韓国の朝鮮人戦時労働者(徴用工)らが韓国政府を相手に提訴する予定のようです。
これが本来の筋であり、韓国政府がどう対応するのか、裁判所の判断はどうなるのかが見ものです。
徴用工問題についておさらいをし、韓国視点では何が問題になるのかを整理します。
- 個人請求権は残存しているが日本側の義務は消滅した
- 弁護士らは「徴用工」への任意補償へ一般人を誘導
- 日本は個別賠償の方針だったが韓国政府が韓国民に一括補償する予定だった
- 日本共産党が「徴用工」の未払賃金を流用という指摘
- 韓国政府に対する集団訴訟は時効・除斥期間にかかる?
- 韓国政府に対する訴訟の除斥期間の起算点はいつごろか?
- まとめ:朝鮮人戦時労働者の集団訴訟はどうなるか
個人請求権は残存しているが日本側の義務は消滅した
上図が日韓請求権協定にまつわる朝鮮人の権利について表したものです。
個人の請求権が残存しているが、日韓請求権協定によって日本側が請求に応じるべき法律上の義務が消滅した結果、救済は拒否される。
これが朝鮮人戦時労働者の日本側(日本国・日本企業・日本人個人)に対する訴訟の扱いの説明になります。河野大臣のHPでの説明とその解説は以下になります。
弁護士らは「徴用工」への任意補償へ一般人を誘導
これに対して日本の弁護士有志らが「日本企業は任意に補償に応じるべき」という点を強調していますが、それは禁止されていないというだけで、何らの法的要請はありません。
また、彼らは日本とソ連や日本とチャイナとの協定の話を持ち出して、それをパラレルに論じることで日韓請求権協定の文言解釈の次元に話を矮小化し、朝鮮人戦時労働者の権利の救済可能性を主張して国際司法裁判所=ICJで提訴しても日本は負けるなどと嘯いています。
しかし、日本と韓国との協定はまさに二国間の話であって、他国の協定と文言が一致ないし類似していることから、直ちに同様の効果が法的解釈として確定されるわけではありません。
この話は、日本と韓国がどのような交渉をしてきたのかという「事実」が重要であって、専ら文言解釈の話にすることは法匪です。
ここまで論じてきたことは以下で詳細に指摘しています。
日本は個別賠償の方針だったが韓国政府が韓国民に一括補償する予定だった
日本と韓国の当時の交渉経過は文書として残っています。
具体的な請求権の中身についても細かく分類して検討していました。
そこでは日本は個別賠償の方針だったが韓国政府が韓国民に一括補償する予定でした。
韓国側も、盧武鉉政権時代に請求権を持つ個人に対する補償義務は「韓国政府が負う」と韓国外務省が明言していました。
2005年1月と8月に交渉文書を公開したということです。
今回、韓国の戦時労働者が韓国政府に請求したのは、この件を知ったからではないでしょうか?
日本共産党が「徴用工」の未払賃金を流用という指摘
なんと虎ノ門ニュースでの私の発言がニュースになってる!日本共産党は韓国の労働者(の遺族)に賠償せよ。 https://t.co/ZinC26n6NB
— 上念 司 (@smith796000) December 1, 2018
金 賛汀 朝鮮総連 (新潮新書)
「最大の財源になったのは帰還していく強制労働者の未払い賃金等であった。1946年末までに朝連中央労働部長名で強制連行者を雇用していた日本の各企業に未払い賃金の請求が出された。
その請求額は4366万円に達し、朝連はかなりの金額を企業から徴収し、それらのほとんどは強制連行者の手には渡らず朝連の活動資金に廻された」「これらの豊富な資金は日本共産党再建資金としても使用された。」
なんと、元朝鮮総聯の金賛汀によれば、日本共産党が、本来は韓国の戦時労働者に支払われるはずの金銭を流用していたと言うのです。
日韓請求権協定が締結されるのは1965年ですから、それよりも前の話です。
ですから、これは日本政府が韓国政府に支払った3億ドルとは別個のものです。
これが本当だとすれば、日本共産党の姿勢に疑問を持たざるを得ません。
韓国政府に対する集団訴訟は時効・除斥期間にかかる?
竹田恒泰氏が、朝鮮人戦時労働者の日本企業に対する請求権は時効や除斥期間の経過によって消滅している旨の説明をしています。
時効や除斥期間の経過は権利の存在が一応は認められた上で、それでも消滅したかの話です。
なので、「請求権が救済されない性質のものである」という結論が論理的に先に来るので、日本視点からは言及されることがありませんでした。
しかし、韓国政府に対する訴訟では、まさにこの点が問題になり得ます。
韓国における日本企業(新日鉄や三菱重工)に対する朝鮮人戦時労働者からの訴訟においては、日本企業側は時効・除斥期間の主張をしました。
しかし、裁判所は時効については「権利濫用」だとして消滅時効の抗弁を排斥しました。
そして、除斥期間については「まったくの無視」を決め込みました。
さて、韓国人からの請求に対しても、裁判所はこのような態度に出るのでしょうか?
韓国政府が消滅時効の抗弁を主張することが権利濫用ではないとしても、除斥期間の経過については関係がないハズです。
韓国民法766条では除斥期間は10年とされているので、その効果が発生しているのかが問題でしょう。
韓国政府に対する訴訟の除斥期間の起算点はいつごろか?
さて、除斥期間の経過によって権利消滅するとされる時期はいつでしょうか?
除斥期間は権利発生時から進行するので、現時点では10年の除斥期間は経過しています。ただ、日本の判例を例に挙げると、20年を経過していても特殊事情によって権利消滅の効果を認めなかったものがあるため、そのような考え方を取る可能性があります。
韓国国内法の話なので除斥期間の判例の扱いがどうなってるのかは分かりませんが、一応考えてみます。
- 終戦時(1945年)から一定の期間
- 日韓請求権協定時(1965年)から一定の期間
- 盧武鉉政権による文書公開時(2005年)から一定の期間
ざっと見てこれらの時点が効果発生の時点と考えられますが、流石に2018年の現時点では除斥期間経過による権利消滅の効果は発生していると考えるのが通常でしょう。
したがって、少なくとも除斥期間の経過によって、朝鮮人戦時労働者による韓国政府に対する賠償請求訴訟は棄却されるのではないでしょうか?
ただ、そこは韓国なので、どんな結論が出るのかは未だ未知数、と考えておくとした方がいい気がします。
なお、韓国人による「戦前の日本企業に対する」不法行為に基づく損害賠償の提訴期間については、2018年10月30日の大法院判決(新日鉄に対する判決)を起点に最長3年まで認めるという判断が三菱重工に対する判決において下されました。
ただ、「韓国政府に対する」訴訟においてはどう扱われるのかわかりません。
まとめ:朝鮮人戦時労働者の集団訴訟はどうなるか
- 韓国政府が韓国民に補償するのが本来の筋
- 韓国民から韓国政府に対する訴訟は除斥期間の経過によって棄却する可能性
- 戦前の日本企業に対する不法行為に基づく損害賠償請求の提訴期間が2018年10月30日を起点に3年まで認めるとされたのと同様に韓国政府に対する訴訟も扱う可能性
韓国政府に対する訴訟の顛末がどうなるかは、はっきり言ってどーでもいいです。
問題は、今後は韓国政府ないし裁判所が日韓請求権協定との整合性を取るのかどうか?という点に尽きます。
日本国内の韓国シンパがどう発狂するのかも見ものでしょうね。
以上