事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

CUES上の「火器管制レーダー」にMW-08は含まれるのか?

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日本の防衛省が韓国軍のレーダー照射事件で問題視しているのはSTIRです。

他方、韓国側は「火器管制レーダー(MW08)は照射したが火器管制レーダーSTIRは照射していない」という主張です。※誤字ではありません。

韓国側のこの主張は、CUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)上はどのように捉えられるのでしょうか?

この点について、どう考えるべきかの予想を述べます。

CUES上の「火器管制レーダー」にMW-08は含まれる?

火器管制レーダー:韓国:STIR,MW08

中山泰秀議員:https://twitter.com/iloveyatchan/status/1077385347187625984

この図からも日本側はSTIR180を指して「火器管制レーダー=fire control radar」と考えているようです。

では、MW-08とはどう違うのでしょうか? 

JSFさん(@rockfish31)によるレーダーの性能の解説が参考になります。

レーダー照射事件で真っ向から食い違う日韓の主張(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース

MW-08・・・捕捉追尾用の三次元レーダー。空中目標の高度も測定できる。基本的には低空を飛ぶ目標への対空用だが対水上モードもあり主砲の射撃管制も可能。稼働中は360度回転しながら全方位に電波を照射する。周波数はCバンド。
STIR-180・・・火器管制レーダー。対空ミサイルの誘導と主砲の射撃管制を行う。他のレーダーの情報を得てから目標に指向するので、稼働中でも常時回転は行わない。周波数はXバンドおよびKバンド。

MW08の説明は退役軍人で構成されるFORECAST INTERNATIONALで公開されている説明資料と矛盾しません。

軍事関係者や評論家の間で「火器管制レーダー」が何を指すのか、定まった定義が無いようですが、少なくともSTIRは火器管制レーダーであるということは確かです。

MW-08については射撃管制機能もありますが、日本では「火器管制レーダー」には含まれていないという扱いです。

どうも「火器管制レーダーとは、レーダー照射の射幅が狭い(指向性がある)ものが典型である」 という観念が流通している気がします。

一般的な用語法と法的な用語法の異相

韓国側もそのような認識で、MW08は韓国国内での軍事用語としては「火器管制レーダー」であるが、CUESで規定されている「火器管制レーダー」ではないと考えているのかもしれません。

何を言ってるのか?

と思う人がそれなりに居そうなので、一般的な言葉のつかいかたと法的な文脈での言葉が異なる場面があり得るということを説明します。

有名な例として「善意」について触れます。

「善意」の国語辞書的な意味は「他人や物事に対して持つ、よい感情・見方。好意。」などのようなものです。

対して法的な文脈での「善意」は、法律や条文によっても意味が変わりますが、例として民法94条2項の善意とは「通謀虚偽表示であると知らないこと」です。

このように、法的な用語の意味は、一般的に流通している言葉の意味とは異なるものがあり得るのです。

したがって、CUES上の「火器管制レーダー」が軍事一般で流通している理解とまったく同じかどうかは、留保が必要なのです。

この点に関して判断された何らかの記述があるのかは知りませんので、私なりに予想していきます。

CUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)の趣旨

CUESはその目的規定(1.1.2)において「相互干渉・不確実性を制限」することを目指しており、全体を見渡しても「事態が発展しないように前段階で自制するよう」に説いています。

したがって、CUESの趣旨から考えると、何らかの射撃管制が可能である以上、そのようなレーダーはCUES上の「火器管制レーダー」に当てはまる、ということになりそうな気がしてしまいます。

MW-08の場合、射撃管制として使われたのか、単に目標捕捉・捜索目的であったということを現実的に識別・検出可能なのでしょうか?

概念上は該当するとしても事実上は不可能では?

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FORECAST INTERNATIONAL:https://www.forecastinternational.com/about.cfm

 韓国海軍におけるMW08のテストについて説明があります。

「MW08レーダーは脅威を検知し、STIR長距離射撃管制レーダーシステムにその情報を引き渡しました。」

この記述を見ると、三次元レーダーであるMW08が、対象の水平距離と方角と高度の情報をSTIRに受け渡しただけのようです。

このように、MW08で目標捕捉をしてから攻撃をするにはタイムラグがあるという理解が正しいのでしょう。

そうすると、「事態が発展しないように前段階で自制する」というCUESの趣旨からもMW08の使用は抵触しないと言える余地があります。

そして、仮にCUES上の火器管制レーダーに概念上は該当するとしても、対空用と水上用モードの違いを識別することは技術的に可能なのか疑問です。

仮に可能だったとしても、単に目標を捕捉するためで用いられたのか、射撃するために用いられたのかという主観面を判別する手段は事実上存在しませんから、MW08のレーダーが照射されたからといって、それがCUES違反だとすることは不可能ではないでしょうか?

まとめ

  1. CUES上の「火器管制レーダー」にMW08が該当する可能性は低い
  2. 仮に該当しても違反を認識することはできず、事実上は無視される

韓国側が「火器管制レーダー」にMW-08を含めているせいで、無駄なことを考えてしまった感があります。

無理筋の主張をする人が出ないように、記録に残しました。

以上