事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ウィーン芸術展ジャパンアンリミテッドの公認撤回:何がダメなのか

ジャパンアンリミテッド

ジャパンアンリミテッドというウィーンの芸術祭の展示が問題視され、在オーストリア日本大使館の公認が取り消された事件。

この事件の報道が正確に為されておらず、その意味について読者・視聴者に誤解が広まっているので整理します。

トリエンナーレや川崎市の映画祭の上映中止とも比較していきます。

ウィーン芸術展ジャパンアンリミテッドとは

ウィーンで開催されている芸術展「ジャパンアンリミテッド」とは、そういう名前の「民間の芸術展」です。公式サイトはこちら

これが日本とオーストリアの友好150周年事業として外務省から認定されていました。

しかし、展示内容がおかしいのでは?とネット上で問題視する声が広まりました。

ツイッター上では @shin_shr190506 氏が問題を周知した結果、その声を国会議員が拾って外務省に働きかけて公認取り消しをさせたという経緯があります。

具体的な展示の例などは以下でまとめられています。

何がダメなのか⇒日本とオーストリアの友好促進という目的に反するから

日本オーストリア友好150周年事業の公募ガイドライン : 在オーストリア日本国大使館

4. 承認要件
周年事業の対象となる事業は以下のとおりです。
(1) オーストリア国内で開催されるもの。日本で開催される事業の申請先は在日オーストリア大使館。
(2) 開催時期が2019年であるもの。2018年下旬及び2020年上旬に開催されるものについては,例外として対象となることがある。
(3) 文化,人物交流,スポーツ,教育,観光,政治,経済,科学等の分野において,日本を紹介するもの,又は,日墺両国の相互理解を深め,友好を促進するもの。
(4) 主催者が事業の一切の責任を負うもの。
(5) 以下に該当しないもの。 公序良俗に反する,又は,オーストリアの法律に違反する事業。日本とオーストリアの友好関係を損なう事業。営利を目的とした事業又は公益性が乏しい事業。 特定の主義・主張又は宗教の普及を目的とする事業。

多くの報道では「政府や福島第一原発事故を揶揄する声が問題視され」とされています。この説明は共同通信の第一報をそのまま報じたものが多いですが、昭和天皇を批判するものや外国の国家のモチーフを毀損する表現などがありました。

外務省は「日墺両国の友好関係を促進するという目的に合致していないと総合的に判断した」と説明しています。

要するに、「何らかの対象を侮蔑する表現そのものが公認認定をする趣旨に反する」ということです。民間のスポンサーもジャパンアンリミテッドのHP上の表記から消えました。

 

展示は何らの制限も受けず予定通り開催されている

  1. ジャパンアンリミテッド自体は予定通り、11月下旬まで開催
  2. 日本の公的機関から何らかの補助金・助成金が出ていたのではない
  3. 民間事業であり、日本大使館のリソースが割かれていたのではない
  4. 外務省は単に日本とオーストリアの友好事業であるという公認を取り消し、ロゴマークの使用を禁止しただけ

報道ではこれらの点がまったく無視され、「表現の自由」の話であるとして問題視していますが、まったく展示を禁止したわけでもなく、条件をつけたわけでもないのに表現の自由と結び付けているのはフェイクと言う他ないでしょう。

憲法上の表現の自由という権利は、「邪魔されない権利」であって、「何らかの表現に対して利益を与えるよう求める権利」ではないからです。

これは、昭和天皇の肖像を含む作品をバーナーで焼き、残った灰を踏み潰すなどの侮蔑的表現が相次いだ「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展」に関する報道や愛知県の大村知事の発信が法的に誤った見解を垂れ流しにしたせいでしょう。

展示作品の作者の一人である会田誠

魚拓はこちら

まぁ、つまりはこういう人物が作品を作っているような「芸術祭」だったということ。

トリエンナーレ表現の不自由展・川崎市の映画祭上映中止との比較

さて、メディア等で「表現の自由の危機だ」などと言われているものは、ジャパンアンリミテッドと近い時期に起こったトリエンナーレ表現の不自由展と川崎市の映画祭上映中止と共通点があるので比較していきます。

トリエンナーレ表現の不自由展との比較

あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」は、以下の状況でした。

  1. トリエンナーレ実行委員会が主催・運営、民間企業・民間団体も名を連ねていた
  2. しかし、会長は「愛知県知事」という役職名、会長代理も名古屋市長だった
  3. トリエンナーレの電話窓口は愛知県の文芸課の職員が対応
  4. 文化庁への補助金申請は愛知県がトリエンナーレの事業体として行っていた
  5. 芸術監督も実行委員会から職務の委嘱を受けており予算の枠内で行動

「表現の自由の侵害」と言うためには、ある主体が本来は自由に表現行為を行えるのに、それに対して別の主体から表現の制限を働きかけるという事態がなければいけません。

しかし、表現の不自由展は、愛知県が実質的な「主催」の主体であるトリエンナーレの場所と機会を利用して展示され、そのブランドイメージによる誘因力を得たものであって、公的機関のお膳立てがあって初めて成り立つ展示でした。

このような場合の表現の主体は公的機関側≒愛知県であって、愛知県自身が主体として自分の行いを決定できるハズでしたが、大村知事が勘違いをして「憲法上の検閲にあたる」などと言って展示を許容しました。なお、昭和天皇の肖像を焼く展示は関係者に意図的に隠されていた疑惑があります。

営業マンが契約を取ってきても法的な効果は会社に帰属するのと同様、表現の不自由展はトリエンナーレという愛知県の掌で動いていたに過ぎません。

川崎市の映画祭で「主戦場」上映見送り

しんゆり映画祭『主戦場』上映中止問題、市民からも前向きな提案が - シネマトゥデイ

主戦場」という映画の上映見送り問題。

これは、映画の製作過程で監督のミキ・デザキ氏が出演者を騙して取材して映像化したことが出演者から問題視され裁判になっていることが原因で起こりました。

出演者の一人である藤岡信勝氏がフェイスブックで経緯を説明しています。

  1. 主催は「しんゆり映画祭」という民間団体
  2. 川崎市は「共催」という形で映画祭の運営に携わっていた
  3. 上映中止の判断自体はしんゆり映画祭側の自主判断

「最終的には団体内部の自主的判断で催しの中止をした」という事態は、2017年の一橋大学学園祭での百田尚樹の講演会中止事件と似ていますが、こちらは一橋大学の大学院生である梁英聖(リャンヨンソン)が代表を務めるARICという団体が外部から圧力をかけていたという経緯があります。

川崎市はしんゆり映画祭の共催主体であり、実質的に「内部」からの反対があったことと言えるでしょう。

「共催」をしているということは、そこで行われる表現行為が「川崎市も是認した」と捉えられることになります出演者から裁判に訴えられるような映画を自治体が共催して上映するのは自治体としては不当な行為を是認することになって示しがつかないため、上映を回避したのは当然でしょう。
決して「裁判で訴えられている映画だから」ではない。「出演者」から騙されたと言われていること自体が問題だと川崎市は指摘している

参考:「主催」「共催」「協賛」「後援」の違い(1/2ページ) - 産経ニュース

まとめ:「公的事業の乗っ取り」「表現の自由マウント」に騙されるな

  • ジャパンアンリミテッドは民間事業だが展示に何らの制限をかけていないので表現の自由は無関係
  • トリエンナーレや川崎市は展示の実施主体なので表現の自由の話ではなく、本来は主催団体内部としての判断の問題

「表現の自由」という単語を振りかざしてマウントを取る手法が、あいちトリエンナーレ2019で確立されてしまいました。

報道も細かい事情を抜かしているために読者・視聴者を誘導させています。

そういうものに騙されないようにしないといけないと思います。

以上