事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

高市早苗出馬会見と虎ノ門書き起こし「処理水放出は風評被害リスクある限り決断しない」の問題

高市早苗議員が自民党総裁選出馬会見をし、ALPS処理水の海洋放出に関する発言が波紋を呼んでいます。後日虎ノ門ニュースに出演した際の発言も含めて書き起こし、関連資料からその問題点を指摘します。

結論から言うと

日本人の安心が他国民の安心に従属し、主権国家の主権者としての主体性が喪失

高市理論ではこの重大な問題が発生してしまいます。

高市早苗議員の自民党総裁出馬会見

上の動画の41分15秒くらいから、出馬表明の政策演説部分。

それから、もう一つ、福島第一原子力発電所事故によります風評被害の払拭、これを急がなければなりません。現在におきましても、東北、北関東、南関東、北信越、これまた東海地方など広域にわたって、それも水産物だけじゃないです、農林水産物に対して輸入制限措置もしくは輸入禁止措置をかけている国・地域が残っております。なんとかこれらの地域に対して制限解除の働きかけをしっかりとしていく、外交の強化を行ってまいりたいと思います。

この部分はいいでしょう。

ALPS処理水の放出については記者からの質疑に対する応答でも言及されました。

1時間24分30秒からの福島民友新聞からの2つの質疑のうち、回答は後半。

それから、処理水の放出の話でございます。これは突然発表されたときに正直私は大変驚きました。といいますのは、福島県の漁業連合会に発出された文書がTVにちらっと映りました。たまたま私は夜ニュースを見ていて、眼が悪いのでそのときなんかぼやっと高市早苗という文字が見えた気がしたのでメガネをすぐかけて見たらやっぱり高市早苗となっていたので、次の日に経済産業省に確認をしたんですが、約6年前ですか、福島県の漁業連合会に対して、皆様の納得が得られるまで如何なる処理も行いません、と書かれた文書の出し主が私になっていたんですね。そのときは経済産業大臣代理ということで当時の宮澤大臣が海外出張中でいらした、でもその日の夜には帰国をされる。海外出張中の3日間、経済産業大臣の事務的な代理を総務大臣である私が務めておりました。しかし、その文書につきましては総務省に経済産業省の職員が足を運んだという記録もございませんし、私はその文書を見ておりませんでした。代理で会った私の名前でそのような文書が発出された、つまり日本国政府が福島の漁業関係者の方に約束をした文書でございます。この約束を破るわけにはまいりません。特に勝手に書かれたとはいえ私の名前が使われていますので、私は非常に強い責任も感じておりますやはり地元の御理解が無い限り、軽々に放出するんだとじゃあいったいどういう方法で放出するのだということについてもですね、TV報道を知り得る限り、地下トンネルを掘ってということを言っていますけど、本当でしたらこれ以上の汚染水が発生しないように 直接遮水をするという方法もございますので、他の選択肢も含めてしっかり考え、さきほども申しましたように、福島県だけじゃなくて随分たくさんの県に対してまだ制限をかけている国があるという中でさらに日本全体に風評被害を広げてしまう、その可能性がありますので、そのリスクがある限り私は放出の決断は致しません。

虎ノ門ニュース9月9日放送における高市議員の発言

1時間30分20秒くらいから。有本香氏が会見中の発言で疑問に思う点として質問。

産経新聞の田北真樹子氏も疑問だとしていたものです。

福島第1原子力発電所「処理水」の海洋放出決定の手順に疑問 | 8期目の永田町から 平成29年11月~ | コラム | 高市早苗(たかいちさなえ) 更新日:2021年04月14日

上掲ブログを引き合いにして「科学的には問題ないがこれを読むとブログの後半に今回の言っている意味がわかるものがあるのでは?」と言ったところで回答に移ります。

以下は書き起こしですが、私の判断で記者会見や番組中の発言と重複しているところや本質的でない部分は省略、意味が通るように細かい部分を省いています。

高市 そうすると、今とてもご理解いただけてない状態ですよね。というのはやはり同盟国のアメリカですら今、日本の東北だけじゃないですよね、北関東、南関東、東海地方、信越地方に至るまで、それも漁業関係だけじゃなくて農林水産物、これを輸入禁止したりして制限をかけたりしている。こんな国々がたくさん残っているんですよ。その風評被害を払拭する外交が先でしょうと

有本 う~~ん

高市早苗虎ノ門ニュース

-省略-

高市 だから、本当に2年後に放出するのであれば、もう必死でですね、まず今輸入禁止措置をとっている国、まず、一番輸入全部ダメよと言っているのはアメリカですよ。同盟国ですよね。ここに対して真摯に日本人の私たちみんなおいしくいただいているわけですから、福島のものをおいしくいただいている。福島だけでなくて南関東のものもですね。牛乳だとかキノコだとかいろんな種類の食品がまだ輸入禁止または輸入制限の対象に。それも非常に幅広い国や地域でなっている。まずはその払拭をしていくための外交が必要でしょうと。じゃないと騙したことになるんです私の名前で日本国政府として。で、これを見て私は怒りました。

竹田 ちょうどオリンピックの選手村でアメリカの選手も福島産とか東北産のものを食べておいしいと言って頂いてたので、話のきっかけとしてはいい

高市 だから直接大統領にも言ってまた向こうの政府関係者にもですね、これしっかりと説明できる。通商代表部も含めて説明できる環境というのがやっとでき始めたかなと。もっとそれを早くやるべきでした。じゃないとこの発表があった後8月26日共同通信配信ですが「全国漁業連合会会長あらためて断固反対」と。要は約束を破られたと。不安払拭のために様々な申入れを官邸にしたのに官邸から回答が無いということをおっしゃっているので、やはりこういう重大なこと、場合によっては日本全国に波及しますから、この風評被害が。だからそうなると本当に日本の食品を輸入していただけない食べて頂けないという情況が起こる前にまずは外交努力と関係者の理解得る努力をして欲しい。いきなり発表するのは簡単ですけど、ただまぁ2年後からの排出ということですよね。だからその2年間にどれだけ知恵絞れるかということで今だったら今たまっているものを排出していきますということなんですが、実は毎日毎日毎日毎日出てますよね。つまり建屋の所を水が通っちゃうから汚染された水が毎日出ちゃう。毎日100万トンずつですね汚染された水が出て処理してと、これを繰り返すといつまでも海洋放出を続けなければいけない。これをやっぱり止めるためには、東京電力も可能だと言っているし、事業者も可能だと言っているんですが、建屋に直接遮水すると。これをしたら汚染された水が増えませんから。まずはそれをやってください。そうすると水が増えていきませんのでね。2年後までにタンクがいっぱいになりますという情況をまずはいったん止められますよね。そこで皆さんのご理解を得る時間をちゃんと頂けると。このまま放出してもずーっと毎年毎年10年経っても20年経っても排出を続けるんですかということになるんで。改善策、ここに知恵を絞らなきゃいけないと思ますね。もう騙すのは嫌です。日本国政府が嘘つくってのは嫌です。 

有本 高市さんが言われているのは処理水が害があるというのを言っているわけではなく、客観的な情勢として実際にまだ日本からの農産物とかを受け入れていない国が、今これ資料を見たら香港中国台湾韓国マカオアメリカっていうのがあると、こういう情勢にかんがみて理解を得られる努力をするべきだということで、福島の農産物とかそういうところが汚染されていると言っているわけではないというところはいいですよね。

ー 高市氏同意、田北氏も混じっての会話 省略 ー

有本 ちょっと今誤解が広まっていて、科学的にはこの問題は解決しているんだけどもそれを高市さんが理解していないのではというような誤解が広まっていて、そういうことではなくて、結局順序が違うでしょと、要するに福島の漁業者の方たちからの要望があった、これに対して日本国政府がこうしますと言ったことの約束を果たしていなくて、しかもそこに高市さんの名前が書かれていたと 

高市 公印つきでね。しかも。この約束を破るっていうのは絶対に日本国政府に対する国民の皆様の信頼を失いますから。それだったら死に物狂いで輸入禁止しているところ国を回ってですね、関係大臣が。これ外務大臣も含めて。回って食べて頂けるようにすると。

ー省略ー

竹田 この問題はもう敷地が限られていて、2年というのもそこで放出しないと溢れてしまうんですね。私聞いたんですよ。もし何の措置もせずに敷地いっぱいになったらどうするんですか?と。受け入れるところが無いですから、管理されないまま駄々洩れになってしまうんですね。だからもうお尻が決まっている話ギリギリに話をしていますけれども本来ならもっと早くからここがお尻なんだということでそこの穴埋めをしていかなければいけなかったんですけども、今はじめて準備してそれでようやく2年後に出せるっていうことですから、お尻が決まっている話だと言うことを理解していないひとが多いと思うんですよね…

高市 建屋に対する直接遮水をやってない。それから建屋に上から雨が降ってくる。建屋の上を覆うって工事、これも可能かというと可能だと言っている。そういうことで毎日毎日出てくる汚染水を減らすということ。この措置をやっていればね、2年でなくとも持つもんは持つんです。その間にできるだけ早く風評被害の払拭をちゃんとしなきゃ、これ全国に広がります。全国の漁業連合会の会長、多分島根県の方だと思いますが、その会長がこれだけの声明を出しているので、これ全国広がったら大変なことになりますから、最大の努力をやりましょう。これからの時間で。 

菅総理大臣のALPS処理水海洋放出の基本方針決定

海洋放出の基本方針決定

廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議

令和3年4月13日 ALPS処理水の処分等についての会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ

ALPS 処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議の設置について(案) 令和3年4月13 日 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議決定 

東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針 令和3年4月 13 日 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議

菅総理大臣のALPS処理水海洋放出の基本方針決定の関係資料は上掲リンクを参照。

なお、「関係閣僚等会議で決定された」だけであって、内閣法に根拠を持つ閣議決定がなされたわけではありません。以下の図は首相官邸HPの主な閣議決定一覧です。4月13日の分がありません。これが「主な閣議決定ではない閣議決定」などということはあり得ないでしょう。

https://archive.is/flm4p

現に、報道各所も「閣議決定」の語を使っていません

NHK トリチウムなど含む処理水 薄めて海洋放出の方針決定 政府 2021年4月13日 14時45分

果たして「日本政府は約束を破った」「嘘をついた」のか?

ALPS処理水の海洋放出に対する漁連要望書への回答書

東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等排出に関する要望書について

これが高市氏不知のまま出された高市総務大臣(経済産業大臣代理)の公印つきの漁連要望書への回答文書です。

この中で関連しているのは【要望4】の文章。

 建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、汚染水処理対策委員会に設置したトリチウム水タスクフォースの下で、専門家により、その取扱いに係る様々な技術的な選択肢、効果等を検証しています。検証結果については、まず、漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取り組みを行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません。

「要望4」は東電も後日出している回答文書で確認できる上、追加の文言があります。

東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等の排水に対する要望書
に対する回答について

4.建屋内の水は多核種除去設備等で処理した後も、発電所内のタンクにて責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない事

(回答)
・建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、国(汚染水処理対策委員会トリチウム水タスクフォース)において、その取扱いに係る様々な技術的な選択肢、及び効果等が検証されております。また、トリチウム分離技術の実証試験も実施中です。
・検証等の結果については、漁業者をはじめ、関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします。

まず、「基本方針の決定」は、「処分」ではありません。

したがって、現時点で日本国が「約束を破った」「嘘をついた」ことにはならない、ということは自明です。

その上で「こうしたプロセスや関係者の理解なしには」という部分ですが、何を持って「理解」になるんでしょう?「主観」に任せるんでしょうか?

あとからあとから「これも不安だ!払拭されてない!」と出てくるだろう。

どんなに事実を積んでも説明を尽くしても相手が「理解したくない」場合はどうするのか?(反語)そんなものが「公的な約束」にはなり得ない。

客観的な事情から「理解を得べき状況になった」ことをもって了とすべきです。

廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議では以下対策を検討しています(8月24日)

処分に「伴う」当面の対策として、風評対策をするとしています。

風評対策について議事録をみても以下を考えているのが分かります。

・処理水放出までの風評対策
・処理水放出後の風評対策
・風評被害が生じた場合の補償

「処分のための」ではなく「処分に伴う」ですからね。

同時並行的に風評対策やります、と言ってるのであって、「処分方針」は、特に障害がなければ海洋放出する、放出するのが自動的、予定的。

最終的な放出開始時期は政治判断をするということです。

「安全よりも安心」の小池都知事、「最低でも県外」の鳩山由紀夫

福島第1原子力発電所「処理水」の海洋放出決定の手順に疑問 | 8期目の永田町から 平成29年11月~ | コラム | 高市早苗(たかいちさなえ) 更新日:2021年04月14日

1回目の驚きは…。

 昨日、政府の関係閣僚会議が開催され、東京電力福島第1原子力発電所の敷地にたまった処理水を海洋放出する方針を決定したことです。

 概ね2年後から放出開始で30年程度の放出期間となりそうだということ、トリチウム濃度を国の基準の40分の1(WHOの飲料水水質ガイドラインによるトリチウム濃度の7分の1)に下げてからの放出だということも報じられていました。

 昨日中に、梶山弘志経済産業大臣が福島県を訪問し、知事に「徹底した風評対策に取り組む」旨を伝えたことも承知しています。

 しかし、現在も続いている「風評被害」を、各国との交渉によって解決する方が先ではないでしょうか。

高市議員は、海洋放出方針を決定した2021年4月13日の段階で、政府方針と異なる意見を述べていました

科学的な安全性は分かっているにもかかわらず「安心」なるものを持ち出して「安全だが安心ではない」という趣旨の発言をして事態を長引かせたという意味で、小池百合子都知事の築地市場の豊洲移転問題と類似。

政治の針を逆行させるという意味で、米軍普天間基地の辺野古移転問題について「最低でも県外」と発言した当時の鳩山由紀夫総理大臣と類似。

さらに、高市議員の発言は、もう一段悪質な要素があります。

日本国の主権者の安心を他国民の安心に従属させる主体性の喪失

虎ノ門ニュースでの発言で明確になりましたが、高市議員はALPS処理水の海洋放出の前提として「外交努力=諸外国の理解を得て風評被害を払拭=輸入制限を解除してもらうこと」を条件としています。

これがどういう意味なのか理解している人は少ない。

日本国民の安心を他国民の安心に従属させるという主権者としての主体性の喪失

こういう問題があるわけです。

諸外国での風評被害が払拭され、輸入制限措置が解除されたら「漁業者・関係者たる国民の理解」を得られるという保証はどこにあるというのでしょうか?

たとえばアメリカ人の身になって考えてみましょう。

日本の海に放出してないんだったら、なんだかんだ危険なんじゃ無いの?

放出されたら安心するから輸入制限解除でいいだろ。

こう考えるでしょう。

なぜ、諸外国の人間の主観的判断に、日本国内の問題が振り回されなければならないのでしょうか?

このままでは、靖国神社参拝問題を外交問題として捉えたり、日本国憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」による歪みを正すことができなくなるというおそれすら感ぜざるを得ません。

私は、高市議員の発言は、小池百合子や鳩山由紀夫よりも悪質だと思います。

高市議員の処理水放出の考え方に反対する意見

処理水を適切に海洋に出すことを断固、支持し、増税には反対が変わりません|青山繁晴の道すがらエッセイ/On the Road

高市候補の推薦人になる意思はまったく変わりません。
 同時に、推薦人になるからといって、すべての政策に同調するのでは、日本の民主主義に反します。
 諫言 ( かんげん ) はむしろ日本の伝統です。
 したがって、今朝早くに、高市候補にショートメッセージにて ( まだお休みでしたらいけませんから電話はしません ) 異見、異なる考えを送りました。

皇室に対する姿勢、国防問題の意識、経済政策への理解など、高市議員の見解は非常に頼もしいものがあります。(まったく問題が無いとは言っていない)

ALPS処理水に関する見解は残念ですが、これで絶望するでもなく、総理の資質が無いなどと言うつもりもないです。

しかし、この話は震災復興にとどまらず「科学が風評に負けない」世の中を作るために、批判は避けては通れません。

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