事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

旧皇族の皇籍離脱=臣籍降下はGHQの指示なのか:安倍総理「GHQの決定は変えるつもりはない」

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平成31年3月20日、国会において旧皇族の皇籍離脱に関連した質疑に際して安倍総理が「GHQの決定を変えるつもりはない」と発言しました。

この発言についての周辺情報をまとめます。

安倍総理「GHQの決定を覆すということは全く考えてはいない」

安倍総理が旧皇族の皇籍離脱=臣籍降下(この用語を使用すること自体が疑問視されているがここではこのように記述する。また、「旧皇族」は皇籍離脱当時の者とその子孫を指すものとする)に関連した質疑に際して、「GHQの決定を覆すことは考えていない」と答弁した質疑は以下になります。

第198回国会 参議院財政金融委員会 第5号 平成31年3月20日 

○大塚耕平君 国民民主党・新緑風会の大塚耕平です。
 景気動向等についてお伺いする前に、昨日来、この委員会で所得税法等改正案に関連して、皇位の安定継承という観点から、天皇家の所得税や相続税の在り方について、渡辺委員からもるる御質問があって、私も今日も午前中、それに関連した質問をさせていただきました。その観点から先にこの質問をさせていただきます。
 今日、宮内庁に来ていただいていますが、敗戦後、GHQの指示によって皇籍離脱をした宮家及び男性皇族の人数をお聞かせください。
○政府参考人(野村善史君) お答え申し上げます。
 昭和二十二年十月十四日に皇室典範の規定に基づき皇室離脱をされたのは十一宮家であり、男子は二十六方と承知しております。
○大塚耕平君 総理、代表質問でも一度お伺いしたことがあるんですが、総理は、御自身の所信の中で、あるいは予算委員会の答弁の中で何度も戦後政治の総決算ということを言っておられるんですが、GHQの指示に基づいて皇籍離脱をされた宮家や皇族がこれだけいらっしゃるということについて、これを是認するお立場でしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 是認というのは、皇籍を離脱された方々が、言わば皇籍を離脱したということについて、それを認めるかどうかということ、という御質問でございますか。
○大塚耕平君 いや、私がお伺いしたいのは、総理は戦後政治の総決算ということを何度もおっしゃって、もう六年も総理を務めておられる。大変長期間お務めになっておられることに敬意を表したいと思います。
 しかし、戦後政治の総決算というならば、せんだって私は日米地位協定の見直しについて質問をさせていただきました。米軍との関係の問題、それから、我が国にとってポツダム宣言を受諾した後に占領された北方領土の在り方、これらについてるる質問をさせていただいておりますが、総理からは、戦後政治の総決算という決意の割には、それに適合するような御答弁をいただけていないような気がいたしております。
 同様に、このGHQの指示に基づいて十一宮家と二十六人の皇族の方が皇籍離脱をしたという、これをこのままにしておいて本当に戦後政治の総決算ができるというふうにお考えですかという質問をさせていただいております。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 皇籍を離脱された方々はもう既に、これは七十年前の出来事で、七十年以上前の出来事でございますから、今は言わば民間人としての生活を営んでおられるというふうに承知をしているわけでございます。それを私自身がまたそのGHQの決定を覆すということは全く考えてはいないわけでございます。
 他方、恐らく皇位の継承との関係で御質問されているんだろうと、こう思うわけでございますが、同時に、この安定的な皇位の継承を維持することは国家の基本に係る極めて重大な問題であると考えておりまして、男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行う必要があると、このように考えております。

ここには、いくつか注意すべき点があります。

大塚耕平「GHQの指示によって」は少し違う

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昭和22年10月の皇籍離脱について

平成17年の皇室典範に関する有識者会議ページに置かれた【昭和22年10月の皇籍離脱について】 という経緯が書かれた官邸の文書があります。

これによれば、旧皇族が皇籍離脱=臣籍降下をしたのは「GHQの指令」の直接的な効果によるものではありません

終戦後まもなく旧皇族方から申出があった

昭和22年9月30日 衆議院予算委員会 加藤進宮内府次長
……皇族が皇族の列を離れるという希望を示されたのは、終戦後間もなく、皇族の中の二、三の方が示されまして、その後もたびたび示されたのであります。殊に新らしい憲法が施行になります前には、ごくお少さい方を除きましては、今回皇族の列を離脱せらるべき十一の宮家の大人の方が、ほとんど全部皇族の列を離れる希望を表明されたのであります。その希望をわれわれは一日も早く実現することが適当であると考えておりましたが、いろいろの事情から申しましてこれは実現できなかつたのであります。……

「終戦後間もなく」がどの程度の期間なのかが分かりませんが、遅くとも昭和20年の9月中と理解できるのではないでしょうか。

塚越虎男宮内府事務官
……皇族の身分を離れる関係が、どうして今日まで延び延びになつたかというお尋ねのように拝承したのでございます。……そのおもな理由といたしましては、この皇族の身分を離れる際の一時金額、こういうようなものにつきましては、第一回の国会において審議をしてきめるのが適当であるということで、皇室経済法の施行に関する法律というものの中には、日本国憲法施行後の最初の国会において、皇室経済法第六条第一項の一時金額の定額がきめられるまでは、同条の一時金額に関する規定はこれを適用しないというような規定もございます。この日本国憲法施行後の最初の国会において、これらの問題について御審議を願つた上で、この金額をきめるというようなことになつておるのであります。そのようないろいろな事情によりまして今日まで延びました次第でございます。 

第一回目の国会で皇籍離脱をする者への一時金を 決めるのがよいだろうということで、2年ほど離脱までタイムラグがあったという説明です。

皇位継承の観点から問題が無いと判断

【昭和22年10月13日の皇室会議における片山哲議長(内閣総理大臣)の説明より】
……今次戦争が終結しました直後より、皇族のうちから、終戦後の国内国外の情勢に鑑み、皇籍を離脱し、一国民として国家の再建に努めたいという御意思を表明せられる向があり、宮内省におきましても、事情やむを得ないところとして、その御意思の実現をはかることとなり、旧皇室典範その他関係法令について、必要な改訂を加え準備を致しましたが、種々の事情により実現を見るに至らなかつたのであります。そうしてこの問題は、新憲法公布後に制定せられました新皇室典範により、新憲法施行後に実現せられることとなり、これに必要な準備が整いましたので、本日皇室会議の議に付することとなつた次第であります。
皇籍離脱の御意思を有せられる皇族は、後伏見天皇より二十世乃至二十世を隔てられる方々でありまして、今上陛下よりしましては、男系を追いますと四十数世を隔てていられるのであります。これらの方々が、これまで宗室を助け、皇族として国運の興隆に寄与して参りました事績は、まことに大きいものでありましたが、戦後の国外国内の情勢就中新憲法の精神、新憲法による皇室財産の処理及びこれに関連する皇族費等諸般の事情から致しまして、この際これらの方々の皇籍離脱の御意思を実現致しますことが適当であるという状況にあると考えられるのであります。
(略)
皇位継承の御資格者としましては、現在、今上陛下に二親王、皇弟として三親王、皇甥として一親王がおわしますので、皇位継承の点で不安が存しないと信ずる次第であります。……

片山総理大臣が言うには皇籍離脱は旧皇族方からの申出という形式だったとのこと。

しかし、事実上のきっかけはGHQが作ったという評価がなされています。

GHQ覚書「皇室財産に関する件」(いわゆる「皇室財産凍結に関する指令 )と「皇族に関する件」(いわゆる皇族の財産上その他の特権廃止に関する指令 )

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昭和22年10月の皇籍離脱について

これらの指令によってGHQが皇室財産を「締め付けた」ために、現状の皇族の規模では維持できないと考えたものと思われます。

現行の皇室典範がGHQの占領下で制定されたものであり、上記のような指令が為されていたことから、背後にGHQの強い圧力があったと言われています。平成18年に寛仁親王も「皇籍離脱はGHQによる皇族弱体化のための措置であった」という見解を示しており、さらに、片山総理大臣らの証言とは異なり、皇籍離脱に強く反発した皇族も少なくなかったと言います(参考:臣籍降下 - Wikipedia

さて、ここまでの理解をベースに、安倍総理大臣の発言を正確に理解しましょう。

安倍総理大臣の答弁の意味は旧皇族の皇籍復帰の否定なのか?

再掲

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 皇籍を離脱された方々はもう既に、これは七十年前の出来事で、七十年以上前の出来事でございますから、今は言わば民間人としての生活を営んでおられるというふうに承知をしているわけでございます。それを私自身がまたそのGHQの決定を覆すということは全く考えてはいないわけでございます。

安倍総理が「GHQの決定」 をどう理解していたのか定かではありません。

直前の大塚議員の質疑では明確に「GHQの指示によって皇籍離脱」と言っていたのですが、それに対応した答弁だったのでしょうか?

でも、そうすると歴史的な事実としてはGHQの決定が直接皇籍離脱の効果を発生させたわけではないですし、平成17年の首相官邸の文書である【昭和22年10月の皇籍離脱について】 とも異なる見解であるということになります。

安倍総理としては、旧皇族は事実上GHQの指令によって皇籍離脱をせざるを得なかったという認識のもとにこのような発言をしたのでしょうか?

そうではなく、安倍総理が事実上の影響力ではなく直接の効果を意識していたならば、答弁における「GHQの決定を覆すことは考えていない」というのは、GHQの指令にあるような「皇室財産についての決定を覆すことはない」という意味となり、旧皇族の皇籍復帰そのものを否定しているわけではないということになります。

ただ、いずれであったとしても、3月20日の答弁において「旧皇族の宮家ごとの皇籍復帰」は否定していたとしても、個人レベルでの皇籍復帰まで否定しているかは定かではありません(旧皇族の中にも男系男子とそうでない方がいらっしゃる)。

まとめ

  1. GHQが皇籍離脱を直接的に指令したという文書等は残っていない
  2. しかし、事実上、GHQの指令が皇籍離脱を引き起こしたと言える
  3. 安倍総理が覆さないとした「GHQの決定」は、単に元の皇室財産についての指令なのか、それとも皇籍離脱という結果も含めたものなのかは不明
  4. いずれにしても、旧皇族の個人レベルでの皇籍復帰まで否定しているかは定かではない

少なくとも現時点で「安倍総理は旧皇族の皇籍復帰の可能性を否定している」と評価するのは拙速のような気がします。

以上 

追記:安倍総理は「11宮家全部の復帰」を考えていないだけ

【新元号】安定的な皇位継承の確保を検討 男系継承を慎重に模索(1/2ページ) - 産経ニュース

(旧11宮家の皇籍離脱は)70年以上前の出来事で、皇籍を離脱された方々は民間人として生活を営んでいる。私自身が(連合国軍総司令部=GHQの)決定を覆していくことは全く考えていない

 安倍晋三首相は、3月20日の参院財政金融委員会でこう述べた。これが首相が旧宮家の皇族復帰に否定的な見解を示したと報じられたが、首相は周囲に本意をこう漏らす。

 「それは違う。私が言ったのは『旧宮家全部の復帰はない』ということだ

 また、首相が女性宮家創設に傾いたのではないかとの見方に関しても「意味がない」と否定している。

 一時期、安倍総理が「旧宮家の皇籍復帰はない」と言ったと騒がれましたが、実際には「11宮家すべての復帰」は考えていないという意味でした。

現状、この発言よりも3月20日の「全く考えていない」という言葉が検索上位に来ていますし、多くのメディアは「旧宮家全部の復帰はない」と言ったことを無視しています。