ロイターなどによって「新型コロナ空中で数時間生存」に関する記事がネットでシェアされてますが、この論文については既に解説しているので改めて紹介します。
- 「新型コロナ空中で数時間生存」記事の論文ソース
- 3月9日にエアロゾル伝播と間接接触伝播について書いた論文が17日にNEJMに掲載
- 「エアロゾル伝播」と「空気感染」は別、実験環境は特殊
- 論文では「米研究所が警告」してない
- まとめ:古いネタで騒ぐメディア
「新型コロナ空中で数時間生存」記事の論文ソース
という記事がなぜか今日(3月18日)になってトレンド入りしていますが、元となっている論文は以下で紹介したものです。
新型コロナ「エアロゾル」で3時間生存 米研究グループが発表 | NHKニュース
NHKではより詳細に書かれていて、どうやらmedRxiv(プレプリントサーバー)に掲載されていた論文が、NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)にも掲載されたようです。
3月9日にエアロゾル伝播と間接接触伝播について書いた論文が17日にNEJMに掲載
Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1 | medRxiv
Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1 NEJM
当該論文は新型コロナウイルス=SARS-Cov-2の親戚であるSARS=SARS-Cov-1との比較をしています。
Our results indicate that aerosol and fomite transmission of HCoV-19 are plausible, as the virus can remain viable and infectious in aerosols for multiple hours and on surfaces up to days.
我々の研究結果は、HCoV-19のエアロゾルおよび媒介物による伝播が確からしいことを示しています。すなわち、ウイルスはエアロゾル中で数時間、表面上で最大数日後まで生存し、感染性を保持できます。
この後に"This echoes the experience with SARS-CoV-1,"、つまり、この現象はSARSと似ていると言っているわけです。新型コロナに特異な現象ではないとしています。
また、「新型コロナウイルスは…銅(製物質)の表面では4時間、段ボール上では24時間、プラスチックやステンレス・スチールの上では2、3日の間、同ウイルスは生存していた」
ということが書いてあります。ロイターの記事で言ってる論文がこの論文であるということはここから分かるわけです。
「エアロゾル伝播」と「空気感染」は別、実験環境は特殊
論文本文ではなくAppendixの記述ですが、「ジェットコリジョンネブライザーを使い、ゴールドバーグのドラムに入れてエアロゾル化環境を作出した」と書いてあります。
公衆衛生学修士の坂本史衣氏が実験用のドラムの図を提示しつつ以下解説しています。
参考までに↓はインフルエンザウイルスのエアロゾル実験に関する文献に掲載された回転ドラム。 pic.twitter.com/VwAE2qpo8l
— Fumie Sakamoto,MPH,CIC 坂本史衣 (@SakamotoFumie) 2020年3月14日
一定の温度と湿度に保たれ、空気の入れ替えや移動のないドラムの中における感染力価を測定したようです。病室内で行われるエアロゾル産生量が多い医療処置の際の感染対策に使えそうな情報ですが、これをもとに日常生活でCOVID-19に空気感染すると結論付けるのは無理があります。
— Fumie Sakamoto,MPH,CIC 坂本史衣 (@SakamotoFumie) 2020年3月14日
「空中」という単語で「空気感染」を想起する人が多いのですが、メディアもそれを狙って騒がれるタイトルをつけているだけです。
エアロゾルと飛沫・飛沫核の違い、日本における用語法の混迷については以下でまとめています。
論文では「米研究所が警告」してない
ロイターの記事では「米研究所が警告」と煽ってますが、元論文では特に注意すべきということは書いてません。プレーンな実験結果を述べているだけです。
まとめ:古いネタで騒ぐメディア
メディアの常套手段というか、古今東西を問わず、古いネタで騒いでニュース性を偽装するということが行われているんだなということを再確認しただけですね。
NEJMに掲載されたということで、実験の内容としては正当なものとして認められたということになりますが、その評価は坂本医師の指摘している通りだろうと思います。
なお、NEJMには以下のように、当該論文の結論等はCDCオフィシャルとしてではなく研究者らのものであると注意書きがしてあります。
The findings and conclusions in this letter are those of the authors and do not necessarily represent the official position of the Centers for Disease Control and Prevention (CDC).
以上