事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

日本国憲法第一条と皇位継承:天皇の存在は「日本国民の総意に基づく」の誤解と女系天皇・女性天皇

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日本国憲法第一条に「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とありますが、女系天皇・女性天皇の議論等において誤解が拡散されています。

憲法1条「日本国民の総意」の意味

日本国憲法 第一章 天皇
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く

国民の総意」に基づくというのは、天皇の地位が何に基づくかという話です。

法理論上、大日本帝国憲法では天皇という御存在の根拠が「天壌無窮の神勅」であったのに対して、現行憲法では「日本国民の総意」に基づくという、憲法を前提とした存在であるという意味を指しています。

もちろん、歴史的事実からは、遥か昔から日本国民が存在を是認してきたということがあったのであって、明治憲法から現行憲法になったからといって天皇の存在の存立基盤が変わったということにはなりません。

ましてや、国民投票や国会の議決で全会一致しなければならない、という意味ではありません。

「国民の総意」は現在の国民に限られず、過去・将来の国民も含まれる

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日本国憲法第1条・第2条に関連する政府の説明

日本国憲法第1条・第2条に関連する政府の説明】にも同様の説明があります。

さらには、「国民の総意」は現在生きている具体的な日本国民に限られません

②昭和21年7月3日 衆議院帝国憲法改正案委員会 金森徳次郎国務大臣
《 …… 「 国民トハ現在ノ瞬間ニ於キマシテ、日本ニ生キテ居ル国民ノコトデアルノカ、サウデナシニ、ソレガモウ一ツ理念化サレマシタ国民、モツト極端ナ表現 スレバ、日本ノ民族国家形成以後ノ国民、乃至ハ今後之ヲ形成スベキ国民ト云フモノモ其ノ中ニ含マレテ居ルノカドウカ」との問に対して》第一条ニアリマスル日本国民ト申シマスルノハ、理念的ニ申シマスレバ、現在ノ瞬間ニ生キテ居ル日本国民デハナクテ、是ト同一性ヲ認識シ得ル過去及ビ将来ノ人ヲモ併セ考フル考ヘ方デアリマス

④昭和21年7月12日 衆議院帝国憲法改正案委員会 金森徳次郎国務大臣
日本国民ノ総意ト云フモノハ、統合シテ一ツニナツテ居ルモノデアリマシテ、一人々々ノ人間ニ繋ガリハ持ツテ居リマスルケレドモ、一人々々ノ人間其ノモノデハアリマセヌ、サウ云フモノガ過去、現在、未来ト云フ区別ナク、一ツノ総意ガアル訳デアルト思ツテ居リマス

この質疑の中でも、「国民の総意」と皇位継承の話は関連付けられていません。

「国民の総意」は皇位継承権を決定する根拠ではない

国民の総意は、天皇という存在を認めるかどうかについての話です。

皇位継承資格を誰に付与するのかという具体的な事項のテクニカルな話についてまで「国民の総意」で決めなければならないということではありません

「国民の総意」という言葉は日本国憲法上、憲法1条にしかない上に(上諭にもあるが憲法典そのものではない)、現在の日本国民にとどまらないのですから、そういう解釈は不可能です。

したがって、TVのコメンテーターが言うような、このような認識は間違いです。

また、「国民の総意」と国会の役割=皇位継承 (時事通信社)のように、マスメディアはそれを分かった上で「カッコ書き」で「国民の総意」という言葉をちりばめています。

「皇室典範は国会で決めるから皇位継承も国民の総意だ」という論理

日本国憲法 

第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

憲法2条に皇位継承は世襲であり、国会の議決した皇室典範で定めるとあります。

「国会は国民の代表で構成されるから皇位継承権も国民の総意」との意見があります。

しかし、するとこの意見は、国会で議決された何らかの法規範はすべて「憲法1条の国民の総意」であるという立場に立っていることになります。

少なくとも私はそんな珍説を唱えている憲法学者を知りません。

国会で議決された(皇室典範含む)法律はすべて憲法1条に言うところの国民の総意であるとします。

そうすると、たとえば以下も「国民の総意」となってしまいます。

第九十条 ー省略ー
○2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

これを受けて会計検査院法があります。

会計検査院の組織規定が過去・現在・未来も含めた「日本国民の総意」とでも言うのでしょうか?単なる一行政機関の話ですよ?そんなわけないでしょう。

まとめ:「国民の総意」が女系天皇・女性天皇論に悪用されている

マスメディアなどは皇位継承資格を持つ者が誰かを決める際には「国民の総意が大事だ」、という言い回しをする場合がありますが、これは憲法上は誤りです。

国会答弁でも「国民の理解と支持が得られるよう…」などという表現であり、これは単に「日本国民の感情に一定程度配慮する」というニュアンスでしかありません。

安定的な皇位継承のための施策について議論をしている政府内においても、「国民の総意」という言葉ではなく、「国民のコンセンサス」であるとか別の表現を用いています。

この話について憲法1条をわざわざ持ち出して、何か大層な正当性があるかのような言説を撒き散らしている者はすべて議論誘導に過ぎないので気を付けましょう。

以上