事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

同性婚訴訟札幌地裁判決の簡潔な解説・まとめ

f:id:Nathannate:20210318163248p:plain

あくまで日本語の読み物としての整理です。違憲審査の手法などの分析ではないです。

同性婚訴訟札幌地裁の判決文

裁判所公式ではないですが、CALL4というサイトが判決文を掲載しています。

札幌地方裁判所 令和3年3月17日判決 平成31年(ワ)267号

なお、「違憲判断部分は傍論だ」については以下。

 参考:判例とその読み方三訂版 [ 中野次雄 ]

「地裁判断だから大したことない」については以下

同性婚訴訟の札幌地裁判決の簡潔な解説・まとめ

憲法から同性婚という具体的制度を解釈によって導き出すことはできないが、同性カップルが「婚姻によって生じる法的効果」の一切を享受し得ないものとするのは、憲法14条1項違反

これが要点です。

細かく見ていくと以下になります。

  1. 本件は民法と戸籍法の諸規定が憲法に違反しているのにそれを放置している国の立法不作為による慰謝料を求める国賠訴訟(違法確認訴訟や義務付け訴訟ではない)
  2. 憲法24条は同性婚について触れることがないと判示
  3. 憲法13条に基づいて同性婚を認めるべきとすることはできないと判示
  4. 憲法14条1項に照らすと同性愛者に「婚姻によって生じる法的効果」の一切を享受し得ないものとするのは、不平等な扱いとして憲法違反
  5. しかし、国の立法不作為による違法は認められない
  6. よって請求棄却

国は形式的には勝訴しているため上訴の利益が無く、控訴できません。

原告は政策形成のための訴訟をしていると思われるため控訴せずおそらくこのまま判決確定するでしょう。

「憲法24条は同性婚を認めていない」について

札幌地裁は憲法24条は同性婚を認めていないと判示」と説明されることがあります。

これは言葉のあやになる可能性がある部分なので、ちょっと追加的に記述します。

札幌地裁は、憲法24条は異性婚について定めた規定としました。

別の表現を用いれば憲法24条は同性婚を想定していない、かやの外に置いている、触れることが無い、そこから同性婚を導くことは出来ない、ということです。

他方で「憲法24条は同性婚を禁止している」「同性婚を認めるのは憲法違反」となると、それは札幌地裁判決の理解としては間違いだということになります。
憲法のフィールドと24条の守備範囲の関係

あくまで【「婚姻によって生じる法的効果」の一切を享受し得ないものとするのは、憲法違反】と判示しました。

では、「同性婚を認めなければ憲法違反」ではないのか?

「婚姻によって生じる法的効果」の一切を享受し得ないものとするのは、憲法14条1項違反

札幌地裁は「婚姻によって生じる法的効果」の一切を享受し得ないものとするのは、憲法14条1項違反としました。

言い換えれば「(現行法上の)異性婚と全く同一の扱いをする必要は無いが(というか原理的に無理)、異性婚によって得られている法的効果の一部でも同性愛者が享受できないというのは平等原則違反」ということ。

31ページから抜粋。

同性間の婚姻や家族に関する制度はなく, 性間であるがゆえに必然的に異性間の婚姻や家族に関する制度と全く同じ制度とはならない(全く同じ制度にはできない)こと,憲法から同性婚という具体的制度を解釈によって導き出すことはできないことは,前記 2(3)で説示したとおりであり

「札幌地裁は同性婚を認めなければ憲法違反と言った」と言っても間違いとは言い切れないとは思いますが、たぶんにしてミスリーディングな要素を含む表現でしょう。

札幌地裁の概念整理ミス?

札幌地裁が「婚姻によって生じる法的効果」と記述したことによって、【異性婚と全く同一の制度であるところの同性婚について認められた判決だ】という理解が生まれ、或いはそういうものであると意図的に喧伝されている節があります。

が、先述の31ページの記述を見れば、そうではないことが分かります。

札幌地裁は2ページにおいて、「異性間の婚姻(異性婚)」「同性間の婚姻(同性婚)」と定義しています。

他方で、24条、13条違反ではないとした後に14条1項の話を始める際に「婚姻当事者及びその家族の身分関係を形成し,戸籍によってその身分関係が公証され,その身分に応じた種々の権利義務を伴う法的地位が付与されるという,身分関係と結び付いた複合的な法的効果」を「婚姻によって生じる法的効果」と敢えて定義しました(20ページ)。

つまり、札幌地裁の判決文中では、異性婚・同性婚というときの「婚姻」と、「婚姻によって生じる法的効果」の「婚姻」にはずれがあり、「婚姻」という言葉が二重の意味を持ってることになります。
(「婚姻によって生じる法的効果」の場合は現行法上の異性婚における効果が念頭にある)

本来は「異性婚によって生じる法的効果の一切を享受し得ないものとするのは…」と論じるべきだったと思います。

なぜ、こういう言葉遣いになっているのか?札幌地裁の概念整理ミスか?

善意解釈すると、「婚姻意思」などの概念が法体系全般に渡っており、同性婚の場合も「婚姻」というワードを使いまわしするために敢えてその意味内容の黙示的使い分けをしたんではないか、と推測しますが、真偽のほどは如何に。

同性パートナーシップとの関係

「同性パートナーシップとの関係について

例:札幌市パートナーシップ宣誓制度/札幌市

同性パートナーシップは条例上の制度で各自治体ごとのものですが、今回は「国は法律によって全国的な通用力を持たせなさい」という判決ですから、前進した判決と言えると思います。

ただ、結局のところ、異性婚と同性婚は全く同じ制度にすることはできません、と札幌地裁判決は言っています。これは、現行の異性婚における法的効果を前提にした説示でしょう。
(理屈上は白紙状態からなら同じ制度にすることは可能なはず。現実を無視した歪なものになるだろうが)

「同性愛者カップルにも(現行法上の)異性婚によって生じる法的効果を一定程度認める」ことを「同性婚」と呼ぶ人も居るかもしれませんが、それは言葉の選定、表現の仕方の違いに過ぎません。
これを「異性婚と同等の制度」と呼んでも良いでしょう。

再掲しますが、札幌地裁は婚姻によって生じる法的効果を「婚姻当事者及びその家族の身分関係を形成し,戸籍によってその身分関係が公証され,その身分に応じた種々の権利義務を伴う法的地位が付与されるという,身分関係と結び付いた複合的な法的効果」としました。

札幌地裁判決の内容に沿うように立法府が動くのであれば、当事者の関係性が法律によって公証され身分関係を有した上に、法律上の種々の効果を与えることになりますが、その内容としてどういったものを盛り込むべきかは判決文からはよくわかりません。

仮に、異性愛者と同性愛者を全く同一の「婚姻」制度にしなければならない、という要請を働かせたいならば、事実上、憲法24条を改正して同性婚に関する記述を入れ込むしかないということです。

そうでなければ同性婚を求めてきた者が政治家に陳情して現行憲法のままでも異性婚と同一の法的効果が付与されるように法改正するという作業が必要になってきますから。

松浦大悟 氏が指摘しているのはそういう意味でしょう。

以上:はてなブックマークをして頂けると助かります。