韓国が日韓GSOMIA(秘密軍事情報保護協定)を破棄しました。
どうもGSOMIAについて誤解があるようなのでその意味を指摘します。
日韓GSOMIA破棄とその誤解とは
本協定は,日韓両国政府間で相互に提供される国家安全保障のために保護する必要のある防衛関連情報を,受領国政府が自国の国内法令に従って保護するためにとる措置等について定めるものです。
本協定の締結により,日韓両国政府間で提供される秘密軍事情報が適切に保護され,両国政府間で更に円滑かつ迅速な情報交換が行われることが期待されます。
日韓GSOMIAというか、各国と締結しているGSOMIA(General Security of
Military Information Agreement)という枠組みは、提供された「秘密軍事情報を保護するための取り決め」を意味します。
決して、「秘密軍事情報の交換をする枠組みではない」ということです。
実際、日本とアメリカのGSOMIAの前文では
秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定
1954年3月8日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定及び同協定に基づく取極が、防衛関連情報の相互の交換を規定してきたことを認識し
とあり、GSOMIA締結をする前から秘密軍事情報を交換してきたというのは自明です。
そこを誤解していると日韓GSOMIA破棄について認識を誤ってしまいます。
伊藤 元海将「GSOMIAは日本で誤解されている。日韓の情報交換枠組みではない。軍事情報の保護協定。互いに聞いた軍事情報を第三国に漏らさないという約束。日韓はダイレクトに情報をやり取りしていない。もう一つ、拉致問題については軍事情報じゃないので無関係。日本の議論は無茶苦茶」#primenews pic.twitter.com/vhR3Islt6k
— 雨雲 (@amagumo02) August 22, 2019
アメリカを介しての情報共有は今後もあり得る
日本とアメリカのGSOMIAの協定を見ると日韓GSOMIAと同様の規定になっています。
秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定
第六条 秘密軍事情報を保護するための原則
両締約国政府は、次の事項を確保する。(a)秘密軍事情報を受領する締約国政府は、当該情報を提供する締約国政府の事前の書面による承認を得ることなく、第三国の政府、個人、企業、機関、組織又は他の団体に対し、当該情報を提供しないこと。
(b)秘密軍事情報を受領する締約国政府は、自国の国内法令に従って、秘密軍事情報について当該情報を提供する締約国政府により与えられている保護と実質的に同等の保護を与えるために適当な措置をとること。
(c)秘密軍事情報を受領する締約国政府は、当該情報を提供する締約国政府の事前の書面による承認を得ることなく、当該情報が提供された目的以外の目的のために、当該情報を使用しないこと。
以下省略
秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定も同様です。
アメリカと韓国との間でも同様の規定でしょう。
要するに、事前に承認があれば、アメリカが韓国の秘密軍事情報を日本に提供したり、アメリカが日本の秘密軍事情報を韓国に提供することは、(実態はともかく理論上は)韓国が日韓GSOMIAを破棄しようが今後も可能です。
ただ、共有可能な情報の範囲が狭まる可能性はありますし、情報共有までの手続が煩瑣になってタイムラグが生じるということはあるんだろうと思います。
韓国、軍事情報協定の破棄を通告 情報の共有は継続と表明 | 共同通信
韓国大統領府の金鉉宗・国家安保室第2次長は記者会見で、協定破棄に日本だけでなく米国も懸念を示していることに絡み「米側が延長を希望していたのは事実だ。希望通りにならず失望したのは当然のことだ」と述べた。また協定終了後は2014年に日米韓が締結した防衛機密情報共有に関する覚書を根拠に軍事情報の共有を続けると表明した。
このように、情報共有自体は今後も理論上は可能なわけです。
GSOMIA破棄によって情報共有そのものができなくなるというのは誤解です。
なお、GSOMIAの効力は11月22日を最後に失効するので、それまでは有効です。
日本にとって困ることはほとんどない
2016年に締結されてからこれまでの運用は、おそらくすべてが北朝鮮のミサイル関連のものです。7月25日に発射された北朝鮮のミサイル発射については、GSOMIAを通じて日本からの情報提供を受けて 飛行距離を韓国側が修正をしたということがありました。
アメリカも日本も、自前の軍事情報衛星を持っています。
対して、韓国は持っていません。
したがって、日本側はほとんど困ることはありません。
日本としては韓国の現地情報の細かい動きが分かりにくくなる、分析に時間がかかるという程度でしょうか。
逆に韓国の側は日本の軍事衛星情報がダイレクトに入らなくなるため、重要な事項についての判断が遅れる・出来なくなる可能性があるんじゃないでしょうか。
まとめ:軍事情報包括保護協定の意味が誤解されている
伊藤 元海将「GSOMIAは日本で誤解されている。日韓の情報交換枠組みではない。軍事情報の保護協定。互いに聞いた軍事情報を第三国に漏らさないという約束。日韓はダイレクトに情報をやり取りしていない。もう一つ、拉致問題については軍事情報じゃないので無関係。日本の議論は無茶苦茶」#primenews pic.twitter.com/vhR3Islt6k
— 雨雲 (@amagumo02) August 22, 2019
- 共有した秘密軍事情報を第三国に漏らしませんという協定であって、情報交換枠組みではない
- 日韓は同盟国ではないので秘密を直接データでやりとりする関係ではない。会議の場ではありうる。アメリカを通してデータ共有はある。
- 拉致問題のヒューミントは軍事情報ではないので無関係
伊藤俊幸 元海将が指摘する通り、日本と韓国は同盟国ではないので、元から直接秘密軍事情報のデータを直接やりとりする関係には無かったところ、北朝鮮のミサイル発射など一部の情報について基本的にはアメリカを介して情報共有をしていたにとどまります。
日韓GSOMIA自体、2016年に締結されたものですが、たぶんに象徴的な協定で、これが無くなったからといって元々同盟国ではない国同士の軍事情報の共有は限定的だったので、実務上はそこまで変化はないでしょう。
ただ、「韓国は日本から提供された秘密軍事情報を第三国に横流しするかもね~」と言っているに等しいので、アメリカ含めた関係を破壊したということは確かでしょう。
以上