事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

トンガ火山噴火で寒冷化による米の収穫懸念予想⇒「タイ米騒動 ネズミ混入流言」と共産党と赤旗

f:id:Nathannate:20220117112109p:plain

歴史は繰り返すのだろうか?

トンガ火山噴火で寒冷化による米の収穫懸念予想

BBC Radio 4 - In Our Time, 1816, the Year Without a Summer

トンガ火山噴火で寒冷化による農作物の収穫懸念予想が為されています。

日本国内ではとりわけ「米」の収穫について、1991年(平成3年)6月ピナツボ火山の噴火の影響とされる1993年の記録的冷夏によって日本で栽培されていたイネの記録的な生育不良が起こったことが想起されています。

そして、それにより海外から米を多量に輸入するようになった中で起こった「タイ米ネズミ混入流言」や、外国産の米に対する勘違いがあった事が思い起こされています。

ここでは「タイ米騒動」と呼ばれる一連の動きの中の、「タイ米にネズミが混入」という流言について。

赤旗が「タイ米ネズミ混入流言」の起点 早川洋行論文

タイ米 ネズ ミ混 入流言 の理論構造 早 川 洋 行

2月27日、日本共産党の機関紙「赤旗」は次のように報じた。「緊急輸入した主食用のコメが、カルフォルニア米 に続いて、中国産米、タイ産米 も店頭に並び、3月か らは外国産米の本格的な販売が始まります。早くもカビやネズミなど異物の混入、異臭などが問題になり食糧庁では、回収を指示しています」この記事は、「輸入米にカビや異物これだけ(最近食糧事務所などで発見された主なもの)」という表を掲げ、 タイ米から福岡で、「ネズミの死骸、昆虫の死骸、『動物の骨、たばこの吸い殻、ビールの栓、針金、小石など」が、また大阪では、「針金、小石、クギ、たばこの吸い殻」が発見されたと伝えた。さらにその右下に配置された別の記事では、「炊いた外米黒く変色 」という見出しで、ブレンド米 を炊いたところ、黒く変色した粒があったと報じ、「近所の知人に見せると 「ネズミのふんではないか?』と一見、見間違えたほどです。色は真っ黒から黒っぽい褐色の粒も混じっていました。近所の主婦らは、「3月から輸入米が大量に出回るという矢先、大変不安です。安心しておいしく食べられるおコメがほい」と話しています」と伝えた。

現名古屋学院大学現代社会学部教授 (滋賀大学名誉教授)の早川 洋行 (HAYAKAWA HIROYUKI)が1996年に1994年の言説に関して書いた論文。

主食米」として言及していることに注目。

「タイから輸入した主食米に異物が混入されており、ネズミの死骸もあった、という報道から、タイ米全般が危険なため避けよ」という認識が拡散されていった経過を論文では最初に確認しています。

結論として早川教授は「タイ米にネズミが入っていたとの言説」を以下整理。

しかし、既に見て来たように、この言説が真実であったのかどうかはかなり怪しい。もちろん、デマであったと断定することはできないが、少なくとも以下の3点は確認 されるべきだろう。

として、以下3点を指摘。

  1. 主食用米にネズミが混入していたという事実はなかった
  2. 製粉工場の労働者が「発見」したとされるが、行政機関はこのことを確認してはいない
  3. このニュース・ソースはひとつであり、発見されたとされるネズミは1匹であった

なお、「米にネズミ」という事象は、日本国内では起こり得る話で、それとの比較でどうなのか?という言及のされ方も流言が広がった後に一定程度存在していたようだが、流言が打ち消されたのかどうかは本論文では見ていない。

最近の話だと以下のようなものが見つかる。

ネズミの侵入経路特定 横浜市教委、給食調理機から死骸 | 社会 | カナロコ by 神奈川新聞

共産党の高崎裕子議員の質疑と政府側答弁と「ネズミ混入」

早川論文では、2月28日に赤旗の報道の件に関して共産党の高崎裕子議員が参議院決算委員会で質問したものを取り上げている。

第129回国会 参議院 決算委員会 第1号 平成6年2月28日

○高崎裕子君 これは、流通過程であっても港であっても全く同じお米ということで、私たちが日常的に食べていかなければならないという点では非常に重大な問題だというふうに思うんです。流通過程とそれから港を合わせて百八十六トンで、約二百トン。二百トンといえばこれは二十万キログラムということで大変な量になるわけです。日本では全く考えられないことで、虫の薫蒸も今言ったように八千五百トンという大変な量になっているということです。
 私は、大臣にぜひお尋ねしたいのは、食糧庁が現在把握し報告を受けているものだけで、今後も同様に出てくるという可能性があるわけですが、カビなど被害粒については一応回収され、また回収の見込みということなんですけれども、そのほかに異物もかなり発見されております。これについてはチェックもされていないし回収もされていないということです。
 私、手元に持っておりますけれども、(資料を示す)これは主食用のタイ米なんですけれども、大阪のある精米工場で最初の粗選機というものから出た異物なんですけれども、紙、それからこれは明らかにタイのたばこの吸い殻、ゴキブリもあります。ひも、木片、チョーク、こういうものが出てきております。それから、これも大阪の精米工場で石抜き機から出た、これは真ん中あたりの工程なんですが、これだけの石ですよ。そして、ここに三センチ近いくぎがいっぱい入っております。針金、小石、くぎ、これが発見されているわけです。こういう大量の異物が大阪から出ている。
 それから福岡、これは博多港から出てきて、私の手元にあるんですけれども、まずこれはタイ米なんですが、カビが生えてこういうふうに固まっているもの、それから色のついた赤いお米だとかいろいろなものがまざっているものがこういうふうにあります。それからこれは、もう本当に私驚くんですけれども、これもタイのたばこの吸い殻がいっぱいあり、それからこれはケンタッキーフライドチキン、鳥の骨です。それからあと針金、小石も入っております。私ここにはとても持ってこれなかったんですけれども、実は手元に持っております。これと同じように出てきたのが、写真でお示ししますけれども、ネズミの死骸なんです。これまでが発見されているということで、大臣、こんなものまでが含まれているという点で、もう日本ではとても考えられないことなんですね。
 それで、国民はこういうのを見たら本当に許さないというふうに思うんですが、これちょっと大臣に見ていただきたいんですけれども、これを見て大臣はどのように受けとめられますか。そして、これは同じタイ産でも違いますし、どこの産地なのか、直ちにストップをする、調査をする、そしてカビも含めて対策をきちっと全般的にしていただかなければならないと思うんですけれども、この点いかがでしょうか。

早川教授は高崎議員が「主食米」について述べていること、「日本ではとても考えられない」としてタイ米にのみ生じている特別な状況であるという言及の仕方があったことを指摘。

これに対して政府側答弁では、事実関係をあっさりと認めている。

○政府委員(上野博史君)外国からの輸入米の中に、今お話がございましたような各種の異物が入っているというのはそのとおりでございまして、私どももそういうものが流通過程に乗らないように、あるいは最終の精米として製品の中には入らないように十分な注意をして対応をしているところでございます。
 ただ、どうしても考えておかざるを得ませんのは、輸入をしてまいるその生産地の外国のお米の生産の事情あるいは流通なり袋詰めをするところの状況、これがやはり我が国の国内におきますそれらの状況とは非常に違うわけでございまして、例えば金属片が入るというのも、日本の場合ですとコンバインで穂先だけ刈り取っていく、下の稲の本体のところについては立ったままで後の処理に任されるということが多いのに対しまして、タイあたりの収穫方法というのは、稲の底の方から切り取って脱穀をするというようなやり方をやっている。そういうことに伴って異物が巻き込まれて入ってくるというような状況もございます。
 それから、大体製品をつくり上げる際の規格の内容が輸出国と我が国とでは違うわけでございますので、輸入先から輸入をします際にはその輸出国の規格に沿ったものを入れるということにせざるを得ない。その辺の規格の差が入ってくるものの差になっておるということを御理解いただきたいというふうに思います。

○国務大臣(畑英次郎君) ただいま実務的な要素を踏まえた長官からのお答えをさせていただいたわけでございますが、いわゆる精米段階、流通段階等々も十二分に念頭に置きながらも、要は国民の皆様方の口に入るというようなことがあってはならない。
 我が方におきましては、食糧事務所段階でのチェック等々、そしてまた厚生省側におかれましても大変な御理解とお取り組みをいただいておるわけでございますので、さような意味合いではより連携を深めながら、こういった問題で何としても国民の皆様方の口に直接入らないようにということにさらなる努力を重ねてまいりたい、かように考えております。

しかし、そもそも粗選機・石抜き機という機械は異物を除去する機械なので、それによって異物が取り除かれた米が流通するもの。

なぜ「除去されたもの」を見て問題視するのか、よくわからない。

最終製品としての流通ルートに乗る前の段階の話を、「主食用」という言葉で「私たちの口に入る物に…」と想起させていると言える。

参考:https://www.yanmar.com/media/jp/2018/catalog/mc60a-100-200.pdf

このような論法は「カビマスク」報道と同じ手法である。

追記:農作物の現場の報告

NHK報道の拡散・読売報道で農水相「どこでそんなことが起きた」・赤旗の反論

この国会質疑がNHKで報道されたことで全国に流言が広まり、その後、毎日新聞では「加工用米」として報道され、読売新聞では「畑英次郎農水相 は1日の記者会見で『いつどこでそうした事実があったのか』と全面否定」と報道し、それを受ける形で赤旗がネズミの死骸の写真を添えて記事掲載するも、そこでは「加工用米」となっていたことを早川教授は指摘。

しかし、3月18日には食糧庁がネズミ混入について調査したが事実を確認できなかったと発表しています。

タイ米ネズミ混入流言の事実認識整理とメディア報道による農作物の風評被害

さて、本論文から伺える事実認識を再度整理すると以下のようになる。

  1. 「主食用米」にネズミが混入していたという事実はなかった
  2. 「加工用米」にネズミが混入していた可能性は完全には否定できない
  3. 報道事実が存在したとしても「ネズミ混入」事例は1件のみ
  4. 日本国内で米俵等にネズミが入ることは多々あり得る。輸入の最中に混入したとすることは難しい状況があり、混入したとしてもタイ現地や日本への途中の経路の問題ではないのではないか。粗選機で異物を取り除く工程は当然。
  5. よって「タイ米はネズミが混入されていることがあるから危険である」という流言に妥当性は無い

上野食糧庁長官が認めた事実関係はネズミ混入以外の異物混入全般の問題、ということになりそうです。もっとも、異物混入の事実については本論文は捨象している

ただ、単に異物混入があったというだけではここまで話が拡散したでしょうか?

やはりこの話は「ネズミ混入」というメッセージのインパクトの大きさが報道に影響を与えただろうと思われ、ひいては国民の認識に対しても外国産米への忌避をさせたと考えられます。

そして、ネズミ混入がタイ米にのみ生じる異常な現象なのか?といった基本的な一般事実について何ら精査せずに問題視していったメディアの姿勢が問われる話でしょう。

なお、1994年の夏には猛暑となり米の生産が回復したことから外国産米の輸入も少なくなり、米に関する類似の騒動は起こっていません。

「メディア報道による農作物の風評被害」という括りで言えば、東日本大震災・福島第一原発事故に関するものなど、定期的に発生しています。この件では大手メディアの記者らが所属を明示しながら個人名義でSNSを利用して風評被害を助長・固定化させるよう仕向けるなど、「メディアの影響力を背景にしながら「メディアによる発信」を潜脱する」手法を行っています。

フェイクニュース拡散を「ネット上の言論」に責任転嫁するメディアに注意

早川論文では興味深い論考がある。

今回の流言で第1に興味深いのは、米を求める行列の中でこの言説が語られていたという雑誌報道である。シブタニは群衆状況(milling)が流言発生を促すことを指摘しているが 、まさに行列のような不特定の人との直接的コミュニケーションの機会は、流言の発生に好都合である。現代では様々な電子的パーソナル・メディアが発達してい る。しかし、それらでのコミュニケーションは、先に指摘した言説を信じる3つの観点のうち「態度」の側面で直接コミュニ ケーションに劣っているし、現段階の普及状況では広がる範囲も限られている。今回の事件は、パーソナル ・コミュニケーションにおける、直接コミュニケーションの力の大きさをあらためて示したと言 える。

1994年はWindows95が普及する前なので、一般家庭にパソコンがありインターネットが利用されているという状況ではなかった。日本最古のHPが1992年9月30日で、電話回線を使ったパソコン通信がまだ行われていた時期。携帯電話は大型で一部のビジネスマンだけが使っており、現代で言う「スマホ」の立ち位置だったのは「ポケベル」だった。

「1対多」の発信ではなく「1対1」の発信が主流だった時代、それらの媒体を通した情報の流通は限定的と考えられていたのが分かります。

現代では「ネット上のフェイクニュースに注意しろ」と大手メディアが上から目線で講釈を垂れるが、メディア自身もネット媒体で発信し、誤報をサイレント削除したり読者の目に触れにくいところで訂正の事実を記載したり、ということは日常茶飯事

早川論文でも以下指摘がある。

マス・メディアが報道することで流言が拡大し、そのこと、あるいはそのことによって引き起こされた事件をまたマス ・メディアが取り上げるという相互作用は、近年の都市流言にはよくみられるパターンである。

仮に2022年にトンガの火山噴火(火山灰による太陽光遮蔽)による寒冷化などの影響が出た場合、注意すべきはネットの匿名の言説か、大手メディアの煽動的な記事か…

以上:はてなブックマーク・ブログ・note等でご紹介頂けると嬉しいです。