成28年8月30日は一般読者基準