「部落問題、同和問題とは何か?」
基本的な事柄について整理し、各部落組織の関係性について言及し、さらには同和・部落問題について必読の情報源についても一元化しています。
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参考書籍
- 同和地区、被差別部落とは?違いはあるのか
- 同和問題・部落問題とは?エセ同和問題との違い
- 同和行政について
- 同和問題・似非同和問題の情報源
- 同和問題の検索について
- 代表的な同和・部落の関連団体
- 同和・部落問題の誤解:戸籍で同和、部落がバレる?
- まとめ
同和地区、被差別部落とは?違いはあるのか
「同和」と「部落」。
両者は渾然一体として語られることが多いですが、厳密な理解としては、両者には重なる部分があるもののズレがあります。一応の理解は「同じもの」でよいですが、精緻な理解をするにはやはりどのような言葉として使われていたのかの理解が不可欠です。
同和の意味とは?
「同和」には、同和地区、同和関係者、同和団体という3つの意味があります。
この項では「同和地区」と「同和関係者」について整理します。
同和地区の意味
「同和地区」の認定は行政によって行われていました。
つまり、行政上の呼称であり、人工的に認定された地区であるということです。
同和地区は被差別部落とされる地域をベースにするという方針となっていますが、必ずしも一致しません。
国の行政による同和地区は「指定同和地区」とも呼ばれます。
これは根拠法令があり、1969年7月に施行された「同和対策事業特別措置法( 同特法)」の対象地域を指します。法律上は「歴史的社会的理由により生活環境等に安定向上が阻害されている地域」という定義があります。
2002年に国の同和行政は終了したので公的には国の指定同和地区としての同和地区は存在していません。同特法上の同和地区の定義の内、「歴史的社会的理由」というのは「穢多(エタ)・非人(ヒニン)」の身分の人の居住地だったという事を指します。
これとは別に自治体による同和行政があり、自治体の事業の対象地域を「同和地区」と呼ぶこともあります。この認定のベースでも、そこが歴史的な「被差別部落」であるという根拠が基本的に必要でした。
ただし、法律上は上記のような定義であっても、実際上は要件を充足しているのに同和地区と認定されなかったり、要件を充足していないのに同和地区と認定された例はたくさんあるという事実があります。
いずれにしても行政としては同和=部落という理解に立って様々な機関が動いています。行政技術上、そこに住んでいる人がどういう人かは度外視し、一定程度は行政区画や住所で同和地区認定をしなければ把握は困難であるという事情があるのでしょう。
同和問題の意味
よって、「同和問題」とは、全国に役4500箇所存在すると言われる「同和地区」と呼ばれる地域に関する諸問題と言えます。少なくとも行政の側からの整理です。
同和関係者の意味
「同和地区出身者」と「同和関係者」という用語の厳密な定義はありませんが、使い分けられています。
「同和関係者」は、同和地区居住者のうち近世の被差別身分との系譜関係を持つ者で同和地区から外に出て生活しているものは含まれないが、「 同和地区出身者」は、近世の被差別身分との系譜関係を持つ者で同和地区から外に出て生活しているものも含まれる。
鳥取ループ; 三品純. 部落ってどこ? 部落民ってだれ? (示現舎) (Kindle の位置No.704-707). Jigensha. Kindle 版.
被差別部落(部落)とは?同和と部落との違い
実は、部落(民)とは何か、どこが部落なのか?という事については、この問題の中心であるにもかかわらず、ほとんど整理されてこなかったという経緯があります。
部落民というのは、おそらくその土地に先祖代々住んでいるだとか、子供の頃から部落解放同盟の行事に出ていたとか、非常に曖昧なことから判断されるものである。誰もが納得できる客観的な基準など、存在しないに等しい。はっきり言えば、部落民の存在自体を疑うべきである。誰でも部落民になれるし、逆に否定することができるとも言える。例えば、「自分の出身地は被差別部落ではないけど、死んだおじいさんから、うちは穢多の家系だと聞かされたので、自分は部落民だ」「うちはたまたま先祖代々被差別部落に暮らしているだけで、先祖の身分なんて分からないから部落民ではない」というような言い分を、何を根拠に否定できるだろうか。
鳥取ループ; 三品純. 部落ってどこ? 部落民ってだれ? (示現舎) (Kindle の位置No.777-783). Jigensha. Kindle 版
厳密な定義がないために部落民を自称したりする「エセ同和」問題が発生したのは致し方ない面があるのかもしれません。
部落問題
以上より「部落」の意義が曖昧なため、「部落問題とはなにか?」についても特定することは困難ということです。一応の理解を同和問題と併せて次項で記述します。
同和問題・部落問題とは?エセ同和問題との違い
同和(部落)問題とは、大別すると以下のように一応分けられます。
- 歴史的な同和地区(被差別部落生活者)に対する差別問題
- 同和・部落と認定された者による過剰或いは不当な要求の諸問題
- えせ同和(部落)問題
これらが混然一体となっている場合がありますが一応このような理解が可能でしょう。
1~3番と書きましたが、行政としては1番の問題を解消すべく動いており、それに関連して2,3番の問題が発生した、という一応の理解が可能でしょう。
※実際はより複雑。江戸時代には被差別の地位を権力者と結託して維持するなども行われていた例がある。
同和行政について
既に言及しましたが、同和行政は2層構造になっていました。
国の同和行政
2002年まで国の予算によって全国的に行われていました。実行者は地方自治体なので、後述する自治体独自の同和行政と並列する形で行われていました。
追記:ただし、2016年に「部落差別の解消の推進に関する法律」が施行され、法務省人権擁護局も同法に基づいた啓発活動をしています。
部落差別の解消の推進に関する法律:e-Gov法令検索
特徴的なのは、「えせ同和問題」についても取り組むとされている事です。
これは従前の同和行政による弊害から学んだ改善策であると言えます。
国の責務であると同時に、地方自治体の責務であるとされています。
自治体の同和行政
国の同和行政とは別途独立に行われている同和行政があります。
2002年に国の同和行政が終了した後も、自治体の同和行政は続いており、名前を変えて存在しているものもあります。
隠れた同和行政「一般対策に偽装された同和行政」
建前上、自治体には同和対策事業の対象地区と認定された場所が存在しなくとも、事実上の同和対策事業の対象となっている地区が存在している場合があります。
「一般対策に偽装した同和行政」と言われることもあります。「人権」など、同和地区の婉曲表現が使われている事業名や自治体の例規集がヒントになることがあります。
同和問題・似非同和問題の情報源
特に「似非同和問題」についての知見が手に入ります。
示現舎
後述する鳥取ループ氏が代表を務めるメディア。
示現舎が原被告となっている同和・部落関係裁判の経過(情報公開請求訴訟など)、部落探訪の報告など、ディープな情報が手に入る。在日、アイヌにも切り込む。記者としてフリーライターの三品純氏による記事もあります。
記事について、自身が被告となっている相手方原告についての言及をする際も礼節を欠かず、極めて冷静な筆致で記述されています。
「客観的かつ冷静な文章」とはどういうものか、示現舎の記事で学べると言っても過言ではないでしょう。一般的に流通している週刊誌や月刊誌、新聞の社説などとはくらべものになりません。もちろん膨大な取材に基づいています。
この記事の内容の多くはこちらから出版されたものを頼りにしています。
鳥取ループ
示現舎の代表、鳥取ループ氏のホームページ。2015年11月を最後に示現舎HPへ移行。それ以前の書き込み、情報を得たい方向け。本人はツイッターアカウントも持っているため、要フォロー。「似非同和問題」がどのように生み出されているのか、についてリアルタイムに知ることができると思います。
凄いですよね、今の状況って日本政府=江戸幕府、解放同盟=穢多頭、非人小屋ということではないですか。穢多の頭目が権力とつるんで、身分制度を維持しているという徳川時代と同じ構造です。おかしいと思わないんでしょうかね。
— 鳥取ループ@示現舎 (@tottoriloop) 2018年3月26日
鳥取ループ@示現舎:@tottoriloop
三品純
森友学園の抗議運動。議員会館前に荊冠旗が翻りました。 pic.twitter.com/kqI0XT9YgN
— 三品純@ライター (@junmishina) 2018年3月23日
示現舎の記者。フリーライター。ツイッターアカウントではフットワークの軽さから左派的な場所にも出没してルポを発信。
三品純@ライター:@junmishina
同和.com(同和地区Wiki)
同和.com(同和地区Wiki)は、おそらくWEB上で最も網羅的に同和・部落問題について記述されているサイトです。情報量が膨大であるため、ある程度あたりがつけられる程度の知識量があれば検索が容易になると思います。
法務省
法務省:同和問題(部落差別)に関する正しい理解を深めましょう
法務省は一般的な知識しか書いてません。情報源と言うにはあまりに不足していますが、公の発信としてはこのようなものということです。
同和人権問題企業連絡会
部落地名総監を購入したとして糾弾を受けた企業が中心となって、各地で同様の組織が作られました。同和団体に攻撃されないように企業はこういう取組をしている(強いられている、という面があるが)という事を知るのにいいでしょう。
同和団体のHP
部落解放同盟中央本部・部落問題資料室:http://www.bll.gr.jp/siryo.html
後述する同和団体のHPにも、同和問題についての資料がまとまっているページがあります。団体の主観が入っているため注意して読むべきです。
同和・部落団体においても似非同和行為に関して注意喚起しています⇒「えせ同和」行為の排除に向けて|部落解放同盟中央本部
同和問題の検索について
「inurl: reiki 同和 位置」
こちらで検索すると、自治体の例規集に検索対象を絞る事が出来ます。
同和関係の行政は例規に基づいて行われることが多いので、この検索方法は便利。
代表的な同和・部落の関連団体
これらの団体は大きく「全水系」と「融和系」に分けられます。これ以外にも、ありますし、実際には更に細かく会派が分かれています。
全水系
「全水」とは、1922年に結成された「全国水平社」のこと。
「人の世に熱あれ人間に光あれ」という水平社宣言はあまりにも有名。「荊冠旗(けいかんき)」のマークが全水系の団体のシンボルとなっています。
全水系は「部落解放同盟(解同)」が最も有名ですが、分派した「部落解放同盟全国連合会」「全国地域人権運動総連合(人権連)」も存在感としては大きいです。
全水系の団体は革新系。全水系の団体は自らを「同和団体」とは呼ばず、部落解放運動を行う団体という意味で「運動団体」と言うことが多い。
部落解放同盟中央本部:http://www.bll.gr.jp/
部落解放同盟全国連合会:http://www.zenkokuren.org/
全国地域人権運動総連合:http://zjr.sakura.ne.jp/
部落解放同盟(解同)
1946年に発足した部落解放全国委員会が1955年に改称したものが部落解放同盟(解同)です。独自の荊冠旗が使用されています。
組織力、勢力ともに圧倒的なものを誇る団体。同和・部落団体と言えば、部落解放同盟抜きには語る事ができない。「部落は怖い」「部落は集団でおしかけてくる」というイメージは部落解放同盟によるところが大きい。
「確認会」「糾弾会」という名称で「差別者」を吊し上げて罵声を浴びせるという活動が行われるのが特徴的。現在では鎮静化しているが、地域によっては「学習会」「交渉」などオブラートに包んだ名称が被せられていることがある。
有名な人物として部落解放同盟副委員長も務めた松本龍元環境大臣、部落解放同盟中央書記長を務めた松岡徹元参議院議員などが挙げられる。これらの例を見てわかるように、民主党=民進党との関係が深いとされる。
部落解放同盟全国連合会
大阪府東大阪市にある部落解放同盟荒本支部を中心に、1992年に部落解放同盟から分裂してできた別団体。解放同盟より急進的であり新左翼的。
全国地域人権運動総連合(人権連・全権連)
部落解放同盟に所属していた共産党員を中心に1976年に結成された全国部落解放運動連合会(全解連)という同和団体をルーツに持つ団体。
2004年に改組され、公式には同和団体ではなく、一般的な人権団体という立場を採っている。日本共産党と関係が深い。
実は、部落解放同盟批判の急先鋒であり、2002年にベストセラーとなった「同和利権の真相」(宝島社)など、部落解放同盟批判、同和行政批判の言論は全権連によるものをベースとしたものが多い。
人権連に限らないが、同じ団体に属する組織でも一般的な名称のものがある。例として「民主主義と人権を守る府民連合(民権連)」がある。
民権連HP
融和系
融和系は「全日本同和会」とそこから分派した「自由同和会」が代表的です。部落解放同盟に比べて比較的穏健な活動を行っています。
明治から戦時中に行われた「融和運動」をルーツとしています。そもそも「同和」という用語が生まれたのもこの融和運動によるもの。
1960年代までは全水系と融和系とは概ね共闘関係にあった。戦後の融和系団体は全水系から分派してできた面がある。
全日本同和会:http://www.zennihon-douwakai.gr.jp/
自由同和会中央本部:http://www.jiyuudouwakai.jp/
全日本同和会
政治的には保守系であり、自由民主党との関係が深いとされる。左翼的な部落解放同盟と人権連とは対立関係にある。
自由同和会
政治的には保守系であり、自由民主党との関係が深いとされる。左翼的な部落解放同盟と人権連とは対立関係にある。1981年の「北九州土地転がし事件」を原因として全日本同和会から袂を分かち分派。全国自由同和会を経て現在の自由同和会となる。
同和・部落問題の誤解:戸籍で同和、部落がバレる?
「戸籍は部落差別に繋がる」これは完全なる誤解です。
日本で最初に作られた戸籍である「壬申戸籍」(正式名称「明治5年式戸籍」)に身分が書かれているため、これを辿れば部落民かどうかが分かるのではないか、という論がありますが、以下の指摘があります。
明治五年式戸籍は、同特法が施行される前年の一九六八年以来、法務省による昭和四三年三月四日付民事甲第三七三号民事局長通達および、同年三月二九日付民事甲第七七七号民事局長通達により「閲覧の請求に応じないこと」「包装封印して保管する等の措置をして、その記載内容が一般外部に漏れることのないよう、厳重に市町村に留意せしめる」扱いをするとされている。つまり、役所の職員でも、本人であっても、絶対にその内容を知ることができない。明治五年式戸籍の一部に、江戸時代の身分が記載されたものがあり、部落差別のための調査に利用できるとして、当時部落解放同盟から強く非難されたためだ。明治五年式戸籍を封印した通達は現在でも有効である。ー中略ー戸籍を管理する法務省は未だに過去の通達を根拠に公開を拒んでいる。最近では二〇〇五年四月二八日に内閣府の情報公開審査会が、明治五年式戸籍は利用禁止されているため、行政 文書にあたらず、情報公開請求の対象ではないという答申を出している。
鳥取ループ; 三品純. 部落ってどこ? 部落民ってだれ? (示現舎) (Kindle の位置No.623-634). Jigensha. Kindle 版.
よって、現在の通達が有効である前提に立てば、出身地に繋がるものは戸籍ではないということです。本籍地や出生地も、出身地を証明するものではないということ。
そして、出身地に繋がるものがあるとすれば、それは住民票であるということです。
まとめ
- 同和・部落問題は用語、団体等をしっかり整理すること
- 同和・部落問題の情報源は少ないため貴重
以下の示現舎の本を読みましたが、知らなかったこと、勘違いしていたことが整理できますのでおすすめです。
以上