事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

木村草太「音喜多駿は故意にデマを流そうと差別で喋っていることに」同性婚訴訟判決巡り

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憲法学者の木村草太教授の発言に国会議員の音喜多駿が説明を求めました。

木村草太「音喜多駿は故意にデマを流そうと差別で喋っていることに」

53:40頃から

みたらし 今回の判決を受けて憲法24条に「両性」と書かれていることから、割とTwitterの中でも「同性婚を認めさせたいのであれば憲法改正をすべきでは」という意見もみられましたし、また、音喜多議員が違憲はミスリードみたいな発言もしていたみたいなんですけども、木村さん、憲法改正は必要なんでしょうか?

木村 同性婚を法制化するために、っていうことですよね。少なくとも今回の判決を前提とする限りはまったく必要がないというふうになりますので、判決文を読んだことがある人であればそういう結論になりますし、故意にデマを流そうと確信を持って差別している人はそういう事は言わないでしょうね。ということでその基準で是非いろんな人の発言やツイートを見ていただければなと思います。

みたらし 「違憲はミスリード」の件についてはどう思いますか?

木村 はい。私が今示した基準で言えば、差別で喋ってるか、判決を読んで喋っているか、どっちだと思いますか。 

みたらし 差別で喋ってる気がします。

木村 ということになるでしょうね。

一連の発言からは、木村草太氏は「音喜多駿は故意にデマを流そうと差別で喋っていることに」と主張したことになります。

会話を聞く限り、木村草太氏はみたらし氏から『音喜多議員は「違憲はミスリード」と言っている』と知らされてそれについての判断を求められたという経緯です。

事前に音喜多議員の主張内容を知っているとは思えず、聞いた情報のみで返答するしかない状況だったとは言えます。

ただ、それは「同性婚を法制化するためには少なくとも今回の判決を前提とする限りはまったく必要がない」という認識があるためであり、それと異なる認識=改憲が必要という認識の者は故意にデマを流そうと確信を持って差別している人という認識が前提にあるようです。

では、音喜多議員は実際にどう言っていたのか?

音喜多駿「違憲報道」はミスリード

「同性婚できないのは憲法違反」報道はミスリード。同性婚実現と憲法改正の論点を整理する | 音喜多駿 公式サイト魚拓

音喜多駿ブログでは「違憲報道」はミスリードとしています。

「違憲はミスリード」ではありません。

記述の中身は「同性婚を認めないのは違憲」としている報道はミスリード、というものであり、判決文を説明した上で、さらにその先の政治的な動きについて展望しているものです。

札幌地裁判決に関する「同性婚」という言葉

  1. 現行憲法24条(及び各法令の諸規定で)で規定されている異性婚
  2. それと全く同一の制度たる同性婚
  3. 1による法的効果の一定程度が同性カップルにも認められる制度(法的手段)

札幌地裁判決では2は否定、3ができない現行の民法と戸籍法が違憲とされました。

3を「同性婚」と呼び、「同性婚を認めないのは憲法違反」と言う者がいますが、間違いではないと言い得るものの、たぶんにしてミスリーディングな表現だと思います。

音喜多議員ブログ中の「憲法改正が必須」という部分については、判決の説明の中で出て来ていますが、理論上は必須ではないです。法律改正で可能です。

(追記:私は2,3いずれも同性婚と呼んでも許容しますが、判決の説明において3のみ言うのはやや不誠実、という立場。「理論上必須では無い」というのはそのような理解で書きました)

ただ、政治的には事実上憲法改正が必須だろうということは山尾しおり議員や松浦大悟 氏が既に指摘しています。

札幌地裁は同性愛者に異性婚と同一の法的利益を与えろとまでは言っていない

札幌地裁判決は「異性愛者と同性愛者の違いは,意思によって選択・変更し得ない性的指向の差異でしかなく,いかなる性的指向を有する者であっても,享有し得る法的利益に差異はない」(31頁)と言っています。

ここから、『結局は異性婚と同じ法的利益をあたえることになるため「同性婚を認めないのは違憲」と判示した』と説明する人が居ます。

しかし、他方で札幌地裁は「同性間の婚姻や家族に関する制度は,同性間であるがゆえに必然的に異性間の婚姻や家族に関する制度と全く同じ制度とはならない(全く同じ制度にはできない)」(31頁)とも言っています。

その上で、民法や戸籍法が「異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず, 同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないこと」は平等原則違反としています。

白紙状態からなら異性婚と同性婚とで享受する法的利益は同じにできるハズですが、そうは言っていないのは現行法上の異性婚の制度を前提にしているからでしょう。

享有「し得る」法的利益に差異は無いが、現実の制度には差異を設けるしかない。

それは一定程度は立法府の裁量=政治次第という意味です。

現行憲法24条で規定されている異性婚制度と全く同一の制度たる同性婚制度にせよというなら、現行法で異性婚で得られている法的利益の一部を削るしかない。

しかし、それは異性愛者と同性愛者の「現実的な法的利益」の最大公約数の範囲でしか利益享受できない発想

そうではなく、両者の享受する法的利益は制度上まったく同じにはできないことを前提にすれば、同性愛者は現行法で異性愛者に認められている法的利益とは別個の法的利益を享受する可能性も残されることになる。
そのような状況の実現可能性については知らないが理論で語る者は理論上の可能性を説明すべき
※たとえば同性婚者が子を持つ場合に養子縁組とは異なる仕組みの制度を設けるなど

このような射程もあり得る判決の理解を「同性婚を認めないのは違憲」とだけ言うのはどうなんだろうか?

音喜多駿議員に対する木村草太教授の対応

木村草太氏からは何ら反応が無いか、或いは「私の著書を読め」というシグナル。

3月19日午前中はこのような状況ですが、どうなるのでしょうか。

以上