事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

統一教会の名称変更と「安倍政権下の文化庁・文科相の下村博文の関与」について

別のカルトが生まれている。

「統一教会の名称変更時期が安倍政権時だったから…」というナラティブ

「統一教会の名称変更時期が安倍政権時だったから、それは便宜供与であり、政権と深い関係にあったのだ」という陰謀論のナラティブがあります。

結論から言うとそれを否定する事実しか出てこないので既にまとめていますが、本稿では名称変更の前までの時系列から指摘できることを端的に書いていきます。

世界基督教統一心霊協会=統一教会の世界平和統一家庭連合への名称変更の時期

統一教会、略称、統一協会

統一教会の名称変更に関する時系列を端的に整理すると以下になります。

1954年:韓国で「世界基督教統一心霊協会」創立

1959年:日本統一教会創立

※「統一教会」の表記は現世界平和統一家庭連合のHPで確認できる

1997年:韓国にて「世界平和統一家庭連合」へと名称変更

※正式名称として。同名称は94年5月から使用されていたとされる。

※同時期、日本でも名称変更の動きがあったとされるが、正式な申請手続は無かった/無かったものとして扱われている模様

2010年4月14日:3男が「家庭平和協会」設立、その後、教団全体の財産の8割を有したとされる「UCI財団」の定款を自らの意思で書き換え

2012年9月3日:創始者の文鮮明死去

その後、3男の文顕進⇒家庭平和協会、7男の文亨進⇒世界統一平和聖殿(通称サンクチュアリ)、文鮮明の妻・韓鶴子⇒世界平和統一家庭連へと分派

2015年:日本の文化庁が「世界基督教統一心霊協会」から「世界平和統一家庭連合」への名称変更の認証

他の世界中の国ではこの時期までに既に名称変更されていたとの報道あり

参考:【いま一度まとめ】統一教会とは? 「なぜ世界平和統一家庭連合に名称変更?」「初代教祖死後に大転換」(吉崎エイジーニョ) - 個人 - Yahoo!ニュース

韓国側の名称に合わせる分裂後の名称変更の認証は統一教会に利益を与え、実態を隠蔽するのか?

まず、名称変更は認証制であり、正式な申請にあたって要件を具備していれば審査庁はそれを拒否することはできないようになっています。

宗教法人法

(規則の変更の認証の申請)
第二十七条 宗教法人は、前条第一項の規定による認証を受けようとするときは、認証申請書及びその変更しようとする事項を示す書類二通に左に掲げる書類を添えて、これを所轄庁に提出し、その認証を申請しなければならない。
一 規則の変更の決定について規則で定める手続を経たことを証する書類
二 規則の変更が被包括関係の設定に係る場合には、前条第二項の規定による公告をし、及び同条第三項の規定による承認を受けたことを証する書類
三 規則の変更が被包括関係の廃止に係る場合には、前条第二項の規定による公告及び同条第三項の規定による通知をしたことを証する書類
(規則の変更の認証)
第二十八条 所轄庁は、前条の規定による認証の申請を受理した場合においては、その受理の日を附記した書面でその旨を当該宗教法人に通知した後、当該申請に係る事案が左に掲げる要件を備えているかどうかを審査し、第十四条第一項の規定に準じ当該規則の変更の認証に関する決定をしなければならない
一 その変更しようとする事項がこの法律その他の法令の規定に適合していること。
二 その変更の手続が第二十六条の規定に従つてなされていること。
2 第十四条第二項から第五項までの規定は、前項の規定による認証に関する決定の場合に準用する。この場合において、同条第四項中「認証した旨を附記した規則」とあるのは、「認証した旨を附記した変更しようとする事項を示す書類」と読み替えるものとする。

したがって、本来であれば、正式に申請が受理され要件を具備しているなら、別の理由を持ち出して名称変更をストップするという行為は違法であり、法律に基づく行政の原理を潜脱する行為として非難は免れません

そのため、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が一貫して名称変更反対の申し入れを文化庁に行ってきた中で、仮に「名称変更の求め」がそれまで行われていたが弾かれていた実態があったとして、2015年に下村博文文科相の下で(決裁権者は文化部長)統一教会の名称変更が行われたことについては、行政手続の観点から言えば「本来のあるべき姿に戻った」という見方がベースになります。

もっとも、統一教会に関しては既に90年代の時点で膨大な数の消費者被害が生じ、民事訴訟も提起されていたことから特別の理由で扱いを異にすることが果たして悪いこと・違法だったのかはよくわかりません。行政組織において「不受理」が行われるのが慣例化しており、行政指導に対して相手方が任意に応じる限りでは違法の問題は生じず今となっては統一教会側がどう認識してたのか不明かつ既に名称変更後なのであまり実益がない話ではないか。そうした行政の対応それ自体を問題視することは妨げられないとも思いますが。

確かに判決文の検索でも「統一教会」で検索をかけても「家庭連合」への変更後のものはヒットしないことがあるので不便ではありますが、「世界基督教統一心霊協会」と「世界平和統一家庭連合」とで「統一」という文言はそのままであり、同一団体ではないかと疑問に思い同一性に気づくことが可能である上、当該団体自身も統一教会という表記の使用を排除しておらず、「名称変更を認めることにより実態が隠蔽される」のような懸念はほとんど無いと言えるでしょう。

また、既に統一教会の本国である韓国では97年に正式名称が「世界平和統一家庭連合」へと変更されており、日本法人側がそこに合わせることに違和感はありません。

さらに、前川喜平 氏は「実体が変わらないのに、名称を変えることはできない」と言っていましたが、創始者の文鮮明死去後に大きく3つに分派した中では(財産も多数が移転している)この考え方に照らすと2015年時点では「実体が変わっている」ので、名称変更の申請を通しても至極当然、ということになります。

むしろ、この時期になってまで名称変更を認めないことには実益が無いでしょう。

まとめ:「世界基督教統一心霊協会」から「世界平和統一家庭連合」への名称変更に何ら問題なし。法律に基づく行政との関係では…

まとめると、「世界基督教統一心霊協会」から「世界平和統一家庭連合」への名称変更に何ら問題はなく、むしろ拒むことに実益が無くなっていた、と言えるでしょう。

実際に安倍政権時に消費者契約法が改正されて統一教会が多く行っていた「霊感商法」についての被害が救済されやすいようになっていますし、同法が消費者集団訴訟を設けたりその対象が拡大してきたのも自民党政権時代で、むしろ民主党政権時代は何らの動きもありませんでしたから、「安倍政権だったから(便宜を図って)名称変更ができたのだ」というのは陰謀論に過ぎません。

他方で、前川氏の言うような内容が事実だったとすると、申請があっても無かったことにして手続を止める・遅延させるということができてしまっていたことになり、本来は法律に基づく行政との関係で論じられるべき問題が伏流していると言えます。

これは加計学園の岡山理科大学獣医学部新設の際に文科省の(違法と思われる)告示によって獣医学部の新設を禁止していた件(岩盤規制)とも通じる面があると思います。

あのときは国家戦略特区という「岩盤ドリル」がありましたが、そのルートでの審議を止めていたのも前川氏であり、怒られが発生していたということが議事録で判明しましたよね。文科省側が「石破4条件」に関する主張立証責任を果たさなかかったため、獣医学部新設が許可されました。

本来は国民代表の国会が定立した法律に基づいて行われるべき範疇の行政行為について、行政組織が勝手に設けた規律・慣習によって処理され先に進むことができないという実態が大きく存在することが前川喜平氏を通して改めて浮彫になった例でもあると言え、統一教会の件も振り返って検討されても良いのではとは思います。

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