厚労省が「新型肺炎感染患者の国籍は非公表」という方針と産経新聞が報じました。
が、その事自体は世界の各国も同じだということがWHOやアメリカ・オーストラリアのDepartment of Healthの情報を見ていて気付きましたし、重要な情報を産経新聞は省いていると思います。
- 産経「厚労省、新型肺炎感染患者の国籍は非公表」報道の違和感
- 一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針
- 厚労省が「人権侵害」と言っているのが問題
- 米国・豪州の政府も国籍は非言及
- まとめ:コロナウィルス感染者の国籍非公表は「中国の圧力」などではない
産経「厚労省、新型肺炎感染患者の国籍は非公表」報道の違和感
厚労省、感染確認3例とも国籍非公表 新型肺炎 - 産経ニュース
国籍などを非公表とする理由は「個人情報保護を優先した」(16日発表の1例目)、「国籍が感染症のコントロールに重要な情報とは考えていない」(24日発表の2例目)、「人権侵害になるので国籍を公表しない」(25日発表の3例目)と説明した。厚労省の担当者は「どこまでの情報を出すかは、疫学的な調査や分析を踏まえ、さらに議論が必要になる」とした。
厚労省の新型肺炎感染患者に関する情報には「居住地情報」は発表していますが「国籍」はありません。この産経新聞の報道、いろいろ調べると違和感を覚えます。
厚労省、感染確認3例とも国籍非公表 新型肺炎https://t.co/mKJ3UZliS0
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2020年1月25日
→厚労省の担当者は「どこまでの情報を出すかは、疫学的な調査や分析を踏まえ、さらに議論が必要になる」とした
この記事のシェアをなぜかもう一度行ってるんですよね。
【感染確認3例とも国籍非公表】
— 産経ニュース (@Sankei_news) 2020年1月26日
厚生労働省は今回のケースを含め、感染が確認された人の国籍や詳しい交通経路などは「個人情報の保護」を理由に明らかにしていません。https://t.co/mKJ3UZliS0#新型コロナウイルス #新型肺炎
反響が大きかったのだと思います。
でも、地方紙の方に重要な事実が載ってるんですよ。
新型肺炎、感染者の国籍非公表の訳 日本の3例とも、厚労省の見解 | 医療,社会 | 福井のニュース | 福井新聞ONLINE
厚労省は昨年、エボラ出血熱など感染症法で危険性の高いとする「1類感染症」の公表に関する基本方針を策定。まん延を防ぐためには情報を積極的に公表する必要があるが、感染者が不当な差別を受けないよう個人情報保護に留意しなければならない、としている。
要するに【前々からどんな事案であったとしても国籍を非公表にすることは決まっていた】わけで、「相手が中国だから」では決してないわけです。
なぜ産経はこの事実を書かなかったのだろうか?
一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針
一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針(案)
2019年12月20日のこの資料を見ると公表しない情報に「国籍」が明記されてます。
その趣旨は、「個人が特定されないように配慮する」とともに、「感染源を明らかにし、国民にリスクを認知してもらう」というものと読み取れます。
「国籍では一時的な旅行者か居住者かが分からない」という理由から居住国・居住地域にとどめているようです。
もちろん「国籍も公表しても個人特定はされない」と言えます。
しかし、防疫政策という観点からは、そのために必要な本質的な情報は感染ルートが分かる情報なので、「空気感染」のレベルじゃないと国籍まで含めて公表する必要がどれほどあるのかは疑わしいと思います。
このような説明にとどめるなら納得します。
なお、SARSやMERSの際も、厚労省は、流行期に感染経路含めた情報に国籍を載せるということはしていませんでした。
厚労省が「人権侵害」と言っているのが問題
私が問題視しているのは多数の報道によれば厚労省(一担当者に過ぎないかもしれないが)が「人権侵害」と言っていることです。個人特定できないのに人権侵害なんてありえません。
そのようなあり得ないフィクションを言うことで「言ってることがおかしいので、何か隠しているのではないか?」のように思う人がたくさん出てきます。
情報コントロールの失敗だと思います。
厚労省、感染確認3例とも国籍非公表 新型肺炎 https://t.co/YGbpTDMwxU @Sankei_newsより
— 山田宏 自民党参議院議員 (@yamazogaikuzo) 2020年1月25日
国籍を明らかにすることがなぜ人権侵害になるのか、全く理解できない。全員中国籍だからか。
日本で官僚になるとここまで間抜けになってしまうのか。国籍と入国ルートは基礎事実で個人情報とは言えない。欧米でも明確に報道している。危機に際してリスク管理を優先せず、自国民に基本情報を隠しているようではお話にならない。日本人の被害が最大という事態になり得る。https://t.co/z8w4czCCDv
— 山岡鉄秀 (@jcn92977110) 2020年1月25日
なお防疫政策以外の観点から国籍情報も載せるべきだとの指摘はあり得ると思います。
米国・豪州の政府も国籍は非言及
確かに「民間の報道」では感染患者の国籍まであっさりと報じています。
これは病院等への取材で特定しているものと思われます。
しかし、アメリカやオーストラリアの政府機関の情報を見てみると、感染者については"returned from China"や"a resident of the U.S."のように、「渡航ルート」や「居住地」を示しているだけで、国籍は記述していません。
これはWHOも徹底しています。
参考1:Novel coronavirus (2019-nCoV) | Australian Government Department of Health
参考2:Novel Coronavirus 2019, Wuhan, China | CDC
参考3:WHO | Disease Outbreak News (DONs)
ボイス・オブ・アメリカの記事でも国籍情報は見つかりません。
NHKは国営放送ではないので国籍をがっつり書いてますが。
まとめ:コロナウィルス感染者の国籍非公表は「中国の圧力」などではない
国籍がなにか重要なのですか?👶本来、接触調査などに支障がなければ人数だけでもよいぐらいですからね。不要な情報は侵害的でよくないですよな。#マシュマロを投げ合おうhttps://t.co/I27nrjCjY0 pic.twitter.com/9HXAIy4AGK
— 峰 宗太郎 (@minesoh) 2020年1月26日
- 防疫政策の観点からは今回のレベルの事態の情報に国籍は本来的に不要
- 世界各国の政府レベルも国籍情報は言及していない
- 国籍情報が流れているのは民間報道だから
- 厚労省が「人権侵害」と言っているのはあり得ないので発信の失敗
こんなところじゃないでしょうか。
以上