事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

トリエンナーレ補助金不交付決定に対する声明:文化庁は外部審査委員の意見聴取をしてない件について

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文化庁が愛知県を事業者とした補助金を不交付決定したことに関して「あいちトリエンナーレ2019不交付決定に対する声明」が出されました。

その主張がミスリーディングなので指摘していきます。

あいちトリエンナーレ2019不交付決定に対する声明

ページ下部に「解説」がある部分の主張を対象にしますが

この声明が言いたいことは

【外部審査委員が補助金交付の審査に関与していないのは公正決定原則に反する】

というものに収斂します。

補助金事業の外部審査委員とは

あいちトリエンナーレ2019不交付決定に対する声明 on Strikingly

公的資金を扱う決定権者が、あたかも自己の資金を用いて助成するかのような錯覚に陥って、自らの都合に沿った相手方を恣意的に選択するようなことが起こりがちな公的資金助成において、決定の公正さを担保し、客観性と妥当性を確保するためには「外からの眼」が必要です。それが、公的助成決定プロセスにおける外部審査員の役目です。

この説明はその通りでしょう。

トリエンナーレの国際現代美術展が愛知県を事業者として採択対象になった補助金事業は、日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)ですが、この「募集案内」において外部審査委員の役割が規定されています。

外部審査委員による審査は採択前

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募集案内には補助金交付までの段階ごとに説明書きがあります。

その中で、「採択の審査」は外部審査委員会の委員が行うことが規定されていますが、「補助金交付の審査」は文化庁が行うと規定されており、審査委員は出てきません。

よって、補助金不交付決定を行うために外部審査員は必要ではなかったのであり、おかしなこととは思えません。

「外部の眼」が二重に関与するのはおかしい

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文化庁のこれまでの助成事業においても、外部審査が入ったプロセスが終了した後、新たに実質的に重要な決定がされる際(例えば、交付決定後の支給段階において、形式的には全額不支給となる事情が生じた場合等)においては、委嘱中の外部審査員への意見聴取が行われてきました。

声明では補助金交付/不交付決定の場面でも意見聴取(審査ではない)が行われるのが通常であるという事を言いたいのでしょうが、 ここで例が挙げられているのは不交付決定ではなく交付の取消し決定の場面の話です。

不交付決定と交付の取消し決定とでは、後者の方が法的な要件が厳格です。
※補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)の6条と10条を要参照。

交付の取消し決定ではより慎重な判断が法律によって求められていますから、この場合には外部審査委員の判断も交えるべき必要性があると言えます。

外部審査委員が関与するべきということは、補助金適正化法、同施行令、後述の交付要綱にも書かれていませんから、募集案内にあるものがすべてでしょう。

そもそも、審査委員会でのスクリーニング⇒文化庁のスクリーニングという二段階でのチェックが入るはずが、「声明」の要求の通りだと審査委員が二度に渡って意思決定過程に関与することになり「別々の眼」で審査する意義が失われてしまいます。単に「外部の眼が大切」だというなら文化庁の審査は無くして全部外部で審査すればいいということになりかねません。これはおかしいですよね。

この時点で「声明」の言っていることはすべて疑問符が付かざるを得ません。

審査委員の任期が1年なのは二次募集以降も採択審査があるから

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本件「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)」の外部審査員たる審査委員6名への委嘱内容も、任期は審査会前後の時期だけではなく事業期間すべて(2019年4月1日から2020年3月31日まで)をカバーしており、また委嘱における依頼業務は「文化資源活用推進事業の採択事業選定にかかる審査等」と、「等」を付して非限定的な形式がとられています。これは、採択事業選定審査の終了後、あるいは交付決定後の支給段階にいたるまで、全てのプロセスにおける実質的に重要な判断に際し、公正さを担保するための「外からの眼」となる必要があるためです。

「声明」は、審査委員が補助金交付までのすべての段階に関与するのが通常であるかのように主張していますが、その根拠として①任期が通年であること、②委嘱された業務が採択審査「等」と非限定的であることを取り上げます。

実は、本件の文化庁の補助金事業には二次募集があります⇒日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)の募集(二次募集)

トリエンナーレの国際現代美術展は一次募集の申請でした。

二次募集の採択審査は7月以降に行われるのであり、当然、その間に審査委員が任期内でなければなりませんし、三次募集もあるかもしれません。よって、任期が通年であることが外部審査委員がすべての段階に関与する根拠にはなりません。

また、採択審査「等」と非限定的なのも、交付取り消し決定時の意見聴取の例がある通り、採択審査以外の業務を行うことは想定されているからであって、「補助金交付決定」の審査も当然にして外部審査委員が行うべきということにはなりません。

標準処理期間30日を大幅に渡過したのは文化庁の瑕疵?

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なお、今回の文化庁の審査では2019年5月30日の補助金交付申請書提出から2019年9月26日の不交付決定通知まで119日間を要しており標準処理期間は30日と定められている。同補助金交付要綱第6条3項)、その間に外部審査員への意見聴取が行われなかったのは時間的制約によるものとは言い得ないことも併せて指摘します。

さて、問題になるとすればこの部分でしょう。

文化資源活用事業費補助金(日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業)交付要綱によれば、標準処理期間は30日とあるところ、本件では補助金申請書提出から119日かかっているので、これは文化庁の瑕疵ではないか?という主張が有りえます。

これが文化庁の瑕疵であるとすると、本来は交付決定されていたはずなのだから交付決定の取消しという法的要件が厳しい手続を踏む必要があったのに、それを潜脱しているではないか、という評価になります。

ここで、標準処理期間について総務省が説明をしているので見てみます。

総務省|行政手続|行政手続法Q&A

Q5 許可の申請をした結果はいつ頃わかるのか、目安を知ることはできますか?
A
 役所は、申請が届いてから結論を出す(例えば、許可をする/しない)までに通常の場合必要とする標準的な期間(標準処理期間)を定めるように努め、定めたときは誰でもそれを見ることができるようにしておくことになっています。

 標準処理期間は、定められていれば審査基準と同じく、申請の提出先の窓口に備え付ける、ホームページに掲載するなどの方法で公にされていますので、各役所にお問い合わせください。

 なお、標準処理期間は、あくまで申請の処理にかかる期間の「目安」を定めたものなので、必ず標準処理期間内に申請に対する応答があるとは限りません。また、その期間を経過したからといって直ちに役所が違法を問われるものでもありません。

 また、記載漏れがあるような不備のある申請を補正するための期間は、標準処理期間に含まれません。

標準処理期間を渡過していても、その事情によっては何ら問題が無いということが伺えます。行政実務を行ってる方も以下のような認識です。

また、トリエンナーレは過去に展示されている鳥が死滅するなど問題視された経緯もあるために審査に時間がかかっていたのではないか?という指摘もあります。

記載に不備があってその補正期間が相当含まれていた、などの事情があれば、文化庁の手続はなんらの瑕疵も無い、ということになります。

ここは今後、事実が明らかになって来るでしょう。

まとめ:現時点での争点は標準処理期間渡過の妥当性

「声明」は外部審査委員が補助金申請に関与していなかったことを問題視していますが、それは規定通りであり、また実質的に見ても「別々の眼」で審査して補助金交付の適正を確保するべきであることから、ミスリーディングであり不当な主張であると思われます。

ただし、標準処理期間を渡過していることについては、今後の事実次第では文化庁の瑕疵として扱われ、違法判断に影響するかもしれませんし、単にトリエンナーレ側が書類不備で補正期間が長くなっていただけなのかもしれません。

以上