事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

戦後の帝国議会での男系・女系天皇・女帝の論議

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戦後の帝国議会で「世襲」「女帝」「女系」についてどのように議論されていたのか。

帝国議会議事録から抽出していきます。

帝国議会における「世襲」に女系は含まれるかの議論

帝国議会会議録検索システムを利用して「世襲」や「男系or女系」で検索しました。

抽出した内容はこれに関するものであって、昭和21年10月22日の臨時法制調査会以降のものに限定しています。

日付が飛んでるものがありますが、中身がない日の質疑・答弁は無視しています。

重要な点を太字にしています。議事録のあとに解説を入れることもあります。

読み方としては、「委員」と書かれた人間は政府側の者ではなく、単に疑問に思った議員が政府側に質問をしているという内容であって、 政府の見解ではありません。

「大臣」と書かれている者の発言が「答弁」であり、当時の政府見解です。

法解釈が絡む問題であるために、また、不確定な内容を含むために、現時点において100%この通りの理解が正しいと言い切ることはできませんが、現行憲法や皇室典範の制定当時の、制定者の意思として最重要視されるべき内容です。 

なお、憲法上の「世襲」や「万世一系」の解釈として言っているのか、それとも皇室典範における皇位継承権の範囲の話として言っているのか(いずれにおいても女帝も含むか、更には女系も含むかが問題になる)は注意すべきです。

皇室典範の皇位継承権は、憲法上の「世襲」の範囲内において認められるからです。

この点については以下の記事で一応の考え方を出していますが、今回は議事録を網羅的に掲載して改めて検討する意味もあります。

憲法2条「皇位は世襲のもの」と大日本帝国憲法の「万世一系」の定義・意味とは

91回 衆議院 本会議 4号 昭和21年11月30日

○國務大臣(金森徳次郎君) 早川君から、今囘提出いたしました所の皇室典範の第一條に、皇位の繼承の範圍を定めまして、男系の男子としてありますることが、封建性の遺風を傳えておるのではないかという意味の御質疑でありました、皇位繼承者の範圍をいかなる限度をもつて定めまするかは、實に重大なることであります、そこでさきに臨時法制審議會にこれの審議を求めまして、よく御研究を願い、且ついろいろの方面から研究をいたしましたが、要するにこれは國民の確信ということの現はれておる歴史に根柢をおくことが一番主たる點にあるべきで、日本のこの皇位繼承の範圍におきまして、傳統的に男系をもつて繼承者といたしますることは、何らの例外なく確立しておる所でありますが故に、その原理によることが正しいと考えました、また最後に承繼せらるる方が女子であらせられてもいいのではないかという疑問が起りますが、これは歴史の上に若干の事例があります、しかし多くはそれは攝政のごとき意味が多いのでありまして、一種の變態であつて、ほんとうの繼承と申し上ぐるには不適當なように思はれますし、この面におきましては、なお篤と研究を要すべき多くの問題がありますが故に、この際は男子をもつて範圍といたしました、殘る問題につきましては、なお今後十分なる研究を盡くしたいと考えておる次第であります。

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臨時法制審議会の審議を踏まえた答弁であるという事が分かります。

これは皇室典範における皇位継承権の範囲について語っていますね。

91回 衆議院 本会議 6号 昭和21年12月05日

○國務大臣(金森徳次郎君) 吉田君の御質疑に對しましてお答えいたしますが、第一に女帝を認めざる理由如何、これを認めざることは、新憲法の精神と何らか適合しない點があるのでないかという御趣旨でありました。申し上げますまでもなく、わが國の過去の歴史におきましては、女帝がおわしましたこと十代でありまして、人數にして八人の御方があつたわけであります。その點から顧みますると、女性の天皇を戴くことも理由あるがごとくに考へらるる筋はございますけれども、それらの十代の女性の天皇の御位にお即きになりました諸種の事情を考えてみますると、多くは特殊な場合、たとえば男の方がお即きになるべき順序でありながら、そのしばらくの間を充たすためといふことが大部分であつたのでありまして、いろいろの學問上の研究を聞いてみますると、大體本格的な筋合ではない、一時の便宜に應ずるものであるというふうに言われております。そこでこれを今囘の憲法改正の場合に當てはめて考えてみますると、一面から申しますれば、兩性の平等という見地からこれを認めますることは、決して理由なしとは考えられないのではありますけれども、大體が男系ということを根本にいたしておりますために、女性の天皇が御位にお即きになりますと、それから先の男系の子孫ということを考えることが困難でありまするが故に、その點でいわば皇位をお繼ぎになる方が行詰りになるというような懸念も直觀的に――理窟ではありませんが、直觀的にさような考えも出て來る餘地があるわけであります。他の一面から申しますと、女帝を認めまするにつきましても、それは順序の關係におきまして、男性の方が順序の中におわしまさぬ場合に、恐らく考えらるると思いまして、しかしてさような場合は、およそ見透しまする所、容易に起り得ないことのように考えますので、これらの諸點を考え合わせますると、今日の現状におきまして、直ちに女性の天皇の制度をはつきりと認めますことには、なお相當研究の餘地を殘しておるものと存じます。そこで現段階におきましては、現行の皇室典範の成立についての研究の結果を一應受け繼ぎまして、これらに關する特別なる規定を設けていないわけでありまして、なお今後の研究によりまして、十分論究を進めて參りたいものと考えております。

○國務大臣(金森徳次郎君)及川君の御質疑に對してお答えをいたします。
ー中略ー
第二に、女性の天皇を認めざることについての御質疑でありましたが、これはだいたいは先ほど申し上げました所と同じたことになるわけであります。天皇が女性であることをこの典範が認めなかつたことは、配偶者がおありになるとか、或は御權能の關係とか、そういうような著想から來ておるわけではございません。だいたい日本の基本の考え方が、男系によるということにつきまして、過去において例外がなかつたのであります。男系によるということが何故に正しきや否やということの論議は、相當にむずかしいことであると存じまするし、今後とも深き研究を要するものと思いまするが、現在においては、男系ということを、動かすべからざる一つの日本の皇位繼承の原理として考えております。その原理を重じて行きますると、どうしても先にちよつと仰せになりましたけれども、男系の御子孫という所を逐うて行きまして、結局女性の天皇を考えますると、その後において系統の行き途がない、皇位繼承の範圍がそこにおいて盡くるということになります。しかもそれを他のどういう順位の男性の方と比べて優劣をつけるかというような問題になりますると、かなり困難なる問題が起るのでありまして、この點は今後なお十分の研究を重ねて、さうして誤りなき、的確なを結論を得る方がいいと思うのでありまして、今日なおその時期が至つていないわけでございます。

91 衆議院 皇室典範案委員会 2号 昭和21年12月07日

○金森國務大臣  省略

第一章の皇位繼承という規定の中には、どういう所に著想して規定されたのかと申しますと、だいたいの考え方は現在の制度と同樣であるわけであります、と申しますのは、萬世一系の方が皇位を御繼承になるという基本の原理、恐らく人間が時々の思いつきで定めるというものではなくて、おのずからなる一定の筋道を辿つておるものでありまするが故に、今囘の改正であるからとて、特別に變つた規定が生まれて來る理窟はございません、世の中の進歩に連れまして補正はいたしますけれども、根源の考へ方は踏襲するということは、自然の道行きであらうと存じてをります、がただここに、特に第一章の中に現われて來ます大きな改正の點は、皇位繼承の資格者は今後は嫡男系、嫡出に限定するということになつて來るのであります、と申しますのは、このごろも御議論がありましたが、皇位そのものの永續性ということを念頭に置きますると、つまり重點をそこに置きますると、必ずしも嫡出者、嫡男系ということに限る必要はないのでありまして、むしろ皇位の繼承の範圍が豐かにあり得るというためには、古い傳統に從いまして、嫡出者以外にもその範圍を認めることは、一應の理由はあるわけであります、しかし人間の間におきましても、道徳的判斷というものが漸次變遷して參りました現在の段階におきましては、嫡出者と然らざる者との間に相當大きな變化を加えるということは、これは當然のことでありまして、一方においては皇位の永久性ということを考えつつ、一方においては世の中における道義的な判斷を尊重し、この折衷點からかような制度が今囘取り入れられたわけであります

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「根源の考へ方は踏襲する」というような表現は何度も出てきます。

仮に「世襲」には女系も含まれるという意味であるとすると、単に血縁関係による継承という意味でしかなくなると思われ、わざわざ「根源の考え方」と言っているのはどういう意味なのか、わからなくなるのではないでしょうか。

また、「嫡男系嫡出」という制限が新たに設けられたことについて触れています。

これは要するに【側室と養子を認めない】という意味です。

ただし、それも当時の時点における判断であって、これを永劫に変更してはいけないということは毛頭考えられていなかったということです。

91回 衆議院 皇室典範案委員会 3号 昭和21年12月09日

○金森國務大臣 この皇室典範が、女性の皇族の地位につきまして、男性の皇族の場合と幾分異なる規定をしておることは事實でございます、今御指摘になりましたような問題も、自然その一つの現われとして出ておるわけであります、これは非常にわからない問題を澤山含んでおりまするが故に、きわめて明白に私からお答え申し上げることは、力量の許さない所でありますけれども、これは私ばかりでなく、實際に説明のしにくい點を含んでおるのであります、問題の骨子は、結局日本の皇位繼承につきまして女帝を排除した理由如何ということに根源があるわけでありまして、男系であるといふことにつきましては、過去百二十數代の間におきまして、一つの例外もなく男系を尊重されております、外國の例、たとえばイギリスの君主の地位の繼承等につきましては、必ずしも男系を基本としていないようでありまして、かくのごとく國によつて考え方が違うといふことを、ほんとうに正確に説明いたしまして、何人にも一點の疑惑なからしむるということは、實は今後の學問上の職責であらうと考えておりまするけれども、なかなかこの問題は困難なる事柄であります、結局われわれの現段階の判斷といたしましては、從來多年行われておつた所の制度は、一應それを正しきものとして認めて、實際の實行をきめて行くよりほかにしようがない、こういうことになるわけであります、この憲法に基づきまして典範は男系主義を認めたわけであります、既にこの男系主義を認めますと、その影響がいろいろな部分に現われて來ることはやむを得ぬのでありまして、たとえば女帝を認めるという問題になりましても、理論的に女帝を認めます根抵は十分あり得るものと考えておりますけれども、しかしやはりこれを考えて來ます時にその順序の問題とか、或は、さきにも申しましたけれども、女帝の所に行くとそれから先の男系の子孫といふものは考えられません、そこで皇位の行詰まりといふ論爭を起しまして、萬世一系の皇位の繼承をきめます時、どうしてもそこに不自然な所がある、ここから先はもはや皇位の續く所がないということを、明らかに法の上に豫見いたしますことは、甚だ好ましくないのでありまして、いろいろ考えまして、そういう種類の問題は今後一括して、もう小し學問的に及び歴史的にはつきり考えて行きたいという考えをもつております

91回 衆議院 皇室典範案委員会 4号 昭和21年12月11日

○金森國務大臣 世間には女子の繼承權を認むべしという論があると同時に、認めてはよくないという議論も聽いております、そこで認めるはよくないという議論の骨子となりまするものを、いろいろ考えて見ますると、今仰せになりましたやうな、婦人の一般的眼から見たる能力が、國の象徴たる地位と顧みて適當ではない、こういう見解が一つあります、それはもしも軍國主義のような國でありまするならば、婦人が國の現行憲法のように統治權の總攬者であられるということになすますると、ここに思わしくない事情も出て來ると思いますけれども、事情は變りましたからして、さような議論に重きをおく必要はないと考えております、それから婦人の体力を本にして國の元首たるにふさわしくない、こういう議論も出て來まするけれども、これも同じように認むるに乏しき議論であるように思われます、さらに考えまして、今仰せになりましたやうに、婦人には配遇者がある、その配偶者があるということが、この現行制度でいへば國の元首たるにふさわしくない、こういう論點も從來よく言われておりました、しかし人間の本質ということに根抵を置いておりまするこの憲法の眼をもつて見ますれば、さような論據をもつて女帝を認めないという理窟は、甚だ影の薄い議論になると思います、多分この點は御意見と同じであらうと思います、そういうふうにいろいろ考えて來ますると、女性の天皇が適當でないという論據は漸次減少して來るということを認めなければなりません、それではなぜ女性の天皇をこの皇室典範が認めないのか、こういう論が直ちに起つて來るのでありまして、私ども研究の道程におきましては、女性の天皇を認むべきであらうということを、まず一應の假説的な題目といたしまして、そうして研究を進めて行つたのでありまするが、ここに根本的に問題となりますのは、日本の皇室が常に男系の原理を認めておつて、未だかつて男系たることに一つの例外をも置かなかつたということであります、何故に男系にのみ繼承權を認めて、女性には繼承權を認めなかつたかということを、まずはつきり考えて見なければならぬと思います、このいろいろな社會的事項を研究しておりまする學問を少しばかり覗いて見ますると、古代におきましては、女帝に重きを置くという思想もあつたと思います、それが日本の古代のことは幾分茫漠としてわかりませんけれども、歴史のわれわれに正確に教えて呉れる範圍内におきましては、常に男系を尊重しておつたという所に、相當注意をしなければならぬと思うのであります、これに對しまする學問的な見解は、今日必ずしもはつきりしていないのでありまして、これを眞に掘り下げて、明らかなる點までもつて行かなければならぬと思いまするけれども、これはなかなか一朝一夕にはできかねることと存じまするが故に、まずこの邊の所は、今日の段階におきましては、かくあるもの、從つてかくあるべきものとして扱つて諸般の制度を考えて行く外にしようがないと思うわけであります、そうなりますと、既に男系を尊重するということになりますれば、その自然の結果といたしまして、男系の女子が御位におつきになるということは、そののちにおきまして皇位を繼承せられる所の系統が起つて來ないということを示しておるものであります
 最後に女子が帝位におつきになりますれば、その配偶者との間にお生れになつた方は、これは男系でありませんで、繼承權がそこに及ばないということになるのでありまして、この點がさらに大きないろいろな問題の疑惑となるのでありまして、日本の古來の制度におきまして、御承知のごとく十代の女子の天皇があらせらるるのでありまするけれども、なんとなく特別なる扱いであつて、それが偶然的なるものではないのであります、八人にして十代のその女帝が、どういうわけでおなりになつたということを考えて見ますると、だいたいこれを三つの種類に分けることができるのでありまして、その一つはこれはまあ歴史の批判にはなりまするけれども、皇室の外戚がその虚に權勢を張ろうとする原因に基づいているというふうに、歴史家によつて認められております、それは御二方であります、そういう事蹟があるわけであります、それからまた他の場合は、男子たる御後繼ぎの方の成長を待つために、一時的に位をお充たしになる、いわば攝位というような氣持をもつてできていると考えらるるのであります、さらに第三の場合は、これとやや異つた特別な事情によるものでありまして、たとえば持統天皇の場合について考えて見ますると、持統天皇は天智天皇の皇女であらせられ、そうして天武天皇の皇后であつたのでありまするが、この天武天皇の崩御ののちに、若干の經過のもとに皇位におつきになつたのでありまするが、その事情はどうも天武天皇の諸皇子があらせられ、おのおの異つたる母からお生れになつておりまして、その各皇子の間に恐らくは激しい紛糾が起るであろうという特殊なことを豫見せられて、さうして皇后たる方が御位におつきになつた、これはまあ歴史の見る所でありまするから、個人的のそういう歴史家の意見も加わつているとは思いまするけれども、だいたいそんなような意味でありまして、どれを見て行きましても、ほんとうに當然の意味において繼承せられたる形跡がないのであります、そう考えて行きますると、たしか皇室典範義解でありましたか、註釋が加えてありまするように、これは一時の權宜であつて祖宗の常憲にあらず、常の規則ではない、こう示されている所に理由があるように思いました、これは多分男系ということと組み合わされ、そののちには御系統が生じて行かないという所に何か關係があるものではないかと思つております、つまりこれだけの疑惑を起しまして、なお深く掘り下げて女帝を認むるがよいか惡いかという議論に移るわけでありまするが、それから先なかなか困難なる問題が伏在しておりまして、一つの考え方――假に女帝を認むるといたしましても、今のように後繼ぎが自然の系統において起つて來ないのでありまするから、そういうことを考えますると、女帝の繼承の順位をどこに置くか、男子と同じような普通の順位に混ぜて女帝を考えるのがよいか、それとも一つの血統のしまいの所で、やむを得ず女帝をお認めするという考えがいいか、それとも皇位繼承者の範圍の全部を見渡して、その最後の所に女帝をお置きするがいいか、こういう順位の問題が起つて、なかなかこれはわれわれ微力であると言えば言えるのでありますが、いろいろな角度から適當にきめまするということは容易ではないと思います、なおまた他の面から考えて見ますると、もしも男子に優先的なる地位を認むる、つまり皇統が連續して起ることを豫見いたしますれば、どうしても男子に優先的なる繼承順位を認めなければなりませんが、そういたしますれば男子盡きて初めて女帝に及ぶわけであります、となりますると、そういう場面を豫想するということは、今日の情勢ではなかなかありそうもないのでありまして、竹の園生は相當の男子を包含してあるのでありまするが故に、今この際女子を考えますることは一種の抽象的なる理論討究に終るような氣持がございまして、すぐにこの制度をはつきりきめなくてもいいという考えが起つてきます、さらに女子の天皇を認めますると、もしこれが最後に來ると、それから先は皇位繼承がどうなるのだろうか、もう皇族の方がなくなつてしまう、一般の考えによります皇位繼承者というものが容易に發見できないようなことになりまして、そういうおかしい制度をわれわれは考えるわけに行きません、そこまで考えるような場合には、もつと根本的に諸般の制度を頭の中において、間違いのないように考えなければなりません、そんなふうに考えて來ますと、要するに女帝につきましては、過去の男系ということを尊重する根本の原理を探求して、それからまた歴史の上に現われましたのが、恐らく變態とのみ言われ得るような場合のみであるということを考えまして、さらに皇位繼承の順位を考える時に、相當困難なる問題が湧き起つて來るのでありますし、また女帝を認めますることによつて、皇族の範圍などにつきましても非常に考えなければならぬ幾多の場面が附屬して起つて來ます、それらをこの貴重なる制度の中に認めまするためには、よほど根本的なる研究をしなければなりません、今日五月三日までにぜひとも完備いたしまする立場から言うと、これは將來の問題に殘して、萬遺漏なき制度を立てることが、われわれの行くべき道であろう、こういうふうに考えまして、つまり結果におきましてはこれが規定の表面に現われなかつた、こういう次第でありまして、決して疎かに考えておるわけではありませんので、さように御諒解願いたいのであります

○金森國務大臣 女性天皇のことにつきましては、今日既にいろいろ申し上げましたが、お説の通り女性の天皇を不可なりといたしておりました所のいくつかの原因は、現在はなくなつた、こう考えてよかろうと思います、武力といふことが主眼でなくなりました時代におきましては、武力ということを中心にして考えておりました女性天皇の阻却事由というものは、はつきり取り除かれておるというふうに思つております
 また今仰せになりましたように、女性の皇位繼承ということを取り去りますれば、お跡繼ぎの範圍が狭くなつて、時に困る場面が起るということも考え方として意義あるものと思つております、そういふことにつきまして、私が反對する考えをもつておるわけではございません、ただ今日も申しました、一般の系統の考え方は、やはり男系ということに一番根源の來るものと思います、既に男系ということが確定不動の原則のごとく今取り扱われておることを前提といたしまする時、女性天皇を考えますると、至る所に疑問を起して來るのでありまして、今日差迫つた必要が眼前に想像でき難き時代におきましては、しつかり研究をして、しかるべき制度を立てる方が正しい行き道であらうというので、正直に申しますれば、研究不十分ということが御疑惑の的になつておる次第と考えます

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5月3日のデッドラインがあり、その中で間違いのない解釈をしなければなならない。

当時の状況が垣間見える重要な答弁だと思います。

91回 衆議院 皇室典範案委員会 5号 昭和21年12月12日

○酒井委員 皇位繼承につきまして、女帝のことがたびたび問題になりましたが、金森國務大臣の御答辯を推察しますと、女帝の順位は、かりに設けるとすれば、皇族男子が盡きた場合という所へ著目されておるように受取つたのでありまするが、私どもやはり女帝を認めたいと思つておるものでありまするが、その女帝を認める場合に、その順位をどこへもつて行くかということにつきまして、結局皇位繼承の順位は直系主義であるということが原則中のまたこれが原則になつておる、そうして皇胤を重んずるという建前から、近親主義であるということも、一つの重大なる原則だと思います、そういう觀點から參りますると、女帝を認むるとすれば、その順位の地位は、この典範案第二條の五と六の間の所へもつて來るのが、前の原則から睨み合せて最も適當のような氣がするのであります、もし女帝をこの五と六の間へもつて參りますると、金森國務大臣が憂えられる、女帝の次ぎに系統が斷たれるという恐れをなくすることができるのであります、と申しますのは、内親王樣が五と六の間の御順位において皇位を繼がれた場合、ほかの男子の皇族があるわけであります、こういう場合には、男子の皇族と結婚していただくという建前をとれば、女帝の次ぎにもやはり皇胤は相續いて行く、そうして古來の大原則でありまする所の、いわゆる男系を守るという點についても支障がなく行くわけであります、女帝を男子の皇族が一人もなくなつた場合に考えるのは、これは考えないのにひとしいと、われわれは思うものであります、男子の皇族が一人もなくなつた場合には、恐らくこの典範も改正されて、その場合には當然問題なしにやはり皇室の御胤である――皇胤である所の内親王、或は女王の方が皇位に即かるるというようなことは當然豫測されるのでありますから、女帝を認めるとすれば、皇族男子が盡きてから、その後にもつて來て認めるということは、私は意義がないと考えます、そういう立場から、男女同權の今日、しかも天皇の大權なるものは大幅に變更せられまして、女であるが故に困難であるという大權上の支障はないはずだと思いまするから直系を重んずる上から、近親を重んずる上から、男女平等の民主主義の建前の上から、ぜひ女帝を私どもは認めたい、しかも女帝を認める順位は五と六の間にもつて來る、勿論傍系の女の方が立たれる場合には、男子の皇位繼承の順位に從つてそれぞれ五の次ぎにはいつて來るのは當然であると思います、かかる意味において金森國務相のお考え、さらに構想を練られる御用意ありや否やということを伺いたいと思います

○金森國務大臣 お尋ねの點は、昨日各種の角度から私どもの考えておる所を述べたのでありまするが、申し上げるまでもなく、男系ということを尊重いたしまする限り、できるだけその精神に合うようにほかのことも調節して行くものと思いまして、この見地に立つて考えますと、いやしくも皇族の中に男の方がおいでになるならば、その方にまず繼承權が行くと考えまして、女帝のことは、問題といたしましてはその次ぎに考えるのが男系主義をとつておる原則から見て妥當であらうというのが、私どもの研究の道程におきましての第一の結論であります、所が今仰せになりましたような各系統の直系を下つていつた一つの系統だけで、男系が盡きた時には、女子の方が皇位におつきになると考えまする意見も、今お示しになりましたように、直系主義とか、近親主義とかをとりますると、確かに一つ殘つて來る論點であるわけであります、けれどもさらに考えますると、男性と女性を平等にいたしまする見地を徹底いたしまするならば、さような順序を考えるのではなくて、むしろ全然同じ立場において、今日の男子の繼承の順序と同格にすることが、やはり一つの論としては立ち得るものでありまして、かように三つの考え方が起つて來ました時に、その善惡をきめますることは、これこそ本當に日本のもつておる根本の原理を探究してきめなければなりません、それを考えまする根本には、結局男系ということを尊重する根源の理由というものにつきまして、相當深く掘り下げませんければ、確實にして安全なる結論はできないのでありまして、私どもはその點をも一つの重要なる點として、問題を今後の研究に殘しておるわけであります、極くものを簡便に考えますると、そういうことはこの方がよいのだという結論は割合できるのでありますけれども、それに必要な要素がいくつかある時に、どれをまずとつて行くかということをきめかねますることは、普通の日常の直ぐに處理しなければならぬ問題でありますれば、これは割合簡單に、勇氣を奮つて解決いたしますけれども、三千年の歴史が生み出しておりまするこの根本の思想を、ほんとうに深く掘り下げて行くという問題でありまするが故に、もう少し歳月をかしていただきませんと、つまり各方面の識者の意見等をも探究し、十分掘り下げませんと、妥當なる結論ができないわけであります、そこでこの間も申し上げましたように、今まだそういう情勢に特に差し迫られておる實際上の理由はないと思いますから、從つてその點はもつと深く研究をしたい、こう申したわけでありまして、仰せになりましたような點は、もとより今後の研究の一つの大きな論點としてとり上ぐべきものと思つております

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皇位継承権の範囲について新たな制度下において女帝を認めることが禁止されているのか否かについては判断を保留させてくれ、と言っています。

91回 貴族院 本会議 6号 昭和21年12月16日

○佐々木惣一君 省略

皇室典範案とありまするが、是はもつと詳しく言へば皇室典範の改正案ではないのでありませうか、此の事をはつきりと御尋ね申上げて置きたい
ー中略ー
女子に皇位繼承の資格を認めないのは如何なる理由に因るのであるか、此の點を御尋ね申したいのであります

○國務大臣(男爵幣原喜重郎君) 省略

それから第三の點は女子に皇位繼承の御資格を認めない、理由に付ての御尋でありましたが、此の點は極めて重要な問題でありまして、幾多考慮を要する面倒な問題も含んで居ります、頗る愼重なる考慮を要する問題でありまして、事實問題と致しましては、差當り男系の男子たる皇胤が斷絶すると云ふ虞がないのであります、從つて此の際從來の原則を改めて、女子の方に皇位繼承の御資格を認めることを規定することは、尠くとも其の時機ではないと考へたのであります、

○金森國務大臣 省略

それから次に女子に皇位繼承の資格を認めざる理由如何と云ふ點に付きましての本筋は、幣原國務大臣から説明されたる通りであります、佐々木博士が仰せになりましたやうに、女子に皇位繼承を認めないと云ふことは、女子の本質に皇位繼承と結び付けて適當でない理由があるとは、實は今日は考へて居りませぬ、男子たるも、女子たるも、共に皇位繼承の資格を考へます上に於て、其の部分だけに就て見ますれば、恐らくは根本的な差別はないのではないかとも一應は考へて居ります、併し其の外の關係に於きまして、それに伴ふ關係に於きまして、尚資格を認めにくい理由があるかと云ふやうな點に付て、佐々木博士から御示になりましたのでありますが、例へば配偶者があるからと云ふやうなことも主たる點として考へることは不適當ではなからうかと云ふやうな風にも存じて居るのでありますが、一番根本の論點と致しましては、皇位繼承はどう云ふ方がなさるべきであるかと云ふ根本の考へ方の問題でありまして、固より皇位繼承に付きましては、是は法律で定まることではありまするけれども、其の根本の原理は萬世一系の世襲と云ふことに原理があらうと存じます、而も萬世一系の世襲と云ふことはどう云ふことかと言へば、若し是が具體的にがつちり定つて居りまするものならば、今日皇室典範を制定する趣旨も實は沒却されます、併し是が中が非常に重大なるものでありまするならば、萬世一系と云ふ趣旨が沒却せらるるのでありまして、私共は過去の歴史と國民の信念とを綜合致しまして、萬世一系と云ふ根本の原理を確實に把握しつつ、之に對して諸般の面から來る所の角度から適切なる若干の改正は爲し得るものと、斯う云ふ風に考へまして、本格的にはもう容易に動かぬものである、併し派生的なものに付きましては十分研究をして妥當なる結論を導かなければならないのであります、處が、其の見地に立ちまして、女子に皇位繼承の資格を認むるかどうかと云ふことになりますと、實は幾多の疑惑が起つて來るのでありまして、男系でなければならぬと云ふことはもう日本國民の確信とも言ふべきものであらうと存じます、又歴史は一つの例外をも之に設けて居りませぬ、此の點を守ると致しますると、何故に男系を尊重し女系は此の繼承の範圍に置かないかと云ふことの問題が現れて參りまして、此の問題を的確に結論を作つて行きますると、自然現實の女子たる方が皇位繼承を爲さるることが適當かどうかと云ふ論點に多くの研究問題を提供することになる譯でありまして、例へば其の見地から女子の御繼承を認めますると、それから先に男系の皇統が流れ出すべき餘地が止りまするので、其處に一つの論點が考へられます、さう致しますると、御系統の最後の順位を考へたならば宜いではないかと云ふことになりますると、其の順位の問題になりますると、最後の所に持つて行かないで、近親主義の原理を尊重致しますると、もう少し前の方にあつても宜いではなからうか、斯う云ふやうな疑惑が起り、其の繼承の順位を男女平等に置くべきものであるか、それとも或系統の末端に於て之を認むるべきものであるか、或は又全體の皇位繼承者の範圍の最後の所に置くべきものであるかと云ふやうな疑問も起つて來まするし、其の外一々申上げ兼ねまするけれども、可なり多くの問題を提供するものでありまするし、更に此の根本に於きまして、歴史に遡つて女子の皇位繼承がありました事實を精密に調べて見ますると、まあ普通には十代おありになると言はれて居ります、併し特殊なる歴史家は其の外にも二代位はあられるのであると斯う申して居ります、多少の議論が民間にはあるやうに存じます、さうしてそれ等の其の事情を能く究めて見ますると、恐らくは今日迄の歴史に於きまして、はつきりされて居なかつたやうな色々の角度が現れて參りまして、要するに一切の角度から之に誤りなき法規を設ける爲には、尚今後相當の研究を經なければならぬのでありまするし、前に幣原國務大臣から申しましたやうに、今日之を解決すべき現實の必要もないのでありまするから、問題全部を綿密なる今後の研究に殘したい、斯う云ふ趣旨から出て居る譯であります

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これは直接的には皇室典範の内容をどう決定するのかという議論ではありますが、憲法上の「世襲」の解釈の扱いにも関係する部分です。

金森大臣は「万世一系の世襲」という新旧憲法上の文言(の一部を組み合わせたもの)を持ち出して説明しており、説明の内容は皇室典範に限ったものではありません。

確かに「世襲」から「女系を排除していない」と表現することは出来ます。

しかし、そのことの意味は「女系を含んでいることを前提としている」のではなく、女系を含んだ概念として捉えてよいか否かを確定するのを躊躇したため、将来の議論にまかせるという意味において存置したに過ぎないのだろうと思われます。

「世襲」には男系男子と限定はされていないが、その趣旨は「女系が含まれるから」ではなく、現時点で確定するべきことではないため流動的な状態として残しておいたものと思われます。 

91回 貴族院 皇室典範案特別委員会 3号 昭和21年12月18日

○國務大臣(金森徳次郎君) 憲法の中の世襲と云ふ文字は、成る程萬世一系と云ふことを表す文字とは違つて居りまするけれども、斯樣な文字の中に含めました意味は、萬世一系と云ふ考であつた譯であります、從つて皇室典範を設けます場合に、更に之を繰返しますると云ふことは寧ろ必要のないことであり、國民の間に染込んで居る萬世一系の思想、此の憲法其のものの上に簡略なる文字に依つて表はされて居ると解する方が適切だと云ふ風に考へて居ります、尚萬世一系とか云ふやうな、例へた言葉を用ひますることは萬世に限らないのでありまして、何萬世、又それより大きい數になり得る譯のものでありまするから、斯樣な比喩的な文字を以て言ひ表しますることは、何となく新しき憲法の率直なる文字を用ひまする行き路にそぐはない、斯う云ふやうに考へましたので、今仰せになりましたやうな方面の考慮は之を避けたのであります

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大日本国憲法の「万世一系と」 日本国憲法の「世襲」の違いについて論じている所ですが、前者が比喩的な表現であって法規範として相応しくないために実務的な用語にしただけ、というニュアンスでしょう。

その根本において変わるところはありません。

まとめ:女性天皇・女系天皇の判断は留保されていた

議事録を通覧してみると、金森大臣は女性天皇や女系天皇について、当時の時点において憲法が認めているか否かについては留保をしていると言えます。

それは言葉の表現としては「女系を排除していない」ということになりますが、それは憲法上、確定的に「女系が含まれている」ということを意味するものではないのではないでしょうか。

時間制限がある中で研究不足の実態が明らかになったので、「現時点で答えを示すことはできないから、あいまいなまま触れないでおく」という扱いであったと言えないでしょうか?

質問者は「女系」は認めるのか?という問いかけをしているものも複数ありましたが、上記に挙げた政府側の答弁の中で「女系」と言う用語を用いたのは昭和21年12月16日の本会議のみであり、非常に慎重に言及しているということが分かります。

なお、これ以降の帝国議会では「世襲」の解釈について実質的な内容を含むやりとりが行われているものは見つかりませんでした。

ここで示した答弁と併せて以下の記事を見ると、示唆するものは大きいと思います。

憲法2条「皇位は世襲のもの」と大日本帝国憲法の「万世一系」の定義・意味とは

以上