事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

加藤官房長官「憲法2条の「世襲」には女系が含まれる」

加藤官房長官憲法2条の世襲には女系が含まれる

憲法2条の「世襲」とは「女系」も容認しているのか、について。

加藤官房長官「憲法2条の「世襲」には女系が含まれる」

日本国憲法

第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

玄葉 憲法2条、つまりは「皇位は世襲のものであって」とありますけど、その世襲というのは男系を意味するのかどうかということについても政府の公式の見解をお聞きをしたいと思います。

加藤官房長官 これまでも国会答弁をご説明させて頂いておりますが、憲法第2条は「皇位は世襲のもの」とするほかは、皇位の継承にかかる事項についてはすべて法律である皇室典範に譲っているところであります。また、同条の「皇位は世襲のものであって」、とは、天皇の血統に繋がる者のみが皇位を継承することと解され、男系・女系の両方がこの憲法において含まれるものであります。その上で、皇室典範においては男系男子が皇位を継承するとされており、皇位継承の問題を検討するにあたっては男系継承(※注:「承継」と発言)が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえながら慎重かつ丁寧に検討を行うというのが政府の一貫した姿勢であります。

令和3年(2021年)6月2日の衆議院内閣委員会において、玄葉光一郎議員の質疑に対して加藤勝信官房長官が 「憲法2条の「世襲」には女系が含まれる」と答弁しました。

これは従来の政府答弁からは踏み込んだ発言です。

さて、この答弁、従来答弁を変更したのでしょうか?

帝国議会金森大臣答弁における「世襲」

憲法2条「皇位は世襲のもの」と大日本帝国憲法の「万世一系」の定義・意味とは - 事実を整える

従来の政府見解はどうなっているのか

第90回帝国議会 貴族院 帝国憲法改正案特別委員会 9号 昭和21年09月10日

○國務大臣(金森徳次郎君) 本質的には現行の憲法と異なる所はないと考へて居ります、唯現行憲法は萬世一系と云ふが如き多少比喩的な文言を使つて居りまして、現實的なる言葉ではありませぬ、それを現實世界の素朴なる言葉に表はすと云ふことが主眼となつて居ります

○國務大臣(金森徳次郎君) 男系の男子と云ふことは第二條には限定してありませぬ、其の趣旨は根本に於て異なるものありとは考へませぬけれども、併し時代々々の研究に應じて或は部分的に異なり得る場面があつても宜いと申しますか、さう云ふ餘地があり得ると云ふ譯で斯樣な言葉になつて居ります

大日本帝国憲法下の帝国議会において、日本国憲法上の「皇位は世襲」に関する佐々木惣一議員の質疑で、金森徳次郎大臣が「本質的には現行の憲法と異なる所はない」「男系の男子とは限定していない」と答弁していました。

その後、91回 衆議院 皇室典範案委員会 4号 昭和21年12月11日では…

これに對しまする學問的な見解は、今日必ずしもはつきりしていないのでありまして、これを眞に掘り下げて、明らかなる點までもつて行かなければならぬと思いまするけれども、これはなかなか一朝一夕にはできかねることと存じまするが故に、まずこの邊の所は、今日の段階におきましては、かくあるもの、從つてかくあるべきものとして扱つて諸般の制度を考えて行く外にしようがない

さらに91回 衆議院 皇室典範案委員会 5号 昭和21年12月12日では…

三千年の歴史が生み出しておりまするこの根本の思想を、ほんとうに深く掘り下げて行くという問題でありまするが故に、もう少し歳月をかしていただきませんと、つまり各方面の識者の意見等をも探究し、十分掘り下げませんと、妥當なる結論ができないわけであります

そして、91回 貴族院 本会議 6号 昭和21年12月16日では

要するに一切の角度から之に誤りなき法規を設ける爲には、尚今後相當の研究を經なければならぬのでありまするし、前に幣原國務大臣から申しましたやうに、今日之を解決すべき現實の必要もないのでありまするから、問題全部を綿密なる今後の研究に殘したい

他の答弁を併せると、要するに、日本国憲法施行という5月3日のデッドラインが意識されており、その中で間違いのない解釈をしなければならず、皇位継承権の範囲について新たな制度下において女帝(或いは女系継承)を認めることが禁止されているのか否かについては判断を保留させてくれ、と言っているわけです。

憲法2条「皇位は世襲」の政府見解

これを概念図に示すと、右側の状態ということになります。

左側の図のように「確定的に女系が認められている」

ではなく

「女系が排除されていない」

という表現が妥当する状態だということ。

少なくとも、帝国議会の時点では、このような政府解釈でした。

なお、第193回国会 衆議院 議院運営委員会 第31号(平成29年6月1日(木曜日))では、内閣法制局長官が以下答弁しています。

○横畠政府特別補佐人 憲法第二条の世襲とは、皇位が代々皇統に属する者によって継承されるということであると考えられます。

○北側委員 皇統という言葉も難しいので、きょうはテレビも入っておりますので、世襲、今それを皇統という言葉にかえられましたが、もう少しわかりやすくおっしゃっていただきますと。

○横畠政府特別補佐人 皇統と申しますのは、天皇の血統、血筋ということでございます。

これが「女系を排除している」 かは判然とせず、加藤官房長官の答弁との関係がどうなのかは不明です。

加藤官房長官の答弁は従来と変わらないのか?新解釈なのか?

加藤官房長官の発言をもう一度取り上げると

「男系・女系の両方がこの憲法において含まれるもの」

とだけ発言しています。

「含まれる」という表現がどのような意味なのか。「確定的に女系が認められている」なのか、単に「現時点で女系が排除されていない」という意味に留まるのか。

この趣旨の違いによっては、加藤官房長官の答弁は従来と変わらないという可能性もあり、また、新解釈を示したことにもなるということでしょう。

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