事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

朝日新聞「ゼレンスキーが男性の出国を求める嘆願書に「故郷守ろうとしてない」と不快感」⇒原文には存在せず誤訳?誤報?

誤訳?誤報?

朝日新聞「ゼレンスキー、男性の出国求める嘆願書に故郷を守ろうとしていない」

ゼレンスキー氏、男性の出国求める請願書に「故郷守ろうとしてない」 2022年5月23日 6時08分 朝日新聞

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナからの男性の出国を認めることを求める請願書について、反対する姿勢を示した。ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」が22日、伝えた。

~省略~

さらにゼレンスキー氏は「この請願書は誰に向けたものなのか。地元を守るために命を落とした息子を持つ親たちに、この請願書を示せるのか。署名者の多くは、生まれ故郷を守ろうとしていない」と不快感を示したという。

朝日新聞が「ゼレンスキー、男性の出国求める嘆願書に「故郷を守ろうとしていない」」とタイトルにし、本文で「署名者の多くは、生まれ故郷を守ろうとしていないと不快感を示した」と報じています。

これ、本当でしょうか?SNSでは多くの人が疑問を呈しています。

「ウクライナ・プラウダが22日伝えた」と、元ソースが明示されてるので確認します。

ウクラニスカ・プラウダ「我が国の地域や街を守って犠牲になった者たちの多くは生まれ故郷を守っていたのですらなかった」

Zelenskyy: up to Ukrainian 100 soldiers killed each day in eastern Ukraine | Ukrayinska Pravda

Quote from Zelenskyy: "I don’t know whom the petition addresses. Perhaps, it addresses me. On the other hand, perhaps it should address those parents who had lost their sons, their sons who sacrificed their lives to defend an oblast or a city in our country? And you know, for the most part they weren’t even defending the cities where they were born.

まず、元の媒体は「ウクラニスカ・プラウダ」です。

ここはウクライナ語・ロシア語・英語の3つの言語で発信しており、3つの言語で同じ時間帯で記事がUPされているものがほとんどのように見受けられます。

そのため、どれが原文か、ということは特定できず、少なくとも「嘆願書」に関する記事についてはどれもイーブンの扱いで良いでしょう。

念のため、ウクライナ語とロシア語のバージョンの該当部分も引用します。

Пряма мова Зеленського: "Я не знаю, до кого має бути адресована ця петиція. Може, до мене. А можливо її варто адресувати батькам, які втратили своїх синів, котрі ціною життя захистили ту чи іншу область, те чи інше місто? І ви знаєте, що у більшості своїй не свої міста, де вони народились. 

Прямая речь Зеленского: "Я не знаю, к кому должна быть обращена эта петиция. Может быть, ко мне. А может быть, ее следует адресовать родителям, которые потеряли своих сыновей, ценой жизни защитивших ту или иную область, тот или иной город? И вы знаете, что в большинстве своем не свои города, где они родились.

これを読むと、「嘆願書の名宛人は誰なのかわからないが、おそらく私宛てなのだろう、それとも息子を亡くした両親宛てなのだろうか?」「息子たちは我が国の地域や街を守って犠牲になった」と言及した後に「彼らの多くは生まれ故郷を守っていたのですらなかった」と言っているのが分かります。

朝日新聞記事のタイトルに該当し得るのは、この部分以外にありません。

朝日新聞の誤報?誤訳?「不快感を示した」もプラウダの原文には存在せず

要するに、記事ベースで言えば、ゼレンスキー大統領の発言の趣旨は「自分の生まれ故郷ですらない我が国の街を守って犠牲になった者たちが居る」というものです。生まれ故郷ではないが、ウクライナという帰属する国家の地域・街を守るために奮闘した尊い犠牲、というニュアンスでしょう。

当然の事実です。18歳から60歳の男子が国家総動員令で動員されているウクライナにおいて、戦線となっている場所が常に彼らの生まれ故郷であるわけがないのですから。

朝日新聞のタイトルと本文のように、「男性の出国を求める嘆願書の署名を募った人物らについて『彼らは故郷を守ろうとしていない』と言った」と読むことは不可能です。

男性の出国を求める嘆願書の署名を募った者たちに対して何かメッセージを送ったと理解するならば、せいぜい、「生まれ故郷ではない場所すら守ろうとして犠牲になった者たちが居るのに、お前らは何なのだ?」という皮肉が込められている、というニュアンスが読み取れる、という程度でしょう。

さらには「不快感を示した」という文言も、プラウダの原文には存在していません

プラウダの英語アカウントも、この点は特に強調しているわけでもないし、反応している英語話者も朝日新聞のように受け止めている者は存在しません。

もっとも、プラウダは記者会見の発言を文字にしたのであり、そこでの発言やニュアンスから、「嘆願書の署名を募った者や署名をした者」への皮肉的な言及でもあるから、「不快感を示したのだ」と評価できる可能性はあります。

しかし、朝日新聞は明確にプラウダをソースにしており、記者会見でのゼレンスキーの発言を聞き取って理解したものとして扱っていません。

私も記者会見の動画を確認できていないので、ここでは誤報だとか誤訳だとかの断定ができませんが、少なくともプラウダの記事ベースで理解する限り、【朝日新聞の記事内容は、原文には無い要素が詰め込まれている】と言えます。

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