事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

アメリカ国防総省のインド太平洋戦略報告書で台湾が「国」表記:メディアが報じない理由

インド太平洋戦略報告書、台湾、国

米国防総省のインド太平洋戦略報告書で台湾が「国」表記されたと言われています。

この点について気になったことをまとめます。

米国防総省の報告書に関するメディアの報道

米国防総省、台湾を国家と表記 : 東亜日報

米国防総省が最近発表した「インド太平洋戦略報告書」で、台湾を協力すべき対象「国家(country)」と表記した。これは、米国がこれまで認めてきた「一つの中国(one China)」政策から旋回して台湾を事実上、独立国家と認定することであり、中国が最も敏感に考える外交政策の最優先順位に触れ、中国への圧力を最大限引き上げようという狙いがうかがえる。

日本語媒体では東亜日報ロイターが「国」表記を報じています。

サウスチャイナモーニングポストでも「国」と表記したことを好意的に論じています。

台湾と関係強化へ 米国防省、2019年インド太平洋戦略報告を発表 - ロイター

米国防総省は6月1日、「2019年インド太平洋戦略報告書」を発表した。このなかで、米国は台湾について、地域のパートナーシップを強化する4つの「民主主義の国家の一つ」として取り上げた。

30ページの報告書のなかで、「インド太平洋地域の民主主義の社会がある地域に、シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴルは信頼でき、有能で、米国の自然なパートナーである」「自由で開かれた国際秩序を維持するために積極的に行動を起こしている」と書いた。 

Taiwan put on US defence department list of ‘countries’ in latest move likely to goad China | South China Morning Post

Analysts said the use of “countries” is the latest salvo by the Trump administration as the US and China face off over trade, security, education, visas, technology and competing visions of “civilisation”. Past references to Taiwan as a nation have tended to involve misstatements by US officials rather than wording in a well-edited report, they added.

ただ、ロイターの方は、かっこつきで「民主主義国家の一つ」という表現をしており、東亜日報らのような評価は下していません。

日本のメディアで「国」表記について殊更に取り上げて報じているものはありません。

では、元ネタである報告書を見てみましょう。

アメリカ国防総省のインド太平洋戦略報告書"Indo-Pacific Strategy Report"

Indo-Pacific-Strategy-Report-taiwan

"All Four Countries"

報告書の30頁にはこのような表現があります。

これが「国」と訳されて伝わっているところです。

まぁ、間違いではないんでしょうけれども、この表記が特別なニュースかというと、ちょっとよくわかりません。

なぜなら、前々から台湾を含むものとして"Country"と表記したものがあるからです。

前々から台湾を"Country"と表記していたアメリカ政府

f:id:Nathannate:20190609105245j:plain

https://www.federalregister.gov/documents/2010/06/11/2010-14123/defense-federal-acquisition-regulation-supplement-new-designated-country-taiwan-dfars-case-2009-d010

他:Federal Register :: Federal Acquisition Regulation; FAR Case 2009-014, New Designated Country-Taiwan

2010年の時点で台湾を"Country"と表記しているものが見つかります。

CIAの以下のページでも"Country name"という項目があります。

East Asia/Southeast Asia :: Taiwan — The World Factbook - Central Intelligence Agency

もともと"Country"と表記することにシンボリックな意味はないのかもしれません。

そしてアメリカ以外でも台湾を"Country"と表記するものは前からありました。

WTOの「政府調達に関する協定」(Agreement on Government Procurement:略称GPA)

政府調達に関する協定 - Wikipedia

WTO政府調達協定 | 外務省

WTO | legal texts - Revised Agreement on Government Procurement

WTOの「政府調達に関する協定」の英語原文を見ると、名宛人は"Country"になっているのが分かります。批准している"Country"として台湾も含まれています。

私は外交上の英語表現の作法について知りませんが、おそらくは"Country"は国際的な場面においては「国と地域」を包括する用法としても用いられているのではないかと推測します。

"Statehood"、"Nation"と"Country"と"Region"、"Area"

そもそも"Country"の原義を見ると「国家」以外に「地方」「地域」もあります。

日本の外務省の英語版ページやアメリカ国務省(外務省に相当)のページを見ると、日本は"Countries & Regions"、アメリカは"Countries & Areas"となっており、「地域」についても表記にブレがあります。

"Statehood"や"Nation"と表記していたならニュースだったのではないでしょうか。

 

インド太平洋戦略報告書に触れながら「騒いでない」もの

米国が本気を見せた! アジアの新たな安保体制の構築へ (2ページ目)

米のインド太平洋戦略が始動 | NEXT MEDIA "Japan In-depth"

宮家邦彦氏の記事では、インド太平洋戦略報告書に触れながらも、以下論じています。

そもそも、この「新たなインド太平洋戦略を発表した」とする報道には一部事実誤認がある。シャナハン長官代行が言及したのはあくまで既存のFOIP戦略であって、「新たな戦略を発表した」わけでは必ずしもない

こうした誤解が生じた理由は簡単だ。シャナハン演説と同時に、米国防総省が初めて「インド太平洋戦略に関する報告書」を公表したからである。同報告書は英文で55ページ、かなりの分量で従来のFOIPの経緯や現状を分析し、「修正主義勢力たる中国」、「復活した悪意ある勢力ロシア」、「ならず者国家北朝鮮」について記述している。要するにシャナハン演説は、同報告書の内容を念頭に、昨年よりさらに詳しくFOIP戦略を説明しただけなのだ。

ここでは、昨年のマティス演説と比べ、シャナハン長官代行が今回新たに言及した重要部分のみをご紹介したい。ポイントは3つある。

第1は、シャナハン長官代行がFOIP戦略の主たる対象が中国であることを前提に、具体的国名にこそ言及しなかったものの、厳しく批判したことだ。

第2は、昨年と比べ、FOIP戦略の内容がより具体化していることだ。

第3に、最も重要な点に触れよう。同長官代行は演説の中で、FOIP戦略において「共通目標を支援する協力的な地域安全保障ネットワークの構築を進めて」おり、「関係各国は主権をしっかりと確保し、独立した決断を行うための能力獲得に投資してほしい」と呼びかけている。

台湾を「国」表記にしたことそのものについては、まったく触れていません。

まとめ:シャナハン国防長官代行演説と報告書の中身が大事

台湾をどう表記したか、ということよりも、シャナハン国防長官代行が演説において念頭においていた報告書の中で、アメリカが台湾との関係を強化し、実質的にアメリカの"One China policy"を変更する方向に進んでいるという動きこそが本質ではないでしょうか。

日本どころか各国のメディアが"Country"と表記したことについて騒ぎ立てていないのは、そういうことなのかもしれません。

以上