事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」の昭和天皇写真焼却と慰安婦像の展示と津田大介の言い訳

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あいちトリエンナーレ2019の展示作品の中に、昭和天皇の御影を焼却する映像と平和の少女像と題する慰安婦像として使われている像が展示されている問題について。

トリエンナーレ事務局や愛知県美術館に作品展示の基準について伺いました。

この事件の問題点を整理します。

あいちトリエンナーレの概要

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最初に大切な構造を示します。

国際現代美術展の「表現の不自由展・その後」というブースの作品

あいちトリエンナーレ2019では大別して国際現代美術展、映像プログラム、音楽プログラム、パフォーミングアーツ、ラーニング等があります。

今回問題となっている展示物は国際現代美術展の枠組みの中の「表現の不自由展・その後」というブースで出展されているものです。

この点が文化庁の助成金が出る事になっていることとの関係で重要です。

文化庁:2019年度文化資源活用事業費補助金日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業

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2019年度「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)」採択一覧では、トリエンナーレでは「国際現代美術展開催事業」に助成金が出る事になっています。

これは言うまでもなく「表現の不自由展・その後」のブース以外のためにも使われているものなので、文化庁が助成金を出すことになっていること自体を問題視することはできません。

文化庁文化資源活用推進事業募集案内では、個々の出展について文化庁が審査するようにはなっていません。それは継続して開催されている事業全般についての助成金のためですから、その点はおかしなことではありません。

※追記:助成金は採択はされましたが、その後、諸々の手続きと事業実施後に支払われる性質のものでした。関連表現を訂正します。

愛知トリエンナーレ全体を否定してはいけない

ざっと構造を見てきましたが、非難の対象は「表現の不自由展・その後」というブースの主催者・個別の展示物であり、あいちトリエンナーレ全体を止めろだとか言ってはいけないということが分かると思います。

愛知県や名古屋市からも助成金が出ることになっているようですが、これも「あいちトリエンナーレ」全体に対するものであって、作品そのものに対して出ているものではありません。

この視点に立って、本件の展示物が展示されたことの問題点を指摘していきます。

昭和天皇の写真焼却と慰安婦像の展示:津田大介は否定するも

あいちトリエンナーレでの昭和天皇の写真燃やした疑惑 芸術祭側が否定 - ライブドアニュース魚拓

なお、芸術祭側は「昭和天皇ではない」「慰安婦像ではなく平和の少女像だ」と否定しているとしていますが、作家の大浦信行の出展である「遠近を抱えて」は昭和天皇をモチーフとしているとされて憲法判例にもなった事件にもなりました。

出展作家 | 表現の不自由展・その後

タブー破り、日本最大の芸術祭で展示される“少女像”(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース

先月、ドイツのドルトムントで「日本軍性奴隷制と女性人権」をテーマに開催された「ボタリチョン」に展示された平和の少女像。今回「あいちトリエンナーレ2019」で展示される少女像と同じ形だ=キム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻提供

ドイツで既に「日本軍性奴隷制」と結び付けられて展示されていたものですから、今更「慰安婦像ではない」は通用しません。

東京都美術館では「平和の少女像」が撤去

さらに、今回展示された慰安婦像は、2012年8月に東京都美術館で開催された「第18回JAALA国際交流展-2012」に出品中だったものの、美術館が「東京都美術館 公募団体展募集要項」の「特定の政党・宗教を支持し、又はこれに反対する等、政治・宗教活動をするもの」に抵触する可能性があることから展覧会主催者側が自主規制をしたという経緯があります。

東京都美術館の検閲に対する抗議行動

表現の不自由展 - 今回、東京都美術館で展示撤去された《平和の少女像》や実物大の像(FRP)の出展作家のお二人キム・ソ... | Facebook

平成 27 年度 東京都美術館 公募団体展 募集要項

10.使用承認の取消

(1)次の事項に該当する場合は、使用承認の取消、又は使用の制限、若しくは停止すること
があります。

⑦ 特定の政党・宗教を支持し、又はこれに反対する等、政治・宗教活動をするもの

作品展示の基準はあったのか?

トリエンナーレ事務局と愛知県美術館に聞きました。

トリエンナーレ事務局の説明

  1. 作品の選考・展示は美術監督である津田大介とそのスタッフに一任
  2. 表現の不自由展の作品はその良し悪しではなく議論の提供のため、という津田監督の談
  3. 今回問題となっている作品については事前に懸念があるということを報告していた

今回のために何か作品展示の基準・撤去の基準を示した規定があるとか契約が交わされたとかは無いそうです。

津田大介の説明は、「それってあらゆる展示作品もそうだよね」という話です。

芸術作品としての良し悪し」と「社会的に許されるかという意味での良し悪し」は別物です。「良し悪しを判断してもらうために展示」という理由で社会的に許されない展示物を展示する理由として主張することはできません。

問題はそういった事前判断の審査基準が何ら存在しなかったということです。

事務局側が「懸念を示し」たとしても「禁止する基準が存在しないので」と言われて終わりになってしまいますから。

今回の展示は愛知県美術館ギャラリー(愛知芸術文化センター8階)に展示されているので、愛知県美術館についても話を伺いました。

愛知県美術館の基準

愛知県美術館の、あいちトリエンナーレとは切り離された一般的な展示基準について。

「公安衛生法規」に触れなければ展示可能、とのことでした。

今回のトリエンナーレに合わせてなにか別途の審査基準を設けたということはないそうです。

どの法規が問題になるかは個別判断なのでこの場で問題となる法規を言うことはできないということでした。まぁ、それはそうでしょう。

そこで、一般的によく問題となる愛知県青少年保護育成条例を見てみます。

愛知県青少年保護育成条例の「有害図書」指定基準

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愛知県青少年保護育成条例6,7条の有害図書類に関する規制

  1. ①著しく性的感情を刺激するもの
  2. ②残虐性を有するもの
  3. ③自殺又は犯罪を誘発するおそれのあるもの

以上が個別指定の対象。包括指定は性行等に限定しています。

今回の問題の展示物は、これらにはあたらないので、愛知県美術館としては何ら問題がないものとして扱っているのでしょう。

その点は、規定がそうなっている以上、仕方がありません。

公の施設を利用し、助成金が出ている事業には別途の基準が必要では?

以上、今回の展示の審査基準は、一般的な法規に照らせば違法ではないということになります。

しかし、公の施設を利用し、助成金が出ている事業については、別途の基準を設けて、それに該当しないか否かの審査が必要なのではないでしょうか?

そういう意味で、あいちトリエンナーレの事務局(愛知県の職員側)の行動には、不適切な点があったと言えるでしょう。

天皇コラージュ事件と地方自治法の正当な理由

なお、有名な天皇コラージュ事件というものがあります。

大浦信行の作品は、まさに天皇コラージュ事件で問題視されたものです。

富山県美術館に昭和天皇のプライバシーを侵害するコラージュ作品が展示され、反対運動が起こった結果、美術館が本件作品を他に譲渡し、図録を焼却することを決定したことが表現の自由、鑑賞する権利、知る権利等の侵害だとして市民から提訴された事件です。

美術館側は地方自治法244条2項の「正当な理由」に基づいた行為であり違法性はないと主張しました。

富山地裁では無効確認・義務づけ訴訟は却下されましたが、美術館側に対する損害賠償のみは認められました。しかし、名古屋高裁ではそれも棄却されました。

名古屋高裁 金沢支部 平成12年2月16日 平成11年(ネ)第17号  

そこで、県教育委員会による本件作品の特別観覧許可申請の不許可、県立美術館及ひ県教育委員会による本件図録の閲覧の拒否について、地方自治法二四四条二項の「正当な理由」が認められるか否かについて検討するに、県立美術館としては、購入・収蔵している美術品や自ら作成した美術品の図録については、前記特別観覧に係る条例等の規定を「知る権利」を具体化する趣旨の規定と解するか否かにかかわらず、観覧あるいは閲覧を希望する者にできるだけ公開して住民への便宜(サービス)を図るよう努めなければならないことは当然であるが、同時に美術館という施設の特質からして、利用者が美術作品を鑑賞するにふさわしい平穏で静寂な館内環境を提供・保持することや、美術作品自体を良な状態に保持すること(破損・汚損の防止を含む。)もその管理者に対して強く要請されるところである。これらの観点からすると、県立美術館の管理運営上の支障を生じる蓋然性が客観的に認められる場合には、管理者において、右の美術品の特別観覧許可申請を不許可とし、あるには図録の閲覧を許否しても、公の施設の利用の制限についての地方自治法二四四条二項の「正当な理由」があるものとして許される(違法性はない)というべきである(この点について、原判決が示した「美術館が管理運営上の障害を理由として作品及び図録を非公開とすることができるのは、利用者の知る権利を保障する重要性よりも、美術館で作品及び図録が公開されることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避、防止することの必要性が優越する場合であり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、客観的な事実に照らして、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である」との基準は、憲法二一条が保障する「集会の自由」を制約するおそれのある事案については相当であるが、本件のような美術品及びその図録の観覧あるいは閲覧に関する事案については厳格に過ぎて相当でないというべきである)。

今回の事件も、「県立美術館の管理運営上の支障を生じる蓋然性が客観的に認められる場合」には、県側が「正当な理由」に基づくとして撤去をしても、違法性はないということになります(※追記:今回は地方自治法244条の話にならない可能性もある。)

しかし、天皇コラージュ事件では「県立美術館等に対し、執ような抗議、抗議文の送付、県立美術館館長等との面談の要求、本件作品等の廃棄や県立美術館長の辞任等を求める右翼団体による街宣活動、富山県立図書館における本件図録の破棄事件、県知事に対する暴行未遂事件などが相次いで発生しており、さらに、公開派による本件非公開措置に対する抗議行動があった」という事実がありました。

暴力的な行為まで発生して欲しくはありません。

天皇コラージュ事件は補助金が出ていなかったという点は本件との違いでしょう。

まとめ

  1. 当該展示は現時点では何らかの基準に抵触しているわけではない
  2. 展示をやめさせるには「美術館の管理運営上の支障を生じる蓋然性が客観的に認められる」状況を作るか、「自主的に」撤去してもらう方法がある
  3. いずれにしても、公の施設を利用し、助成金が出る事業であるのに、あらかじめ基準を決めていなかったことは問題

いくら表現の自由だからといって、今回のような展示物は侮蔑的であり、芸術として認められてはいけないでしょう。

以上