東京新聞=中日新聞は人材の宝庫ですね。
関連事件は以下。
- 中日新聞今井智文記者「道新記者は無罪、世間が許さないはリンチ」
- 世間ずれしている中日新聞記者
- 違法か否かは社会通念が左右する例もある
- 犯罪行為に関する指摘は「私刑=リンチ」ではない
- 他人には「私刑だ」と言いながら自分はなんらの論証も無しに罪にならないと断定する始末
- 自分が何を言っているのか理解できない今井智文
中日新聞今井智文記者「道新記者は無罪、世間が許さないはリンチ」
取材目的であれば建造物侵入が合法になるかどうかは、法律の問題であって、「世間」の問題ではありません。「法律上では合法だが、世間が許さないぞ」というのは私刑(リンチ)でしかありません。世間は置いておいて違法かどうかを考える必要があると思います。 https://t.co/q0wi9p2z35
— 今井 智文 (@imaicn21) 2021年6月26日
刑法35条により、正当業務行為は罪になりません。 https://t.co/9UCADWXEII
— 今井 智文 (@imaicn21) 2021年6月26日
中日新聞の今井智文記者は「道新記者は無罪であり、法律上は合法だが世間が許さないというのはリンチである」などと言っています。
このツイートには複雑怪奇に屈折した、歪んだ思考をベースにした複数の問題が含まれており、およそまともではないと思いました。
世間ずれしている中日新聞記者
うーん、記者クラスターに北海道新聞の記者の女を擁護する意見が多いのには驚く。取材目的であれば建造物侵入してもいい、それで逮捕されれば報道の自由が侵される、というのはちょっと世間ズレしている。北海道新聞だって、部外者に編集部に立ち入られて、注意しても退去しなければ警察呼ぶでしょ。 https://t.co/0sMM7oQEGR
— きよぴー(清P)@tech系記者 (@naokiyoshima) 2021年6月22日
「取材目的であれば建造物侵入してもいい、それで逮捕されれば報道の自由が侵される、というのはちょっと世間ズレしている」というのが元の意見です。
この方も記者なので今井智文記者が反応したのかもしれませんが、ここには「建造物侵入行為は法律上は合法だが世間は許さない」という主張は見当たりません。
一連のスレッドを見ても同様。
上掲のツイートは、「旭川医大側が現行犯逮捕をしたこと」の正当性についての話であって、実体法上の犯罪成立については何も述べていません。
そこについてはたとえばスレッドにある以下のツイート。
鳥潟かれん容疑者は、年齢的に大卒間もない新人記者か。就職前は「建物に無断で入ってはいけない」と分かっていたと思う。上司から「取材目的なら入ってもいい。先輩たちもそうやってスクープを取ってきた。警察も記者には手を出せない」と吹き込まれた?犯行の事実は消えないが情状酌量の余地はある。
— きよぴー(清P)@tech系記者 (@naokiyoshima) 2021年6月23日
むしろこのツイートからは「刑事法上違法である」という価値判断をベースにしているということが伺えます。
つまり、「法律上は合法だが世間は許さない」という主張ではないわけです。
今井智文記者は、最初のツイートを見ても、そのスレッド全体を見ても、相手がまったく言っていない主張(「法律上は合法だが世間は許さない」)を相手にして攻撃しているわけです。
これは【ストローマン論法】と言い得る面があると思います。
もっとも、このストローマン化された主張ですら、それ自体は間違いではありません。
違法か否かは社会通念が左右する例もある
「法律上は合法だが、倫理道徳上は許してはならない」
こんな例などいくらでもあります。
法律が刑罰法規を規定していなければ、罪に問う事が出来ないのが罪刑法定主義。
そして、刑罰法規の構成要件に該当する行為が違法性阻却されるか否か、という場面では、「社会通念」がその認定を左右する場合があります。
著作権法
(引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
この「公正な慣行」は、まさに世の中における著作物に対する引用の扱いが社会通念上許容されるべき場合を参照しています。具体的には裁判例上、主従関係・明瞭区分性・必然性などが代表的な判断基準となっています。
※「著作権法上許された引用でなければ犯罪」という意味ではなく、罰則に当たる行為があり、その正当化として「引用」だという主張がなされた場合を想定。
犯罪行為に関する指摘は「私刑=リンチ」ではない
中日新聞の今井智文記者は、道新記者の建造物侵入行為について批判したら(引用元のツイートではこの点に言及していないが)「私刑=リンチ」などと非難しているのですが…
まず、法規上、このような言説は認められています。
刑法
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす」とあります。
有罪確定していないのになぜ「犯罪行為」なのか、というツッコミをしたくなる人もいるでしょうが、「犯罪行為に関する」と書いてあるので、事前判断をしない趣旨です。
道新記者の建造物侵入行為が「犯罪行為に関する事実」ではない、などと考える者など普通はいません。
中日新聞の今井智文記者は「法律上は違法ではないが、このような発言は許されない」などと言うつもりなんでしょうか?
あれ?『「法律上では合法だが、世間が許さないぞ」というのは私刑(リンチ)でしかありません』って、誰かさんが言っていたような…
こうした主張がすべて「リンチ」だというなら、何も書けなくなりますが、表現の自由はどこに行ったんでしょうか?裁判所の判決が確定してから出ないとその行為の評価について何も言えないのでしょうか?
他人には「私刑だ」と言いながら自分はなんらの論証も無しに罪にならないと断定する始末
刑法35条により、正当業務行為は罪になりません。 https://t.co/9UCADWXEII
— 今井 智文 (@imaicn21) 2021年6月26日
「世間は置いておいて違法かどうかを考える必要」があると言っておきながら、「取材行為=刑法35条の正当業務行為=無罪」という狭い「世間」の論理を用いているということに気づかないのでしょうか?
「取材行為だから全て・直ちに違法性阻却される」
こんな法的判断がなされることはあり得ません。
法的解釈に基づいて議論するべき、という話なら、判例を踏まえるべき。
で、判例は、報道機関に所属する記者が国政に関する事柄について国家公務員に対して「秘密漏示行為のそそのかし」をした場合には、「取材の自由」に配慮して、「秘密漏示行為のそそのかし」という構成要件に該当していても、構成要件の違法性推定機能が働かず、そそのかしの具体的な方法・手段が刑罰法規に触れたり、そうでなくとも「法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のもの」である場合には違法性阻却されない、という規範を立てています。
ここでも、「法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のもの」とあるように、「社会通念」が出てきます。
じゃあ、今回の「建造物侵入」という構成要件的行為にはこの規範が適用されるのか?というと、それはあり得ません。
なぜなら、「秘密漏示行為のそそのかし」には「取材行為」の実質が予定されているところ、他方で「建造物侵入」にはそのようなものは予定されていないからです。
詳しくは上掲記事を参照してください。
自分が何を言っているのか理解できない今井智文
この件が起訴猶予になるか否かはともかく、「社会通念」が違法認定を左右する例はあるということは重要なので、今回の件で道新記者の行動を批判してる人を私刑などと言うのはおかしい。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2021年6月27日
※ここでの「世間」は法律を度外視した意見という意味だろうからこの語は用いない https://t.co/xmWfTWJGhc
社会通念が違法認定を左右するという法律の話と、道新記者の行動が取材倫理に基づき批判されるという話をやっぱりミックスしているように見えます。
— 今井 智文 (@imaicn21) 2021年6月27日
ここで指摘してきたことをすべてガン無視したかのような今井記者からの「反論」
倫理道徳に関わる言論で「これは良くない話だ」という言説が社会全体に広まった結果、違法性判断に影響を与えるということがある、という話なのだから、「ミックス」するのは当たり前。
普段、自分らが書いてる記事にそういう要素が微塵もないとでも思っているなら、いったいこれまで何を見てきたの?という話。
この者の言っていることをベースにすると「違法にするべきだ」という記事が書けなくなるのだけど、自分が何を言っているのか理解できないんでしょう。
以上:はてなブックマークをして頂けると助かります。