事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ウクライナ国連大使「ソ連崩壊でロシアは安保理理事国ではないのでは?」中華人民共和国と中華民国の前例

ウクライナ国連大使

国際法上の論点が発生

ウクライナ大使「ソ連崩壊でロシアは安保理理事国ではないのでは?」

ウクライナ大使が国連で「ソ連崩壊でロシアは安保理の常任理事国ではないのでは?」と主張した事を取り上げその国際法上の問題をHayes Brown氏が解説しています。

国連憲章

第23条
 安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国、フランス、ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。

まず、国連憲章23条では国際連合の安全保障理事会にはソヴィエト社会主義共和国連邦という名前が書いてあるだけで、ロシアとは書いていません。

1991年12月8日にベラルーシ・ロシア・ウクライナが署名したベロヴェーシ合意において「国際法と地政学的現実の対象としてのソ連はもはや存在しない」と宣言されました。

その後、アルマアタ議定書により独立国家共同体=CISにロシアが参加し、エリツィンから国連事務総長に対して「ロシアがCISの支援を受けてソ連の地位を継承している。」とする手紙が送られただけで、安全保障理事会も総会も、ロシアの加盟を承認することを決議したことはない、ということが指摘されています。

ウクライナ大使は、旧ソ連の国や旧ユーゴスラビアの国と同様に、ロシアは国連への加盟を再申請しなければならなかったと主張している、という内容です。

これに対して反対論もありますが、そこはヘイズ・ブラウン氏の上掲の論稿を参照。

そこで出てくるのが"China"の扱いです。

アルバニア決議(2758号決議)によって常任理事国であることが明確になった中華人民共和国

ウクライナ大使「ソ連崩壊でロシアは安保理理事国では無いのでは?」

"China"と今は表記されますが、国連憲章の原文では"Republic of China"です。

これは「中華民国」を指し、「中華人民共和国」は"People's Republic of China"です。

1949年に共産党が乗っ取りを果たした後、中華民国が追放された政府が何十年にもわたって安全保障理事会の議席にとどまりました。

これに対してアメリカが反対していましたが、1971年に総会がアルバニア決議2758号決議)を可決し、これにより中華人民共和国="People's Republic of China"が「国連に対する「中国」="China"の唯一の正当な代表者」として認められました。

このように、ウクライナが同様の手続において安保理理事国となり、ロシアを追い出すことは、抽象的な可能性としては残っているだろう、今回のウクライナ大使はそれを狙っているのではないか、というのがヘイズ・ブラウン氏の指摘です。

今後、そのような結果が出るかはともかく、チャレンジが為されるかどうかは気になるところです。

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