事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ハンセン病の反省と癩病患者と犯罪者の隔離政策2

第2回国会 衆議院 本会議 第55号 昭和23年6月4日

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○議長(松岡駒吉君) 御異議なしと認めます。よつて日程は追加せられました。
 救癩施設に関する緊急質問を許可いたします。榊原亨君。
    〔榊原亨君登壇〕
○榊原亨君 私は、最近激増しつつあります癩患者の犯罪に対する処置並びに癩病に対する救癩事業そのものにおいて、はなはだ遺憾の点多く、これが緊急の対策を要するものありと考えますので、以下諸点につき、法務総裁並びに厚生大臣の責任ある御答弁を要求する次第であります。
 元來癩病という病は、ほとんど不治のものでありまして、恐るべき傳染病であることは、今日一般に認められているところでございます。しかして、これら癩病をまつたく社会から根絶一掃するためには、完全なる治療法のなき今日としては、どうしても癩病の患者を一般社会から隔離收容して、その傳染源を断ち切るよりほかに途がないのであります。すなわち、これらの隔離收容せられました癩患者は、自分自身の病気を治すというよりも、むしろ私ども一般の健康な國民に癩病を傳染させないために、みずからを犠牲といたしまして、孤独な、さびしい生活をもつて一生を終るのでありまして、ここに救癩事業が数多い社会事業の中で最も重要な意義を有するという理由があるわけであります。
 私ども國民といたしましても、これら犠牲者が、その孤独の生活のうちにも何かしら温かい光明・希望を抱いて、安心して平和な生活ができるようにいたしますことは、國家の責任であり、また新しい憲法の精神よりいたしましても、あるいはまた人道上の見地よりいたしましても、最も大切なことであると信ずるものであります。
 しかるに、ここにはなはだ遺憾にたえないことは、近來、これら癩療養所内において、言語に絶する不道徳なる行為が公然と行われ、ときには、きわめて惡質なる犯罪さえも次第に増加しつつあるのでありまして、かつては平和な別天地であつたこれらの療養所の秩序はまつたく乱れ、善良な收容患者の不安・迷惑を増幅しておるばかりでなく、さらにこれら療養所が一般社会におけるところの犯罪の温床と化しつつある事実であります。
 しかして、これが原因のおもなるものは、現在わが國の癩病患者の犯罪者を收容すべき刑務所、あるいはこれに類する特殊なる施設が全然欠如しておることに起因するのであります。
 たとえば、ここに癩病患者の一犯罪者が檢察当局によつて捕えられますと、その者は癩病患者であるという理由から、一般犯罪者を收容する拘置所に收容することができないために、結局取調べもうやむやとなつて、あたかもはれ物にさわるがごとく、そのままただちに癩療養所に送致收容せらるるを常とするのであります。その際癩療養所といたしましても、はなはだ迷惑至極ではございますが、やむを得ずこれらの犯罪者を收容するのでございまするが、その犯罪者を入れる設備がないために、一般患者のおる病室に收容せざるを得ないのを常とするのであります。結局、いかなる犯罪を犯しましても、癩病患者である限り処罰または監禁されないということになつてしまうのであります。
 さらに驚くべきことは、癩患者の犯罪人と共犯でありますところの健康者の犯罪人がある場合は、結局取調べの煩雜さか避けるため、これも癩患者同様に癩療養所に送らるるという、まつたく常識をもつてしては判断することができない事実があるのであります。最近私の聞き及びました実例によりましても、殺人犯人が癩患者であるために、何ら刑法上の処罰を受けることなしに、そのまま癩療養所に收容されたばかりでなく、さらに、その共犯者である一健康人をも收容した事実があるのであります。
 これらの犯罪者が療養所に参りますると、自身自暴自棄のふるまいをなすばかりか、公然と、自分は殺人を行つてきたのであるが、何らの処罰を受けておらない、癩患者は、どうせ前途に希望がないのであるから、何をやつても差支えない、何をやつても処罰されないと公言いたしまして、他の善良なる患者を誘惑いたしまして、病室内において大がかりな賭博を始め、その他種々の忌わしい犯罪を犯して、平然として療養所内の秩序を乱し、まつたくの療養所内の暴君と化しつつあるが、これに対して療養所の当局も、まつたく手も足も出せぬという状態であります。かつて平和な理想郷であつたところのこれらの療養所は、今やまつたく百鬼横行のちまたと化しつつあるのであります。
 さらに寒心にたえないことは、これら犯罪者に限つて、必ず折を見て再び療養所を脱出して一般社会に潜入し、傳染の根源となるばかりか、凶惡犯罪の害毒を流すに至るのでありまして、今にしてこれが対策を講じなければ、その社会的害毒の及ぶところ、眞に膚にあわを生ずるものがあるのであります。
 さらに問題となりますのは朝鮮人患者のことであります。現在朝鮮人癩患者は、一療養所に約四、五百名くらい收容せられておるのでございまするが、戰前朝鮮の小鹿島にありました約六千名の癩病患者は、終戰と同時に日本人職員が引揚げたのを機会に、全部これが脱出をはかりまして、この脱出いたしました六千名の癩患者の大部分は、あらゆる手段を講じて、日本に向け多数密航してきたのでありますその一例を申しますると、兵庫縣の尼崎市におけるがごときものでありまして、これら朝鮮人患者は、日本において一團を組織いたしまして、不良なる日本人または朝鮮人と共謀いたしまして、いろいろ凶惡なる犯罪を犯しつつあるのであります。そして、彼らの一部が万一警察に捕われましても、前に申し上げた通り、何ら処罰を受けることなく、そのまま癩療養所に再び收容され、彼らはますます増長いたしまして、療養所内の秩序を乱し、勝手氣ままな生活をした後、折を見て再び三たび脱出するという順序を繰返しておるのでございまして、療養所は、この種犯罪者の安全なる温床となつておるのであります。これらの点につきましても何らか緊急の処置を講じなければ、單に一般社会への癩病の傳染の危險があるばかりでなしに、社会の安寧秩序の上から申しましても、実に重大なる事態に至ることを憂うるものであります。
 次に、一般に癩病患者が発見せられた場合、從來は警察署においてこれが收容方処置を講じておつたのでありましてきわめて円滑に運営せられたのでありまするが、現在におきましては、これが全然警察力のないい保健所において行われておりますので、いろいろその点におきまして障害・摩擦を起しておるのであります。この点、何らか、あるいは他の強力なる收容方法を考慮するとかいう対策が要望せられておるのであります。
 私どもの見るところによりますと、近來厚生省の方針はあまりに結核対策に重点をおき過ぎ、癩対策に対しては関心がないようでありまするが、の点は、ぜひとも当局の猛省を要望するのであります。これは、單に予算の面において現われておるばかりでなしに、他の部面においても、一例を申し上げますると、現在の医藥品の配給は、先年の配給機構改正の当時、これによつて今後は医藥品は円滑に出まわると当局が確約せられたにかかわらず、今年一月から三月までに約八百名近くを收容いたしておりますところの一癩療養所に配給せられました医療用繊維製品は、驚くなかれほうたいは一本もないのであります。ガーゼがわずかに三千メートルという状態であります。御承知のごとく癩患者は、ほとんどすべて全身に多数の傷をもつておるのを常といたしまするが、療養所長のお話によりましても、この夏は、十分傷のほうたい交換ができないために、おそらく入院患者の傷をもつておる者は全部うじがわくということを言つておるのであります。これに反しまして國立結核療養所は、日光が直接患者に当ると有害であるという理由から、厖大なカーテン地が割り当てられておるということを聞いておるのであります。この一例をもつていたしましても、前途に光明のない、われらの犠牲者たる癩患者に、さらに温かき同情ある恩惠を與えられんことを熱望するものであります。
 さらに、これらの癩療養所に勤務いたしておりますところの職員の待遇問題であります。これらの職員は、まつたく犠牲的崇高なる同胞愛に燃え、自己の危險をも顧みず、みずから進んで療養所内に入りこんでおるのでありまして、その待遇は最も意を用いなければならないことは当然であります。御承知のごとく、癩患者のほとんど大多数は、癩病そのもので死亡する者は少く、大多数の死亡の原因は結核であります。癩療養所に從事しておるところの職員は、予防消毒をいたしますから、癩病には感染しにくいのでございまするが、空氣傳染をいたします結核が結局癩患者からうつされまして、惨澹たる状態になることが非常に多いのであります。ところが、現在これらの職員の待遇はきわめて粗惡でありまして、漸次職員は減少の一途をたどるばかりでなしに、看護婦のごとき、ほとんど志望者がない実情に遭遇しておるのであもます。これに対しましても、ぜひとも從業員を増員し、十分なる休養の期間を與え、また職階制に対しても深甚なる考慮を拂うべきものであります。さらにまた、草津問題の例に徹しましても明らかでありますが、これら職員に万一過失あつた場合に、その責任を明らかにすることは当然でありますが、その処罰にあたりましては、仕事の性質に鑑み、苛酷にわたらないよう特に十分注意を要すると存ずる次第であります。
 最後に、癩に対する学術研究についてであります。現在の癩療養所は、研究機関きわめて貧弱でありまして、かつては世界に最も卓越しておりましたわが國の癩研究も、次第に列國より落伍せざるを得ない現状であります。たとえば、癩病の特効藥である大風子油は、目下はなはだ入手困難でありますが、これに代るべきものとして、すでに米國においてはズルフオン剤の一種たるブロミンの効果が実証せられ、わが國の癩学者もこれを十分認めておるのでありますが、研究施設なきため、これが根本的基礎研究の不可能なる現状でありまして、かつて原子爆彈またはペニシリン等の研究に関し、当局の無理解から百年の悔を残した愚かさを繰返さんとしておるのであります。國家財政の緊迫しているわが國の現状として、癩療養所内に十分なる研究施設を設けることの不可能なることは当然でありますが、少くとも癩療養所に勤務される有能にして忠実なる医員をして、内地留学の制度のもとに、内地の各大学の研究室に派遣し、これが研究をなさしむるならば、十分その目的を達し得るのみならず、職員優遇の一端ともなるものと考える次第であります。
 以上の諸点につき、まず法務総裁に対し、第一に、いかなる理由により癩患者の犯罪人は一般人と同じく取調べ並びに処罰を受けておらないのであるか。第二、癩患者の犯罪に対しこれを処罰拘禁しておられるといたしますならば、いかなる方法によつてこれをなしておるか。第三に、いかなる理由により、癩患者とその共犯がある場合に、その共犯者たる健康人もまた癩療養所に入れなければならないか。以上の諸点につき、法務総裁の明確なる答弁を要求する次第であります。
 次に厚生大臣に対して、次の諸点の答弁を希望する次第であります。第一に、朝鮮人癩患者の帰國を連合軍と交渉の上、朝鮮の癩療養所にこれを送還する方法を講ぜられてはどうか。第二には、癩療養所内に犯罪者を收容する特殊施設——刑務所のごとき施設を緊急に設ける意思があるかどうか。第三番目は、癩患者收容に対し、單に無力なる保健所のみに一任することなく、強力なる措置を講ずる意思があるかどうか。第四番目に、癩対策を結核対策同様重点視し、予算の面においても医藥品配給の面においても、これが実現を期する御意思があるかどうか。第五は、癩療養所の職員待遇に関し、速やかに連合軍関係方面に十分の交渉了解に努力されて、その増員並びに職階制につき深甚の考慮を拂わるること。第六、癩療養所の医員に対し内地留学の制度を設け、癩研究の発展に資せらるる御意思があるかどうか。以上の諸点につき厚生大臣の御答弁を要求する次第であります。
 以上私どもは、対策のよろしきを得れば、今後十箇年をもつてわが國から全部の癩病を撲滅一掃し得ると信ずるものでございまするが、われら健康人の犠牲となり、孤独なる生活をしておる不幸なる同胞のため、いま少しく眞劍かつ温情ある施策の講ぜられんことを熱望いたしまして、私の緊急質問を終ります。(拍手)
    〔國務大臣鈴木義男君登壇〕
015 鈴木義男
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○國務大臣(鈴木義男君) 榊原君から癩患者の犯罪について御質問でありまするが、癩患者の犯罪はまことに困つた問題でありまして、もとより檢察当局としては、区別をして取扱うようなことはないのであります。しかしながら、癩患者であるということを発見いたしますれば、できるだけ通常の刑務所に收容せずに、特別の刑務所に收容をするか、あるいは病院に送付いたしまして、病院について調査をし、あるいは取調べを継続するというようにいたしておるのであります。ただいま刑務所に特別の病監を設けて癩患者を收容しておる所がありまするが、癩患者としてはいつております者はごくわずかでありまして、大体は通常の癩病院の方に委託しておる次第であります。処罰につきまして決して差別いたさないのでありまするが、あるいは御指摘のような事実が絶無とは保せられないのでありますから、具体的に御指示くださいまするならば、十分に取調べて善処いたしたいと考えるのであります。殊に共犯者であるから、健康であるのに癩病院に送つてしまつたというようなことは、乱暴きわまる話でありまして、許しがたい人権蹂躙でありまするから、そういう事実がありまするならば嚴重に処置いたすつもりであります。法務廳といたしましては、ぜひ特別の癩患者のための刑務所を施設いたしたいということで、数年前から予算を提出しておるのでありまするが、國費多端であるためと、この問題に対する認識が十分でないためと伴いまして、いつもこの予算が削られておるような次第でありまして、やむを得ませんから、厚生大臣と交渉をいたしまして、近く國会病院のうちの適当なるものを、せめてその一部でも開放していただきまして、刑務所に代用するような設備にいたしたいということを考慮いたしておる次第であります。なお問題の重要性に鑑みまして、できるだけ努力いたすつもりであります。

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なお、現代ではこの認識を歪曲しようとする者があふれている。

◆在日のハンセン病患者◆ | 鳳仙花 | ニュース | 東洋経済日報

 あまり知られていないが、ハンセン病患者には在日韓国人が多い。全国13の国立療養所には約4500人の患者が収容されているが、そのうち約500人が在日といわれ、1割を超えている。

 ハンセン病は、らい菌によって起こる慢性の細菌感染症で、顔面の変形など皮膚病と身体の麻痺を伴い、一種の奇形を引き起こす。栄養失調や極度の過労によって発病するが、植民地時代の過酷な強制労働や劣悪な生活環境のなかで、特に在日の感染者が多い。在日の患者は、国の強制隔離政策で日本人患者と同じように療養施設に押し込まれ、解放後も祖国に帰れず、悲惨な生活を強いられてきた。徴用し、炭坑などで働かせ、病気になったら隔離してしまう。これはもう国家による犯罪といってよい。

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以上