事実を整える

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八代英輝「共産党は暴力的革命を廃止してない」ひるおび発言でTBS謝罪:敵の出方論の政府見解と共産党綱領

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八代弁護士の発言、敵の出方論の内容、政府見解、共産党の綱領・見解を比較。

ひるおび9月10日八代英輝発言にTBS謝罪コメント

TBS「発言は誤りでした」共産党めぐる八代弁護士のひるおびでの見解に - 芸能 : 日刊スポーツ

TBSは同局系情報番組「ひるおび!」(月~金曜午前10時25分)の10日放送で、レギュラーMCの八代英輝弁護士が共産党について発言した内容について、同日「発言は誤りでした」などとするコメントを発表した。

八代氏発言は「誤り」―TBS広報部が謝罪しんぶん赤旗

TBSひるおび9月10日における八代英輝弁護士の発言に対して日本共産党が抗議した結果、TBSが謝罪コメントを出しました。

八代英輝弁護士のひるおび発言の内容

 志位委員長がつい最近、『敵の出方』という言い方をやめようとは言ってましたが共産党は『暴力的な革命』というのを、党の要綱として廃止してませんから。よくそういうところと組もうという話になるな、と僕は個人的には思いますね。

「要綱」とあるのは日本共産党「綱領」の間違い。

この点について確認していきましょう。

「敵の出方論」の共産党志位和夫委員長の見解

令和3年(2021年)8月4日に行われた日本共産党創立99年記念講演会での発言。

志位和夫氏の発言書き起こしは以下。

 倍首相は現在においても「敵の出方論に立った暴力革命の方針に変更はない」と答弁しました。日本共産党は社会変革の道筋にかかわって、過去の一時期に、敵の出方論 と説明しておりましたが、その内容は、一つ、選挙で多数の支持を得て誕生した民主的政権に対して反動勢力があれこれの不法な攻勢に出た際には、国民とともに秩序維持のために必要な合法的な措置をとる。二つ、民主的な政権ができる以前に反動勢力が民主主義を暴力的な手段で破壊しようとした場合には、広範な国民世論を結集してこれを許さない、というものです。

また、その後の第3回中央委員会総会では…

記念公講演では、敵の出方論を悪用しての暴力革命の党といった日本共産党攻撃に対して、詳細な反論を加えました。日本共産党は社会変革の道筋にかかわって、過去の一時期に敵の出方論という説明をしてきましたが、その内容は、どんな場合でも平和的合法的に社会変革を進めるという日本共産党の一貫した立場を説明したものにほかなりません。この問題にかかわって、記念講演では「敵の出方」という表現だけを捉えて日本共産党が恰も平和的方針と非平和的方針の二つの方針を持っていて、相手の出方によっては非平和的方針を採るかのような捻じ曲げた悪宣伝に使われるということで、この表現は2004年の綱領改定後は使わないことにしていることを明らかにしました。「この表現は使わない」ことを中央委員会総会の決定としても明確にしておきたいと思います。

志位委員長は、敵の出方論とは、「どんな場合でも平和的合法的に社会変革を進めるという立場を示したものだ」が、「共産党の悪宣伝に使われるためこの表現は使わない」と主張しています。

「敵の出方論」とは何か?その出典と意味内容

革命が平和的か暴力的かは敵の出方による。現在の国家権力がたやすく権力を人民に譲渡するとは考えられない。
— 1964年5月21日 第八回党大会「政治報告」[4]

革命への移行が平和的となるか非平和的となるかは、結局敵の出方によることは、マルクス・レーニン主義の重要な原則である。
— 宮本顕治 『日本革命の展望』(1967年、新日本新書)

わが党は革命への移行が最後的には敵の出方にかかるという立場をとっている。
— 不破哲三『人民的議会主義』(1970年、新日本出版社)

現在の日本共産党綱領|党紹介│日本共産党中央委員会中の文言に「敵の出方論」を表していると解釈される部分がある。

民主連合政府の樹立は、国民多数の支持にもとづき、独占資本主義と対米従属の体制を代表する支配勢力の妨害や抵抗を打ち破るたたかいを通じて達成できる。対日支配の存続に固執するアメリカの支配勢力の妨害の動きも、もちろん、軽視することはできない。
 このたたかいは、政府の樹立をもって終わるものではない。引き続く前進のなかで、民主勢力の統一と国民的なたたかいを基礎に、統一戦線の政府が国の機構の全体を名実ともに掌握し、行政の諸機構が新しい国民的な諸政策の担い手となることが、重要な意義をもってくる。

共産党の綱領を全部読むと分かりますが、「統一戦線の勢力」など、実力行使が含まれているかのように映る言葉がちりばめられているのが目につきます。

他の場所では「統一戦線の政府・民主連合政府」と書かれていて、要するに現在はそれが樹立できていない、という世界観を持っています。

「発達した資本主義国での社会主義的変革」ともあり、「民主主義的革命」という言葉を使っているからと言って必ずしも我々が一般に想像する内容ではなさそうです。

確かに「暴力主義的革命」という言葉は綱領には無いし、民主主義革命=民主的変革という言葉から、この時点で「暴力主義的革命ではないのではないか?」と思ってしまいますが、甘い。非常に甘い。

綱領では「平和的革命・平和的手段」という語もまた使っていないわけですから。

「敵の出方論」安倍前総理の国会答弁と公安調査庁見解

安倍前総理の国会答弁は以下。

第201回国会 衆議院 本会議 第6号 令和2年2月13日

日本共産党が破壊活動防止法の調査対象となっている理由等についてお尋ねがありました。
 日本共産党は、昭和二十六年から二十八年ごろにかけて、団体の活動として、革命の正当性、必要性を主張し、各地の党組織や党員が殺人や騒擾などの暴力主義的破壊活動を行った疑いがあります。現在においても、いわゆる敵の出方論に立った暴力革命の方針に変更はないものと認識しており、破壊活動防止法に基づく調査の対象になっているものと承知しています。

この答弁は当然、公安調査庁の見解を踏襲しています。

公安調査庁の見解は以下

共産党が破防法に基づく調査対象団体であるとする当庁見解 | 公安調査庁

共産党は,第5回全国協議会(昭和26年〈1951年〉)で採択した「51年綱領」と「われわれは武装の準備と行動を開始しなければならない」とする「軍事方針」に基づいて武装闘争の戦術を採用し,各地で殺人事件や騒擾(騒乱)事件などを引き起こしました(注1)。
 その後,共産党は,武装闘争を唯一とする戦術を自己批判しましたが,革命の形態が平和的になるか非平和的になるかは敵の出方によるとする「いわゆる敵の出方論」を採用し,暴力革命の可能性を否定することなく(注2),現在に至っています。
 こうしたことに鑑み,当庁は,共産党を破壊活動防止法に基づく調査対象団体としています。

(注1) 共産党は,「(武装闘争は)党が分裂した時期の一方の側の行動であって,党の正規の方針として『暴力革命の方針』をとったことは一度もない」(3月24日付け「しんぶん赤旗」)などとしていますが,共産党自身が5全協を「ともかくも一本化された党の会議であった」と認めています(第7回党大会中央委員会報告,昭和33年)。
  また,不破哲三前議長と上田耕一郎元副委員長の共著「マルクス主義と現代イデオロギー」 では,当時の武装闘争について,次のように述べています。 「たんに常識はずれの『一場の悪夢』としてすまされることのできない,一国の共産党が全組織をあげ,約2年間にわたって国民にさし示した責任のある歴史的行動であった」

(注2) 共産党は,「『議会の多数を得て社会変革を進める』-これが日本共産党の一貫した方針であり,『暴力革命』など縁もゆかりもない」(3月24日付け「しんぶん赤旗」)などと主張していますが,同党が,日本社会党の「議会を通じての平和革命」路線を否定してきたことは,不破前議長の以下の論文でも明らかです。
 ○ 「『暴力革命唯一論』者の議論は,民主主義を擁護する人民の力を無視した受動的な敗北主義の議論である。しかし,反対に『平和革命』の道を唯一のものとして絶対化する『平和革命必然論』もまた,米日支配層の反動的な攻撃にたいする労働者階級と人民の警戒心を失わせる日和見主義的『楽観主義』の議論であり,解放闘争の方法を誤まらせるものなのである」(不破哲三著「日本社会党の綱領的路線の問題点」)

公安調査庁の説明では、志位委員長の主張は従前の共産党の立場通りだというのが分かります。問題は、その意味内容の解釈だということです。

なお、警察庁も同様の見解です

暴力革命の方針を堅持する日本共産党(警察庁)

日本共産党は、同党の革命路線についてコミンフォルムから批判を受け、昭和26年10月の第5回全国協議会において、「日本の解放と民主的変革を、平和の手段によって達成しうると考えるのはまちがいである」とする「51年綱領」と、「われわれは、武装の準備と行動を開始しなければならない」とする「軍事方針」を決定しました。

改定の結果、マルクス・レーニン主義特有の用語や国民が警戒心を抱きそうな表現を削除、変更するなど、「革命」色を薄めソフトイメージを強調したものとなりました。しかし、二段階革命論、統一戦線戦術といった現綱領の基本路線に変更はなく、不破議長も、改定案提案時、「綱領の基本路線は、42年間の政治的実践によって試されずみ」として、路線の正しさを強調しました。
 このことは、現綱領が討議され採択された第7回党大会から第8回党大会までの間に、党中央を代表して報告された「敵の出方」論に立つ同党の革命方針に変更がないことを示すものであり、警察としては、引き続き日本共産党の動向に重大な関心を払っています。

「民主主義革命=民主的変革」という言葉を使っているからといって、平和の手段が取られるとは限らないというのが分かります。

志位委員長は、敵の出方論について「この表現は使わない」と言っているだけで(動画見れば分かるが、この部分を強調して発言している)、その言葉の意味としては、敵の出方論の意味内容を否定しているわけではない、ということになります。

まとめ:共産党が不破前議長の発言等を全否定しなければ信用できない

結局のところ、過去に各地で殺人事件や騒擾(騒乱)事件などを引き起こしてきた組織が現在も継続しているのですから、そこの現在の委員長が主張している言葉の表面的な内容を信用するわけにはいきません。

党の綱領で明確に「平和的革命・平和的手段」と書いたり、不破前議長の発言等を全否定するなど、「表現」に限らずその「意味内容」も明確に否定してみせなければ、信用しないというのが当然でしょう。

それが社会治安の維持に必要な考え方です。

ただ、八代弁護士の発言は「共産党の綱領に暴力主義的革命という特定された一つの方針が書かれている」という認識を視聴者に与えるものだと言えるので、その限りで誤解を招くものであったと言い得るでしょう。

厳密には「敵の出方論」の内容の維持ということ。

「暴力主義的革命の方針が完全に排除されているかは明らかではない」という発言であれば、問題なかったと言えます。

追記:9月13日のひるおびで八代弁護士が謝罪「政府見解の認識だったが共産党は否定していることも併せて申し上げるべきだった」

ひるおび9月13日の放送で八代弁護士が謝罪しました。

先週の私の発言についてですが、私の認識は閣議決定された政府見解に基づくものでした。一方、日本共産党はそれを度々否定していることも併せてお伝えするべきでした。申し訳ありませんでした。TVで発言する者として今後はより正確にバランスに配慮し、言葉に責任を持っていきたいと思います。

アナウンサーが伝えたひるおび番組としての謝罪は「綱領には暴力主義的革命とは書かれていませんでした」であり、先述の通り、「綱領に暴力主義的革命という特定された方針が書かれている」という認識を読者に与えたことが問題点。

【共産党がどう思っているか?】については最初から争点ではなく、それまでも否定しているわけではありません。

ま、「当事者」が何を言おうと勝手ですが、ならば「(敵の出方論という)表現は止める」などと言わずに「敵の出方論を廃止する」と言わなければ説得力はなく、むしろ『疑惑は深まった』ですよ。

他方で、物事の本質から見た視点では以下のようになるでしょう。

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