事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ドライブスルーPCR検査の誤解:積極疫学調査と行政検査

ドライブスルーPCR検査

新型コロナウイルスに関して名古屋市と新潟市でドライブスルーでのPCR検査が行われることになりましたが、誤解が多いようですので整理します。

名古屋市と新潟市でドライブスルーでのPCR検査

3月19日の複数記事でドライブスルーでのPCR検査が取り上げられています。

ここでは名古屋市と新潟市に関する記事を紹介します。

ドライブスルーで検査、名古屋市 デイサービス施設職員ら50人 | 共同通信魚拓

市によると、対象は症状の出ていない職員ら約50人。現在は職場復帰に向けて自宅待機中。個別に検査を受ける場合に必要な保健所への連絡などを省略でき、検査時間を大幅に短縮できる。

名古屋、ドライブスルー方式で検査へ コロナで苦肉の策 [新型肺炎・コロナウイルス]:朝日新聞デジタル魚拓

複数の関係者によると、ドライブスルー方式で検体を採取するのは、利用者らの感染が相次いだ市内の高齢者デイサービス事業所の職員ら約50人。市内医療機関の駐車場で、職員らは車に乗ったままの状態で、窓越しに鼻やのどから検体を採取される。いずれも症状がない人たちで、職場復帰に向けて陰性を確かめるために行う。

 

新潟市が3月1日からドライブスルー方式で検体採取 にいがた経済新聞

新潟市によると、感染患者の濃厚接触者数は702人(18日現在)で日々増加している。一方、帰国者接触者外来や、民間協力病院を合わせた新潟市の検体採取は1日10件程度が限界という。こうしたことから、新型インフルエンザの際にも行なったドライブスルー方式で、濃厚接触者の検体採取を始めた。市では、このドライブスルーを含め、1日平均20〜30件の検体採取を行なっているという。また症状の重い人が医療機関で採取を行うこともあるが、濃厚接触者の検体採取のほとんどをドライブスルー方式で行なっているという。

にいがた経済新聞は3月19日の記事ですが、既に3月1日から新潟市ではドライブスルー検査を行っているということです。

ドライブスルー検査による検体採取それ自体は問題ない

名古屋市について共同通信は上記記述ですが、非常にミスリーディングです。

朝日新聞でも「症状が無い人に職場復帰に向けて陰性を確かめるために行う」という記述があり、SNS等で独り歩きしています。

しかし重要なのはクラスターの元患者・濃厚接触者らに限定しているということです。

新潟も濃厚接触者に限定していますし、新型インフルエンザの流行の際にも行われているとあり、この方法自体が問題であるということではないのが分かると思います。

ドライブスルーPCR検査それ自体は、病院内で感染者が出て病棟閉鎖するリスクを減らすことができます。

「検査のやりすぎで感染拡大する」という心配をしている人がいますが、それはいろいろと状況が異なるものを混同していると思います。

韓国のドライブスルー検査は「感染拡大」していない

韓国のドライブスルーPCR検査で「手袋の交換がされていない」映像が出回り、問題視する人もいましたが、多くの実態は別のカバーをかけていたり汚染除去ルームで全身を消毒しているようでした。

実際にドライブスルー検査が原因で感染が拡大したというニュースは知りません。

また、医師によっては手袋の頻繁な交換はそれ自体が感染リスクであるという指摘をする者もおり、運用方法は一概には言えないということが伺えます。

韓国のドライブスルーPCR検査は全体のPCR検査数の増加と陽性患者の増加に寄与したと思います。それによって無症状・軽症患者らによって病床が圧迫され、大邱(テグ)の一部病院では医療崩壊しましたが、2月最終週から3月頭あたりから方針転換して軽症者までは自宅療養を促してからは死者数の増加も抑えられています。

厚労省のドライブスルー方式のツイートも修正されている

まず、世界各国で「医師の診察を伴わないことが多い」という点については厚労省自身が訂正をしています。

その上で、世界においてどういう運用をしているかはどうでもいい話であり、日本国におけるドライブスルー検査が適切に行われていれば何も問題が無いわけです。

既に新潟市ではクラスターの濃厚接触者らに対してドライブスルーでのPCR検査をしていますし、誤解を与える投稿だったでしょう。

クラスター等を把握する積極的疫学調査と行政検査の混同

どうやらドライブスルー検査に関するメディアの記事から【積極的疫学調査】と【行政検査】を混同している方が多いようです。

新潟市で行われているもの、名古屋市で行われようとしているものは感染症法15条に基づく積極的疫学調査のためのものです。これは患者クラスター=患者とその濃厚接触者らを把握するために行われているものです。

※国立感染研が行っている「疑似症サーベイランス=発生動向調査」とは別の枠組みです。当初はここも同一視していましたが訂正します。

対して、「37.5℃以上、4日間症状が続く」などの相談基準が設定され、保健所・帰国者・接触者外来を通して行われる「行政検査」として行うものは別の枠組みです。
※この基準は変遷があり、当初は「流行地域渡航歴」や「接触歴」の要件があったが、現在はその要件が無くとも可能になっている。参考:事 務 連 絡令 和 2 年 2 月 2 7 日厚生労働省
※ダイヤモンドプリンセス号での検査も含めて書いていましたが、こちらの場合は検疫法13条に基づく検査でした。訂正します。

チャーター機やDP号の報道で「何でこの人たちに対しては症状が無い人にも行われているのに、他の国民は症状が無いとダメなのか?」と疑問に思った人が多かったと思いますが、それはそういう事です。

まとめ:偽陰性・偽陽性の問題はあるが

  1. 新潟市や名古屋市のドライブスルーPCR検査は積極的疫学調査
  2. 対象を限定しているので「検査に群がる」という事は起こり得ない
  3. ドライブスルー検査それ自体に「感染拡大リスクがある」という誤解がある
  4. ドライブスルーPCR検査は医師が検査の要否を判断した上で行われていることが多い

「ドライブスルー検査」という字面からは、まるで「一般市民が誰でもアクセス可能」というイメージがありますが、そうではないということです。

それでも偽陰性・偽陽性の問題はありますが、医師が検査の要否を判断した上で行うのであれば事前確率は高くなるのであって、それは現在行われている行政検査とまったく同じ方法によるものです。そうであるならば、むしろ病院外で行うために病院内で感染者が発生し、病棟閉鎖をするリスクを減らす方法であると言えます。

以上