事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

挙証責任論から振り返る石破4条件:実は岩盤規制突破に貢献(笑)

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石破4条件とは何だったのか?

半世紀にもわたって獣医学部新設がなされなかったのは【平成15年文科省告示45号】が原因です。

この岩盤規制を突破する効果を持つのが「4条件」だったのです。

え?逆じゃないか?

いえいえ、石破茂と文科省と獣医師会は「規制を突破させないための4条件」と思っていたが、実は逆だったんですよ(笑)

先駆者「大師100」様:@Daishi_hundred

石破4条件については相当早い段階で「大師100」様が詳細にまとめていました。
※私が存在を知ったのは2018年10月16日です。今回改めて検索していたら見つかりました。

その後の議論の推移も、このブログを見れば詳細に書いてあります。

私がこれから書く内容は、別の角度から論評するものであると言えるでしょう。

諸悪の根源:文科省告示45号

【大学、短期大学、高等専門学校等の設置の際の入学定員の取扱い等に係る基準】 魚拓:http://archive.is/9DVVo

医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員の養成に係る大学等の設置又は収容定員増でないこと。

この【文科省告示45号】の1条2号(加計学園申請時に適用された最新のものでは1条4号がこれに該当)が獣医学部設置認可申請を阻んできた違法行政です。

これは要するに、獣医学部の設置認可申請は、その中身を審査するまでもなく「門前払いする」という規定です。法的な根拠はおそらくありません。

この告示が作られる前までも、長年に渡って新たな獣医学部の設置認可が拒まれてきており、その方針に沿って行政が動いていたのです。

内閣府は、文科省が一向にこの告示を改めないため、新たな告示と閣議決定で回避するようにしました。

最新の国家戦略特別区域法26条に基づく内閣府・文科省が出した告示では、平成15年文科省告示45号の獣医学部の設置を認めないとする規定は適用しない(平成29年と30年は1校限り、という条件で)としました。

これにより、国家戦略特区に指定されているところの申請者は門前払いはできなくなり、実質的な認可の審査をすることができるようになりました。

この「中身の審査」において基準となるのが石破4条件です。

石破4条件とは:国家戦略特区における獣医学部の認可要件

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石破4条件とは獣医師養成系大学・学部の新設に関する以下の条件を指します。

  1. 現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し
  2. ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり
  3. 既存の大学・学部では対応が困難な場合には
  4. 近年の獣医師の需要の動向も考慮し

この記述は平成27年6月30日 日本再興戦略改訂2015-未来への投資・生産性革命-の中の、本文第二部の121頁「獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討」にあります。

この内容は閣議決定されていますので、内閣の行動を拘束します。

つまり、国家戦略特区における獣医学部の認可判断において、この4条件が適用されるということです。

石破4条件の(不存在の)挙証責任は文科省にある

しかし、この4条件の挙証責任は申請者である今治市・加計学園ではなく、文科省にあるということは周知の通りです。

なぜなら、4条件が閣議決定されるよりも前に、国家戦略特区の基本方針が閣議決定されており、4条件は基本方針を下敷きにして解釈・適用される性質のものだからです。

平成26年2月25日閣議決定の国家戦略特別区域基本方針(平成29年7月7日改正前のもの)には以下の記述があります。

23頁

(新たな規制の特例措置の実現手続)
新たな規制の特例措置の実現に向けた規制所管府省庁との調整は、諮問会議の実施する調査審議の中で、当該規制所管府省庁の長の出席を求めた上で実施する。その調整に当たり、規制所管府省庁がこれらの規制・制度改革が困難と判断する場合には当該規制所管府省庁において正当な理由の説明を適切に行うこととする。

「当該規制所管府省庁において正当な理由の説明を行う」

この部分が、4条件=「4条件に示された事情が不存在であること」の挙証責任が文科省に課せられているということの根拠です。

日本再興戦略改訂2015の4条件の文脈と申請者側の立証

そもそも、もう一度、4条件が記載された文書を読んでみましょう

文章構造から判断すると、これは規制を強化する目的で設けられたものとは考えられません。

5.  立地競争力の更なる強化
5-1.「国家戦略特区」の実現/公共施設等運営権等の民間開放(PPP/PFI の活用拡大)、空港・港湾など産業インフラの整備/都市の競争力の向上

(3)新たに講ずべき具体的施策
 (ⅱ)残された集中取組期間における国家戦略特区の加速的推進
  (b)更なる規制改革事項等の実現
   (医療イノベーションの推進、持続可能な社会保障システムの構築)
    ⑭獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討

このような構造の中で、規制改革を進めるという文脈の下に4条件が記述されていました。決して規制を強化する目的ではありません。

4条件はクリアされた?原英史WG委員「文科省は正当な理由を示さず」

とはいえ、まったく申請者が4条件をクリアすることを示さなくても良いということにはなりません。

この場合、申請者(今治市・加計学園)が一定の事実を示せば、あとは規制省庁(文科省)が規制・制度改革が困難である「正当な理由」を説明する義務が発生することになるということです。

実際に国家戦略特区ワーキンググループ委員の原英史が4条件をクリアしていることを証言しています。具体的な審査をしていない、などということはありません。それを言ったら、岡山理科大学獣医学部以外に認可されたものについても、同じことをいわなければなりません。

193 衆議院 文部科学委員会内閣委員会連合審査会 1号 平成29年07月10日

○原参考人 ー省略ー いわゆる四条件について、私は特区のワーキンググループの委員としてかかわってきた立場での認識を手短に申し上げたいと思いますが、まず一点目、既存の獣医師養成でない構想の具体化について、今治市の提案では、新たな分野での人材の育成、また感染症の発生拡大などの危機管理時に学術支援拠点として機能させるといった具体的な構想が示されていました。
二点目、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要について、今治市の提案に加え、その後、京都府からもライフサイエンス研究や水際対策強化に係る提案があり、より具体的な需要は明確にあったと認識をしておりました。また、製薬業界から、創薬の最先端分野で獣医師のニーズが拡大しているが十分に確保できていないといった声があることも認識をしておりました。
三点目、既存の大学、学部では困難かについてですが、ライフサイエンス研究、水際対策強化などの新たなニーズについては、既存の大学、学部だけでは応え切れておらず、だからこそ新たな需要が生じていると認識をしておりました。
 また、文部科学省に設置された専門家会議が平成二十三年にまとめた意見でありますが、既存の獣医学部の教育内容について、非常に厳しい指摘がなされています。口蹄疫や鳥インフルエンザ、BSEの発生など、獣医療が多様化、高度化する中で、新たな分野への対応が十分とれていない、また、最低限共通的に教育すべき内容を十分に教育できていない大学がある、獣医師として求められる実践的な力を育む教育、これは実習などですが、に課題がある、大学ごとの分析として獣医師養成課程の規模の小さい大学に課題が多いといった指摘がなされていたわけであります。
 その後の改善はもちろんなされていると思いますが、残念ながら、これまでの経緯として、既存の大学、学部が必ずしも最先端の課題に応えていなかった、それどころか、基礎的な要請にさえ応えていなかったこともあったというように認識をしております。
四点目、近年の獣医師の需要の動向も考慮という点であります。産業動物獣医師の確保に困っている地域が現実にあるということは、これまでも認識は共有されていたと思います。それから、新たな分野でのニーズも含めて、需給管理の観点からどうしても新設禁止を維持すべきということであれば、その根拠となる見通しを示していただきたいということを、平成二十六年以降、これは私ども特区のワーキンググループで文部科学省さんに繰り返しお願いをしてきたわけですが、結果として、これは示されませんでした。
 以上から、いわゆる四条件は満たされていると考えておりました。

門前払いはできなくなりましたが、認可の審査を規制省庁が行う必要があります。

しかし、文科省はそれを主体的に行っていません。

そうやって「主務官庁は審査していない」という詭弁でもって、認可申請を無効にする狙いだったのでしょう。

しかし、国家戦略特別区域法の基本方針では、規制省庁に「正当な理由」の説明を求めることで挙証責任を転換していますから、国家戦略特区諮問会議とのやりとりの中で審査がなされたと考えることになります。

基本方針は国家戦略特別区域法という、国民の信託を受けた国会を通して成立した法律に基づいています。

一方、告示45号は、憲法上認められている職業の自由を侵害する規制を文科省が勝手に決めたものであり、法律上の根拠はありません。

したがって、どちらが根拠のある対応であるかは明らかです。

石破茂が4条件成立に大きく寄与したソース:日本獣医師会理事会会議録

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もちろん、4条件は閣議決定されたものであり、石破茂個人が勝手に決めたものではありません。

しかし、石破4条件と言われているのは、石破茂がその成立に大きな寄与をしたからです。

平成27年度第2回理事会平成27年6月22日

日本獣医師政治連盟の活動報告
(1)北村日本獣医師政治連盟委員長から次のとおり説明がなされた.
ー省略ー
内閣府では,4 月末から 6 月 5 日までの間,成長戦略特区の公募をしていたが,愛媛県今治市に新設を望む岡山の学校法人が文部科学大臣にも説明をし,内閣府に申請したという.藏内会長は麻生財務大臣,下村文部科学大臣へ,担当である石破大臣へは私が折衝を続けている.内閣府では,方針の最終案を公表していないが,藏内会長の強い政治力等により,財務省の担当主計官が文部科学省担当官へ対応のあり方を指摘した.石破大臣は,ライフサイエンスなどは獣医師が新たに対応すべき分野なのか,その需要があるのか,これら基礎データが示されなければ検討できないとしている.しかし,新設希望側は,5~ 10 年間の計画でデータを作り上げることも視野に置きながら,藏内会長は麻生大臣,下村大臣に,私は石破大臣と折衝をし,一つ大きな壁を作っていただいている状況である.

平成27年度全国獣医師会事務・事業推進会議平成27年7月10日(金)

3 日本獣医師政治連盟活動報告

省略

石破担当大臣と相談をした結果,最終的に,「既存の大学・学部で対応が困難な場合」という文言を入れていただきました.

平成27年度第4回理事会平成27年9月10日(木)

なお,昨日,藏内会長とともに石破茂地方創生大臣と 2 時間にわたり意見交換をする機会を得た.その際,大臣から今回の成長戦略における大学,学部の新設の条件については,大変苦慮したが,練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした旨お聞きした.

現在、獣医師会の理事会会議録は、なぜか平成26年度のものまでしか現在はUPされていません。

よっぽど後ろ暗いものがあったのでしょうね。

国会答弁からは石破茂の主観としては4条件は規制強化のためのものと言える

石破茂は平成27年9月9日の発言(「練りに練って…の部分」)について否定しています。

しかし、そうであったとしても、①彼が4条件成立に関与したこと、②4条件の存在を立証しなければ獣医学部の新設はできないと理解していたこと、③他に4条件成立を主導した者の指摘は存在しないことは明らかですから、参入を困難にするという意図を持って4条件成立に向けて行為していたのは間違いありません。

190 衆議院 地方創生に関する特別委員会 13号 平成28年04月26日

○石破国務大臣

(前略)今文科省からお答えを申し上げましたように、平成二十七年六月三十日に閣議決定がございます。「日本再興戦略」改訂二〇一五というものでございます。そこは今文科省が申し上げたとおりの内容ということになっておりまして、これをきちんと満たしたかどうかということはやはりきちんと検証されてしかるべきであろうというふうに思っております。
 閣議決定でございますので、この趣旨は極めて重いものでありますから、実際にそれでも必要だということになれば、それはそれを拒むものではございません。この閣議決定の意味をよく理解しながら私どもは今後進めてまいりたいと思っております。

一連の発言からは、石破茂が4条件の存在を立証しなければ獣医学部の新設はできないと理解していたことは明らかです。これ、愛媛県の今治市で獣医学部が国家戦略特区のメニューに入ったとする話の流れですからね。

石破茂らの主観と現実の運用の乖離:内閣全体で決めた穴を開けるための条件

文科省、獣医師会、石破茂。

この三者は国家戦略特区の基本方針を無視していたために、4条件の(不存在の)挙証責任が文科省にあるということに気付かなかったのでしょう。

石破らの主観としては、4条件はそれらの事情が存在することの挙証責任が申請者側にある、という認識だった。

しかし、現実には4条件に示される事情が不存在であることの挙証責任が規制省庁にあった。

この食い違いが加計学園が運営する岡山理科大学獣医学部の設置認可にかかわる騒動の原因でした。

このように、石破派である現法務大臣の山下貴司議員も、4条件は「内閣全体で(岩盤規制に)穴を開けた」ものであると明言しています。

これは自民党総裁選の最中のツイートですが、単に石破茂を擁護するなどという目的に出たものではなく、現実の4条件の運用を端的に示したものであると言えます。

まとめ:実は岩盤規制突破に貢献していた石破4条件、挙証責任論が本質

  1. 「石破4条件」そのものが悪い
  2. 「石破4条件」の存在の挙証責任を申請者(今治市)に負わせる理解が悪い

上記のうち、2番が正確な理解です。

そして、石破茂・文科省・獣医師会は、規制強化をしたつもりで、その真逆の効果になってしまっていたことに気付かなかった、という大変お恥ずかしい話だったのです(笑)

振り返ってみると、まさに「挙証責任論」こそがこの問題を解く本質だったと言えます。元検察官や弁護士グループが騒ぎ立てたところで、国家戦略特区の基本方針を意図的に無視しているので全く説得力に欠けます。

文科省告示45号は生きています。

このままでは国家戦略特区指定を受けなければ、平成31年以降は認可申請が受けつけられないことになります。その都度新たな告示を出すのも面倒です。

文科省はいいかげんに平成15年告示45号の問題部分を廃止していただきたいと思います。

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