事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

韓国、無許可輸出摘発リストで戦略物資輸出管理制度の透明性を「アピール」の異常性

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韓国政府がFNNが報道した戦略物資の不正輸出リストに関して、「戦略物資輸出管理制度の透明性が反証された」などと「アピール」しています。

その異常さについて指摘します。

韓国政府、戦略物資輸出管理制度の透明性を「アピール」

韓国、不正輸出約4年間に156件摘発 日本の疑問に文政権は強く反発 - 産経ニュース

韓国で軍事転用できる戦略物資の多数の不正輸出があったことについて、管轄する韓国産業通商資源省は10日、2015年から今年3月にかけて摘発が計156件に上ったことを明らかにし、この間の摘発について「わが国の戦略物資輸出管理制度が効果的かつ透明性をもって運用されている反証だ」とコメントした。

韓国メディアでは、より突っ込んだ内容も書かれています。 

大量破壊兵器関連物資等の摘発状況は毎年公開していたと主張

日언론 ‘밀수출 보도’에 정부 “수출통제 투명성 반증”

資料を見ると、無許可輸出摘発件数は、2015年14件、2016年22件、2017年48件、2018年41件増加傾向を見せた。類型別には生物化学兵器関連系列が70件で最も多かった。加えて、通常兵器(53件)、核兵器製造・開発関連(29件)、ミサイル兵器(2件)、化学兵器(1件)の順に多かった。

省は傘下機関である、戦略物資管理院の年次報告書で、戦略物資無許可輸出摘発と措置の現状を毎年公開しているむしろ日本は韓国とは異なり、不法輸出の摘発件数も公開していないという見方も出ている。

産業省は、「日本は、いくつかの摘発事例のみを選別して公開する」とし「戦略物資輸出統制先進国である米国は、無許可の輸出摘発実績と主な事例を公開する」と伝えた。

それとともに「これは韓国の戦略物資の輸出管理制度が効果的かつ透明に運営されているという反証」と付け加えた。

つまり、韓国政府は【摘発件数が増えているけれども、それは民間が勝手に無許可輸出をしているものに対して韓国政府が摘発をして処罰してるのだから、むしろ成果だ】と言いたいのでしょう。

「戦略物資無許可輸出摘発と措置の現状を毎年公開」が仮にそうだとして、この主張は正当なのでしょうか?

韓国の同じ企業が何度も摘発されている

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FNN

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FNN

摘発企業がアルファベットで表示されていますが、この表だけでも2016年1月から2017年12月までの間に、同じ社が複数回も摘発されていることがわかります。

同じ社が何度も摘発されてるのに行政制裁で輸出禁止処分をしてないのは、結局はお咎めなしの扱いになっていないでしょうか?

ちなみにリストの右端のアルファベットは輸出管理レジームの類型です。同じ類型の品目についても何度も違反をしているということです。戦略物資と韓国の報道で言われているものは、日本では「大量破壊兵器関連物質等」と言われています。
安全保障貿易管理について 経済産業省安全保障貿易管理課

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日本の安全保障輸出管理制度

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日本の安全保障輸出管理制度(概要)2017年3月9日貿易経済協力局 貿易管理部

これを読むと、国(政府)と産業界(民間)が一体となって実効的な輸出管理体制を実施しなければならないという認識に立っていることがわかります。

その上で、輸出管理内部規定(ICP)の普及・運用、立法、検査・摘発体制の整備、罰則の適用を行っているとしています。

つまり、そもそも摘発事例が生じないようにコントロールすることも含めて政府と民間企業を合わせたその国の社会の責任です。相手国からして見れば【トータルで国家の責任】という扱いでしょう。

韓国が「摘発してるから問題ない」って言ってるのは責任放棄ではないか。

韓国が言ってるのは、たとえば「交通事故が多発してるのに道路状況を改善もせずに、ただ単に運転手を摘発してるが、免許停止にする事なく野放しにし、啓発運動をしてない」というようなものでしょう。単に摘発してる以上のこと=輸出管理体制をしっかりとやっているということを日本側に説明すべきでしょう。

そもそも、期限までにきちんと報告してねって日本側は言ってきたのに、それを三年間も無視し続けて最終期限の通告すらスルーしたのは韓国側ですよね?

韓国側が輸出管理体制はしっかりとしていると言うのであれば、少なくとも協議に応じていたはずでしょう。

協議無視をしてきたことが都合が悪いから、韓国は日本の担当者が不在だったから協議できなかった、などと嘘をついているのでしょう。世耕大臣が完全否定。

まとめ:無許可輸出摘発リストはアピールにはならない

  1. 大量破壊兵器関連物質等(戦略物資等)の輸出管理は、そもそも政府と民間が協力して事案を防ぐべき問題であり、政府だけ「摘発」を頑張っても相手国にとって無意味
  2. 同じ企業が何度も違反⇒輸出禁止等の実効性ある処分を行っていない
  3. 管理体制がずさん等、数字に表れない問題ある上に、3年間も協議を放置

こうした事情があることから、リストの156件の摘発事例はアピールになるものではなく、「氷山の一角」と評価するのが通常でしょう。

ここで取り上げた韓国政府の反応は、FNNのリストの報道に対するものであって、日本政府の言動に対するものではありません。

そもそも日本政府が言うところの「不適切な事案」はFNNのリストとは限らない可能性があります

日本政府は「個別具体的な事案については言及を差し控えたい」旨を言っています。

これは、特定機密にかかるものであるからという見方もありますが、チェック体制など数字に表れてこない細かい運用面であったり、違反事例が発生した後の対応などをトータルで評価しているために「具体的な事例」を取り上げる意味が無いと考えているのかもしれません。

以上