「新型コロナ専門家会議が議事録を作成せず」という報道がありましたが、議事概要は作成されていることに注意です。
- 「新型コロナ専門家会議が議事録を作成せず」報道
- 議事録と議事要旨と議事概要の違い
- 新型コロナウイルス感染症対策本部会議の議事概要
- 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の議事概要
- 歴史的緊急事態下における行政文書の管理に関するガイドライン
- 専門家に正しく議論させるため
「新型コロナ専門家会議が議事録を作成せず」報道
新型コロナウイルス感染症の対策を検討してきた専門家会議の議事録を政府が作成していないことが28日、分かった。「歴史的緊急事態」に指定された新型コロナ対策の検証の妨げになる可能性がある。
「新型コロナ専門家会議が議事録を作成せず」報道は共同通信が行ったものが拡散されていますが、第一報は上記のように単に「議事録作成せず」のみでした。
第二報は少し詳しく書いています。
コロナ専門家会議、議事録作らず 歴史的事態検証の妨げに | 共同通信
新型コロナウイルス対策を検討してきた政府専門家会議の議事録を政府が作成していないことが28日、分かった。共同通信の情報公開請求に、事務局の内閣官房が回答した。議事の概要と資料は公表されているが、各出席者の詳細な発言は記されず、対策検証の妨げになる可能性がある。
政府は3月、新型コロナ問題を「歴史的緊急事態」に指定し、将来の教訓として公文書の管理を徹底することを決定。安倍晋三首相は「適切に、検証可能なように文書を作成、保存していると認識している。今後さらなる徹底を指示する」と強調した。消極的な政府の開示姿勢に、専門家会議の委員からも疑問の声が出ている。
「議事の概要と資料は公表されている」が追加されています。
第一報だけを見て反応している人と、「詳細版も作るべき」という趣旨で発言している人に分かれているのに注意です。
そして、いずれの記事でも「政府は将来的にも作成するつもりはないと考えている」とまでは読み取ることはできません。
議事録と議事要旨と議事概要の違い
「会議の内容を記録した文書」としては「議事録」と「議事要旨」と「議事概要」などと呼ばれるものがあります。それぞれ異なるものとして扱われているものもあれば、実質的な違いが無い場合もあります。
特に民間企業における「議事録」と呼ばれるものは、発言者の記載なく、決定事項のみを記載している所が多いです。
新型コロナウイルス感染症対策本部会議の議事概要
新型コロナウイルス感染症対策本部のページを見ると「議事概要」という名称でリンクが貼られているのが分かります。
中身を具体的に見ていくと以下の性質が指摘できます。
- 発言者名を明示
- 発言が要約されている
- 発言が時系列に沿って記述されているのではない
また、政府内の文書で例えば経済財政諮問会議 - 内閣府のものだと議事要旨と議事録が公開されるようになっています。
あくまで経済財政諮問会議のHPにおける話として、議事要旨は
- 発言者名を明示
- 発言が時系列に沿って記述されている(議事の進行状況が分かる)
- 発言内容に本質部分の漏れはなく、文語体に統一されている
このような性質があると言えます。
同じ会議の議事録は以下です。
議事録は以下のように言えます。
- 発言者名を明示
- 発言が時系列に沿って記述されている(議事の進行状況が分かる)
- 発言内容は個性が残るようになっているが、「あー」「えー」などの間投詞までも記述するものではない
もっとも、文書を作成する組織や会議によってはこれらの内容に若干のバリエーションがあるようです。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の議事概要
では、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の「議事概要」はどうか?
新型コロナウイルス感染症対策本部の同じページに専門家会議の資料もあります。
こちらも「議事要旨」となっており、対策本部と同じ表記ですが内容が異なります。
- 発言者が明示されていない
- 発言内容が箇条書きでまとめられている
歴史的緊急事態下における行政文書の管理に関するガイドライン
【行政文書の管理に関するガイドライン】に文書作成の考え方が示されています。
新型コロナウイルス事案は「歴史的緊急事態」に指定されているのですが、専門家会議は「政策の決定又は了解をする会議等」ではないため(内閣官房に確認済み)、発言者を特定できる議事録の作成はガイドライン上も要求されていません。
<歴史的緊急事態に対応する会議等における記録の作成の確保>
○ 国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項であって、社会的な影響が大きく政府全体として対応し、その教訓が将来に生かされるようなもののうち、国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態(以下「歴史的緊急事態」という。)に政府全体として対応する会議その他の会合(第3及び第8の留意事項において「会議等」という。)については、将来の教訓として極めて重要であり、以下のとおり、会議等の性格に応じて記録を作成するものとする。
なお、個別の事態が歴史的緊急事態に該当するか否かについては、公文書管理を担当する大臣が閣議等の場で了解を得て判断する。① 政策の決定又は了解を行う会議等
国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態に政府全体として対応するため、政策の決定又は了解を行う会議等
(作成すべき記録)
開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録、決定又は了解を記録した文書、配布資料 等② 政策の決定又は了解を行わない会議等
国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態に関する各行政機関の対応を円滑に行うため、政府全体として情報交換を行う会議等であり、政策の決定又は了解を行わないもの
(作成すべき記録)
活動期間、活動場所、チームの構成員、その時々の活動の進捗状況や確認事項(共有された確認事項、確認事項に対して構成員等が具体的に採った対応等)を記載した文書、配布資料 等○ なお、設置又は開催当初は政策の決定又は了解を行わない会議等であっても、その後、政策の決定又は了解を行うこととなった場合には、上記①の記録を作成するものとする。
専門家に正しく議論させるため
対策本部じゃなくて専門家会議だろ。議事録残しますなんて言ったら本音で率直で自由闊達な議論できないじゃん。議事録なんて残さないが正解。例えば、「何人の死亡まで国民は許容できるか」とか話してるんでしょ。そんなの表に出せるわけがない。
— 藤怜志@匿名反対 (@fuj_sato) 2020年5月28日
専門家会議総体として提言を出すから専門家も安心して本音を語れるわけで。それが議事録残して個々人に責任が及んだら、だれも会議に参加してくれなくなるわ。今、西浦教授に対して起こってるバッシングが、専門家会議のメンバー一人ひとりがターゲットになるリスクがあるわけで。
— 藤怜志@匿名反対 (@fuj_sato) 2020年5月28日
発言した専門家の名称が分かると専門家に対してバッシングが行くというのは容易に想像できます。テレビ等で「PCR検査をしまくれ」 などというおよそ非科学的且つ非常識な言説が振りまかれていたわけですから、それに煽られた人間が専門家の所属する大学に嫌がらせの電話をするなどの行為に出ていたことでしょう。
彼らは普段は身分保障も無い私人であることがほとんどです(多くが大学教授)。
ですから、心無い声から守る仕組みを備えて初めて専門家として議論に参加し、意見が自由に言えると言えます。
政策決定をする「本部会議」では発言者名が判明しているのですから、それで良いと思うのです。将来的な開示はともかく、今はするべきではないと思います。
もちろん、「それでも議事録を作成するべきだ」という主張は有り得ると思いますが、ならば専門家の命と身体と立場と財産を守るための術を整える必要があるんじゃないでしょうか?
今のままだと【リアリティショー】としての扱われ方がマスメディア等によって為されてしまい、誹謗中傷の嵐になるんじゃないですかね?
なお、新型インフルエンザ等対策有識者会議のHPでは発言者もオープンになっている「議事録」が公開されています。
以上