事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

731部隊「丸太=マルタ」の初出はハバロフスク裁判公判記録:森村誠一悪魔の飽食ではない

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公判記録七三一細菌戦部隊 不二出版

「丸太=マルタ」の初出はハバロフスク裁判の公判記録です。

731部隊の川島清・柄澤十三夫が人体実験の被験者を「丸太=マルタ」と証言

ハバロフスク裁判公判記録七三一細菌戦部隊:柄澤十三夫の供述「丸太」

公判記録七三一細菌戦部隊 不二出版

丸太」という表現の初出はハバロフスク裁判の公判記録において記述されている、被告人柄澤十三夫の供述調書と被告人川島清の公判証言です。
※戦時中のメモ等に書かれているという指摘がありますが、それが事実でも公になったのはこちらが早いのではないでしょうか。

人体実験の被験者を隠語で「マルタ」と呼んでいたという証言があります。

一応、公判証言の方が重みがあると一般的に考えられているので「川島証言」の方が取り上げられると思います。

この公判記録は1950年に【外国語図書出版所モスクワ】つまり当時のソ連の国営出版社(国の宣伝機関)が世界各国に向けて各言語で同時出版しています。

※「丸太」というのは公判記録ー七三一細菌戦部隊 (1982年)の不二出版の表現だが、後述のように英語版と意味に齟齬が無い。

ハバロフスク裁判公判記録七三一細菌戦部隊:川島清の公判証言「丸太」

公判記録七三一細菌戦部隊 不二出版 川島清証言

ハバロフスク裁判公判記録の英語版では"logs"

ハバロフスク裁判被告人川島清の証言"logs"

ハバロフスク裁判の公判記録を記述した資料は各国語で書かれており、英語版では"logs"となっています。

これは直訳すると「丸太」を意味します。

出典:Materials on the Trial of Former Servicemen of the Japanese Army Charged with Manufacturing and Employing Bacteriological Weapon

ハバロフスク裁判の性質

ハバロフスク裁判の性質について。

ハバロフスクとはソ連極東の地方であり、戦後、十五万人以上の日本人を抑留した最大の抑留地でした。

ハバロフスク裁判とは、1949年12月25日から12月30日までの6日間に、主に関特演(関東軍特種演習)や関東軍防疫給水部(いわゆる七三一部隊)などに関して抑留日本将兵を裁いた軍事裁判を指します。

感覚的には東京裁判を酷くしたようなもので、弁護人の接見も無いような状況でした。

そもそも日本兵のシベリア抑留は国際法とポツダム宣言の規定に違反する不法な長期抑留でした。簡潔にまとまっている評価としては以下が手っ取り早いと思います。

NHK,これでいいのか 旧ソ連のフェイク裁判を鵜呑み「731部隊」特番を斬る! | Web「正論」|Seiron

ソ連軍による日本人731部隊捕虜の「教化」の可能性

ハバロフスク裁判の日本人731部隊捕虜である被告人や証人については、ソ連軍による「教化」が行われていたことを指摘する声があります。

この点はここでは詳述しないが取り急ぎ長勢了治氏の月刊正論2018年5月号を参照。

731部隊の人体実験の被験者の遺骨が見つかっていない

奇妙なことに、731部隊による人体実験が行われたとするならば、被験者の遺骨があることが想定されるのですが、現在までにそのような遺骨が発掘されたことはありません。

戦後、ソ連が支配した地域であればそれは容易だったはずであるにも関わらず。
※ハバロフスク裁判においても遺骨についての記述があるのか…(現在個人的に精査中)

そのため、1989年 に新宿区の旧陸軍軍医学校跡地に建設予定の国立感染症研究所建設現場で人骨が発見された後、2010年に厚労省が発掘調査をしたことがニュースになるほどです。
参考:旧陸軍軍医学校跡地、謎の人骨を発掘調査 厚労省 :日本経済新聞

参考:"日, 731희생자 의혹 유골 발굴키로" : 네이버 뉴스

しかし、その後も日本政府はペスト菌を散布したりしたという意味の細菌戦を示す資料は確認されていないと答弁書を閣議決定しています。

衆議院議員服部良一君提出七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関する質問に対する答弁書

戦後学界の研究は信用ならない

戦後、日本では公職追放・教職追放が行われました。

これによりアメリカやソ連(共産圏)にシンパシーを感じるものが大量に研究・教育現場に入り込んでいきました。そのため、戦後における戦前の日本軍関係の歴史研究は全面的に信用するわけにはいきません。

日本軍全体で見れば、人体実験があったか無かったかで言えば、在ったと言う方向になると思います(帝銀事件捜査中における伴繁雄証言など多数存在する)(ソ連による人体実験もあったという認識は必要)。

しかし、ハバロフスク裁判についてはソ連による支配の影響下に置かれた人間による証言である可能性が極めて高いものであり、そこでの発言を「史実」とすることはできません。

これに対しては、731部隊の捕虜に対してはアメリカ側による尋問調査が行われており、そちらと齟齬が無いという事から内容に真実性があると言う者が居るが(たとえばこれ)ソ連側の影響が取り除かれていたのかどうかについての考察がまったく無く、とても学術的な論考をしているとは思えない。

ちなみに文部省の教科書検定において731部隊の記述について全部削除する必要があるとの修正意見を付し、右削除を合格の条件としたことが争われた事案で最高裁が「七三一部隊に関しては、本件検定当時既に多数の文献、資料が公刊され…七三一部隊の存在等を否定する学説は存在しなかったか、少なくとも一般には知られていなかった」と判示しているが、これは歴史学上の正しさを担保したわけではなく、単に文部大臣の裁量判断の考慮事項として学界においてそういう状況であったと認定しているに過ぎない

まとめ:森村誠一の悪魔の飽食だけではない

731部隊については森村誠一の悪魔の飽食によって有名になっただけに、それを論難しさえすれば良いと考えている者が多いが、まったく不十分です。

特に「丸太=マルタ」については、初出のハバロフスク裁判の正当性が問題視されるべきであって、それに取り組まない限りはソ連とその思想を継承した者たちの掌の上で踊っているだけに過ぎません。

以上