事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

新型肺炎コロナウィルス:厚労省「国籍は人権侵害だから非公表」の異常性

厚労省、国籍は人権侵害で非公表:新型肺炎コロナウィルス

厚労省が「国籍は人権侵害だから非公表」と言っているという報道があります。

暴論であり、厚労省の窓口担当者が言っていたに過ぎないとしても問題です。

厚労省「国籍は人権侵害だから非公表」

厚労省、感染確認3例とも国籍非公表 新型肺炎 - 産経ニュース

国籍などを非公表とする理由は「個人情報保護を優先した」(16日発表の1例目)、「国籍が感染症のコントロールに重要な情報とは考えていない」(24日発表の2例目)、「人権侵害になるので国籍を公表しない」(25日発表の3例目)と説明した。厚労省の担当者は「どこまでの情報を出すかは、疫学的な調査や分析を踏まえ、さらに議論が必要になる」とした。

大きく2つの理由が挙げられています

  1. 感染症対策に不要
  2. 人権侵害を避ける(個人情報保護のため、という観点を含む)

これは根拠があるのでしょうか?

国籍は不公表:SARSやMERSも居住地等のみ公表

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新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1月25日)

新型肺炎コロナウィルスに関する感染者の情報は、現時点では「年代・性別・居住地(都市名まで)・症状・一定の行動歴」のみを記載しています。

居住地のみでは国籍は分かりません。

実は、SARSやMERSの流行時も発症者の国籍情報は見当たりません。

厚生労働省:健康:結核・感染症に関する情報(SARS)

一部情報で国籍名も載っているものがありますが、それは感染症が流行していた当時ではなく、事態が落ち着いた後の時点で振り返りの目的で為されているようです。

ただ、これはあくまでもわが国においては感染者が出なかった事例です(感染疑いは出たが、結局は陰性だった)。今回は別個の対応をするべきではないでしょうか?

国籍情報は感染症コントロールに不要?

「感染症コントロールという観点」 から考えた場合、国籍は不要というのはあり得る考え方と思われます。重要なのは「どこに生活の拠点を持っている人間であり、どこから来たのか?」という情報でしょう。特に今回は武漢が発症の中心地であるということが分かっているのですから。

国籍・民族・肌の色などが疫病の罹患率等に影響を与えるケースというのは、あり得るとしても極めて例外的なものでしょうし、国籍で血統や肌の色が決まっているとはもはや言えない時代ですからなおさらでしょう。

何らかのデータにつき「国籍は疑似相関」とでも言える知見があるのかもしれません。

しかし、そうであったとしても、国籍情報は単に厚労省所掌の「防疫政策」での利用でのみ必要などという関係には無いハズです。

他の政策の観点から、国籍情報があった方がわが国にとって有益ではないでしょうか?

安全保障や健康保険悪用などの他の政策の社会的議論に必要では

健康保険悪用医療ツアー

日本年金機構

【事業主の皆様へ】被扶養者における国内居住要件の追加について|日本年金機構

中国人が大陸に住んでる家族を数十人日本に送って治療を受けさせ、健康保険が適用され、保険料未納のままバックレるということが横行してました(性善説に基づいた法令・運用であり違法であるという事を検証する仕組みが無かった)。

「医療ツアー」などと言われているものの中にはそういうケースがありました。

それを受けて健康保険法が改正されましたが、施行日は2020年の4月1日です。

よって、今でも健康保険を悪用しようと思えばできるのであり、今回、そのために日本に来たのではないかということの検証は必要なハズです。

また、感染症対策は国家安全保障の要素が含まれています。

一応、官庁の所掌分配によって主管省庁が決まっているだけで、事態を厳密にどの分野の話なのか切り分けるのは本質的には不可能でしょう。

そのような事態に対して社会的な議論をするためには、国籍情報があった方がわが国の国家運営・統治に資するんじゃないでしょうか?

今回の厚労省の態度は「縦割り行政の弊害」と言えるのかもしれません。

その前提として人権侵害について考慮する必要がありますが、それはあり得ないです。

個人を特定不可能な情報で人権侵害はあり得ない

まず、個人情報保護法に言う個人情報とは特定の個人を識別できる情報のことです。

必ずしも氏名や住所を含んでいるとは限りません。

しかし、「特定の個人を識別することができる」とは、社会通念上、一般人の判断力や
理解力をもって、生存する具体的な人物と情報との間に同一性を認めるに至ることがで
きることをいいます。

参照:「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A

新型肺炎コロナウィルスに関する情報は、現時点では「年代・性別・居住地・症状・一定の行動歴」のみを記載しています。厚労省が公開している程度の情報に国籍が加わったところで、社会通念上、一般人が特定の個人を特定することは不可能です。

また、同法は「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなる」ものも個人情報であるとしているのでこの点を考えます。

たとえば【30代・女性・武漢から日本に何月何日何時何分にやってきた〇〇国籍の人】という情報から個人特定をし得るのはチケット購入履歴を管理している航空会社やパスポート照会をしている入管のみでしょう。

しかし、それでも必ず特定できるとは限りませんし、それは普段から航空会社や入管が把握している情報です。

そして、感染症罹患の情報や入国後の行動歴との照合は個人の特定に関係しません。

よって、個人情報保護法違反による人権侵害にはなり得ないですし、個人を特定することはできませんから、プライバシーなどの人権の「侵害」もありません。

「◇◇国籍の人に対する人権侵害」というのは法的にあり得ず、必ず「〇〇 △△」さんという特定の個人が被害を受けていると言える関係になければ「侵害」は無いのです。

したがって、「人権侵害になるから」という理由で国籍の公表を拒むのは理由がありません。フェイクと言って良いでしょう。

 

新型肺炎コロナウィルスの日本政府の対応は異常

  1. 感染症対策に国籍情報が不要だとしても、他の政策の社会的議論のためには重要
  2. いずれにしても「人権侵害」はフェイク

現段階で国籍情報を公表しないことは、無用な混乱を避けるためであり、事態が落ち着いたのちに公表するという方針ならそれは理解できます。

しかし、「人権侵害」という説明は論外です。

特定の国籍者に対する偏見を助長するということもあり得ません。

その他の日本政府の対応を見ていると、どうもおかしいと言わざるを得ません。

以上