警察手帳を持っていた「籠池」
- 週刊文春「木原事件」の構造
- 佐藤誠元刑事記者会見「事件性の根拠は勘」
- 「自殺の証拠は無いから他殺だ」について
- 木原誠二氏の妻X子=木原郁子の犯行の可能性
- 再捜査時に木原誠二議員が捜査を妨害した疑惑は?
- 元刑事は地方公務員法上の秘密漏示罪にはあたるのか?
週刊文春「木原事件」の構造
7月28日、週刊文春で「木原事件」と書かれている事件について、取調べを担当した佐藤誠元警部補の記者会見が行われました。
その価値、意味について触れます。
- 自民党の木原誠二(現・内閣官房副長官)議員の妻の当時の夫である安田種雄氏が2006年に不審死した事件の犯人が木原氏の妻(等)である疑惑
- 2018年に再捜査が開始された際に木原誠二氏が捜査を妨害した疑惑
文藝春秋社の週刊文春で書かれている「木原事件」の構造は大きくこういうものです。
が、7月13日の国家公安委員会委員長記者会見では、そもそも「証拠上事件性が認められない」とされていました。
佐藤元刑事の会見ではこれらの点はどう話されたのか?
佐藤誠元刑事記者会見「事件性の根拠は勘」
文春がセットした佐藤誠(元警部補)の記者会見
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2023年7月28日
記者「事件性があると考えた根拠は?」
佐藤『勘』
記者「捜査本部の他の人間はどう考えてたのか?」
佐藤『分からない。何も言ってない。心の内で見立てはしてただろう』
これだけで全く価値の無い会見だったと言えますね。お疲れ様でした。
会見の後半で佐藤章氏の質問に対して元刑事は「事件性の根拠は勘」「捜査本部の他の人間がどう考えていたかは打ち明けていないのでわからない」旨を回答していました。
そもそもこの事件は2006年に発生した不審死事件で、2018年に再捜査が開始されたものです。元刑事は、12年後の2018年に取調官として実働10日間程度担当していただけであり、事件当時の現場を見た者ではありません。
なので、「事件直後の現場を見た刑事の勘」などというものは存在しません。
それから、「事件性」については一般論として以下のように整理できます。
・本人による事故死
・自殺(自殺手段が他の犯罪行為になる場合も含む。別個の事件として扱われる)~事件性なし~
~事件性あり~・無理心中(他者を巻き込んでの自殺・殺人罪)
・自殺の教唆幇助(殺人罪)
・他殺(殺人罪)
「自殺じゃないから事件性がある」というのは、事故死の可能性や自殺の教唆幇助の可能性が排除された場合に出て来ることになります。
なお、問題の事件は「喉元からナイフが刺さり肺近くにまで達し、死因は失血死」というものでした。
「自殺の証拠は無いから他殺だ」について
- 自殺の証拠が無い
- から他殺だ
元刑事は警察庁長官の以下会見を見て怒りを覚えたから会見したと言っていました。
令和5年 国家公安委員会委員長記者会見要旨|国家公安委員会Webサイト
問 長官に伺います。一部週刊誌が、内閣官房副長官の木原衆院議員の親族にかかわる事案について、警視庁による捜査の公正に疑問を投げかける記事を掲載していますが、ご所見を伺います。
答 (長官)お尋ねの事案につきましては、法と証拠に基づいて適正に捜査、調査が行われたということを警視庁が明らかにしております。従って、捜査等が公正でなかったという指摘は当たらないと承知をしております。
この事案は、警視庁において、捜査等の結果、証拠上事件性が認められない旨を明らかにしておりますので、人権上の理由から、事案の詳細についてお答えをすることは差し控えたいと思います。
元刑事は「自殺の証拠品は存在しない」と発言していましたが、同時に「長官が嘘をついているとは思わない」とも言っていました。
警察庁長官の発言を見ると「証拠上事件性が認められない」が正しい内容です。
※発言要旨なので実際の発言文言から表現が修正されている場合がある
「証拠上」というのは、「ある事実を伺わせる証拠が存在しない」や「この証拠からある事実が無いことが伺える」という判断も含むものでしょう。論理上、その事実をダイレクトに表すブツが存在しない場合もあることになります。
元刑事の発言中でも「遺体に痣が無い」といった事実が語られていました。争った跡が無いということが示唆されます(衣服が破れていたなどの事情も話されていない)。
これがまさに「自殺ではないことが伺える証拠」であると言えます。
※これだけで決定打であるという意味ではない。
次に、「自殺が疑われる事情がないから他殺だ」と「他殺が疑われる事情が無いから(事故死の可能性なども排除した上で)自殺だ」は、考え方、事実に対するデフォルトの重みづけが逆なのが分かります。
捜査機関が事件性を認定する場合は後者の思考をします。捜査資源は有限だからです。他殺事件となれば捜査範囲・必要な人員が長期的に大量になるからです。
元刑事の会見上の発言で「他殺が疑われる事情」について列挙するなど、具体的根拠が示されたことはありませんでした。記者がこの点を聞いても「(証拠を集めるのに)時間が足りなかった」と言っていました。
仮に事件性を肯定するとして、誰が犯人かについて元刑事は何を語ったでしょうか?
木原誠二氏の妻X子=木原郁子の犯行の可能性
- 木原誠二(現・内閣官房副長官)氏の妻の当時の夫である安田種雄氏が2006年に不審死した事件の犯人が木原氏の妻(等)である疑惑
- 2018年に再捜査が開始された際に木原誠二氏が捜査を妨害した疑惑
元刑事は「女では無理」と発言していました。
よって、文春の記事で「X子」と表記されていた木原誠二氏の妻・木原郁子氏は、元刑事の見立てでは犯人ではないということになります。
文春の記事はこれまで木原氏の妻が犯人であるかのような匂わせをしていたようなので、逆に元刑事の発言によって否定されたことになります。
もっとも、文春記事でも会見でも「Z」という新たな登場人物を出してきています。
が、これも「木原」とは無関係の人物であり、「木原事件」というのは印象操作になっています。
再捜査時に木原誠二議員が捜査を妨害した疑惑は?
再捜査時に木原誠二氏が捜査を妨害した疑惑については、元刑事はそれを肯定できる事情について何も言っていません。
逆に自民党の二階幹事長が木原氏に「捜査に協力しろ」と言って捜査がスムーズになった話が文春の最新記事に書かれており、元刑事もこの事情を否定していませんでした。
しかも、X子さんのDNA取得のため身体検査令状を取って訪問(30分遅刻したので木原誠二氏が『時間くらい守れ。お前なんか飛ばせるぞ』と言ったとある)している上に、議員宿舎等を2019年5月まで定期的に監視していたことが文春記事では書かれています。
これで「権力を使って捜査妨害していた」とは言えないでしょう。
元刑事は地方公務員法上の秘密漏示罪にはあたるのか?
地方公務員法上の秘密保持義務に違反して漏示した場合、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられます。
(秘密を守る義務)
第三十四条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
佐藤元刑事の会見での発言は、事件の本筋ではないところで「新事実」はあったかもしれませんが、どうでもいい話です。仮にそういうものがあったとしても特に秘密と認定すべき内容があるとは思えませんでした。
基本的に2018年の捜査時に自身が感じた事件の見立て・予想を語っているだけであり、根拠と言える新たな事実関係を話すものではありませんでした。
…いったい何のために記者会見をしたのか謎で仕方がありません。
本事件については謎が多いとは言えますが、少なくとも今回の記者会見は何ら「他殺」説を肯定する事情が示されるものではなかったということになります。
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