日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアしているとしたWTOパネルの事実認定が、上級委員会でも維持された。他方、韓国が是正措置を取らなければ日本が対抗措置をとれるとした判断が取り消されたのは残念。今後は韓国との二国間協議を通じ、輸入禁止の撤廃を働きかけていく。
— 河野太郎 (@konotarogomame) April 12, 2019
韓国による日本産水産物等の輸入規制について、WTO上級委員会の報告書が公表され、日本が「敗訴」したと言われています。
本件についての日本の所管省庁の情報ページとWTOのリンク先をまとめます。
- WTO上級委員会の報告書原文:DS495: Korea — Import Bans, and Testing and Certification Requirements for Radionuclides
- WTOのパネル=1審の報告書
- 菅官房長官「敗訴」には当たらない
- 農林水産大臣談話ー水産庁によるWTO上級委員会報告書の受け止め
- 外務省ー河野外務大臣によるWTO上級委員会報告書の受け止め
- WTOの紛争解決の手続についての解説
- 報道機関によるWTO紛争の敗訴理由の解説
WTO上級委員会の報告書原文:DS495: Korea — Import Bans, and Testing and Certification Requirements for Radionuclides
WTO | dispute settlement - the disputes - DS495
こちらのページの下部にある"On 11 April 2019, the Appellate Body report was circulated to Members."の下に"Summary of key findings"という項目が折りたたまれているのでタブをクリックすると、上級委員会の判断の概要が分かるようになっています。
ただ、ざっと見た感じでは、正確なロジックがわかるようなものではないので、分析のためには原文を見るべきかなと思います。
このページでは本件の事案の概要から「パネル」、つまり1審の判断理由についても振り返ることができます。
"Appellate"が上級委員会を指しています。
原文は"Latest document"の"View all documents"から。
WTOのパネル=1審の報告書
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/export/attach/pdf/korea_wto-1.pdf
水産庁/韓国による日本産水産物等の輸入規制にかかるWTO紛争解決手続に関する情報について:水産庁
水産庁のページに、パネル=1審の報告書の原文が置いてあります。
菅官房長官「敗訴」には当たらない
内閣官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ
菅官房長官は「敗訴」にはあたらないという評価をしています。
農林水産大臣談話ー水産庁によるWTO上級委員会報告書の受け止め
韓国による日本産水産物等の輸入規制に関するWTO上級委員会の報告書について (農林水産大臣談話):水産庁
韓国の措置が協定に整合的であると認められたわけではありませんが、我が国の主張が認められなかったことは、復興に向けて努力されてきた被災地の皆様のことを思うと誠に遺憾です。
水産庁については、簡潔に述べている談話があるだけです。
外務省ー河野外務大臣によるWTO上級委員会報告書の受け止め
WTO紛争解決『韓国による日本産水産物等の輸入規制』上級委員会報告書の発出について(外務大臣談話) | 外務省
報告書において,上級委員会は,韓国の輸入規制措置が,WTO協定に照らし,日本産水産物等を恣意的又は不当に差別していること,必要以上に貿易制限的なものであることを認定したパネル報告書(第一審)の判断には瑕疵があるとして取り消しました。韓国の措置が協定に整合的であると認められたわけではありませんが,我が国の主張が認められなかったことは誠に遺憾です。
他方で,上級委員会は,韓国が輸入制限措置を強化した際の手続に瑕疵があったことについては,パネルの判断を支持し,WTO協定に非整合的であるとの判断をしたことは評価しています。
今回のWTOの判断の影響として、韓国が是正措置をとらなかった場合に日本が対抗措置をとることができない状況となったということが会見録では触れられています。
韓国側が任意に解除することは可能性としてあり得るので、外務省としては韓国側と協議をする方針です。実際に報告書が公表された後に韓国大使を召致して輸入禁止の撤廃を働きかけていきたい旨を伝えています。
WTOの紛争解決の手続についての解説
経産省のページがもっともよくまとまっていると思います。
基本的に上級委員会は法律審であり、事実認定を行うようなものではないということがわかります。日本で言えば最高裁のようなものですね。
ただ、完全に訴訟のような扱いではないようです。
なので、今回の上級委員会の判断が「敗訴ではない」と言われるのは、WTOの紛争解決においては訴訟のように申立の内容が認められるか否かというだけではなく、その途中にある事実認定が重要であるという面があるからだろうと思います。
河野外務大臣が「日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアしているとしたWTOパネルの事実認定が、上級委員会でも維持された。」ということを強調しているのは、日本側としては国際機関によって食品の安全性が認められることを一つの目的にしていたからだろうと思われます。
報道機関によるWTO紛争の敗訴理由の解説
水産物禁輸 なぜ日本の主張通らず|サクサク経済Q&A| NHK NEWS WEB
韓国の水産物規制容認 WTO一転「玉虫色」判決 (写真=ロイター) :日本経済新聞
今のところ、報道機関の中ではNHKの解説が一番分かりやすいのではないかと思います。
また、もっとも踏み込んでいるのは日経新聞ではないかと思います。
以上