事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

特別交付税からのふるさと納税分減額措置の総務省改正省令

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3月22日、石田総務大臣から閣議後記者会見において、ふるさと納税が多額な自治体 の特別交付税を減額する措置を講じたと発表しました。

具体的な規定とその措置の嫌らしさを指摘していきます。

石田真敏総務大臣閣議後記者会見:ペナルティではない

石田総務大臣閣議後記者会見の概要 平成31年3月22日

特別交付税の算定

今回の特別交付税の算定にあたって、過度の返礼品を行っているかどうかということに着目した措置は講じておりません。
一方で、平成30年度のふるさと納税収入が極めて多額になると見込まれる4団体につきましては、3月分の特別交付税については、災害分以外は交付しないことといたしております。
これはですね、その考え方を申し上げますと、4団体は多額のふるさと納税収入があることによりまして、地方税収にふるさと納税収入を加えた場合の財政力を見ますと、実質的に平均的な不交付団体を上回る財政力を有することになるわけであります。
このため、不交付団体並みの扱いとすることといたしておりまして、これを特別交付税省令に定めまして、災害分以外については交付しないこととしておるわけであります。
ふるさと納税収入を加えた場合の財政力、これは、ふるさと納税というのは、1つは地方税の移転という、制度の立てつけからいうとそういうことになっておるということもございますし、また、平均的な不交付団体を上回るというのは、私どもとしては2つ、財政力指数の問題と、もう1つは財源超過額、この2つを見ておりまして、この2つを上回る団体に対して、我々としては不交付団体並みに扱わせていただいたということでございます。

※4つの団体について

これは泉佐野市、それから、小山町高野町みやき町です。
もうひと言だけ付け加えておきますと、今回の対応は、先ほども申し上げましたけれども、財源配分の均衡を図る観点から行ったものでございまして、過度な返礼品等を行う地方団体のペナルティといった趣旨で行ったものではございません。よろしくお願いします。

石田総務大臣が「ペナルティではない」と発言したのは、「過度な返戻品等を行」ったことに対するものではないという趣旨でした。

それとは異なる、「儲けすぎた地方自治体」に対する特別交付税の減額措置は、その性質がペナルティと評価して良いかはともかく、狙い撃ちして不利益を与える行為でしょう。
※「ペナルティ・懲罰」という単語を避けたのは違法の疑いを回避する狙いがあるでしょう。

特別交付税に関する省令の一部を改正する省令による減額措置

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3月20日官報(号外54号)において、改正省令が挙げられています。

地方税法37条の2に定めるいわゆる「ふるさと納税」について、特別交付税に関する省令の一部を改正する省令(総務省令第二十号)によって関連する規定が追加されました。

これによって、基準を超えた場合には災害関連経費以外は交付しないということになりました。

なお、ふるさと納税については今国会に「寄付額の3割以下の地場産品」に限り、従わない自治体に納税者が寄付しても税金の控除が受けられなくなるとの改正法案を提出しています。この告示による省令の改正は、それとは別個の話です。

総務省の特別交付税の省令改正の告示は何が悪いのか?

泉佐野など特別交付税を減額、総務省が伝家の宝刀:日経ビジネス電子版

自治体間の財政格差を調整する地方交付税は、普通交付税(96%)と特別交付税(4%)からなる。普通交付税が、人口や面積など客観的な指標に基づいて算定されるのに対して、特別交付税は「年度当初には想定できない災害発生や、全国統一の物差しでは測れない過疎地特有の課題といった特別な需要に応じて配分する」(総務省財政課)。つまり、一定の裁量の余地がある仕組みと言える。

所管省庁に配分の裁量の余地がある特別交付税という仕組みを前提にすると、今回の措置はあり得ると考えられなくもありません。

しかし、法的な主張はともかく、実質的な評価としては以下のように考えられると思うのです。

  1. ふるさと納税は元々自治体への特別交付税から控除されない扱いだった
  2. 税収の豊かな自治体への特別交付税の交付が財源配分の均衡から好ましくないとしても、事後的な措置によって税収から控除するのは事後法的であり、不意打ちで卑怯
  3. 特別交付税の算定上の控除事由に事後的な要因を設ける事自体は良いとしても、増収分を控除するのは、有権者の意欲や自治体の工夫を削ぐ行いであり、何かおかしい
  4. 今回の省令改正は、4自治体を狙い撃ちしたものなので少なくとも不当
  5. 地方交付税法の解釈としてありうるのか

地方交付税法の規定ぶりから、ふるさと納税と言う「寄付金による増収分」を控除することが認められると解釈可能なのかについてはかなり問題になるのではないでしょうか。

地方交付税法(特別交付税の額の算定)

第十五条 特別交付税は、第十一条に規定する基準財政需要額の算定方法によつては捕捉されなかつた特別の財政需要があること、第十四条の規定により算定された基準財政収入額のうちに著しく過大に算定された財政収入があること、交付税の額の算定期日後に生じた災害(その復旧に要する費用が国の負担によるものを除く。)のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があることにより、基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定過大又は基準財政収入額の算定過少を考慮しても、なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して、総務省令で定めるところにより、当該事情を考慮して交付する。

2 総務大臣は、総務省令で定めるところにより、前項の規定により各地方団体に交付すべき特別交付税の額を、毎年度、二回に分けて決定するものとし、その決定は、第一回目は十二月中に、第二回目は三月中に行わなければならない。この場合において、第一回目の特別交付税の額の決定は、その総額が当該年度の特別交付税の総額のおおむね三分の一に相当する額以内の額となるように行うものとする。

ふるさと納税の収入が大きかった自治体を狙い撃ちか

今回の省令の改正でふるさと納税による増収分を差し引くことに関する規定は、附則7条第15項です。これは「市町村に係る三月分の算定方法の特例」として定められていた項目の中に、新設条文を設けたものです。

特例の特例のような立てつけです。

しかし「道府県に係る三月分の算定方法の特定」の中には、同様の規定はありません。

ふるさと納税は道府県にもできますから、実際上は問題ないとしても理屈上はそちらにも同様の規定がなければ「財源配分の均衡を図る観点」と言ったこととの辻褄が合わないような気がします。

まるである特定の自治体(主に泉佐野市)を狙い撃ちしているかのようです。

ふるさと納税よる交付税減額で泉佐野市などの4市町は国を訴えるか

泉佐野など特別交付税を減額、総務省が伝家の宝刀:日経ビジネス電子版

4市町への配分額は、泉佐野市が昨年度比1億9500万円減の6200万円。小山町が7400万円減の0円。高野町が2億3300万円減の2000万円。みやき町が2億900万円減の200万円。高野町の担当者は「事前の連絡もなく、きょうの発表で知らされた。驚いているし、残念だ」と話す

総務省による4市町に対する「攻撃」に対して各自治体はどうするのでしょうか?

泉佐野市のふるさと納税360億円は企業努力か?~法改正に至るその背景 | ニッポン放送 ラジオAM1242+FM93

高橋)ふるさと納税は官僚はみんな反対ですよ。税収が来なくなって、国民が決めてしまうから。私はそれでいいでしょう、と思ってやっただけです。だからこの使い道も、本当は市民が決めればいいで終わってしまう」

役人の権力掌握欲求とそれを止められない大臣に対して、自治体が反撃に出てほしい。

一国民としてはそう思いますが、無理は言えません。

以上